人間には、限界ってものがあるよね。いや、なにも個人の成長の伸び代とかそういうことに限らずの話だ。個人ではなく、人間という大きな括りとして見て例えば足の速さ、例えば握力。地球でなくミッドまでいれると魔力総量にだって限界ってものがある。
魔力ランクSSSとか頭おかしいんじゃねーのって、ランクも用意されているが実際には居ない。ただ、用意されてるだけであり、そうすると現在の人間の限界は魔力ランクSSということになる。
で、限界を超えようとすると、必ず何かしら代償が必要になる。
ベルカ式に合わせたカートリッジシステムを、ミッド式の繊細なインテリジェントデバイスにつけて戦闘するなど限界がすぐ見えてくる。
そもそも、ベルカのデバイスは
しかし、インテリジェントデバイスは、というよりそもそのミッド式の魔法は中距離からか遠距離からが主体となっている。なので、デバイス自体や使用者を強化したところで効果は薄い。
じゃあ、どうするのか? って問題はすぐ解決した。
強化するというプロセスの一歩手前で止めればいい、ただ魔力総量を一時的に増幅させるために使えばいいのだ。
しかし、ここで話が戻る。一時的に、尚且つ爆発的に魔力総量を増やすいうことは、一瞬とはいえ己の魔力の限界を超えるのだ。まぁ、一回くらいほんの刹那的に限界超えたところで支障はない。火事場の馬鹿力とあるが、あれも一時的に自分のリミッターを外しているが、基本的に後遺症はない。あれは一回きりの一瞬だからだ。
けど、魔法での戦闘となるとそうもいかないだろう。何度も何度もカートリッジを使い限界を超える。その全ては、ほんの一瞬かもしれない。でも、それだって回数を繰り返せば、塵も積もればなんとやらだ。
――確実にデバイスとその持ち主を蝕んでいく。
そして、更に限界を超えるために切り札のモードを使えば、その代償は容赦なく使用者とそのデバイスに牙を剥くだろう。一歩間違えれば二度と空を飛べない、そういう取り返しのつかないものとしてだ。
さて、ここまで話すとデバイスのことを真剣に考えて、限界を超えたときの代償を真面目に考えてるようだがそんなことない。
じゃあ、何でこんなことを考えたか。簡単である。
――限界を超えたのは俺たちである。
いや、別に1日の徹夜ぐらいは慣れた。人間は慣れる生き物だからね。けど、2日目入るとテンションにアッパーが入ってくる。これも、眠気から自分も守るため。いわば自衛行為だから仕方ないね。
「アリシア! レイジングハートのまわりにビットみたいなの飛ばそうぜ! それからも砲撃撃てるようにすれば、砲撃とは名ばかりの狙いもクソもいらねぇ面制圧余裕だぜ!」
「いや、むしろレイジングハート自体を改造して砲撃にオートでブーストかかるようにすれば……! 代わりにごてごての重装備っぽくなるけど! 集束砲の要領で大気中の魔力を取り込めば行ける、はず!」
「ビットの方がいいだろ! ビットで取り囲んでの360度全面砲撃とか最高だろ!」
「バカ! 一撃に賭けた超高威力とか凄いロマンじゃん!」
《 Please don't do that.》
珍しく意見が別れた。このまま意見が、平行線をたどると思われたそのとき、マリエルさんから神のお告げがきた。
「両方つければいいんじゃないですか?」
「それだ」
「これでなのはも砲撃の頂点を極めるね、間違いないよ」
今思えば、この人も見た目が普通なだけで頭はお花畑だったと思う。こんなもんつけたら、カートリッジ云々の前に余裕でなのはの限界超えるし。
《Cut it out.》
「あ、レイジングハートがシステムブロックした!」
「こうなったらバルディッシュを……くそぅ! バルまで!」
それから、レイジングハートとバルディッシュのシステムのファイアウォールを格闘すること2時間ほど。
ふと、気づいた。何やってんだ、と。
「よくよく考えりゃ、そんなん付けたらレイジングハートもなのはも耐えきれねぇ」
「考えなくてもわかることだったよね……熱に浮かされてた」
「うう、不覚です」
まぁ、ここで時間はロスしたものの限界は来てなかった。ここから、2日後が問題だった。別に倒れたりしたわけじゃない。いや、倒れてないのが奇跡的な感じだったけど。
さて、どうなっていたのか。俺たちの顔から表情が消えてた。黙々と作業をこなす機械と化してた。
「……ナナシ、そこのC2-Vの螺」
「……ん」
「B-8a……スプリングどこですか」
「そこ、下……」
「バル……ど?」
《No problem.……Are you feeling OK?》
「……ん」
こんな会話が5分に数回程度。そして割りと無口な方のバルディッシュに体調を聞かれてる時点で結構ヤバい感じだったのだろう。後々にアースラのカメラで記録見たら目のハイライト消えてたし。
さらに時は過ぎて、半日後……のはず。時間感覚おかしくなってたから自信はない。このときは時計が12時を指してても、自分が5時と思えばそう言い張ってた。
「そろそろ、仮眠入れねぇ……?」
「何言ってるのナナシ、私たちさっき5分も意識トんでたじゃん」
「いっけね、忘れてた。5分もネテタカー」
「ナナシったらうっかりさんなんだからぁー」
「「アハハハハハハハ!」」
ヤバい感じとかじゃなくて、ヤバかった。マリエルさんは横でついに倒れた。固い床だというのに気持ちよさげに寝てた。
正直、この時点で大体終わってた。いや、俺たちがじゃなくて作業がである。
なら、何をしてたかというと話をグーンと戻して、カートリッジシステムによるデバイスと、その使用者に対する負担の話になるんだけど。
「……こんなの気休めなんだけどねぇ」
「まぁ……無茶する子たちだからな」
「見た目は私の方が下だけどお姉ちゃんだから、そこらへんはカバーしたげないとね」
先日アッパーが入って頭おかしい発案してて、半日前には目のハイライトが消えてた奴とは思えない……なんていうかお姉ちゃんな顔してる。
俺とアリシアが付けた追加機構。機構なんて対したものじゃない、単純なものだ。
ただ、一回ポッキリの身代わり装置。レイジングハートやバルディッシュが、切り札のエクセリオンモード、ザンバーフォームを使用したときに初めの数分間だけ負荷を軽減するだけのものだ。
「こんなものでも……ないよりは、マシなはず……よいしょ」
パチンッ! と小気味よい音をたたてフレームを閉じたアリシア。
「完成!」
「終わったぁ……ふぅ、お疲れさん。ちょっとゆっくりしたらクロノに渡しに行くか」
「そだねー、飲み物飲みも」
ようやく完成した。レイジングハート改め、レイジングハート・エクセリオン。バルディッシュ改め、バルディッシュ・アサルト。
グーっと伸びをして枯れ木をまとめて折るような音を関節から鳴らし、ゆっくりしようとしたそのときクロノから緊急連絡が入った。
『すまな……なんだ、その殺意の籠った視線は』
「ナンデモナイヨ?」
『いや、すまない。それで、急なんだがレイジングハートたちの改修は』
「ちょうど今終わったよ。何かあったの?」
『例の容疑者たちがまた現れた。僕は先に押さえに行くから、君たちはメインフロアにいるなのはとフェイトに渡してもらいたい!』
「りょ、了解だよ」
「がってん承知だぜ……」
生まれたての小鹿のように震える足に鞭打って、メインフロアに走る俺たち。泣いてなんかないやい。
メインフロアに着くとフェイトたちが、気がついたのか駆け寄ってきた。
「アリシアちゃんも、ナナシくんも髪の毛ボサボサだけど大丈夫……?」
「目の下に隈もあるよ……」
ハハッ、後ろに控えてるリンディさんも心配そうな目で見てきてる。
「そんなことはいいから手短に最低限説明するよ」
「詳しくは帰ってきてから話すから耳かっぽじって一回で聞くように。二回説明する体力は、これっぽっちもない!」
「う、うん!」
「わかったよ」
「じゃあ、基本的なことはレイジングハートたちに聞いてくれ」
そこらへんは丸投げ。バルディッシュたちの方がフェイトたちに合った言い方が出来るだろう。
「で、追加モードにエクセリオンモードとザンバーフォームがある」
「けど、絶対使わないように。まだまだ不安定で下手をしたらデバイスも壊れちゃうから」
――だから、本当にピンチになるまでは使わないでほしい。これは口に出さなかった。アリシアもわかってるんだ、目の前のふたりは言って聞かせても、本当に必要になったら使ってしまうことくらい。だからこそ追加機構をつけたわけだし。
「今はそれくらいわかってたらいいよ」
「じゃ、いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
「姉さん、ナナシ、ありがとう!」
転送ポッドから地球の上空へ跳ぶふたり。メインフロアの映像にふたりが映り、無事セットアップした姿を見て――俺もアリシアもぶっ倒れた。糸の切れた人形のように、正面にビターン! となんの抵抗もなく。
「ほ、ホントは戦闘まで見たかったんだけどね……」
「もう、さすがに……限界だ」
最後の作業は気力でやってた。メインフロアまで走ってきて説明することに至っては、死力を振り絞ってた。
それでフェイトたちが出撃した今、振り絞った死力で繋いでいた意識の糸が切れた。そりゃ、もうプッツリと。
俺たちが、寝ている間にフェイトやなのはたちはカートリッジシステムを搭載したバルディッシュたちと奮闘。互角以上に戦え、今のところ異常もなかったとのこと。
それにクロノが首謀者らしき人間を一時的に押さえたらしい……一時的に。なんか仮面の男が乱入してきたとかで、逃がしてしまったとのこと。
「以上、俺たちが丸々一日寝てる間のことね」
「へぇ、あとで戦闘データ見せてもらおうかな」
さて、ここまで来て気づいたことがある。
「俺たち事件の名前すら知らないな」
「あっ……気持ち的にデバイス弄りに来ただけだったからなー」
うん、マリエルさんとの自己紹介ついでに、事件概要を説明しようとするクロノを邪魔だからと部屋から出してたもんな。
「時間が惜しかったんだよ、実際ギリギリだったしね」
「まぁーなー、フェイトたちにデバイスの説明するか。どこにいるかね?」
「携帯買って帰るってさ、母さんも付き添いで行ってる。ナナシは携帯ってわかるよね?」
「まぁ、前世も地球だからな」
「記憶はほぼない癖に。話聞いた感じ、エピソード記憶に関する部分だけ無くなってるみたいな、そうでないような……」
そうだな、一般的な知識だけは残ってるし。でも、前世のことはいいや。そんなことで悩むのはめんどくさいし、気にするほど繊細でもない。
「ちょっとだけ、知識多目に持って生まれたと考えればオールオッケー」
「アハハ! その知識がほとんど役に立ってない現状だけどね」
「あれ? マジだ」
「元の地球にはない、魔法とかデバイスばっかだもんねぇ」
ま、まぁ基礎の理解はすぐ出来たってメリットはある……あれー、思ってたよりも、この世界に来たとき手持ちにあったステータス役立たずだな。
人生、楽は出来ないと。
▽▽▽▽
それから、ほどなくしてフェイトたちが帰ってきた。
……ああ、プレシア娘とお揃いの携帯買って滅茶苦茶嬉しそうね。肌がツヤツヤしてやがるよ……アリシア生き返ってからなんか若返ってねぇ?
「アリシアとフェイトがいれば、いつまでだって生きられるわ」
「妖怪か」
「失礼ね、妖術で消すわよ」
「それ妖術じゃねぇ、ただの魔法だろうがごめんなさい、悪かったです。なのでデバイスしまってください、やめて! 帯電始めないで!」
微妙に電気がこっちまで届いてるから。パチパチ当たって痛い!
「それでふたりともデバイスはどうだった?」
「あ、すっごく、よかったよ! ありがとうね、アリシアちゃん! ナナシくん!」
「うん、壊されちゃう前より処理も早くなっててビックリした」
「うんうん!」
「アリシアが仕上げたのだから当然ね」
俺もだよ、いや、俺よりマリエルさんもだよ。プレシアの目には娘しか映ってないのだろうか。とんだ盲目だ。
「はい! そうやって喜んでもらえるのは技術師の卵としては嬉しいんだけど」
アリシアがパンッ! と手を鳴らしふたりを止める。
……まぁ、嬉しいんだけどそれに浮かれてばかりもいられんよね。
――なんたって現状、その2機は欠陥品なのだから。
「え、欠陥品、って……?」
「あぁ、そんな心配しなくてもレイジングハートたちが駄目とかそういうわけじゃないから、そんな顔しないでなのはー」
「ふぇ!? い、いやビックリしただけだよ!」
なのはの強張ったほっぺをぐいーっ、と引っ張りほぐすアリシア。俺も微妙に固まったフェイトにするか悩んだが、後ろの親バカが怖かったのでやめた。
「そもそもカートリッジシステムをインテリジェントデバイスにつけるってのは難しくてねぇ……」
ここからアリシア先生の解説タイム。俺たちが今までさんざん考えて、まだ解決しきれていないカートリッジシステムがかける使用者たちへの負荷について説明した。
途中、なのはたちが首を傾げた際には、俺が砕きに砕いてサラサラにして補足した。
「で、現状エクセリオンモードとザンバーフォームは使わないでほしいの」
「さっき言った、欠陥ってのはこの部分のことね、無茶して使って下手すれば壊れっから」
「バルたちも、使ってるフェイトたちも。ホンッッッットぉぉぉ――――っに! 使わないと駄目だってときまで使っちゃ駄目だよ」
ふたりの空いてる時間でなるべく調整したいところなんだけど、本格的に調整しようとしたときに出撃ってなるとどうしようもなくなる。難しい塩梅だね。
「以上! 気をつけてほしいことでした!」
「ホントふたり無茶しそうだからね……おい、コラふたりとも顔見合わせて首傾げんな。クロノにも聞いてみろ、深く頷くぞきっと!」
本人は自覚がないものっていうけどホントだね……アリシアと俺は、レイジングハートとバルディッシュの修理用の部品を取り寄せることを決意したのであった。出来れば、使うことなく終わりたい。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
ちょっと後半真面目な話をしてしまいました、デバイス関係になるとアリシアさんにスイッチ入っちゃった。
前半のレイジングハートはこんな感じ。
Please don't do that.(やめてください)
Cut it out.(おい、やめろ)
レイハさんが危うくForceっぽいことになるところでした、扱えないです。