ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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18.闇の書の最期

 はやてのお見舞いから10日と少し経った。

 今、非常に遺憾ながら、俺はとても面倒な立ち位置になってしまっている。

 

 お見舞いに行ってから、数日。俺たちはまたバルディッシュやレイジングハートの改修をするつもりだったのだが、クロノやリンディさんより休息しろとお達しがあった。

 

 ――俺たちはこんなもんじゃない、まだいける! 何徹だってやってる!

 

 そう言ったけど、むしろそれが駄目だったらしい。なのはやフェイトたちは戦闘で無茶をするが、俺やアリシアはデバイス弄りでノーブレーキすぎると。

 ブーイングしてみたけど、後ろにいたプレシアにアイアンクローされて封殺された。研究が本職なくせして握力なんでこんなに高いんだろ……? アリシアは普通に説得されてた。

 

 そして、ミッドには守護騎士が現れてないことから、ミッドのテスタロッサ家に送られた。帰ったのではなく送られた。

 どんだけ、信用がないのだろうか。

 

 まぁ。

 

「家でもデバイス弄るから関係ないのにね!」

「全くだ!」

「ユニゾンデバイス仕上げるよー!」

「よっしゃあ!」

 

 それから5日後には、感情系統のプログラム以外出来上がっていた。俺とアリシアの上には、ヒヨコと星が飛び回っていた。妖精も見えてたかもしれない。

 さらに1日経過、床に倒れてたことから睡眠不足から倒れたのは確実だ。もう慣れたから、徹夜で倒れたとすぐわかってしまう。確実に駄目な慣れである。

 

 6日目、丸1日寝た俺たちは何事もなかったかのようにアースラへと戻った。

 

 さて、ここからが問題だった。

 クロノから守護騎士についての詳細をようやく聞かされた、見せられた。見なきゃよかった。

 なのはを襲ったのはヴィータ、仮面の男にフェイトが戦っていたのはシグナムさん、戦闘時に結界を張っているのはシャマルさん。

 そして、おま誰? 茶色の肌のガチムチ男がいた。お前、ザッフィーどこにやった……!?

 いや、そんなことは置いといてだな。はやての家族が守護騎士だったのか。

 

 今日、そんなものを見た手前クロノたちには伝えるべきとはわかっている。しかし、シグナムには誰にも言わないとだな……けど、そんなこと言ってもいられんし。

 

「なに悩んでんの?」

「あ、いや……そういやフェイトたちは?」

「露骨に逸らしたね……ま、いいけど。今日は地球ではクリスマスイブっていって」

「お、パーティーしにでも行ったのか?」

「ううん、それは後でやるからナナシと私も来ててってさ」

 

 あ、そうなのね。ならケーキでも買いに行ったのか? 確かなのはの家が喫茶店かなにかやってたとか言ってたような……

 

「違うよ、はやてって子の病院にサプライズでお祝いに行くんだって」

「は?」

「だから、サプライズではやてって子にクリスマスイブのお祝いに」

 

 八神の病室に事前に伝えず、要するにサプライズ……あ、ヤバい。なのはたちが行くのは、絶対マズイぞ!?

 ほぼ、鉢合わせると決まったわけじゃない。

 でも良くないことってのは当たるもんで、いわゆるフラグってのがビンビンじゃねぇか。

 クロノたちのいる、メインフロアに走り出す。

 

「ナナシ!?」

「ヤバい! とにかくヤバい!」

「よくわからないけどわかった! 度合いは!?」

「俺のミソッカス魔力からプレシアさんが無限の魔力持って激おこ!」

「幅広すぎるけど超ヤバい!」

 

 メインフロアに着いた俺たちは、クロノに駆け寄る。急いでフェイトたちと連絡が取れるか確認するが――繋がらない。なのはとも繋がらない。

 

「嫌な予感ど真ん中ストライクゥ!」

「どういうことだ!?」

「なのはたちが高確率で守護騎士との戦闘に入ってるよ!」

「すっっっごく行きたかないけど、クロノ、場所案内するから海鳴のテスタロッサ家に転送頼む! 説明は向かいながらする!」

 

 状況を把握しきれてないクロノだが、連絡がつかないことからある程度は既に察してたのか着いてきてくれる。

 

「ナナシ! デバイス!」

「っと、サンクス!」

 

 アリシアからデイブレイカーを受け取り、クロノとともに海鳴へと跳んだ。

 そのまま、窓からクロノにぶらさげてもらいながら飛び出し海鳴大学病院へと向かう。

 そして、クロノへと海鳴大学病院に守護騎士の主がいることを伝える。

 

「……けど、八神が魔力を蒐集させてるとは思えないとも言っとく」

「そうか、だがその話はあとだ! 見えてきたぞ、屋上に――ッ! また仮面の男たちか!?」

 

 空中にバインドでヴィータとシグナムが捕らえられているが気を失っているようだ……

 と、ふたりの姿がなのはとフェイトに代わる。変身魔法を使ったようだけど何でだ? 意図が読めな――屋上にさらに新しい魔法陣が描かれ、八神が転送されてきた。

 ベリーベリーヤバい。頭の警鐘がコイツァ激ヤバだと、ガンガン鳴り響き伝えてくる。

 

「クロノ! 急いでくれ!」

「わかっている! あのままじゃ不味いぞ……! 間に合いそうにない……!」

 

 えぇい! しゃーない! 四次元空間のゲートを頭上に開き、とにかく手持ちのなかで一番デカく頑丈なものを思い浮かべ――なのは(たぶん偽)にぶっぱなした。本物だったらマジごっめーん。

 ──射出したものはカートリッジ。

 しかして、ただのカートリッジではない。アリシアと俺がはじめて徹夜した夜に作った負の遺産である、ただデカいだけのカートリッジだ。ただし、そのぶん威力(物理)はお墨付き。

 予想外の奇襲であったのか、偽なのははギリギリで反応しガードしたものの軽々と弾き飛ばされた。

 

「俺離していいからクロノGO! 俺戦えないし後はよろしく!」

「ああ!」

 

 そしてクロノは仮面の男たちと戦いながらも、病院から引き離してくれた。

 俺も飛行魔法とはいえない浮遊魔法で病院に向かう。八神は歩けんし、あそこに放置するわけにもいかんだろ。

 が、八神の上で浮いている本から不気味な声が風に乗って聞こえた。そして、悲壮な八神の悲鳴が

《Sammlung.》

「あ、や、やめ」

《Sammlung.》

「や、ああぁぁ……やあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ――ヴィータ、シグナムが蒐集され姿を消したことで響き渡った。

 

《Guten Morgen, Meister.》

 

 なんでだよ、バッドエンドまっしぐらフラグっぽい仮面の男回避したじゃねぇか!

 八神まで蒐集されるのではないか。そう思った俺は出せる限界の速度で屋上へ行き、目と鼻の先まで到達した。

 次の瞬間、とんでもない魔力が病院屋上から吹き荒れた。プレシアを彷彿とさせる――否、それを超えるであろう強烈な魔力が叩きつけられ意識を持っていかれそうになるが堪える。おい止めろよ、こっちはミソッカス魔力なんだぞ!

 

 そして、吹き荒れる魔力の中から現れたのは銀髪の女。漆黒の翼を3対生やし顔にも、赤いラインが左右対称に2本入っている。そして胸部には2対のメロン、うんデリシャス。

 これは……!

 

「また、全てが終わってしまった」

「これは……中二病!」

「どういう意味かは知らないが……不愉快なことはわかる」

 

 あ、よく見たら泣いてる。ごめんって、そんな繊細だとは思わなかったんだって。

 

「我は魔導書、我の力の全てが」

《Diabolic emission.》

 

 どうやら、相当怒り心頭らしく掲げた手に俺にとっては笑えないレベルの魔力が集束し、再び広がってくる。

 これは、死んだかと思ったそのとき。後ろから猛スピードで引っ張られ、みるみる銀髪との距離が離れた。

 状況把握ができないまま、成すがままにされる。

 そこで銀髪の広域範囲魔法が放たれ、あわや攻撃範囲内にまだいる俺は巻き込まれそうになったが、なのはが割り込んできた。

 

《Excelion Shield》

 

 襲いかかってくる広域範囲魔法をなのはが防壁で防ぐ。後ろを見ればフェイトが居り、どうやらふたりに助けてもらってらしい。

 攻撃が終わると再び引っ張られ……ぐぇ喉絞まった、建物の物陰へと移動することとなった。

 

「どうしてナナシくんがここにいるの!?」

「八神が闇の書、もとい夜天の書の主ってことがついさっきわかったから伝えに来た……んだけど、遅かった」

「そうなんだ、ありがとうねナナシ」

「いや、結局なんにも出来なかったわ」

 

 冗談抜きでここからも何にも出来ない。漫画のヒーローならこんなミソッカスでも残って戦うんだろうけど、俺は素直に撤退を選びます。ホンットに流れ弾で落ちかねんからな! 命が!

 

 あれは闇の書の防衛プログラム“ナハト”のせいで、夜天の書がいわゆる融合事故のようなものを起こしている。

 それで、当然ながらかなり強い。悲しいかな、俺がいると足手まといにしかならんのです。ヒロインだったら後ろで声援送ってもいいんだけど、どう考えてもヒドインにしかなれそうにないのでやめとく。

 

「俺はもうリタイアなんだけど……八神のこと頼む。数回しか会ったことないんだが、家族思いのいい奴だったんだ」

 

 きっと、世界の終わりなんて中二臭いこと考えるやつじゃない。何の変哲もない、一家団欒の日々が本当に楽しいといった風なやつだ。ただの数度会って、話しただけでそう感じた。

 

「うん! 任せて!」

「泣いてるあの子も見捨てたりなんて出来ないよ」

「助かる、あと今まで蒐集されたときに覚えていた魔法はアイツも使えるから気をつけてくれ……スターライトブレイカーとか」

「あ、うん……」

「あれ、なんでナナシくんやフェイトちゃんは泣きそうな顔してるの!?」

 

 知らぬは本人だけか……あれの威力はプレシアさんも認めるほどよ?

 なんてことは置いておこう。たった今、リンディさんから念話で、アースラへ転送すると伝えられたのでそろそろ転送が始まるだろう。

 

「ふたりとも、ありがとう。あとはよろしくお願いします」

「なんか、ナナシくんに改まって言われると違和感が……」

「うん、任せてナナシ」

 

 おかしいな、なのはには既に真面目じゃないキャラと認識されてるようだ。一応、本気で心配していると言うのに失礼なやつだ。

 

 っと! 転送が始まったが渡し忘れていたものがあった。

 フェイトたちがいつか無茶をすることを見越して、取り寄せておいたバルディッシュたちの予備パーツ。その際、一緒にカートリッジも用意しており、現在それらは全て四次元空間に入れているのだ。

 レイジングハートとバルディッシュのカートリッジが各一マガジンずつだけだが。まぁ、でも無いよりマシだろうと転送が終わる直前にふたりへと放っておいた。

 

「わっ、カートリッジ」

「ありがとう、頑張るよ!」

「こんなこと言ってられんかもしれんが、ほどほどにな」

 

 その言葉を最後に俺はアースラへと戻ったのであった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 アースラへ戻った俺は特に出来ることもなく、メインフロアの端の方でアリシアと通信で映るなのはたちの戦いを見ていた。

 

「ああー……やっぱり、エクセリオンモードもザンバーフォームも使っちゃった」

「若干だがレイジングハートの方が負担が大きそうだな。負荷軽減の装置もそろそろ潰れそうだ」

「それに関しては気休めだしね、これが終わったらゆっくり休んでもらわないと」

 

 そういや、クロノは無事仮面の男を捕らえたようである。何故か詳細は教えてもらえなかったのだが、取り敢えず捕らえたと。

 あと、プレシアには黙っといてくれとも言われた。ナンデカナー?

 

 そして夜天の書に憑いているとも言える“ナハト”は、徐々にではあるが確実に暴走を始めていた。

 そんななか、ひとつ奇跡が起きた。夜天の書の主である八神の意識が戻ったのだ。

 そこからは早かった。現場に向かっているユーノからの指示で超強い純粋魔力を当てれば、闇の書の防衛プログラムを八神から引き剥がせるかもしれないと聞いたフェイトたち。

 そして放たれた二人のコンビ技。

 

 ()()()()()()()()()。そんな名前のフェイト&なのはの中距離殲滅コンビネーション魔法である。

 

 作り方は簡単。

 まず、なのはのレイジングハート・エクセリオンのバレルフィールド展開。

 続いて、なのはの魔力をフェイトのバルディッシュ・ザンバーの刀身に集中させ、フェイトが自らの魔力を加えた斬撃による威力放射。

 最後には、なのはのバスター、フェイトのスマッシャーでフィールド内を満たすことで完成する空間攻撃。

 

 そして出来上がったものが、画面に映ってるものとなります。

 

「うわぁ……」

「うわぁ……」

 

 声も出ないわ。無事、防衛プログラムは分離させることができた。もちろん、それでよかったのだ。

 けど、余りにも圧倒的な光景過ぎて口から漏れる音が声として機能しなかった。銀髪の女性もはやても、ナハトもろとも吹き飛んでしまうんじゃないかと思った。

 

「俺たちはあのコンビと模擬戦しようと言われてたのか?」

「防衛プログラムと分離じゃなくて、私たちの魂と身体が分離しそうだよ」

 

 ガタガタと震える俺たちの後ろで動く影が……プレシアである。

 画面ではちょうど守護騎士の皆――八神の家族が戻ってきていた。よかった、本当によかったと思う。

 

 で、プレシアさんや。

 

「どこにいくの?」

「現場よ。防衛プログラムの駆除を手伝ってくるわ、少しでも人手があった方がいいでしょ」

 

 クロノたちも話しているが、初期状態の防衛プログラムには複合四層式バリアといわれるものが張られており半端な攻撃は通らない。

 そして、被害なく終わらせるためには核となる部分以外を吹き飛ばしてアースラの位置する宇宙空間へと、核を転送しないといけない。

 転送ポッドへ乗り込んだプレシアは、海鳴へと跳んでいった。

 

「私にはわかる、母さんは八つ当たり半分で行ったことが」

「プレシアさんは、仮面の男の正体が結局わからずじまいだからなぁ」

 

 画面では複数の色のバインドが、防衛プログラムの触手を捕らえ――紫電が全てを凪ぎ払う光景がしかと写っている。

 

「見ろ、圧倒的ではないか」

「そして、皆の攻撃が複合四層式バリアを貫いた今追加攻撃!」

「なのは、フェイト。そしてどうやら魔法少女になったらしい八神からのこれまた、いかにも魔法少女らしくないトリプル砲撃だぁぁぁ!」

 

 そして、トドメの死体蹴りのお時間。ユーノ、アルフ、シャマルさんの3人による転送で、宇宙空間へ跳ばされる防衛プログラムの核。

 その間にも再生をし始めているらしいが、そんなこと関係ねぇ。

 アースラに搭載されている“アルカンシェル”をリンディさんがぶっぱなす。それは着弾したあとに発生する、空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する。その被害範囲は発動地点を中心に百数十kmに及び、要するに防衛プログラムが出てきてた海で撃ったら、海鳴市から円形に削がれてた。

 

 そして、そのアルカンシェルは放たれ――防衛プログラムの核は完全に消滅した。

 事件解決である。

 

「さて、ナナシ。ここからが私たちの仕事だよ」

「ういうい、やってやろうじゃないか」

 

 ボロボロになった、なのはとフェイトのデバイスも見なきゃならんし。

 ――今までなにも出来なくって、何気に悔しかった俺たちのお仕事はここから始まるよっと。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
盛大なサブタイによるネタバラシ。
そして、事件の大詰めが無印に続いて割りと早めのテンポ、ネタが少ない状態で終わってしまいすみません。
残り一話ほどでA`s編の本編は終わりとなりそうです。

そして、デイブレイカー出番なし。いつか日の目を見ると信じて。

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