なでこ☆フォックス【狐物語】   作:TAINZ

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なでこ☆フォックス -53-

          ☆

 

えー本日はお日柄(ひがら)もよろしく、こうしてお()し頂きました皆様にも本日はかけがえの無い大切な一日であることと確信しています。

 

しかし、かけがえの無いものというものは、いつ何時(うしな)われるか分からないものでして、不運や災厄というものは()せずして起こり得るものなんだなーとトコトン身に染みました。

 

「わたし」にとってかけがえの無いもの…、やっぱり「ららちゃん」との友情ですね、それから「暦さん」と「神原さん」にしてもらったことは一生忘れません、恩人という意味では「忍野さん」と「貝木さん」も絶対ですし、「わたし」の両親も勿論かけがえの無い者です、物として挙げるならば漫画でしょうか、「わたし」の唯一(ゆいいつ)趣味(しゅみ)なので生きていく上での娯楽(ごらく)としては欠かせない物です。

 

さて、「わたし」にとっての()()えの無い者…、今の「わたし」には言葉に出して挙げることの出来る方達ですが、1年前の「わたし」には誰一人として掛け替えの無い者なんていう表現は出来ませんでした、たぶん「暦さん」に対しても掛け替えの無い者では無く、「わたし」に優しくしてくれる都合のいい人と思っていたのでしょう。

 

今更ですがその理由を「わたし」の口から説明させて頂きますと自己愛なのだと思います、本当に今更ですよねー「わたし」は常日頃から現実逃避(とうひ)をしていました、どこに逃避をしていたかといえば「わたし」が描く漫画の世界にです、以前「貝木さん」に「わたし」の漫画をご都合主義だと言われました、まったくその通りだと思います、漫画の中の「わたし」にとって都合が悪い場面では必ずヒーローが登場します、そのヒーローは決まって「わたし」に優しくて「わたし」を愛してくれます、漫画の「わたし」も現実の「わたし」と同じで何もしていません、人に好かれる努力もなーんにもしません、本当にご都合主義です。

 

こんな「わたし」ですが、「わたし」は可愛いと言われることにコンプレックスを持っていました、「わたし」は可愛くなどないと心の中で何度も()り返します、ご都合主義の「わたし」には似合わない台詞(セリフ)です、何もしない「わたし」にとって可愛いから愛されるというのは喜ばしいことなので、何で「わたし」は可愛いを否定するのか?

 

可愛いは「わたし」にとって牢屋(ろうや)でした、永い間「わたし」は可愛いという牢屋に閉じ込められていたのです、可愛いという牢屋の中に居る「わたし」は可愛くないことが出来ません、「わたし」が言うのも変な話ですが、「わたし」は外見と中身が一致(いっち)していないのです、では中身の「わたし」つまり性格はというと【クチナワさん】です。

 

他人に無関心であり人と目を合わなかった「わたし」ですが、本音からいうと逆なのです。

 

本当の「わたし」は人からどう見られているかが一番の気掛かりでした、可愛いという牢屋である外見に「わたし」という性格は合っているのかといつもビクビクしているのです、他者が「わたし」の外見を見て接点を持ったものに対して「わたし」の本性は常に否定(ひてい)的です、接点を持ちたくない・息がつまる・関係を壊したい…、破壊衝動(はかいしょうどう)それが「わたし」の本性で・それが【クチナワさん】でした。

 

以前の「わたし」がそのことに気付いていたかといえば・答えは(いな)です、えーと・まったく理解していなかったという訳ではないですよ、当時の「わたし」は自分でコントロールできない怒りが、体の内側から沸々(ふつふつ)()き上ることに(おび)えていたのでしょう、その怒りを誰にも気付かれたくなくて必死に(かく)していました、隠して・(ふさ)いで・押し(しぶ)して、そして無視して・無かった事にしていました。

 

中学校に入学してからの1年間はなんとかやりくりが出来ていたと思います、しかし2年生になってからの「わたし」は…、無かった事にしてきた本性を無視することが出来なくなりました…、それは…本性である【クチナワさん】が頭の中で語りかけてくるようになったからです。

 

たぶん、この時点で「わたし」はもうとっくに壊れていたのでしょうね、頭の中で語りだした本性の【クチナワさん】に対しても「わたし」はご都合主義をいかんなく発揮(はっき)していましたから、「わたし」が他人に対して距離を置く事や嫌悪(けんお)感を持つのは、みんな【クチナワさん】が(そそのか)すからであって、「わたし」はそんなこと考えてないのだと言い訳をします。

 

悪い事は全部【クチナワさん】のせい……、「わたし」は何にも悪くない……。

 

「わたし」は人から怪しまれたくない……、変な奴だと思われたくない……。

 

          ・

 

ごめんなさい…、そして・今までありがとう御座いました…。

 

【クチナワさん】は「わたし」にとって掛け替えの無い者だったんです…。

 

だって「わたし」自身の本性なんですから…。

 

「わたし」が隠し・塞ぎ・潰した「わたし」の負の感情、今まで目を背けて無視してきた「わたし」の本性。

 

【クチナワさん】は「わたし」です。

 

決して切り離すことの出来ない「わたし」自身です。

 

ズルくて醜い「わたし」の本性を、今まで引き受けてくれてどうもありがとう。

 

これからはちゃんと向き合います。

 

「わたし」は自分の(みにく)さを認めます。

 

「わたし」は自分の醜さを愛します。

 

(シャッシャッシャ~・てーしたもんだぜー・えーなでこちゃんよー・もう俺様が出てこねーようにがんばんな~・シャッシャ~)

 

『クチナワさん……』

 

空耳…。

 

いえ・今のは空耳では無くて、ご都合主義である「わたし」の本性からのエールですね。

 

「わたし」はもうご都合主義であることを否定しません。

 

「わたし」が自分本位であることを認めます。

 

だって「わたし」のことは「わたし」が誰よりも愛してあげなくては、「わたし」はまた同じ(あやま)ちを(おか)してしまいますから。

 

          ・

 

掛け替えの無い者に気付く時、はたまた掛け替えの無い者を失ってしまう瞬間というものはいつ何時(おとず)れるか分かりません、「わたし」はそれが昨夜でした。

 

学習塾の跡地から「賀茂くん」を追いかけて敷地(しきち)の外に出た後です、「神原さん」と一緒に敷地に入った時には【クチナワさん】はもう消えていました。

 

「忍野さん」に電話の内容を聞くように言われていたので【クチナワさん】が消えたことにあまり関心が無かったこともありますが、「賀茂くん」を北白蛇神社に連れて行くべきかを「神原さん」と相談していて気付きました。

 

普段は「わたし」が問い掛けなくても、「わたし」が何かを悩んでいるような時は決まって話しかけてくる【クチナワさん】です、それがまったく無いのです、そのことに気付いた瞬間「わたし」の胸に焦燥(しょうそう)(いか)りの感情が沸き上りました。

 

その感情が何処から湧いたものなのか初めは分からなかったです、でもだんだんと…。

 

『クチナワさん・出てきてよ!』

 

「わたし」はお守りを握りしめて叫びます。

 

『勝手に居なくなるなんて(ひど)いよー!』

 

「神原さん」は「賀茂くん」を(かつ)いだまま、何も言わずに「わたし」のことを見守ってくれています。

 

『わたしは…1人じゃ何もできないよー、不安だよー』

 

【クチナワさん】は何も言ってくれません。

 

『勝手すぎるよ…、好きな時に現れて…、さよならも無いなんて…』

 

「わたし」は両手で胸を押さえて泣きました、不安も有りましたが怒りの気持ちの方が強かったです。

 

『千石ちゃん』

 

「わたし」の肩に「神原さん」の手が置かれました、咄嗟(とっさ)にその手を(つか)み握り締めます。

 

『大丈夫だぞ、千石ちゃんは1人ではない』

 

『…はい……』

 

『戻って着たのだろう、クチナワは千石ちゃんの心に』

 

『………はい』

 

「わたし」のこの焦燥と怒りは、今まで【クチナワさん】が受け持っていてくれた感情なのだと分かりました。

 

『わたしはこれから…、この感情をどうしたらいいんでしょう…』

 

不安です、自分勝手な理由で沸き上る怒りを持つということが、またその怒りを他者にぶつけてしまうかもしれないということが、たまらなく不安です。

 

『なあ千石ちゃん、いま君の心に戻った感情は悪いものばかりなのだろうか?』

 

『今のわたしは…、何も言わずに消えたクチナワさんを(すご)(おこ)ってます、自分だけ・好きな時に現れて・好きな時に消えるなんて…』

 

『今の千石ちゃんは、怒っているというよりも(かな)しんでいるのではないのか』

 

『悲しい…ですか…』

 

『うん、悲しいだ』

 

『不安ではなくて…悲しいですか…』

 

『不安も有るだろうが、悲しいのだと思うぞ』

 

『わたしは・クチナワさんが消えたことを悲しんでいる…』

 

『たぶん千石ちゃんはよりどころにしていたんだ、自分の中のもう一つの存在を、本当の千石ちゃんを理解してくれる唯一の相手として』

 

『………』

 

『私の推測(すいそく)だが、以前の千石ちゃんは悲しいという感情を持っていなかったのではないか、持っていないというか理解していないと言った方がいいのかな』

 

『悲しいことが分からない…』

 

『去年の千石ちゃんはなんていうかな…そう壁だ、千石ちゃんの周囲には人を寄せ付けない壁が張り巡らされていたんだ、意識的にしていたのかは分からないが、私を持ってしても千石ちゃんに近づくことが出来なかったのだから間違いない、こう見えても私は年下の女の子にはモテモテだからな』

 

『壁というのは分かります、わたしは必要以上に人と関わることを()けてましたから』

 

『理解していたのだな・ならば話は早い、つまり以前の千石ちゃんは掛け替えのない者を作らなかった、それゆえ悲しいという感情が分からないのだ、掛け替えのないというのは取り替えが出来ないということ、どこにでも居るその他大勢(おおぜい)ではなく、千石ちゃんにとって取り替えることが出来ない大切な存在、それを作ろうとしなかったのではないか』

 

『はい…、わたしは人にわたしのことを知られるのが恐かったから、みんな他人のままの方がいいと思ってました』

 

『その気持ちは今も同じかな?』

 

『いいえ、違います! 今は皆さんともっと仲良くなりたいです、わたしのことをもっといっぱい知って欲しいです』

 

『うん、私も千石ちゃんのことをもっともっと知りたいぞ、どんどん親密(しんみつ)になって・ぐんぐん密接(みっせつ)になって・頭のてっぺんからつま先まで私が知らないものは何一つない位に打ち()けたいと思っているぞ』

 

『さすがにそこまでは…遠慮(えんりょ)させて下さい』

 

『冗談だ、でも・私が中学生の時だが、私と戦場ヶ原先輩との関係はそれ位に打ち解けたものだったよ、私にとって戦場ヶ原先輩は何者にも替えることの出来ない、まさに掛け替えのない者だった、先輩と居る時間が幸福で、先輩のことを想う時間が楽しくて、毎日がとても充実(じゅうじつ)していたな…、だが・先輩を追いかけて入学した直江津高校で、私は戦場ヶ原先輩に(こば)まれた、拒まれ突き放されたのだ…、先輩と私との間に途方(とほう)もなく分厚く高い壁を感じたよ、何度か先輩に近づこうと(こころ)みたが(ことごと)拒絶(きょぜつ)された、そして私は気付かされた、先輩にとって私が(そば)にいることが先輩を不幸にすると、…悲しかった……苦しかった……辛かった……、それでも・先輩が不幸になるよりはましだと自分に言い聞かせて()えた』

 

始めてみました、「神原さん」が苦渋(くじゅう)に満ちた顔をしたのを…。

 

『悲しくて・苦しくて・辛かったんですか』

 

『うむ・あれは(こた)えたよ、でもね・辛かったのは私がそれだけ戦場ヶ原先輩のことを好きだったからで、逆に言えばその辛さが私に教えてくれたんだ、私にとって戦場ヶ原先輩は掛け替えのない存在だという事を、それに・とても幸せだったからな先輩と過ごした時間は…、今の私達の関係は中学生の頃とは少し変わったけれど、阿良々木先輩に取り持ってもらった今の関係にもとても満足している、私は果報者(かほうもの)だと胸を張って言えるぞ』

 

屈託(くったく)のない「神原さん」らしい笑顔です、「わたし」もいつかこんな風に笑うことが出来るのでしょうか?

 

『ねえ千石ちゃんクチナワについて話を戻すが、千石ちゃんの本音はどうだったんだい、クチナワと話していた時の千石ちゃんは生き生きしていた様にも見えたぞ』

 

生き生きしていた……。

 

『分かりません…、ただ…クチナワさんと話すのは楽でした、人と話すのが苦手なのにクチナワさんとは遠慮なく話せたと思います…、と言いますかクチナワさんは(にく)まれ口ばっかり言うから…、本当に(ひど)いんですよ、神原さんに用意してもらったシルクのフリル付の下着のこととかも学校に居る時に言うし、あと・わたしがピンチだっていうのに色ボケだとか、それから……あ・あれ…、なんで……』

 

胸が痛い……苦しい……。

 

『うん、よく分かったよ』

 

『わたし……』

 

『よしよし』

 

「神原さん」は優しく頭を()でてくれます。

 

『楽しかった…、すごく…、すごく…、居なくなっちゃやだよー』

 

『そうだね、千石ちゃんにとって無くては成らない存在だったのだな』

 

【クチナワさん】は「わたし」にとって無くては成らない存在…。

 

『それに、クチナワは消えて無くなったのではないのだろう』

 

【クチナワさん】は消えた訳ではない…。

 

『千石ちゃんが感じているものは、今までには無かったものなのだろう』

 

いま感じているこの感情は…悲しい…。

 

『クチナワは、千石ちゃんにとって不必要(ふひつよう)だと思う感情を引き受けていたのだろう、今の千石ちゃんが感じているものは、千石ちゃんにとって必要としてこなかったものなんじゃないかな』

 

『はい……、こんなに苦しいのに……、わたしには耐えられないです……』

 

『今まで耐えていたんだぞ千石ちゃんは、クチナワが引き受けたからといって千石ちゃんが感じていなかった訳ではない筈だ』

 

『くぅぅぅうううう……う・う・うぇっ・うぇっ・うええぇぇぇぇんー』

 

『うん、泣きたいだけ泣いていいぞ、私が一緒に居るからな』

 

泣き続ける「わたし」の頭を、「神原さん」は何時までも・何時までも…、優しく撫で続けてくれました。

 

          ・

 

以上が、「わたし」千石撫子が掛け替えのない者を失い、また掛け替えのない「わたし」の心を取り戻すという、「わたし」個人の物語です。

 

自分本位に語らせていただきましたが、「わたし」を知ってもらうために「わたし」が初めてした努力です、どうかご理解とご了承のほど、よろしくお願いします。

 

あーいけない、「わたし」が本来話さなきゃならなかったのって昨夜の続きだった…、ごめんなさい・次話では必ずお伝えします、それでは皆様・本日も掛け替えのない1日をお過ごしください。

 




後日譚を書こうとしたら…、違う話になっちゃいましたね(_ _;)

次こそは後日譚らしきものを書くので、どうかよろしくお願いします。
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