ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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15.カートリッジシステム

 12月2日、フェイトとプレシアの裁判判決がくだされ、無事に観察保護となった。

 までは、よかったのだ

 ――ほぼ、同時刻なのはが何者かに強襲された。その報告を聞いたフェイトとユーノ(人型が本体だった)は、急遽援軍に行ったが敢えなく敗退。

 なのはやフェイトが弱かったわけではない。ぶっちゃけ武装局員と比べても金の卵だと聞いた……あれで、まだ卵らしい。孵化したら星でも滅ぼせるんじゃないかな?

 

 なのはの見舞いにも行ったけど寝込んでいた。リンカーコアを損傷させられた影響らしいが、魔力行使をせずキチンと休めば無事回復するらしい。

 

「で、クロノは何で私たちのところに? 指揮とかいいの?」

「いや、良くはないんだが……レイジングハートとバルディッシュが先の戦闘で」

「あー、クロノそっちの部品はここ置いてくから段ボールに入れないで」

「ああ、わかっ……なんで僕まで引っ越しの手伝いをさせられてるんだ!?」

 

 仕方ないじゃん。必要最低限の日用品と家具はもう送ってるけど、デバイスの整備用具とかは手つかずだったんだもの。なんでって、昨日までデバイス弄ってたからに決まってんじゃん。

 

「大がかりなものは置いていくけど、最低限のは持ってきたいからねー」

「カートリッジシステムの改良くらいは、向こうでも出来そうだしな」

「……それだ。君たちはミッドのデバイスにカートリッジを付けてる実験をしてたんだよな?」

「実験ってか実践ね。既に付けてるし」

 

 ただ、実用にはあと少しって感じである。未だに、使用者への負担が大きい。更にカートリッジをロードし過ぎれば、デバイスにまで響いてくることもわかり改善点は増えた。

 これはベルカ式が攻撃力の強化、デバイスの変形を目的に使っているのに対し、俺たちは魔力総量を底上げするために使ってることが原因っぽい。

 デバイス損傷は簡単。俺たちのデバイスがストレージにしては繊細だから。より精密な構造をしてるインテリジェントデバイスも相性が悪いだろうな。

 

「で、それがどしたの? あ、これそっちの棚に戻しといて」

「わかった……今回なのはを襲った奴らがベルカ式の魔法を、カートリッジシステムを搭載したアームドデバイスを使用してたんだ」

 

 ベルカ式アームドデバイス……どっかで見たような、バルニフィカスは違ったよな? 勘違いか。

 

「へー、私たちみたいなパチモンじゃなくてマジモンのブツとな……!」

「どうでもいいけど、単語のあとにモンってつけるとモンスターの名前みたいだよな、アリシアモン」

「本当にどうでもいいうえに語呂悪いね、ナナシモン」

 

 それは思った。2文字から3文字がちょうどよいかも。

 

「……それで続きだが、その襲撃者にやられたレイジングハートたちが自分たちにも」

「自分たちにもカートリッジシステムをつけるように要求したと……」

 

 ――やっぱりインテリジェントデバイスの人工知能といっても、ある程度の人格は出来上がって意思は出てるのかな。でも、持ち主に対して最善と判断したなら不思議じゃないし……いや、未熟な持ち主の場合は振り回されることがあるとも言うし意思は確立されてなくても存在はして…………やっぱり面白いなぁ。

 

 以上、全部アリシアさんの独り言。

 

「あー、もうっ! 使えないとか気にせずインテリジェントデバイスも弄ろう!」

「すいません、デバイス関係になると熱くなる子で」

「い、いや、構わんが……」

 

 それでバルディッシュたちがカートリッジシステムをつけろと? なに、つけることを確約するまで修理もさせないようロックしてる……?

 

「なら付けたら?」

「簡単に言うがミッド式のデバイスに、カートリッジシステムをつけるなんて普通やらないんだ」

「メッチャ頑張れ! 諦めなきゃ大体どうにかなる!」

「君はわざと話逸らしてるのか? たしかに今来てくれているメンテナンススタッフは優秀だがカートリッジシステムなんて数えるほどしか触ったことがないんだ」

 

 うんうん、話の流れは読めてるんだけどね? わざと逸らしてました。

 

「まとめたら、うちのフェイトのバルディッシュとなのはのレイジングハートの改造を手伝ってほしいってこと?」

「そういうことだ。少なくとも君たちは、ストレージデバイスにカートリッジシステムを搭載することに成功しているからな」

「搭載することには、だけどね。いいよー、フェイトもなのはを守りきれなかったって、悔しがってたしお姉ちゃんとしても手は貸したいから」

 

 ……おや、予想外。面倒とかそんな理由はなしにしても、断るかと思ってた。

 

「ただし条件があるよ」

「……聞こう」

 

 現状では、まだカートリッジシステムを、ミッド式のデバイスを万全に使用するには不安定すぎる。

 それも自分たちのデバイスはインテリジェントより、単純なストレージであるにも関わらず、である。

 その不安定さは使用者やデバイスにダイレクトにマイナスの影響をもたらす。特にフェイトやなのはのような身体も出来てない幼い子供は顕著。加えて、こうと決めたら意固地に無茶をする子たちが、使い続ければ疲労が身体を確実に蝕む、負担がデバイスを確実に食い潰す。

 

「ヒヨッコといっても、これは技術者の一人としては許せないんだよ。クロノはフェイトから話を聞いたんだろうけど、私たちがまだ他人に話してない理由はここ」

 

 ――他人様にそんな不良品を渡すなんて、アリシア・テスタロッサ()が許せない。

 

「自分で使うならいざ知らずね」

「あれ、俺は?」

「自分で、使うなら、いざ、知らず、ね!」

「そうだねー!」

 

 そうか、俺も製作側だったわ。

 

「だから万全に弄らさせて貰えて、納得してから渡すって条件でなら引き受ける」

「それは……」

「って言いたいところだけど、時間がないのもわかるんだよね」

 

 事件の概要も何もかも知らないけど、確実に時間は待ってくれない。

 そしてフェイトもなのはも、また飛ぶんだろうな。バルディッシュもレイジングハートだって主人のために、敵わぬ相手なら自分を削ってでも拮抗しようとするんだろう。

 それも姉であるアリシアはもちろん、俺もわかっている、わかっちゃう。

 

「ってことは私たちがやることはなにか? はいっ! ナナシくん!」

「全力全開、メンテナンス――出来上がるまで寝れない! 不眠不休のデバイス改造はっじ、まっるよぉぉぉぉ!」

「いぇーい! 今回の条件はこちら! ナナシぃ、簡単に説明!」

「どんな事件かも知らないけど任せろ!」

 

 とにかく超急ぐ、メッチャ急ぐ。

 次いつ敵が出現するかわからない。更に、フェイトもなのはも敵が出たら飛び出す鉄砲玉みたいな子だから、インパルスもかくやの超スピードで改造を施す。

 尚且つ、アリシアの愛しき妹やその親友への負担が最小限になるように、最高の出来で仕上げる。もちろん、デバイスへの負荷も込み込みでだ。

 

「正解! 難易度は?」

「ベリーハードッ!」

「時間もない! 事件に関することも知らない! お給料もない!」

「ないない尽くし! だけど、俺たちにゃ知識と技術とやる気がある!」

「いや、報酬は出るが……」

 

 あ、そうなの。けど、時間は絶対的にないのは変わらない。

 

「だったら、可愛らしい妹のためにやってしんぜよう!」

「時間がないからなんだ! 睡眠時間があるじゃないか! 削れ! 削れ! 削れぇ!」

「よっしゃー! やるよ、ナナシー!」

「「いぇーい!」」

 

 どこで何を間違ったか、俺たちは既にエンジン全開フルスロットル。今の俺たち止めたかったらプレシア連れてこい!

 

「クロノ行くよ! 時間が惜しい!」

「あ、あぁ。協力は嬉しいのだが道具類は……」

「ナナシの四次元空間に突っ込む!」

「……引っ越しの荷物もそうすればよかったんじゃないのか?」

「あ……いや、普通に普通なことだと四次元空間の存在忘れちゃうのよね。ささ、早くいこう」

 

 時は金なり。時間は金に変えれるけど、金で時間は買えんのだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 移動中、メンテナンスというかデバイス弄りが主なアリシアさんの血がたぎってるので、代わりに俺が連絡を入れる。相手はプレシアに決まってんじゃん。

 

「というわけでして、海鳴に俺たちが引っ越せるのが少し先になりそうです」

『ふぅ……まぁ、仕方ないわね。フェイトも嘱託魔導師として、今回の事件に協力するようだし……私も手伝えないかリンディに聞いてみるわ』

 

 顎に手を当て、思案するようにしているプレシア。娘がふたりとも直接的、間接的の差があるとはいえ、関わるので親バカとして……親として色々思うところがあるのだろう。

 

「なんか……申し訳ない」

『別にナナシのせいじゃないわ。というか貴方は別になんら影響を与えてないわ』

「なんでこっちの心抉る言い方に変えた?」

 

 必要なかったよな? たまの真面目な謝罪くらい素直に受け取ってくれ。

 

『ま、引っ越し祝いやフェイトの入学祝いは事件が解決してからにしましょう』

「あいよ……あ、フェイトに入学おめでとうと伝えといて。俺とアリシアからって」

『ええ、じゃあ身体には気をつけなさい』

「了解、じゃ」

 

 さて、到着。待機状態なデバイスが2機置かれている整備室へ着いた。バルディッシュとレイジングハートなわけだけど……うんうん、ディスプレイで2機と話せるのね。

 待て待て、ペラペラ喋られると読解が追い付かん……

 

「ナナシ、私の考えてたよりハードル高いよ。この子たちったら、素敵かつアホみたいな案出してきてる」

 

 マジかー……で、アリシア。クロノとメンテナンススタッフらしき女性が置いてけぼりくらってんだけど。

 

「え、あ、ごめんごめん」

 

 眼鏡をかけた、緑髪ショートヘアな女性は、マリエル・アテンザさん。今回レイジングハートたちの改造をするのに、手伝ってもらえるらしい。いや、手伝うの俺たちだっけ?

 それからパパッと自己紹介を済ませ、早速取りかかるが無茶な案ってなにさ?

 

「カートリッジシステムだけでも、安定させるの難しいのになー……簡単に言うと万が一に備えた限界突破なモードもつけろってさ」

「そうなんですよー! でもこの子たちも頑固で頑なに譲らなくて……」

「なら付けたら?」

「よし、つけよう」

「えぇぇ!? でも安定させるには時間も……」

 

 睡眠時間があるじゃない! それになるべく使わないことを前提にしよう。

 ただ、本当のピンチになったときに、あの機能をつけとけばってことがないように念のため。

 

「念のためにつけるよー! レイジングハートもバルディッシュも私たちの改造はハードだけどついてこれるかー!?」

《《No problem. 》》

「よしきた! やってやるよー!」

 

 安全面では、何もないより確実に向上させることの出来る――ありがとう、ルシフェリオン、バルニフィカス。

 あのときは、工具がなかったためアリシアも完璧には構造を把握することは出来なかったようだが、バルディッシュたちとほぼ同じ構造なデバイスの完成形を見たお掛けで、かなり得るものはあったらしい。

 

「バルディッシュはリボルバー式のでいいな……えー、CVK792-Rだな」

「うん、レイジングハートはマガジン式でCVK792-Aだね……ああ、フレームも強度上げないと! 今のままじゃ、出力に耐えれず砕ける!」

「硬度ばかり上げると、逆に脆くなるのが難点ですねぇ。レイジングハートは、シューティングモードのパワーアップバージョンとして、バスターモードを搭載するつもりなんですが……砲撃の精度も上げたいですよね」

 

 砲撃の精度か……単純に反動で、持ち手がブレるってのもあるだろう。縦に一本の棒を持ってる状態だから余計だ。

 

「横にグリップつけよう、マガジンの手前あたりに」

「なにそれ、カッコイイ!」

 

 しかし、砲撃強化について本気で考えないといけない魔法少女の杖(デバイス)か……魔法少女ってなんだったかなぁ。少なくとも日曜の朝にやってるタイプじゃないな、これは。

 

「それいったらフェイトもだよね」

「メインモードが斧と鎌だからな」

「新しいモード入れたいね」

「ザンバーだろ」

「ザンバーだね」

「スピードタイプですけど、大丈夫ですかね?」

 

 大丈夫、そこは心配ないよ。水色の子が既に証明済だし……けど出力が不味い。大変アッパーで、リミッター振り切った感じになる。

 さっき言ってた念のため(・・・・)のモードになるな。

 あとはレイジングハートさんご所望のエクセリオンモードね……かなり、なのはを守れなかったことを後悔してるのか、結構無茶なモードだ。なのはもであるが、何よりもレイジングハート自身への負荷がマッハ。

 

「これ、なのはがミスしたら……レイジングハート壊れるよ?」

《Master and I can do.》

 

 アリシアが確認のために聞くが、レイジングハートとなのはなら出来るってか……ううーん。

 まぁ? アリシアは当然ながら、俺も技術者見習いみたいなもんだし?

 

「ご注文には答えますとも。な、アリシア?」

「任せろぉ! 安全面でも要求より数倍いいもんにしてみせるとも!」

《Thank you.》

「で、ですけど! レイジングハートもバルディッシュも、これは万が一のため、なるべく使わないこと! これは絶対ですよ!」

 

 マリエルさんの注意にもしっかり返事してるけど、使いそうでならないな。

 これは本腰入れて安全性上げねば……アリシアとマリエルさんが。俺はそんな精密なとこまだ弄れないからね。

 

「じゃ、チキチキーデバイス改良が終わるまで貫徹祭り始まるよー」

「はいよー! マリエルさんレイジングハートの方お願いします! ナナシはカートリッジシステム組始めといて!」

「あいよー」

 

 こうして、眠れない夜が始まった。

 ――二日後くらいにフェイトは小学校に初登校したらしい、その頃俺たちは目が死んでた。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
やっぱりこのふたりが一番書きやすい。

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