なでこ☆フォックス【狐物語】   作:TAINZ

52 / 54
新年あけましておめでとうございます。

大変ご無沙汰してますTAINZです。
師走は忙しいですねー、執筆する時間がなくて…こんなにも間隔が空いてしまいました。

これまで読んでくださいました方々にはとても感謝しています。
基本的にはこの52話で『なでこ☆フォックス』は完結します、お付合い頂きありがとうございました。

完結する理由としては「愚物語」《つきひアンドゥ》と、この物語では設定がまるっきり違い過ぎるので、続ける気力が無くなったというのが本音ですが、出来るだけちゃんとした終わりが書ければと思っています。

後日談的な物を書く予定ですが、最終話よろしくお願いします。


なでこ☆フォックス -52-

          ☆

 

『この浪白(しろへび)公園が本当のエアースポットだった、メメ・お前はそう確信した筈だ、違うかい?』

 

『僕がここに来たのは今日が初めてですからねー、こんなにも手の込んだ呪術回路が仕組まれていたとは…、正直(おどろ)きましたよ』

 

『よくないモノの吹溜りが町の外れに出来るなんてことは例外だろう、よくないモノの発生源が人である限り、その吹溜りは町の中心であるのが常だ、誰かが故意(こい)に行わない限りはね』

 

『つまり・この浪白公園は北白蛇神社によくないモノを運ぶためのアンテナって訳ですか、はっはぁ・遊具だっていうのに人を寄せ付けないオブジェというのは、作り手の神経を(うたが)うよ』

 

『………』

 

『忍野さん、わたし達はどうすれば…』

 

『このまま僕達の会話を聞いていてくれるかい、それから君達は自分の考えに(したが)って行動をするんだ、今の段階では誰が味方で誰が敵なのか僕にも分からない』

 

『敵って…』

 

今「忍野さん」と話しているのは「臥煙さん」だけど、「忍野さん」は「臥煙さん」のことを敵だと思っているのでしょうか?

 

『メメ・お前はコヨミンの事をイレギュラーだと言うけど、私にとってはお前が一番イレギュラーだよ、それでも私はお前が不規則(ふきそく)に動くことを知っている、だからこの段階でお前が真実を知ることが私にとってはイレギュラーでも、計画そのものにとってはイレギュラーでは無いよ、私の言っている意味が分かるよね』

 

『それは買い(かぶ)り過ぎですよ、先輩が何を計画しているかなんて僕は知らない』

 

謙遜(けんそん)するなよメメ、お前がここに来たってことはおおよその見当が付いているんだろう、それにお前は私が敵かもしれないと思っている』

 

『はっはぁ、何でも知っている先輩が見落としをする訳がない、そう言ったのは貝木くんでさぁ、本来ならこちらの切り札である夢渡(ゆめわたり)を【玉藻前】に渡すという展開はあってはならない、しかし先輩は【玉藻前】の目的を知りつつ夢渡を渡した、さてここで疑問が残る、夢渡を手に入れた【玉藻前】は当然【平将門】を復活するべく行動を起こす、対して先輩が持っている手札ではまったく勝算が無い、にもかかわらず僕達に召集(しょうしゅう)をかけないというのは明らかにおかしい、バンパイアハンターでは完全に専門外さぁ』

 

『そこまで分かっているのなら、私の計画がどんなものなのかも分かるだろう』

 

『計画に対しての想像は出来ます、でも理由が分からない、なぜ先輩は妖怪大戦争を起こそうとしているのか、その理由が分かりませんね』

 

『妖怪大戦争とは(おだ)やかじゃないね、私はあくまでも秩序(ちつじょ)を護る立場の人間だよ、そんな秩序の崩壊(ほうかい)(まね)くような計画をする訳が無いだろう、それに【平将門】は(たた)りこそすれ神だ、妖怪じゃない』

 

『先輩は怨霊と交渉(こうしょう)するつもりですか?』

 

『そのつもりだよ』

 

『悪い冗談だ』

 

『メメ・お前は知っている筈だ、私はその手の事に冗談を言ったことは無いよ』

 

『ならば・交渉は可能だと?』

 

『勿論だとも』

 

『………』

 

『なあメメ、お前は現代のこの国のあり方について思うところは無いのかい、現代人の大半は怪異のことなんて信じていないのに、それでも次から次に怪異を生み出しているじゃないか、ストレス社会なんてひと言で片が付くような話じゃないだろう、人間の腐敗(ふはい)した負の感情はこの世によくないモノを生み出すエネルギー源だ、そのよくないモノはよくない場所に()かれて集まり怪異となる、負の感情によって生み出された怪異なんてものは呪いとなんら変わらない、惹かれた人間をとり殺す位しか能が無い、畏れも知らずに負の感情をまき散らした人間達はね、決まってそれらの負の感情が生み出した怪異と遭遇する、自業自得(じごうじとく)因果応報(いんがおうほう)、でもね・みんな知らないで遣っている事なんだ、それはフェアじゃないだろう、不安・恐怖・苦しみ・悲しみ・後悔・罪悪感なんてものは負の感情とは言えよくないモノと直結した感情じゃない、だがそこに自己防衛(じこぼうえ)が働くことでそれらの感情が不満・恨み・憎しみ・嫉妬・嫌悪・殺意へと変わって行く、こうなると腐敗をまき散らしよくないモノを増産するだけの悪鬼と同じさ、そんな負の感情に呑み込まれた人間に説法をしたところで聞く耳なんて有りはしない、自らが生み出した怪異に遭遇して初めて気が付く、自らの体中を(むしば)まれてからね』

 

『人間である以上その感情から逃れることは出来ないですよ、いい大人が今更その矛盾を題材にしようなんて、先輩は本当に元気がいいなー、何かいい事でもあったんですかねぇ』

 

『私を挑発(ちょうはつ)しても無駄だ、それに私は何も矛盾を題材にしている訳じゃない、私はねメメ・なにも知らずに怪異を生み出していることがフェアじゃないと言っているんだ、なんの覚悟も無く恨み辛みをまき散らすことに対して、それがどんな結果を招くかってことを教えてあげようと言ってるんだよ』

 

『いらぬ節介(せっかい)なんじゃないんですか、たとえ結果がどうなるかを知ったところでそれらの感情が無くなる訳じゃない、無理に感情を抑え込むことが出来たとしてもそれこそストレスで体を壊すでしょう』

 

『人には理性(りせい)があるだろう、感情にしたって善悪(ぜんあく)を理解したうえで発すべきものさ、言葉に出さないからと言って好き勝手に負の感情をまき散らすことこそが問題だと私は言っているんだ』

 

『善悪の定義ですかぁ、禅問答(ぜんもんどう)じゃあるまいし、個人差を埋めることなんて無理でしょう、人それぞれですよ皆が同じ人生を歩んできた訳じゃないですからね』

 

『メメ・私はね禅問答をしているんだよ、現代人の停止した思考回路を初期化しようと思っている』

 

『………』

 

『人間のハードディスクである脳は、()え間無く降り注がれるエントロピー(情報量)蓄積(ちくせき)しきれずにパニック状態さ、本来意味のあるエントロピーは自己の教訓として蓄積されるものだが、容量を超えて()れ流される情報なんてものは思考を停止させるだけだ、それゆえ現代人は自己に関わるエントロピーしか記憶しない、他人の体験が自己の体験とは成り得ない、自分の痛みには過剰(かじょう)な反応を示すのに他者の痛みには鈍感(どんかん)だ』

 

『思考が停止状態にあるというのは分かります、自分が危険な状態にあるにもかかわらず回避(かいひ)行動をしないなんてざらですからねぇ、直感や本能に従って行動することに臆病(おくびょう)になっているのが原因なのかな、だからと言って【平将門】を復活させて人に恐怖を与えるつもりならば、それは愚策(ぐさく)だと思いますよ』

 

『ひとつ質問だ、お前は人という(しゅ)についてどう考えているんだい』

 

『何千・何万・何億とある生態のうちの一種でしかありませんね』

 

『現在この星で、その生態系の頂点であることを考慮(こうりょ)してもかい』

 

『その考え方こそが思考を停止させているんじゃありませんか』

 

『私はね、上に立つ者にはそれ相応の責任があると思っている、種の存続に真摯(しんし)に向き合うのならば、人のあり様もそれに相応(ふさわ)しいものであるべきだと思うよ』

 

傲慢(ごうまん)な人だ、人という種が生態系の頂点ってだけでも傲慢なのに、その人という種の中にあっても自らが上位だと考えているようにしか聞こえませんよ、僕達専門家は縁の下の力持ちみたいなものでしょう』

 

『その気に成ればこの国を変えられるだけのスキル(才能)を持っているのに、それを使わないというのも罪だと私は思うが』

 

『僕のモットーは一隅(いちぐう)を照らすですからねぇ、強すぎる光は()い影を作るだけです』

 

『既に暗闇と化した世界にとっては、光が必要だと言っている』

 

くらやみ(・・・・)っていうのは、嘘を認めない非存在じゃなかったかなぁ、世界がそんなものに成ったというのなら、今の世界のあり様は正しいってことじゃないんですかね』

 

『そうだよ、世界は正しく(くず)れている、過去の聖人たちが予言したように人々の精神は正しく崩壊(ほうかい)を続けている、どう受け取るべきなんだろうね、聖人たちの見識眼を()めるべきか、従順(じゅうじゅん)にも予言の通りに崩壊を続けた人々を(たた)えるべきか』

 

『先輩が言ってるのって人の世に対してですからね、世界は人間のみで成り立っている訳じゃ無いですし、栄華(えいが)を極めたものが後に衰退(すいたい)するのは道理でしょう、あえて誉めるとするならば法則(ほうそく)を理解しつつも今世を生きる我々が賞賛されたいですねぇ』

 

『メメは・人という種族が滅びの道を選択していることを受け入れるというのかい?』

 

『そんな大袈裟(おおげさ)な話じゃないですよ、宇宙の法則は誰にも変えることが出来ないと理解しているだけです、地球の歴史がそれを教えてくれてますから』

 

『それに(あらが)う私はさぞかし滑稽(こっけい)に映っているのだろうな』

 

『いいえ、(うらや)ましいですね』

 

『どうだいメメ、お前の立ち位置を捨ててみる気はないかい、お前だって人間なんだから人の種の為に働いてみるのも悪くないだろう』

 

『………』

 

『忍野ぉ、お前の立ち位置はバランサーだー、人と怪異のどちらかに加担(かたん)をすることはお前にとって本意じゃーねー、そーだろー』

 

『泥舟か・お前がここに来ることを私は知っていたよ、でもね・私の後輩たちはみんな決まって誰ともつるまない性格なんだけど、どうしてコヨミンと忍ちゃんが泥舟と一緒に行動しているのかな、ねーコヨミン・友達のよしみで臥煙お姉さんに教えてはもらえないかい』

 

『おかしなことを聞きますね臥煙さん、あなたは何時だって僕の先を見こしているじゃないですか、僕が考えるよりも前にあなたは何でも知っていた、そうでしょう臥煙伊豆湖さん』

 

『かか・お前様も言うようになったのう、じゃがお前様の極小の妹御(いもうとご)憑喪神(つくもがみ)の娘と一緒に居るのじゃろう、ならば・まずは臥煙の話を聞く方が(かしこ)いのではないかえ』

 

『さすがは伝説の怪異の王といったところかな、そんな可愛らしい姿をしていても、ものの本質を見抜く力は(おとろ)えていないようだね』

 

『くだらん、見え()いた世辞(せじ)など()らぬ、さっさと本題を話したらどうじゃ、先程うぬはこのアロハ小僧に手を引けと言うたよな、その言葉の真意を聞かせて(もら)おう、ぬしは何を(たくら)んでおるのじゃ』

 

『おや・伝説の怪異の王が立ち聞きだなんて、とんだ悪趣味(あくしゅみ)が有ったもんだ』

 

『茶化さないで下さい、僕たちはあなたが相馬珠美の家から出てくる姿を見ました、まるで自分の家であるかのような仕草で…』

 

『それ以上は言わなくていい! 聞かれていたなら仕方がないね、確かに私はメメに今回の件から手を引けと言った、理由は簡単さ、私の計画にメメの関与(かんよ)不要(ふよう)だったからだ、でも気が変わってね、メメには今まで通り私に協力してもらうことにした、泥舟・それにコヨミンと忍ちゃん、君達の出る幕はもう無い、(だま)って舞台から降りるんだ、そうすれば君達の関係者の安全は保証(ほしょう)する』

 

『つまり【玉藻前】とは話が付いてるってーことかー』

 

『その解釈(かいしゃく)(おおむ)ね問題は無い』

 

『臥煙さん、今の言い方だと僕達の関係者以外は安全では無いとも取れますよ』

 

『コヨミンは江戸時代にあった仇討(あだうち)制度って知っているかい』

 

『ええまあ、(かたき)討ち・女敵討ち・後妻(うわなり)討ち・衆道(しゅどう)敵討ち・差腹(さしばら)でしたっけ』

 

『流石は大学生だ、彼女に(うつつ)を抜かしていると思ったが、ちゃんと勉強もしているようでお姉さんは安心したよ、そして・その敵討ちなんだよコヨミン、【玉藻前】が、いや・この場合は【滝夜叉姫】ってことになるけど、【滝夜叉姫】がね生前にもっとも()いを残したことが敵討ちなんだ』

 

『父親を殺されたんだからそれは納得できます、でも千年も前のことなんだし今更その後悔を持ち出したところで…』

 

『メメも勘違いをしていたようだが、私が夢渡を【玉藻前】に渡したのは【平将門】を復活させる為じゃない』

 

『はっはぁ・まったく人が悪いですね臥煙先輩は、これは確かに僕の勘違いだったみたいだ、後輩の不手際(ふてぎわ)後始末(あとしまつ)を付けてくれるなんてまったく人が良い、すっかり(だま)されましたよ』

 

『忍野・僕達にも分かるように説明してくれ』

 

『そうだねぇ・結論から先に言うと、臥煙先輩は【滝夜叉姫】の怨霊である妖狐【玉藻前】を浄化(じょうか)させるつもりさぁ、その方法はもっともシンプルな遣り方で、怨霊となった切っ掛けである現世への執着(しゅうちゃく)を取り除くってものだ、【滝夜叉姫】が現世に執着した最大の思いは敵討ちを果たせなかったことなんだろうね、そこでだ【滝夜叉姫】が妖狐【玉藻前】として復活するまでには百年ほどかかっている、百年後に復活した【滝夜叉姫】が本当に打ちたかった敵はもうとっくに死んでしまっていた、敵を討つためだけの思いで復活した【玉藻前】はぶつけるべき怒りの矛先(ほこさき)朝廷(ちょうてい)へと向けた、最終的に【平将門】の討伐(とうばつ)を命じたのが朝廷だからそれはそれで感情的に分からなくもない、でも仮に【玉藻前】が朝廷を顚覆(てんぷく)させたとしても【滝夜叉姫】が浄化することは無かったんだ、【平将門】と【滝夜叉姫】が本当に打ちたかった相手は【平貞盛(さだもり)】さ、姓を見れば分かる通り親族だ、平将門の乱として後世に記されることになった戦は、親族同士の泥沼な権力争い・つまり私闘だったものが朝廷まで巻き込んでしまったというのが真相(しんそう)なんだ、まぁ私闘であったものに対して朝廷が征夷大将軍まで投入したのには別の理由もあるが、ここではあまり関係が無いから割愛(かつあい)させてもらう、つまりさ【滝夜叉姫】が怨霊となってまで打ちたかった相手を自らの手で討たせてやることこそが【玉藻前】を浄化させることだと考えた、そうでしょう臥煙先輩』

 

『討たせてあげるとは言って無い、だがその場所を与えることは約束したよ、もちろん仇討制度のルールに(のっと)った形でね』

 

『場所を与えるって言っても、ずっと前に死んだ人と戦わせることなんてどうするんだ』

 

『妖刀【夢渡】さぁ、夢渡は怪異を生き返らせる刀だろう、幽霊だって立派な怪異さ』

 

『幽霊が人として生き返る?』

 

『体が無いからねぇ、人として生き返るのとは違うけど、この浪白公園という結界の中でなら人とほとんど変わらない状態で復活出来るね』

 

『でも…』

 

『おい・お前様、話は止めじゃ・狐が来よったわい』

 

     ・

 

【ほほほほほ・臥煙よ・わっちを(たばか)ったのかえ】

 

『う…』

 

『……』

 

『すっげー美人…』

 

『だからお前達には出る幕は無いと言ったんだ』

 

『お前様、何を見惚(にと)れとるんじゃ、あやつは妖狐じゃぞ、魂を抜かれるから目を合わすでないわ』

 

『ぐえっ』

 

     ・

 

【こやつらはなんじゃえ・わっちへの供物(くもつ)なら遠慮(えんりょ)なく頂こうかのう・ほほほほほ】

 

『調子に乗るなよ狐、儂の主様に色目など使ってただで済むとは思わんことだな』

 

【わっぱが(さえず)りよる・目障(めざわ)りじゃ・・・な】

 

『んなッ!』

 

『はい・そこまで! 軽率(けいそつ)な判断はしない方がいい、私は約束を反故(ほご)にしたりはしていないよ、ここに居るのはみんな私の身内だ、【滝夜叉姫】あなたと敵対する者じゃない、忍ちゃんもつまらない嫉妬で噛みついたりしないようにね』

 

『な・儂は嫉妬などしておらぬぞ』

 

『はいはい』

 

【もののけが恋慕(れんぼ)かえ・面白いのう・ほっほほほほほ】

 

『くッ…』

 

     ・

 

『なー滝夜叉ー、お前は本当に復讐(ふくしゅう)の為に復活したのかー、とっくの昔に死んじまった人間を殺したからって何も変わらねーだろー、お前の親父は現代では神として(まつ)られてるぜー、今更なんのための復讐だよー』

 

『黙るんだ・泥舟!』

 

『嫌だね、これは俺が蒔いた種だー、俺が刈り取る』

 

『命令だ』

 

『先輩…貝木くんの遣りたい様にやらさせてもらえませんか』

 

『……ふうー、どうなっても私はもう関与しないよ』

 

     ・

 

『滝夜叉ー、お前が復讐したい相手ってーのはよー、お前の親族なんだろー、親族に裏切られたってーのはそりゃーつれーだろーよ、俺には親族はいねーだからお前が恨む気持ちは正確にはわからねー、でもよーお前は生前さんざん戦ってきたんだろー、親族を相手に何回も何回もよー、もういいんじゃねーかー血の(つな)がったもん同士で殺し合わなくてもよー、お前が憑代(よりしろ)にしているその相馬珠美だってお前たちの子孫だろー、お前がその体で平貞盛を殺すってーことは、相馬珠美は自分の先祖を殺すことになるんだぜー』

 

【いつぞやの陰陽師のようなことを言いよるわ・あやつは結局わっちの願いをきかんだが・粋狂(すいきょう)な奴だったのう・わっちの正体を見(やぶ)っておきながら・わっちを逃がしたのじゃからなのう・ほっほほほほほ・阿呆(あほう)じゃ阿呆じゃ・ほほほほほ・そなたも阿呆かのう】

 

『そーかもなー、……一目惚(ひとめぼ)れだー滝夜叉ー、俺はお前に人を殺させたくねー、相手が親族なら尚更(なおさら)だー、お前は美しい、(けが)れて欲しくねー』

 

【本物の阿呆じゃのう・わっちはとうに穢れておるわ・・】

 

【そなた・わっちの恨みが分からぬとゆうたな・教えてやろうか・・父君はのう大叔父らには(きび)しく対した・じゃが下の者に対しては慈悲(じひ)深かったのよ・貞盛・・・叔父は幾度(いくど)となく父君に打たれておるところを逃されたんじゃ・にもかかわらず何度も何度も父君を謀りおったわ・・父君が兵を率いて叔父の行方を(さが)した時のこと・叔父の行方はわからぬが・叔父の妻が(とら)えられ兵に凌辱(りょうじょく)されたことがあったわ・・わっちも女・(あわ)れむ気持ちもあったが戦場でのこととな・・・しかしのう父君は貞盛の妻らに着物を与えて帰したのじゃ・・・父君は阿呆じゃ・その慈愛(じあい)が仇となり討伐(とうばつ)軍を招きよった・・・分かるかえ・慈悲をかけた者にことごとく裏切られることの憎しみが・恩を仇で返したあの女狐たちへの怒りが・・そなたに分かるかえ】

 

『あーよく分かったー、お前は親父が大好きだったんだなー、強さと優しさを兼ね備えた平将門が大好きだったんだろー、そんな親父が裏切られることが許せなかったー、よーく分かったぜー、でもなーそんな親父だったから神に成ったんじゃねーのかー、裏切られ続けても慈悲の心を失わねーつえー男だったから、だから今でもみんなに(した)わられてんじゃーねーのかよー、平将門はお前の復讐を望んでるとは思えねー、はやく自分のところに来いって両手広げて待ってんじゃねーのかー』

 

戯言(ざれごと)はもうよい・・わっちは父君の元へはゆけぬ・・わっちはとうに穢れておるからのう・・わっちが存在する限り復讐心は消えぬわ】

 

『そんな筈はねー、お前が理解さえすればお前の魂は解放される筈だー』

 

『貝木くん、残念だけど【玉藻前】に限ってはそうはならない、【玉藻前】というか【九尾の狐】は余りにも多くの人間に知られた怪異だ、もとは【滝夜叉姫】の怨霊が作り出した怪異だが、もう【玉藻前】は【滝夜叉姫】とは独立した怪異として成立している、大多数の人間のイメージが【玉藻前】という【九尾の狐】を認識し、そしてその存在を願望している以上【玉藻前】が消えるという事は無い』

 

『どうゆー意味だー』

 

『九尾の狐という怪異が人々から忘れ去られるか、もしくは人類が滅ぶまでは永遠に存在し続けるということじゃよ、儂も似たようなもんじゃからな』

 

『話が違うじゃねーかー、滝夜叉姫は敵討ちが出来れば浄化するんだろー、てーことは復讐が必要ないと理解すれば同じ事だろー』

 

     ・

 

【千年・・・わっちは封印されておったわ・封印というのは動けぬということ・寝ているということではないよのう・わっちは貞盛に復讐するために黄泉返(よみがえ)ったのじゃ・しかし復讐は果たせなんだ・奴はとうに死んでおったからのう・わっちを見破った陰陽師は貞盛を黄泉返らせる術を持っとったのにせなんだわ・わっちを黄泉へと帰してくれなんだ・あの阿呆はわっちに懸想(けそう)しておったのよ・ほっほほほほ・あやかしであると分かった上で懸想するとは・ほんに阿呆よのう】

 

『かんけーねーだろ、怪異だろうが幽霊だろーがー、惚れてることには変わりねーぞ、お前が帰る黄泉ってーのは地獄だろー、惚れた女に地獄なんて行って欲しくねー』

 

【同じようなことをゆう・・・しかしもう手遅れじゃったわ・わっちはその時にはもう九尾の狐のあやかしとして人に知られたからのう・そん時のわっちには理解できなんだが・しかし千年は永い・・・奴のゆわんとしたことも徐々に・・・分かる・・・】

 

『分からねー、何が手遅れだったんだー』

 

『【滝夜叉姫】の目的は永遠に達成されることは無い、【玉藻前】として復活したその時から既に嘘つきなのさ、死者となっている【平貞盛】を討ったところで【滝夜叉姫】が成仏することは有り得ない、つまり【滝夜叉姫】が存在し続けるということは復讐心を持ち続けるということなんだ、逆に敵討ちを果たした時【滝夜叉姫】は消える、成仏ではなく、黄泉に帰るのでもなく、消える』

 

『消える…、消えるってなんだー、さっきは浄化って言ってただろーが』

 

『浄化っていうのはきれいにすることだ、穢れたものを取り除くことを浄化っていう、きれいに取り除くってことは消えてなくなるってことなんだ、初めから何もない・無に成るという事、つまりくらやみ(・・・・)に呑み込まれるという事だよ』

 

『そんな………』

 

『なにも言うでないぞ・お前様、永遠を生きる者にとって死に場所は常に求めることじゃ、その選択に善いも悪いもない』

 

【わっちは黄泉返りしたその時より・この世への未練(みれん)は失われておったようじゃ・気付くのが遅すぎたのう・ほっほほほほほ・・・そのことを恨みたいが・なにを恨んでよいのかよう分からん・考えることにも・怒ることにも疲れたわ・・・】

 

『怒れよー滝夜叉―、思う存分怒りをぶつけろー、お前はこの不条理に怒りをぶつけていいじゃねーかー、何にも上手くいかねーこの世を恨んでいいじゃねーかー、お前が存在した理由が全部なくなっちまう必要なんてねーぞー』

 

     ・

 

【・・・そなたがゆうた通りよ・とうに死んでおる者に復讐したところで・わっちはなんも(むく)われん・・・楽にしてくれんかえ】

 

     ・

 

『それなら俺も連れてけよー滝夜叉ー、俺を喰らえー、俺も一緒に消えてやる』

 

『ダメ―・そんなのダメだよ貝木さん、私は貝木さんに生きていて欲しいよー』

 

『千石…』

 

『そうだぞ貝木、お前は私が困った時に助けてくれると約束しただろう』

 

『駿河か、…俺は詐欺師だー、俺のいう事なんて信じてんじゃねー、俺は嘘つきだからよー、嘘を認めないくらやみ(・・・・)に呑まれるならそれも悪くねーよ』

 

『そんなの嫌だよー』

 

     ・

 

【ほんに・・阿呆よのう・・・(おす)はみんな阿呆ばっかりじゃ・・・もうよい・臥煙・・・わっちを斬りなんせ・・】

 

     ・

 

『ごめんね【滝夜叉姫】…ちゃんと消してあげられなくて…』

 

『や…め…』

 

………『ザシュッ』………

 

 




最終話なのにすべてが会話なので、情景がまったく反映されなくて申し訳ございません。

こんな終わり方かよって思われてるかな(ー。ー;)

いちおう後日談的ものを書く予定なので、どうか大目に見てやってください。

長らくお付合い頂きありがとうございました。

しのぶ☆ゴットは続けるので、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。