なでこ☆フォックス【狐物語】   作:TAINZ

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やっと新たな展開です。

お付き合い頂きました方々に感謝しつつ、50話投稿致します。

ご一読よろしくお願いいたします。


なでこ☆フォックス -50-

          ☆

 

『賀茂くん、こんな夜更(よふ)けに急に呼び出してごめんね』

 

ここは、1年前に「忍野さん」が居住(きょじゅう)していた、(つぶ)れた学習塾が有った土地です、今はその廃屋(はいおく)も火事によって焼失(しょうしつ)し、草の生い(しげ)る空き地となっています。

 

『………』

 

「賀茂くん」はぼんやりと「わたし」の方へ視線を向けていますが、何も応えてはくれません。

 

『あの・わたし印象が違うから…、誰だか分からないかな…』

 

とってもばつが悪いです、いまだに白いシュシュを巻いた右手で、髪を触りながらはにかみました。

 

『相馬…珠美…』

 

『へぇ……?』

 

いま「賀茂くん」は「わたし」のことを「相馬珠美」と言いました…。

 

『違うよ、わたしは千石撫子だよ』

 

『嘘を付くなよ、またお前は俺を(だま)すのか、また俺と千石の中を(こわ)そうとするのか!! この嘘つき女!!』

 

ぼんやりと見ていた「賀茂くん」の目が見開かれました、ちょっと前までと違って・意思のある・敵意(てきい)のある視線が「わたし」に向けられます。

 

『わたしは…賀茂くんに(ひど)い事を言った千石撫子だよ、たまちゃんじゃないよ』

 

『止めろよ! お前が千石に嘘を付いて、あんな酷い事を言わせたのは知っている、でも千石はその後に本当の事が分かって(あやま)ってくれたんだ、いまは俺の事を誰よりも一番に考えてくれている、またお前が俺達の邪魔(じゃま)をするなら…、絶対(ぜったい)(ゆる)さないからな!!』

 

どういう事…、なんで「わたし」が「たまちゃん」だと思われているの…。

 

【シャッシャー・簡単な話じゃねーかー・珠美は容姿(ようし)をなでこちゃんに真似るだけじゃなくってよー・存在そのものを入れ替えたってーことだろー・シャッシャッシャッシャ】

 

存在そのものを入れ替えたって…、いくらなんでもそんなこと出来る訳ないよー。

 

【なでこちゃんはよー・去年の二学期から登校拒否をしてただろーがー・それに珠美にしたってよー・すぐになでこちゃんの容姿になれた訳じゃーねーだろー・なでこちゃんが姿をくらませた間によー・珠美はなでこちゃんと入れ替わったんじゃーねーのかー・シャッシャッシャー】

 

「たまちゃん」は「わたし」に成りすまして「賀茂くん」と会い、「賀茂くん」に謝った…、

 

『その…賀茂くんは、たま…千石…さんのことを許しているの…』

 

「わたし」に・千石撫子に成りすました「たまちゃん」を、「賀茂くん」は許したの…、

 

『当たり前だろう、好きな子が自分の為に一生懸命に(はげ)ましてくれるんだから』

 

そうか…「たまちゃん」は「賀茂くん」のことを誰よりも心配しているよね…、

 

『それに・千石にあんな(きたな)い言葉を言わせたのはお前だろう、相馬!』

 

『……相馬…珠美を…、賀茂くんは憎んでいるの…』

 

たまちゃんは…、自分のことを「賀茂くん」に憎ませたの…、

 

『千石の名前を(かた)って俺を呼び出しやがって、お前の事は絶対に許さないからな!!』

 

「賀茂くん」の目が怪しく光ります、その「賀茂くん」の変化と同調(どうちょう)するように、周囲の気温が下がったみたいで・初夏だというのに寒気で身震(みぶる)いしました。

 

『賀茂くんが・わたしの事を許せないのは分かるよ、でもね・怒る相手が違うよ、いま賀茂くんの(そば)に居て、賀茂くんを助けているのがたまちゃん・相馬珠美だよ、わたしは千石撫子・賀茂くんに罵詈雑言を()びせた本人だよ、だから間違わないで・相馬珠美はずっと賀茂くんの事を大好きで・大事に思っている人だから』

 

『あっはは・あっははははははははははははぁ』

 

「賀茂くん」が急に笑い出しました…、夜空の月を見上げながら・とても楽しそうに笑っています。

 

『賀茂くん・どうしたの?』

 

『やっぱり千石はすげーや、本当に千石の言った通りだったよ、いつか相馬が現れて千石が偽物だって言うってさ、あっははははははははは』

 

『そんな…たまちゃん…、そんなことしたら・たまちゃんは何処(どこ)に行っちゃうの…』

 

『いい加減(かげん)にしろよ相馬! これ以上嘘を付くなら女子だからって容赦(ようしゃ)しないぞ、素直(すなお)に謝って・もう俺達の前に現れないと(ちか)え、そうすれば今日の事は無かった事にしてやるよ』

 

『それは無理だよ賀茂くん、…わたしは千石撫子だもん…相馬珠美じゃない、賀茂くんが(にく)むべき相手はわたし…千石撫子だよ、相馬珠美は…賀茂くんを一途(いちず)に愛している女の子の名前だよ、だから…間違えないで…』

 

(だま)れ! 忠告(ちゅうこく)はしたからな、しつこいお前が悪いんだからな、だから・二度と俺達の前に出てこれない様にしてやる!!』

 

【まずいぞ・なでこちゃん・今すぐお守りに願えー・(やつ)は本気だぜー】

 

で・でもー、「賀茂くん」は人間なんだから、突然(とつぜん)怪異が出てきたら…

 

【バカヤロー・賀茂の後ろを()て見ろー・アレが普通の人間かー】

 

「賀茂くん」の背後から白い煙が二つ立ち昇っています…、

その煙はだんだんと(ぞう)を成して行き…、

一つの像は・大きな(やり)を手にした夜叉(やしゃ)…、

もう一つの像は・四本の手に(かま)を持った大蜘蛛(ぐも)…、

煙だった二つの像が実体(じったい)へと変わって行きました…。

 

          ☆

 

『さて・貝木君が動いてくれたことで僕達の遣るべきこともハッキリしたねぇ、呪いをカケル君の【蛇切縄】を解くとしようかぁ』

 

北白蛇神社で「貝木さん」を見送る「わたし」達ですが、「忍野さん」はその場の空気に似合わない、軽い口調で言います。

 

『忍野さん、貝木さんは大丈夫なんですよね…』

 

「わたし」はやっぱり「貝木さん」の事が心配です。

 

(きび)しい・だろうねぇ…』

 

『そんな…じゃあこのまま行かせたらダメですよ!』

 

『無駄だよ、貝木お兄ちゃんは誰の言うことも聞かないさ、性格が(ひね)くれているからね、()めろと言われれば言われるほど、余計にむきになって遣ろうとするだけさ、僕はキメ顔でそう言った』

 

『だが・貝木だって、忍野さんと同じく怪異の専門家なのだから、何の勝算もなく【玉藻前】に(いど)んだりはしないのだろう』

 

『そうだねぇ、貝木君なりに準備はする筈さぁ、しかし彼の遣り方というと・まずは相手を見ることから始めるのがセオリーなんだぁ、たぶん貝木君は明朝(みょうちょう)偶然を(よそお)い、相馬珠美と会いに行くだろうねぇ』

 

『いきなり・たまちゃんと会って大丈夫ですか、たまちゃんはもしかしたら貝木さんのことを知ってるかもしれません』

 

『そのことについてはあまり心配しなくてもいい、貝木君は詐欺師だからねぇ、自分の正体がバレることに対しての危険は重々承知(しょうち)しているさぁ』

 

『そうだね、流石に前回の事は忘れていないだろうから、貝木お兄ちゃんの台詞的に言えば(今回の教訓は、俺みたいな恨みを買う人間は正体がバレると命取りだぁ、変装(へんそう)重要(じゅうよう)だなぁ)ってところかな、この町の中学生には彼方此方(あちこち)で恨みを買っているんだから、その辺はしっかりやるだろうね、僕はキメ顔でそう言った』

 

「貝木さん」の変装といっても…、あのいかにも不吉(ふきつ)といった雰囲気はどうやって(かく)すのでしょう?

 

『今言った通りでさぁ、貝木君は明朝には動く筈なんだぁ、つまりね・時間が無い、一触即発(いっしょくそくはつ)でバトルになるなんていう展開(てんかい)は無いと思うけど、それでも用心に()したことはないだろう、【玉藻前】のエネルギー源は今夜のうちに()いでおく必要がある、それはね元照れ屋ちゃん・君の仕事だ!』

 

『は・はい!』

 

そうでした、「貝木さん」の心配ばかりしては居られませんし、「貝木さん」が「たまちゃん」と会う前に「賀茂くん」から【蛇切縄】を取り(のぞ)かないと…、でも…「わたし」の仕事って…。

 

『これから元照れ屋ちゃんには呪いをカケル君を呼び出してもらう、場所はそうだなぁ、元学習塾の跡地(あとち)にしようかぁ、流石にこの時間だからねぇ、北白蛇神社に来いって言っても難しいだろう、それに【玉藻前】が警戒(けいかい)していない・とも思えないからねぇ』

 

『時間は今から1時間後にしよう、元照れ屋ちゃんは呪いをカケル君を(さそ)い出すんだ、いいかい・シッカリとお嬢ちゃんの名前を言って誘うんだぜぇ、彼が来ない事にはすべての計画が失敗するからねぇ、僕は先に行ってるよ・下準備が有るからさぁ、おっと・コレを渡すのを忘れるところだった』

 

『これは・お守りですか…』

 

『そう・これはお守りだ、元照れ屋ちゃんの身が危険だと思った時に使うお守りさぁ、自分の身に危険が(せま)った時は・このお守りを(にぎ)って願うんだ、クチナワさん助けてってねぇ、常に肌身(はだみ)離さず持っているんだよ』

 

その後「忍野さん」は「神原さん」から携帯電話を借りて、北白蛇神社から出て行きました。

「わたし」は「賀茂くん」の連絡先を知るために「ららちゃん」を起こします。

気怠(けだる)そうに起きた「ららちゃん」ですが、「わたし」の携帯電話でどこかに連絡を取ると、「賀茂くん」の携帯番号をいとも容易(たやす)く入手しました、「ららちゃん」の情報網(じょうほうもう)って…、さっき聞いた「臥煙さん」を思い出させます。

 

さて・準備は出来ました、後は「賀茂くん」を学習塾の跡地に呼び出すだけ…。

なんて言って呼び出したらいいんだろう…ええい・ままよー。

 

プ・プ・プ・プ・プ・プ・プ……プルルルルル…ピッ……『…賀茂です』

 

『わ・わたしは…せ・千石です…、千石撫子です』

 

『千石……、ビックリしたよー、知らない番号から掛かって来たからー、どうしたんだーこんな夜更けに電話なんて、(めずら)しいね』

 

『あ・あのー、い・今から会えないかなー…』

 

『今から…、急用(きゅうよう)なんだな、分かった・どこに行けばいい?』

 

『何年か前に潰れちゃったけど、この町で唯一(ゆいいつ)の学習塾が有ったのって知ってるかな…』

 

『あー知ってるよ、家からわりと近くに在ったから』

 

『良かったー、あのね・1時間後にそこで会いたいんだけど…』

 

『分かった1時間後だな』

 

『うん・お願いします』

 

ピッ……

 

何でだろう…、どうしてこんなにも簡単に「賀茂くん」は「わたし」と会う約束をしてくれたのでしょう…。

 

          ☆

 

今「賀茂くん」にとっての「千石撫子」とは、「わたし」ではなく「たまちゃん」のことなんだね…、

だから「賀茂くん」は、あんなにも簡単に「わたし」と会うことを了承(りょうしょう)してくれたんだね…、

そして「わたし」のことは「相馬珠美」だと思っているんだね…、

それじゃーまた騙されたって思うよね…、

ごめんね「賀茂くん」…、

でもこの嘘を付いているのは「わたし」じゃない…、

こんな悲しい選択をして「賀茂くん」を騙しているのは「たまちゃん」だよ…。

 

『だから・もう終わりにしないとね…、こんな誰も救われない嘘だらけの関係は、今日で終わりにしないとダメだよ・賀茂くん! お願い・クチナワさん・わたしを助けてー!!』

 

「わたし」は「忍野さん」から貰ったお守りを、両手で力一杯に(にぎ)()めます、両目を閉じて一生懸命に願いを込めて…。

 

【まったくヒヤヒヤさせるぜー・えーなでこちゃんよー・まーいいぜー間に合ったんだからなー・シャーッシャッシャッシャ】

 

あれ? 何時もの「クチナワさん」とは違って、なんだか「わたし」の鼓膜(こまく)を伝って「クチナワさん」の声が聞こえました。

 

『な・なんだよー、この大蛇(おろち)はーーー』

 

「賀茂くん」の叫び声が聞こえます、ゆっくりと目を開けた「わたし」の視界に映ったモノは…、「わたし」の周囲を取り(かこ)む巨大な蛇の(うろこ)でした。

 

【こっちだぜー・なでこちゃんよー・俺様の頭はなでこちゃんの上だぜー・シャッシャッシャシャッ】

 

『きゃあぁぁぁぁーーー』

 

【オメー・ふざけてんのかー・あーん】

 

「わたし」を包み込む様にとぐろを巻いた大蛇が、今にも「わたし」を飲み込もうと(した)を出しています。

 

【んなわけあるかー・この状況(じょうきょう)でよくそんな発想(はっそう)が出来るなー・あーん・このメルヘンオタクはよー・いいから左右を見てみろよー】

 

大蛇に(うなが)された「わたし」は、恐る恐る右側を見ます!

 

『ひいぃぃぃぃ…』

 

巨大な蜘蛛と目が合いました…、大きな蜘蛛が持っていた四本の鎌は、大蛇の鱗に深々と()()さっています…、痛くはないのでしょうか?

 

【まったくたいした感想だなー・えーなでこちゃんよー・俺様が受け止めなかったらよー・オメーが串刺(くしざ)しになってたってーのになー・まったくすげーすげー】

 

すげーなんて言ってますが、これが()め言葉では無いこと位は「わたし」にも分かります。

 

【いーやそーでもねえぞー・シャッシャッシャー・こんな命を(ねら)われてるってー時によー・そんな頓珍漢(とんちんかん)な感想を持てる奴はよー・そうそういねーわなー】

 

(ひど)いよー【クチナワさん】、もう分かりましたよ、あなたはわたしの別人格の【クチナワさん】なんでしょう、そういうこと言うの【クチナワさん】しか居ないし、でもどうして「わたし」の中から出てきたの?』

 

【あのなーなでこちゃん・お前のそういうところが頓珍漢だって言ってるんだぜー・左右を見ろって言っただろー・ほーら左を見てみなー】

 

『うっわあぁぁぁぁぁぁあーーー』

 

槍が! 「わたし」に向かって一直線に飛んできます…、あーーー死んだ…「わたし」は今死にます…、思えば短い人生でしたが・それでも結構(けっこう)充実(じゅうじつ)した人生だったと思います、両親は優しかったし・友達は少なかったけど出来ました、いじめにも()いませんでしたし、一応(いちおう)…恋も出来ましたから…、う・う・う・う…嫌だよー・死にたくないよー!

 

【そういったことはよー・言葉にして言えってーんだ・シャッシャー】

 

【クチナワさん】のからだが物凄(ものすご)い速さで動き出しました、まるで「わたし」を中心に竜巻が発生したかの様です。

 

おそらく「わたし」の一命は取り止められました、竜巻が槍を吹き飛ばしたのが見えましたから、ですが・この状況を(おさ)める方法はいったい何処に有るのでしょう…。

 

でも・これは「わたし」の仕事です、「わたし」が任された大事な仕事なのです、必ず「賀茂くん」を北白蛇神社に連れて行き【蛇切縄】を解きます、例え力ずくであっても・必ず!

 

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