なでこ☆フォックス【狐物語】   作:TAINZ

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なでこ☆フォックス -51-

          ☆

 

『もしもし・忍野さん、学習塾の跡地に着きましたけど、忍野さんは何処に居るんですか?』

 

「賀茂くん」との約束をした後、「わたし」は「神原さん」と一緒に学習塾の跡地に来ました、空地なのでとても見晴らしが良く・誰もそこに居ない事は一目瞭然(いちもくりょうぜん)です。

 

『やぁ元照れ屋ちゃん、呪いをカケル君を呼び出す約束は無事に出来たようだねぇ、まずは一仕事ご苦労(くろう)さん』

 

「忍野さん」は「神原さん」の携帯電話を持っているので、簡単に連絡が取れます、たぶん今だけなのでしょうが。

 

『はい…、なんていうか…すごく簡単に会ってくれることになって、ちょっとビックリですが』

 

『まぁ・あまり詮索(せんさく)せずに気楽にいこうかぁ、次に元照れ屋ちゃんがする仕事は、一人で空地の中央に立ち・呪いをカケル君が来るのを待つことさぁ』

 

『あ・はい、そうですね・神原さんと一緒だと賀茂くんも緊張しちゃいますから』

 

『そういう意味じゃないんだけど、まぁそれについては元百合っ子ちゃんに話すとしよう、言っておいた通り・君達は2人で来たのだろう』

 

『はい、2人だけです』

 

「ららちゃん」を説得(せっとく)するのに大変でしたが…。

 

『それでいい、僕はちょっと気になることがあって其処(そこ)には行けない、だが心配しなくていいよ、その空地には特殊(とくしゅ)な結界を張っておいたから、呪いをカケル君をその空地に(さそ)い込むまでが元照れ屋ちゃんの仕事さぁ、それ以外の事は別なモノに遣って貰う、だから元照れ屋ちゃんは呪いをカケル君にだけ集中するんだ・いいね、僕が渡したお守りはちゃんと持っているかい』

 

『はい、持っています』

 

『そのお守りは常に(にぎ)っているといい、そして身の危険を感じたらちゃんとお願いをするんだぜぇ』

 

『分かりました』

 

「わたし」は「神原さん」に電話を渡してから空地の中央へと向かいます、「神原さん」は「忍野さん」と話しながら近くの物(かげ)へと向かいました。

 

…ふぅー……

…落ち着かないと…

…「賀茂くん」は「わたし」のこと恨んでいるよね…

(おび)えるな「わたし」…

…今日・必ず・【蛇切縄】の呪いを解くんだから…

 

          ☆

 

「わたし」に攻撃を仕掛(しか)けた、槍を持った夜叉と鎌を持った大蜘蛛は【クチナワさん】の起こした竜巻に巻き込まれ上空に跳ね上げられます。

 

そして上空に舞う2体の怪異を【クチナワさん】は同時に()(くだ)きました。

 

少しして【クチナワさん】が高速移動で起こした竜巻が治まります…。

 

『なんなんだよー・その大蛇はー、お前はいったい…』

 

「賀茂くん」は【クチナワさん】を見上げながら震えています、ですが・震える「賀茂くん」の(となり)には【クチナワさん】に噛み砕かれた2体の怪異が、何事も無かったかのように(たたず)んでいました。

 

『賀茂くんこそ、その怪異はどうしたの?』

 

大きな槍を持つ夜叉と、4本の手に鎌を持つ大蜘蛛、どっからどう見ても化け物であり怪異です、どうして「賀茂くん」が2体の怪異を(したが)えているのでしょう。

 

『怪異って何だよ! 俺が持っているのはただの石だぞ…』

 

「賀茂くん」は右手を開いて手の中にある物を示しました、手の中に有った物は石です、黒光りした丸い石と、菱形(ひしがた)で灰色の石が有るだけです。

 

『石のことじゃないよ、賀茂くんの横に居る怪異の事を聞いてるの』

 

「賀茂くん」はそっと横に視線を送ります。

 

『何も居ないじゃねーか!』

 

『そんな…』

 

【なでこちゃんよー・こいつは幻術を掛けられてるみてーだなー・賀茂が持っている石だがー・その夜叉と蜘蛛の憑代(よりしろ)なのは間違いねー・だが・賀茂にはそいつらが見えねーよーに幻術が掛けられてるなー】

 

『じゃあ・どうして賀茂くんは【クチナワさん】のことは見えるの?』

 

【あーん・そりゃーオメー・同類だからに決まってんじゃねーかー】

 

同類…?

 

【賀茂が掛かっている呪いは何か・ってー話だろー】

 

そうでした「賀茂くん」は【蛇切縄】の呪い返しを受けています、つまり蛇の呪いなので同類の【クチナワさん】が見えているのですね…、そうすると…。

 

『賀茂くん、その石はどうしたの?』

 

『この石は・千石に貰った石だよ、俺の(あざ)が消えるように・千石がご利益(りやく)のある神社で買って来てくれたんだ、でも・俺はもう痣の事は気にしてない、千石が俺の(そば)にいてくれるなら痣が消えなくても(かま)わない!』

 

「賀茂くん」の首から(ほう)、そして頬から右目へと続く痣…、黒ずんだ蛇の鱗…。

 

『違う・そうじゃない、この痣が千石との(きずな)なんだから、消えちゃ駄目(だめ)なんだ…』

 

『どうして…、呪いで出来た痣が絆になるの…』

 

『そんなの決まってるだろう! 俺が千石を憎み呪いを()けたんだ…、なのに千石は…俺を許してくれた…、そして俺に…謝ってくれた…、俺は…千石を…呪ったのに…』

 

「賀茂くん」は泣きそうな顔で言います…。

 

『俺は千石に何もしていない…、何も…、呪ってしまったことを謝ることも…、その罪を(つぐな)うことも…何も…、俺にとってこの痣は・俺がしでかした罪なんだ、千石に対しての・せめてもの罪滅(つみほろ)ぼしなんだ、この痣が消えたら・俺はもう千石に会わせる顔が無いだろう…』

 

「賀茂くん」は苦しんでいる…、「わたし」に呪いを懸けたことを後悔(こうかい)している…、でも・それはすべて「たまちゃん」に対して抱いた感情なんだよね…。

 

『だからこの石は・お前にぶつけてやろうと思ったんだ、お前のせいで俺は千石に呪いを懸けたのに、お前はまた俺を・千石を騙そうとしてるんだろう、なのに・なんなんだよー、そんな大蛇なんか出しやがってー』

 

「たまちゃん」が…ううん、【玉藻前】が「賀茂くん」に石を渡したんだ、怪異の憑代となる石を「賀茂くん」の痣を消す為にと言って、「賀茂くん」は信じているみたいだけど・これも逆なんだ…、「賀茂くん」は呪いの痣が「たまちゃん」との絆だと思っているのに…、【玉藻前】は怪異の憑代である石を・痣を消す石だと言って渡した…、【玉藻前】は「賀茂くん」の心を意のままに(あやつ)っている…。

 

『賀茂くんの痣は絆なんかじゃ無いよ、その痣は賀茂くんがわたしを呪った証拠(しょうこ)だから、決してたまちゃんとの絆になんかならない!』

 

『ふざけんなーーー!!』

 

「賀茂くん」が感情()き出しで叫ぶ声と共に、夜叉と大蜘蛛が動きました。

 

『クチナワさん!』

 

【まったく蛇使いが荒いぜー】

 

大蜘蛛は地面を()いながらジグザグに突進(とっしん)してきます、夜叉は大蜘蛛の後ろから真っ直ぐこちらへ走って来ました。

 

「クチナワさん」はこちらへ走ってくる2体の怪異を尻尾の部分で()ぎ払います、大蜘蛛は尻尾が当たったと同時に煙となり「賀茂くん」の元へと戻りました。

 

夜叉は、「クチナワさん」の尻尾を()ける為に上空へ飛びますが、またしても「クチナワさん」に噛み砕かれます、しかし夜叉も大蜘蛛と一緒で煙になるとすぐに「賀茂くん」の隣でもとどおりに構えています。

 

(らち)があかねーなー】

 

ひときわ高く鎌首をもたげた「クチナワさん」でしたが、大きく口を開けると舌を出して言いました。

 

【なーなでこちゃんよー・この夜叉と蜘蛛は・賀茂の生気が尽きてぶっ倒れるまで・何度でも復元しやがるぞー・俺様はそれでも構わねーがよー・なでこちゃんはどーしたいんだー】

 

『そんなのダメに決まってるよ! 賀茂くんは被害(ひがい)者なんだから…もうこれ以上苦しめないで…』

 

【この状況は確かに被害者だなー・自分の生気が吸われているってーのに・怪異を生み出し続けてんだからなー・でも・その原動力はよー・なでこちゃんに向けられた憎悪だってーことは分かるなー】

 

『分かるよ…、でも・わたしは賀茂くんの誤解をこのままには出来ないよ、賀茂くんは相馬珠美としてわたしを憎んでいるけど、それじゃ何も解決しない、賀茂くんはわたしを千石撫子として憎まなければダメだから…』

 

【変わったなーなでこちゃんよー・敵意を向けられてるってーのになー・シャッシャッシャー・分かったぜー・俺様に協力しなー・賀茂から憑代の石を取り上げるぜー】

 

『勿論わたしに出来ることは何でもするけど…、何をすればいいの?』

 

【なでこちゃんはよー・賀茂の手から直接石を取り上げな・その間の夜叉と蜘蛛の面倒は俺様がみてやるぜー・心配すんなー・今度はつぶさねーように加減をすっからよー・シャッシャッシャ~】

 

『………』

 

【それが出来ねーなら・俺様が賀茂ごと石を丸呑みにしちまうってーのもあるがなー】

 

『やる…やるよ! わたしが賀茂くんから石を取るよ、だからクチナワさんは夜叉と大蜘蛛をお願い!』

 

【シャッシャー・いい顔だぜーなでこちゃんよー・今回の件が片付いたらー・もう俺様は必要ねーなー・それじゃー行って来い】

 

「わたし」は「賀茂くん」に向かって歩き出します、一歩一歩がなかなか思うように足が動きません、でも確実に前へと進んでいます。

 

「賀茂くん」は頭上高くにある「クチナワさん」の頭から目が離せないようで、「わたし」が歩いていることにはまったく気付きません。

 

夜叉と大蜘蛛は「わたし」が動いていることに気付いているみたいですが、(おそ)ってはこないです、やっぱり「賀茂くん」の意思で攻撃をしていたのかな…。

 

「クチナワさん」は「賀茂くん」を挑発(ちょうはつ)するように、大きな口を開けたり閉めたりと繰り返しています。

 

時間の流れが遅いです…、「わたし」の足は「賀茂くん」に向かって一歩一歩確実に歩いているのですが、「わたし」の感覚では本当にスロー再生の動画を見ているようで…。

 

『バキッ…』

 

静かな空地にひときは大きな音が響きました、その音は「わたし」の右足の下から発したものです…、()れ枝が折れた音でした…。

 

『うわあ!! な・なんでそんなとこに居るんだよー!』

 

「賀茂くん」と「わたし」の距離は3m位です、この暗さでもお互いの顔がハッキリと見えます。

 

『それ以上! 俺に近()るなー!!』

 

「賀茂くん」が叫び、再び夜叉と大蜘蛛が「わたし」に襲い掛かります、でもその動きよりも先に「クチナワさん」が「わたし」の目の前を横切ります、通り過ぎた「クチナワさん」の口には2体の怪異が(くわ)えられていました。

 

『この化物…こっちくんなよー!!』

 

「賀茂くん」は右手を振り上げ、手の中に握っていた夜叉と大蜘蛛の憑代である石を「わたし」に投げつけました。

 

『きゃあっ!』

 

【てんめえー・女の子に石をぶつけやがったなー】

 

「クチナワさん」は咥えていた怪異を噛み砕きました、砕かれた2体の怪異はそのまま煙となって消えます、もう「賀茂くん」の隣には戻りません。

 

【ぶっ殺してやるー】

 

「クチナワさん」は大きな口を開けて、頭上から「賀茂くん」に襲い掛かります。

 

()めて―!!』

 

「クチナワさん」の動きが止まります、「クチナワさん」の牙は・頭を抱えてうずくまる「賀茂くん」に噛みつく寸前でした、それから「クチナワさん」の目が「わたし」を見ます。

 

『わたしなら大丈夫だよ、ちょっと血が出ちゃったけど(つば)付けとけば治るから、だからクチナワさんも落ち着いて』

 

「クチナワさん」はゆっくりとした動作で鎌首を持ち上げていきました、そのまま「わたし」と「賀茂くん」を見下ろします。

 

『賀茂くん・もう大丈夫だから、顔を上げて…』

 

頭を抱えながら震えている「賀茂くん」に近づいて言いました、「賀茂くん」は震える両手を少しづつ開いて「わたし」の顔を見ました。

 

『え………千…石…、な…んで……』

 

『分かるの…、わたしが千石撫子だと分かるの、賀茂くん』

 

「賀茂くん」は目を見開いて「わたし」の顔を見続けます。

 

【その石のせいだなー・えーなでこちゃんよー・珠美がいくら容姿をなでこちゃんに似せたからってよー・存在そのものを入れ替えるなんて真似はー・そうそう出来るもんじゃねー】

 

『なんで・千石がここに居るの…、それに・その髪型は…』

 

『わたしはさっきからここにいて、ずっと賀茂くんと話していたよ』

 

『その怪我(けが)は…』

 

『あーうん、たいした事ないよ・大丈夫』

 

『俺が…投げた…石のせい…』

 

「賀茂くん」の表情が暗くなります、血の気が引いていくのが見ていてハッキリと分かります。

 

『う・う・うわあああぁぁぁぁーーー』

 

「賀茂くん」は叫び声と共に取り乱しながら空地の外へと駆け出しました。

 

『待ってー賀茂くん!!』

 

「わたし」の呼び掛けに応えることなく、「賀茂くん」は空地の外へと駆け出しました。

 

その時です、物陰から飛び出した1つの人影が物凄いスピードで「賀茂くん」へと駆け寄ります、

 

人影が「賀茂くん」と接触した瞬間でした、「賀茂くん」が宙に舞います…、

 

昇龍拳(しょうりゅうけん)

 

「わたし」の脳裏(のうり)(よぎ)ったのは、昔流行った格闘ゲームの技の名前です、

 

人影は左の拳を振り上げながら飛んでいます、そして着地するとすぐに宙に舞う「賀茂くん」へと向かって飛び上がります、

 

サマーソルトキック?

 

飛び上がった人影はバク転をしながら、宙に舞う「賀茂くん」再び上空へと蹴り上げました、

 

2発の大技をくらった「賀茂くん」のHPゲージが、レッドゾーンに成ったのが見えます…、

 

『てっ・神原さん! それ以上やったら賀茂くんが死んじゃいますー!』

 

人影の正体は「神原さん」でした、物陰から飛び出したスピードからして間違えようがありません、ですが「神原さん」の身体能力はスピードだけでは無いのですね。

 

『あらよっと…』

 

宙を舞っていた「賀茂くん」が地面に叩き付けられる手前で、「神原さん」は「賀茂くん」を受け止めました、「賀茂くん」は完全に意識を失っています。

 

『千石ちゃん・無事か!』

 

『はい、ちょっとかすり傷が出来ちゃいましたが、全然平気です』

 

『そうか・良かったー、私はいつ飛び出そうかと気が気じゃ無かったぞ、大事に至らなくて本当に良かった』

 

『ありがとうございます、ご心配をお掛けしました…、でも・ちょっとやり過ぎかと…』

 

『こいつは千石ちゃんに石をぶつけたからな、これ位の制裁(せいさい)は当然だと思うぞ、それに私の見立てでは・賀茂は千石ちゃんに会わせる顔が無いのではないか、失神させてやるのも武士の(なさ)けってやつだ』

 

そっかー、「賀茂くん」にとっての千石撫子は、もう憎むべき相手じゃないから、「わたし」が本当の千石撫子だと分かっても「たまちゃん」と被っちゃうんだ、だからあんなに取り乱したのか…。

 

『そんなことより、千石ちゃんの傷の手当てをしなければな、さー服を脱いで傷口を見せてごらん、恥ずかしがることは無いぞ、賀茂はこの通り気絶しているからな、女同士だ遠慮(えんりょ)()らない、さー私にすべてを(ゆだ)ねて服を脱いでごらん』

 

優しく微笑む「神原さん」の笑顔が恐いです…、出来ることなら遠慮したいです…。

 

…プルルルルルルル…プルルルルルル…ピッ…

 

『もしもし・千石です』

 

携帯電話に着信がありました、「神原さん」は軽く頬を(ふく)らませてから「わたし」に携帯を渡します。

 

『予定変更だ・照れ屋ちゃん、君達はその空地で待機(たいき)していてくれ』

 

『どうかしたんですか? 忍野さん』

 

『どうやら・僕が想定していた中で、もっとも最悪な状況に成っているみたいだ』

 

「忍野さん」が想定していた事って…。

 

『メメがどうして此処に居るんだい? お前は子供達と一緒に動いている筈だよ』

 

あれ? この声って…。

 

『はっはぁ・それはこっちが聞きたい台詞だけどさぁ、聞くまでも無いのかな・臥煙先輩』

 

臥煙先輩っていうと、何でも知っている臥煙伊豆湖さんですね、

「ららちゃん」を「玉藻前」から助けてくれた人だけど…、

どうして「忍野さん」は最悪の状況だと言うのでしょう…、

 

『メメ・お前は今回の件から手を引くんだ!』

 

『はっはぁ・まったく元気が良いですねー先輩・何かいい事でもあったのかな?』

 

…なに…?

…いったい何がどうなっているの…?

…「忍野さん」は今どこで何をしているのでしょう…?

…そして最悪の状況っていったい…?

 




さて、そろそろ「なでこ」の語りだけで話を進めていくことに限界を感じている今日この頃です。

なので「しのぶ☆ゴッド」をこちらに追いつかせようと思ってましたが、あちらはあちらで話が別方向に…。

やっぱりこちらでなんとかするしかないかなと思いつつ…、たぶん携帯電話を駆使して話を進めていきます。

次話もよろしくお願いします。
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