なでこ☆フォックス【狐物語】   作:TAINZ

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なでこ☆フォックス -45-

いつ以来でしょうか?

こんなにも大声を出して、人目も(はばか)らずに泣いたのは…。

お蔭様で、流した涙の分だけ胸を締め付けていた痛みが軽くなった気がします。

見た目が少女の「真宵ちゃん」と、見た目が童女の「余接ちゃん」に、人の道理を説かれて胸のつかえが取り除かれるというのは、何と言いますか・流石に恥ずかしい気もしますが…。

 

『安心するのは早いですよ千石さん、わたしまだ・あなたのお願いを聞いた訳ではないのですから』

 

「真宵ちゃん」…いいえ・蛞蝓神様は「わたし」の考えていることが分かるのでしょうか?

 

『べつにわたしは・千石さんの心を読んでいる訳じゃないですよ』

 

『蛇のお姉ちゃんの顔に書いてあるからね』

 

「わたし」は咄嗟(とっさ)に両手で顔を覆いました。

 

『わ・わたひは…その…やまひいことなんれ…考えてないれふ…』

 

『あっはっはっははは、大丈夫だぞ千石ちゃん、君の顔は可愛いだけだ、隠す必要なんて全然ない、むしろ隠す方がやましいことを考えていると思われるぞ』

 

確かに「神原さん」の言うとおりですね、本当に「わたし」は何時まで経っても…。

 

『落ち着いたようで何よりです、では千石さん・あなたの願いとは何でしょうか?』

 

『はい、わたしは去年の6月に蛇の呪いを掛けられました、呪いを掛けたのは相馬珠美というわたしの幼馴染の子です、たまちゃんがわたしに呪いを掛けた理由は…、わたしがたまちゃんの好きな男の子を振ったからです…、振ったなんていう軽い言い方では済まない…罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせました、どうしてそんなことをしたかと言いますと、わたしはたまちゃんが好きな男の子に…たまちゃんのことを好きになってもらうつもりで男の子に会いに行きました、この時点で・わたしは取り返しのつかない間違いを犯しています…』

 

『わたしは…本当に…バカです…、人の感情がまったく分からない大馬鹿者です、たまちゃんの好きな男の子と会う前に・わたしはたまちゃんに告白されています、たまちゃんの好きな男の子は片思いをしていると…、その片思いの相手が…わたしでした…、そんなことを何にも考えずにわたしは……たまちゃんの応援をしようと…、賀茂君に会ってしまいました…』

 

『賀茂君は完全に被害者です、ただ自分の気持ちを告白しただけなのに…わたしの罵詈雑言によって人間不信になってしまったのですから、賀茂君がわたしを恨む気持ちは当然です、そして・わたしに呪いを掛けたと言ったのはたまちゃんでした、勿論たまちゃんがわたしに呪いを掛ける気持ちも分かります、自分の好きな男の子が・自分の幼馴染によって酷く傷つけられたのですから、そういえば・たまちゃんに告白をされた時…、わたしに好きな人はいないかと確認されていました、たぶん・たまちゃんは賀茂君に伝えていたんですね…わたしには好きな人がいないって、たまちゃんは賀茂君から責められたんだろうな…嘘つきって…、大好きな人から嘘つきだって言われたら苦しいよね…』

 

ごめんね…たまちゃん…。

 

『でも、当時のわたしはたまちゃんの気持ちに気付くことなく、ただ自分が呪いに掛けられたことへの恐怖から、この北白蛇神社で呪いを解くための儀式を行いました…、【蛇切縄】という呪縛を解くための儀式です、結果から言いますと・わたしがそんな儀式を行わなければ呪いは発動しなかった…、どうしてわたしのすることは…みんな裏目になってしまうんでしょう…、ごめんなさい・愚痴(ぐち)ですよね…、わたしが発動させた【蛇切縄】は・見事にわたしの身体を締め付けました、初めは足首から脹脛(ふくらはぎ)に浮かび上がる蛇の鱗が・儀式を続ける度に身体の上へと延びてきます、お腹の辺りまで延びた時には締め付ける力で骨が(きし)む音がしました』

 

『このままでは本当に死んでしまうと絶望していた時…暦さんと神原さんに会いました、七年ぶりに会うわたしを・暦さんは思い出してくれました…、とても・とても嬉しかったです』

 

惚気(のろけ)話なら別なところでお願いします、わたしこれでも結構忙しいので』

 

『は・はひ・ごめんなさい』

 

伏目がちに「わたし」を見る「真宵神様」です、(自分だってさっき惚気話をしていたのに…)

 

『暦さんと神原さんはわたしの話を聞き、それから暦さんは忍野さんに相談してお守りをもらって来てくれました、わたしの為に暦さんと神原さんはこの北白蛇神社で除霊をしてくれます、とは言ってもわたしがお守りを持ってお願いするのを見守ってもらうのですが、わたしは蛇の鱗が見え(やす)いようにスクール水着を着ています…用意したのは神原さんですよ…』

 

『阿良々木先輩の好みに合わせてあつらえたのだ、とても満足げに笑っていたのを今でもしっかりと覚えているぞ』

 

『くっ・やりますねー、千石さんにスク水というのは・確かに阿良々木さんのツボを押さえています』

 

『八九寺さんがスクール水着を着たところで、小学生の夏休みに書く絵日記程度にしかならないからね、僕はキメ顔でそう言った』

 

『なめないで下さい、阿良々木さんはわたしの未成熟(みせいじゅく)なボディにこそ魅力(みりょく)を感じているのですから、斧乃木さんのようなマネキンボディになど無反応に決まってます』

 

『ふん、蛞蝓(なめくじ)()める様な真似を僕がするわけないだろう、むしろ鬼いちゃんに舐め回されているのは僕の方なんだから』

 

『あの・話の続きをしても良いでしょうか?』

 

睨み合う少女と童女にお伺いをしました、二人とも「わたし」に視線を向けると先を(うなが)します、渋々とですが…。

 

『わたしはシートの真ん中に座り・お守りを握りしめます、それから【蛇切縄】の呪いが解けるようにと強く願いました、少しして・四方からライトアップされた光に反射しながら、蛇の鱗が()がれていくのが見えました、右足から上半身へと延びてきた蛇の鱗・それがパリパリッと音を立てながら剥がれていきます…、締め付けられた痛みも少しづつ和らいでゆき・このまま解放されるんだと思った瞬間でした、左足から右の上半身に向かって激痛が走りました、わたしの骨がメキメキッと悲鳴を挙げます、これまでとは比べ物にならない・物凄い力で締め上げられたわたしは、グイグイと身体を引き延ばされました、その後…鎌首をもたげた大蛇が…わたしの口の中に入ってきて…、わたしはそのまま呼吸も出来ずに意識が無くなりました』

 

『では・その続きは私が話そう、千石ちゃんの右足から巻き付いていた【蛇切縄】は、忍野さんがくれたお守りの力によって解かれた、その証拠に千石ちゃんの右足から延びた鱗の後は消えていたからな、しかし・千石ちゃんが掛かっていた呪いは一つじゃ無かったんだ、左足から延びた【蛇切縄】が残っていた、異変を察知(さっち)した阿良々木先輩が千石ちゃんに飛びつく、…突然だったからな・千石ちゃんに馬乗りになる阿良々木先輩を見たときは…正直ついに乱心したかと思ったよ、だが阿良々木先輩は怪異である【蛇切縄】を力ずくで千石ちゃんから引き離したのだ、あの時・阿良々木先輩が引き剥がさなかったら…たぶん千石ちゃんは死んでいただろう、それ程に強力な怪異だったのだ、結果として・お守りの力によって消えた方の呪いを掛けたのが相馬珠美、残った方の呪いを掛けたのが・千石ちゃんが振った男の子の呪いだろうな、私の読み違えだが・はじめから呪いが二つだと分かっていたならば、もっとちゃんとした解決方法があったのだろう…、阿良々木先輩は【蛇切縄】を千石ちゃんから引き離すことは出来た、だが退治することは出来なかったのだ、さっき忍野さんが言った通り【人を呪わば穴二つ】千石ちゃんから剥された【蛇切縄】は…たぶん男の子の元へ帰っていった…』

 

『元百合っ子ちゃんの説明だけど・1つ訂正が有る、僕が阿良々木君から呪いを掛けた相手が二人いると聞かされてたとしても、その件の結末は同じだったということさぁ』

 

『そんな・忍野さんは怪異の専門家ではないか、それにあのお守りはちゃんと【蛇切縄】を解いたではないか、なのになぜ結果が同じになってしまうのだ』

 

『そうだねぇ、まったくもって僕の誤算だったからとしか言いようがない、本来は素人には決して扱えるはずの無い【蛇切縄】それを掛けたのが中学生だと聞いてねぇ、これについては完全に僕のミスさぁ、阿良々木君が気に病むことでも・ましてや元百合っ子ちゃんが責任を感じることでもまったく無い、僕がプロとしては有るまじきミスを犯した・それだけさぁ』

 

『忍野のお兄ちゃんがミスをするなんてよっぽどだね、僕の知る限り忍野のお兄ちゃんがミスったのって、臥煙さんの後輩になった位だと思っていたよ』

 

『はっはぁ、僕も人間さぁミスくらいするよ、だが・その件に関してはしてはいけないミスをしてしまった、賀茂翔琉・彼は素人では無かった』

 

いつも陽気に話していた「忍野さん」の顔が、精悍(せいかん)な顔つきに変わりました。

 

『僕が阿良々木君に渡したお守りはねぇ、間違った手順で発動した呪いも解くお守りだったんだ、だから呪いを掛けた人間が一人だろうが二人だろうが関係なく、元照れ屋ちゃんが発動させた【蛇切縄】ならばいくつ掛かっていても解くことが出来る筈だった、僕がミスったのはここさぁ、呪いを掛けた相手を調べることを(おこた)った、少なくとも相手の名前くらいは聞くべきだったんだぁ、賀茂翔琉・その子が専門家って訳じゃあ無い、だが彼の(かばね)が語っている・賀茂翔琉とは陰陽師の大家を()に持つとねぇ』

 

あれ? さっきも陰陽師って聞いたような…、

 

『陰陽師の大家っていうのは、余弦お姉ちゃんと関係が有るのかい?』

 

『無くは無い、というより・賀茂一族とはこの国の神話時代にまで(さかのぼ)れる大家で、陰陽師としては宗家に位置するんだぁ、かの有名な陰陽師の安倍晴明(あべのせいめい)にしたって賀茂忠行(かものただゆき)から陰陽道を学んで陰陽師になった、つまり・賀茂の姓を持つ少年が掛けた呪いというのは、本人の知識が有る無しに関係なく・血統が呪いを成就(じょうじゅ)させたという訳さぁ、はっはぁ・呪いに成就なんて言うのも変な話だがねぇ、僕の怠慢(たいまん)だ・ここは素直に謝るよ、済まなかったね』

 

『でも結局【蛇切縄】の呪いは賀茂に帰ったのだろう、千石ちゃんの話では賀茂は今も呪いに(かか)っているそうだが、そんな血統ならとっくに呪いを解いていてもいい筈ではないか』

 

『元百合っ子ちゃんの言うとおりさぁ、本人に呪いを解く意思があれば可能だろうね、本来は呪い返しというものは単純に呪いを解くよりも難しいが・賀茂ならば可能だろう、しかし当の本人に呪いを解く意思が無ければ…』

 

賀茂君は呪いを解くことを望んでいない…。

 

『相馬珠美と賀茂翔琉、相馬珠美は元照れ屋ちゃんの以前の姿を真似ていると言ったね、その姿のまま賀茂翔琉と共に居るのだろう、自分をこっ酷く振った相手の姿を常に目の前にしているんだぁ、憎しみが消える訳はないよなぁ、その憎しみの象徴である呪いを消すという事は、賀茂翔琉は元照れ屋ちゃんを許し・憎しみから解放されなければならない、そしてそれを出来ないようにしているのが【玉藻前】ということさぁ、自らのエネルギー源をなくさない為にあえて元照れ屋ちゃんの格好で賀茂翔琉と会い続けているってぇ訳さ』

 

『そんな…じゃー賀茂君は…、たまちゃんはそのことを知っているんですか?』

 

『知らないと思う【玉藻前】は妖狐だからねぇ、人を化かすのはお手のものさぁ』

 

『そんなのって………』

 

『だから・元照れ屋ちゃんはお願いするんだろう、本人に呪いを解く意思が無くても、力ずくで呪いを解く方法はある、蛇を得意とした神様に頼んでごらん』

 

そうか「真宵ちゃん」は蛞蝓の神様でしたね。

 

『お願いします、神様・賀茂君の呪いを解いて下さい!』

 

『嫌です!』

 

ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇえ???………断られました。

 




展開が…なかなか進みません。
読んでくださっている皆様、じれったいかもしれませんがもう暫くお付合いお願いします。
(何時になったら北白蛇神社から出れるんだろう…)
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