ちょっと異世界的なところに一日跳ばされる楽しい事故もあったけど、あのあとは無事にカートリッジ付きの俺たちのデバイスの性能確認を行った。
「けど結構身体に負担かかるね、まだまだ改良の余地ありだよ」
「魔力が少ないと余計実感しやすいけどリンカーコアにも負荷かかってるぞ、これ」
確かに瞬発的な魔力はリロードしたカートリッジの数に比例して爆発的に増加する。けど、その分使用者には無視できないレベルで負荷がくる。前にプロテクション全力で張った、あのときの倦怠感もこれが原因か。
なので、その後はひたすら改良を行っていた。幸い、カートリッジシステムをつけた、インテリジェントの成功例のデータは、期せずして取れたのでそれを元に弄っている。
そして、11月下旬は長らく放置していた気もする、ユニゾンデバイスの製造に取りかかり始めた。感情のプログラム? 最後に後回しである。
まずプレシアに手伝ってもらってリンカーコアのコピー。
「融合型デバイスね……それで適性を無視するためにリンカーコアのコピー。何というか私の娘だわ」
「母さんもユニゾンデバイス作ろうとしたことあるの?」
「いえ、それはないわ。ただ既存のもので満足せずに自分に合うものを作り出そうとするところとかそっくりよ」
昔々、気に入らない科学者をラボごと吹き飛ばすのに火力が足りないと、足りないなら持ってくればいいって発想から魔動力炉から魔力の供給補助を受けランクSS級の魔法で跡形もなく消し飛ばしたプレシアって人がいるんだって。誰だろうね?
ちなみにその科学者も生きてるらしい、どんな変態だよ。
「ほら、アリシアにナナシ。軽くでいいから魔力を流しなさい」
機械に手を当て魔力を流し波長のようなものを読み込ませる。これを擬似的なリンカーコアにコピーし完成となるらしい。
「擬似的リンカーコアって人には埋め込めないのか?」
「機械の脳を人に埋め込めると思うのかしら?」
「あ、無理だな」
心臓とかの臓器ならともかく脳は無理。
「それでも知ってるかぎりでは一人やってしまいそうな科学者がいるわね……」
「母さん、それ科学者ってかただの変態」
「いえ、実際科学者としても天才だったことは癪だけど認めるしかないレベルだったわ。ただ変態としても天災だったわ」
変態の天災ってなんだ。語感から変態度がありありと伝わる……!
ま、そんな変態の話題は投げ捨ててリンカーコアのコピーは無事に完了した。二人分のコピーということで懸念事項もあったようだが、魔力光が似てることとお互いにミソッカス魔力で魔力総量に差がなかったことがプラスに働いたらしい。
「頭の中身の差が影響しなくて良かったわね」
「これでもちょっとはデバイス弄れるようになってきたんよ?」
「アリシアに比べれば月とスッポンよね」
「そこ比べられたら何も言えねぇ……!」
ユニゾンデバイスは、ほとんど単純作業か指示出されたことしか手伝えてないからね。
「でも、適性をデバイス側に合わせてもらうとか柔らかい思考は助かってるよ。どうにも私たちは考えが固まり始めると柔軟さも弱くなるかねー」
「へぇ、そういうとこでは役立ってるのね」
「微力で全力を尽くしてますよ」
そのあと完成した擬似リンカーコアを持ち帰り早速製作に取りかかった。既に感情プログラム以外は図面上では大方出来ているので、設計図に沿って組み立てていく。
「うへへ、いい身体に仕上がってきた」
アリシアの発言である。デバイス関係になると特にキャラが壊れるよな……たしかにナイスなボディした外郭になってるけどな!
「私がなかに入りたい」
「融合事故起こせばいいんじゃね?」
「それだ!」
「おい、冗談だからやめろよ?」
青天の霹靂みたいな顔されると本気にしてそうで怖い。融合事故やらかしたら身体だけじゃなくて、精神面でも主導権取られるから何もできんし。
「ちぇー、わかってるよー。いいもん、私には将来性があるんだし」
「まぁ、あるな」
そんな感じで作業を進めてから数日、12月となった初日にクロノからお呼び出しがかかった。
フェイトの裁判の証人として来てくれとのこと。証人ってこんな直前に選ぶもんだっけ? 今朝フェイトが家を出るときには何も言ってなかったんだけど……あ、裁判所からは許可は取ってるけど、俺に伝えるのが遅れただけね。
「じゃ、いってらっしゃい。フェイトのために頑張ってきてね!」
「俺が頑張ってもいいのか?」
「あ、ごめん。クロノの言うこと以外動かないで。ユニゾンデバイスの製作は進めとくし、ホントフェイトのためにちゃんとやってきてね?」
「任せろ、バッチリぽっきりやってくる」
「うわぁ、不安だ……」
そんな心配しなくても大丈夫だって。裁判官を口先八丁で誤魔化せばいいんだろ……え、証拠とか揃ってるから余計なこと言うと直ぐバレてヤバい? いいから大人しくしてろ? わかった、わかったから。
うん、迎えに来たクロノまで心配そうな目で見るなよ。俺、自分の裁判大人しくしてたじゃん、悲しくなってきたぞ。
「君たちがアースラの予備デバイス全ての先端から醤油が出るようにした件は忘れてないからな」
「主犯アリシアだから」
「艦長の砂糖を塩に入れ換えた件は?」
「あれは死ぬかと思った」
「アースラ七不思議のひとつに加えられたぞ、あれほどまでに怒った艦長は始めてみた」
怒ってるというか我を失ってたよね。「静まりたまえー!」 とか言いながら茶菓子蒔き続けてようやく落ち着いてたし。二度とやらない。
「人の親をタタリガミみたいに扱わないでもらえるか」
「でも主食が糖分で横についてる
「洒落になってないのが怖いから止めてくれ。この頃血糖値が本当に心配なんだ」
「……糖分少なめのお菓子に代えていこう」
「ああ……」
まぁ、お茶に角砂糖をポンポン入れてたもんなぁ。かき混ぜるときに、カップの底に溜まった砂糖がジャリジャリいってたし。どこかの目の下に濃い隈のある探偵ばりに糖分摂取してると思う。
「あ、ナナシ!」
「やっほー、フェイト。裁判は任せろバリバリー」
「うん、お願いするね」
「あれ……フェイトからの信頼が痛い」
「それは君に心当たりが色々あるからだろうな」
おかしいな、ここは心配なもの見る目で見られると思ったのにな……人から信頼されないことに慣れすぎたとかどうなんだこれ。
「人として駄目なんじゃないか?」
「自分でもそう思う……」
「ええっと……急に呼び出してごめんね? 母さんや私とクロノが皆それぞれナナシにもう伝えてると思ってて」
そういうことか、どうせ俺はいつでも暇だし、直前に伝えればいいかって思われてたわけじゃなかったようだ。
「ホウレンソウが行き届いてなかったのか」
「ほうれん草……?」
「報告、連絡、相談の頭の文字取った言葉ね。おひたしにする方じゃないから」
「ほう、れん、そう……わっ、ホウレンソウになった」
並び順を変えて、連装砲でも可。おひたしから攻撃力がグンと上がります。
「基本中の基本なんだが怠っていてすまなかった。まぁ、どこかで君ならどうせ暇だろうという気持ちもあったな」
やっぱりあったのかよ。アリシアとデバイス作ってる以外は実際暇なんですけどね? なんか内職でも探そうかな……
「裁判の内容なんだが」
「フェレットの姿を装い女児の風呂場を覗いた少年の判決」
「ギルティ、と言いたいところだが訴訟されてないので裁判にはならないな。で、裁判なんだが君にはフェイトがジュエルシードの危険性については完全に知らなかったことを証言して欲しい」
「ふむふむ、願いを叶える石程度にしかわかってなかったと」
七つ集めて出てきた龍に頼めば、願いが叶えてもらえると思っていたと言えばいいのかな。あ、ジュエルシードなら21個か。なかなかに多いな。
「その通りだが、余計なことは言うなよ?」
「ハハッ、モチロンさー」
「ナナシ声が裏返ってるけど大丈夫……? 緊張してる?」
ある意味緊張してる、我ながら流れるように余計なことを言いそう。
変な冷や汗が流れてるが、フェイトにはバレてない。クロノにはジト目で睨まれている。
「本当に頼むぞ? 身内以外からの発言というのは結構重要なんだ」
「……もう、俺が犯人でいいから証人なんてやめよう」
「なんで!? 2、3の受け答えするだけだよ!?」
「真面目な空気に耐えれる自信がない……」
いつから、こんなんになっちゃったんだろうか? プレシアからアリシアを生き返らせようとしてる経緯聞いてたときは、まだ俺の真面目な要素は元気だったのになぁ。
今じゃ渇れかけてる……持ってくれよ俺の精神! シリアス3倍拳!
「あぁ、そうだ。話が逸れるが君のレアスキルだが今度登録しないか?」
「え……なに、登録?」
「局にだがな……僕自身は好きじゃないんだが、レアスキル持ちだと局員になるときに、特に上級キャリア試験のときに特例措置があったりするんだ」
ふーん、なんかレアスキルなしからしたら納得できないというか腹に逸物たまりそうな……
「なーんかずっこいな」
「君はそのずっこい方になれるぞ?」
「うーん、ズルも不正も楽できるなら大好きなんだけどなぁ」
「身も蓋もないね……」
ただ、こう……そういう周りに妬まれるようなズルさは好きじゃない。みんな最後は笑って許してもらえるようなズルさが大好きだ。
「小心者だからなー、そういうのはいいや。俺のは倉庫でしかないし」
「ふふっ、なんかナナシらしいね」
そうかね? 上級キャリアなんて合ってないし、あんなスキルで上にいける気もしない。てか、人の上にたつなんて胃が痛そうだ。
「クロノは執務官って大変じゃないの?」
「大変さもあるがなりたくてなったものだ。目標もあるからやりがいがあるよ」
「あ、私も執務官を目指そうと思ってるんだ」
「えっ、そうなの?」
「うんっ!」
――なんでも、今回の出来事を通して目指そうと思ったらしい。
自分たちみたいな、は特殊な状況だったとしても困ってる人たちを手助けして笑顔にしたい。と要約すれば、そんな感じであった。
「言うべきか悩んだが言っておこう。執務官も綺麗事ばかりで、どうにかできるものでもないぞ?」
「うん、それでもなりたいんだ。クロノを見てたらそう思えるんだ」
「そ、そうか」
「執務官冥利につきるね」
「……ああ」
けど、綺麗事ばかりではないか。ま、おっきな組織ならそんなもんでしょ。地球の大企業も変わらん変わらん。
そんな面倒には蓋をしてダストシュート!
「なら僕も教えれるかぎりは教えよう。たしか僕の使ってた参考書も残しておいてはずだ」
「うん、ありがとう」
「俺は特に何もできないな……あ、小学校の勉強程度なら見れるか」
「あ、国語をお願いしたいかも。なのはも国語は苦手みたいで」
なのはも? あー、魔法が得意なだけあっては理数系は強いけど、反面国語系が駄目と。英語はミッド語に通ずるところがあるから、割りと出来るらしい。
英語ができて国語が苦手とは帰国子女か。
「な、なんでも得意苦手はあるから」
「君が真面目が苦手なようにな」
「くそっ、嘗めるなよ。俺だって真面目にしようと思えば出来る!」
「ほほう、言ったな」
バッチ来いや!
▽▽▽▽
裁判終了。勢いに乗せられた感があるけど、普通に受け答えができた。
「君の扱い方が何となくわかってきたよ」
「マニュアルいります?」
「確実にマニュアル通りに動かんだろ」
「オートマチックなもんで」
「
おっとー、フェイトさんから的確なツッコミが来た。クロノが笑ってるのを見て、頭上にクエッションマーク浮かべてるあたり思ったこと言っただけだろうけど。
「さて、ふたりとも送っていこう」
「センキュー。フェイトの裁判の判決っていつ?」
「え、明日だよ?」
「明日!?」
「ああ、一昨日はユーノも証人に来ててな。今日の君の発言で最後……ま、間違いなく大丈夫だろう」
先に言ってほしかった。なにか余計なこと言ってないか心配になってきたぞ。これで俺が変なこと発言しててみろ、死ぬぞ! 親バカの雷で焼き殺される……!
「いや、君は先に伝えてる方が変に暴走しそうだったからな……」
「それも否定できない。まー、無事に終われるならアリシアもプレシアさんも喜ぶだろうさ」
「うん、ありがとうね。明後日には海鳴市に引っ越しだし楽しみだなぁ」
そういや、そうでしたね……嫌だなぁ、なのはたちとの模擬戦。
おや、玄関でアリシアとプレシアが待ってる。じゃ、クロノありがとね。
その後はテスタロッサ家と俺で夕飯を食べ、明日のプレシアとフェイトの判決を心待ちに眠るだけであった。
嘘、あんま寝てない。また、アリシアとユニゾンデバイス製作してた。
――翌日、12月2日。なのはが何者かに襲われ、リンカーコアを損傷する事件が起こった。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
ようやくクロノをしっかり出せた気がします。
そして、ようやくA`s編本編に始まりそうです。始まったから、どうなるってわけでもないんですけどね。
次回、『ちょっとだけ』真面目なお話。サクッと済ませたい。
前話を14話からEXTRAに変更。