ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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無印編
01.不親切転生


 それは唐突であった。トラックに轢かれた。

 目が覚めれば知らない場所で全裸、目の前には長い髭を蓄えた……こう、如何にも人が考えた神様ですよーって感じのおじいさん。

 

 中略、色々言われたけど要約すれば手違いでの死亡らしく『特典』とやらをくれるらしい。王の財宝(ゲートオブバビロン)を貰った、ホントにそれでいいの? って顔をされたけど、そのときは気にしなかった。

 

 残り会話もろもろ全略、目が覚めれば見知らぬ土地にいた。

 

 

「え?」

 

 うっすらと残る前世の記憶からして俺はネット小説を見ていた。だから知識として神様転生は知っているし、ありがちでも強そうな特典も貰えた……貰えたはず、集中すれば手元に金色の波打つゲートみたいなの出て開いてるし。

 けどさ、普通は目が覚めれば家族とか用意されてるものじゃないのか……こうファーストフード店で付いてくるお手拭きのように用意されてないのか。赤ん坊からスタートで『な、なんだって!?』 みたいなテンプレなのが用意されてるものじゃないのか。

 ……されてないのか。記憶を掘り返すが残念ながら今世の記憶どころか、前世の記憶も怪しい始末だ。

 

 しかも中途半端に幼児体型になっているのが、なお悪い。

 玩具屋のショーウィンドウで姿を確認すれば、なんということでしょう。推定年齢7~10歳くらいの目が死んでる幼児が映ってるじゃないですか。まぁ性別は男、触ったらついてたので間違いない。まだ小さいが伸び代に期待。頑張れ息子よ、父さんは信じてるから!

 店員や周りの大人の微笑ましい視線が無性に腹が立つ、こっちは玩具どころじゃない、割りと必死なんだ。息子のことじゃない、現状にだ。

 ふぁっく、容姿も銀髪オッドアイでも金髪の赤い目でもない。既に怪しい前世にありふれていた黒髪の黒目、純正日本人だ。これじゃあ学校でキャーキャー言われることも出来ない、学校に行けるのかも知らんけど。

 それに周りを見ればオレンジ、赤、青、金に紫……カラフルな髪の色が溢れかえっている。

 なら金髪とかでいいじゃん、なんで普通の黒髪なんだよ。ちょっと中二っぽい容姿とか憧れてたのに、これも転生のサービスに入らないのか、別売り扱いか。せめて販売店まで案内を用意してくれ。

 

 だけど、あれだなぁ。何が一番ヤバイって金がない、ポッケ探っても何も出てこない。だいぶん不親切な神様であったようだ。

 

「しかし、それでもお腹は空いてくるわけでして……」

 

 最悪、ゲートオブバビロンで強盗か……なんか涙出てきた。

 取り敢えず、当てもなくさ迷う。歩く歩く、喉が乾けば公園の水道水を飲み、小腹がすけば試食品を食い歩く。

 思い返してみれば、もうなんか前世の名前すら思い出せないけど世界観は変わらないなぁ……どんな世界に跳ばされたかも聞いてなかった。

 青春ものとか日常系の世界観なら詰んだ。ヤメロよ、せっかく転生したなら異世界とかにしてくれよ。あれ、でも異世界とかだと本格的に餓死してたんじゃ……考えるの止めよ、まず寝床と飯だ。

 

 気温は暖かく多分春、寝床はもう公園でもいいや。飯はともかく水分も公園の水道水で賄える。

 

「うーん、なんだこの転生者にあるまじきホームレス感は」

 

 特典は『温かい家族』とか『安定した生活』にしとけばよかった。

 ここまで特典以外に何も貰えないとは……服を着てることに驚くくらい他は何もない。

 

「いや、むしろ全裸で保護された方がよかった気がしてきた」

 

 全裸は一時の恥、着衣は命の危機である。

 あれ、でも戸籍とかあるのか? なんも家族の記憶がないところから考えると……ないな!

 金なし! 親なし! 戸籍なし! 何もねぇ!

 まぁ一度落ち着いて周りを見れば、同年代とおぼしき少年少女がウヨウヨしてる。恐らく休日なのだろう、おかげで自分が目立たないのはいい。あれ、いいのか?

 

 少し歩き疲れたので休憩ついでに、図書館でここがどこか確かめるために地図や歴史の本を探す。

 目当ての本を見つけ、本を読めるスペースに行こうとしたところ車椅子の少女を見かけた。何やら手がギリギリ届くか届かないという位置に目当ての本があるようで、必死に手を伸ばしている。

 頑張れ車椅子の少女、あと少し手を伸ばせば届く。必死に頑張ってるのに水を差すのもなんなのでスルーして行く。

 後々、本を読んでいると車椅子少女が『やりきったで!』と言わんばかりの晴々とした表情をして机に来たので、無事本は取れたようである。邪魔をしなくてよかった。

 閑話休題。本を読んでわかったことは、ここは日本の海鳴市というところらしい。前世にそんな市があったかは知らん、全日本の市の名前とか覚えてない。

 

 そもそも現在地がわかったところで得るものはないんだけど、それはそれ。現状把握はなるべくしときたい、しときたかった。たとえホームレスになる一歩手前でも。

 現在地もわかったところで図書館をあとにしたけど、行く当てもない。強いていえば試食コーナーを巡るくらい。

 途中でケーキ屋の前を通りかかると美味しそうでした、無一文なのでなんも食えないから入らなかったけど。代わりに菓子の試食品を食い漁った、ちょっと変な目で見られた。

 

 

 

 で、もう夕方ですよ。もちろん帰る家もないので、水道つき、屋根あり雨の防げる遊具のある公園へと向かった……ん、なにやら綺麗なひし形の石ころが落ちている。これは売れるか? あとで質屋に持って……チクショウ! 戸籍ないし、そもそも幼児だし売れねぇ!

 

 苛立ちのままにひし形の石をゲートオブバビロンの中へ放り投げる。でも、もう夕暮れかぁ。家に帰るであろう少年たちを横目に、夕日を見ると目に染みて涙が出てくる……あれ? 人影が急に無くなった。皆が帰って居なくなったとかじゃなくて、無くなった。わぉ、イベント発生?

 怪奇現象に首を捻っていると後ろから声をかけられた。

 

「止まってください」

 

 そう言われ立ち止まり、振り返ると……えぇ、これは何かコメントしにくいな。黒のレオタードに申し訳程度のスカート、そしてマントを羽織っている金髪の少女に出会った。ひとことで言うならコスプレ。

 やけにメカチックな杖というかハルバートのようなものを持ってるけど重くないのかね? 見た目に反してマッチョさんか。てか、これはアレだ。

 

「怪奇現象発生、人影のなくなった路地にコスプレ少女あらわる」

「……コスプレ?」

「や、何でもないです」

「そうですか、ならさっき拾ったジュエルシードを渡してください」

 

 何が「なら」なのかはよくわからないが、ハルバート(仮称)を突き付けられた。よく見ると刃もついているようだ……これは戦闘の流れですか? 日常系でなく戦闘ありの世界ですか。

 やったね! ゲートオブバビロンが役に立つよ! 転生者の実力を振るうときだ!

 なら返答はひとつ。

 

「ヤだ」

「ッ! ……断るなら力付くででも渡してもらいます」

 

 グッと、ハルバートを持つ少女の手に力が入る。

 大丈夫、こっちにはゲートオブバビロンがある。たぶん負けない、負けない……はず。ちょっと自信なくなってきた。

 

「バッチ来いや――ノゥ!?」

 

 バッチ来いって言った瞬間に、ハルバートが目にも止まらぬ速さで振るわれた。幸いギリギリで直撃せず服に引っ掛かって、投げ飛ばされるだけで済んだ……同じくらいの体格なのに投げ飛ばされた? やっぱりあの金髪少女メッチャ力持ち……!?

 殴られただけで死ぬ! 距離は開いた、なら先手必勝、というか先にやらないと死ぬ! 素直にジュエルナンとか渡しとけばよかった!

 あ……ジュエルナンとかってのが何かすらわからん!?

 

「開け、ゲートオブバビロン!」

 

 そう言うと二十は下らないゲートが開く。その光景に少女は目を見開き、何かを言うと少女の前に大量の円錐形の……なんだろアレ。爛々と輝いてバチバチ電気みたいなのが走ってる、エネルギー弾みたいなのを出した。  それがこちらへ向けられ、

 

「やばっ撃たれる……! 先手必勝! ゲートオブバビロン射出!」

「フォトンランサー・フルオートファイア!」

 

 そして少女からはフォトンランサーと呼ばれるエネルギー弾が数多く撃ち込まれ、俺のゲートオブバビロンからは……ひとつの小石、さっき拾った石だけ発射された。

 

「ゑ?」

「なっ、ジュエルシー――!」

 

 そして小石とエネルギー弾は直撃し――世界は滅んだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 気がつけば図書館の本棚の前にいた。

 

「えっ?」




ここまで読んでくださった方に感謝を。
また、勢いで書いた今作も取り敢えず、目標無印ハッピーエンドにしたいです。

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