闇の書事件の顛末はともかく結末を話そう――夜天の書は消滅した……いや顛末も必要かな。
闇の書事件の詳細も聞き流して、結末だけ聞こうとしたら皆に怒られたしなぁ。
事件の始まりは、八神の足の病気が悪化したことであった。いや、正しくは病による身体麻痺の悪化ではなく、闇の書によるリンカーコアの侵食汚染によるものだった。
それを期に、守護騎士たちが動き始めた。蒐集により闇の書の貢をすべて埋めることで、はやてのリンカーコアの侵食を止め治そうとしたのだ。
始めは辺境世界のリンカーコアを保有する生物から。しかし、どうやっても生物のものでは間に合わない。大して闇の書の貢を埋めれない生物では、八神のリンカーコアの侵食のペースの方が早いのだ。
貢を埋めれる生物も探し蒐集したが、そのぶん強さも格段と上がり時間だってかかる。
そして、ついに人からの蒐集をしてしまった。故意に狙ったわけではなく、たまたま視察に来ていた局員により管理外世界での蒐集を見つかってしまったことが原因であった。
そこからは俺たちが知っている通りだ。ヴィータになのはが襲われ、フェイトも襲われ、仮面の男がプレシアに襲われる――とそんな感じで事は進んでいった。
最終的には、闇の書の暴走した防衛プログラムと分離した八神と、夜天の書の管制人格あらためリインフォース。
八神は初戦にも関わらず、防衛プログラム戦でハッスルしすぎで眠っているなかリインフォースから守護騎士たちに伝えられた事実。
リインフォースの内部、つまりは夜天の書の内部には無限再生機能が残っており、いずれ再び狂った防衛プログラムを自ら作り出してしまうという。
それに、もう既に本来の夜天の魔導書としての姿はないため、再構成すら出来ない。
その事実はなのはやフェイトにも伝えられた。そして、ふたりに空へと還してもらう手伝いを頼んだ。
――実行日は事件解決の翌日12月25日早朝、クリスマスだ。
▽▽▽▽
雪が降り、積もり始めた公園の丘でリインフォースを空へと還す儀式が始まろうとしていた。
「リインフォースさん……」
「その名前で私を呼んでくれるのだな」
なのはが悲しみや、どうしようもない悔しさを含めた声で夜天の書の名を呼ぶ。それに対し、リインフォースは、愛する主から貰い受けた名で呼ばれたことを喜び、そして優しい小さな子供たちにこんなことを頼む申し訳なさを感じさせる笑みを浮かべる。
「本当に私たちでいいんですか? リインフォースさんを……空に還す役目を」
「ああ、お前たちだから任せたいのだ。私の方こそすまないな、こんな役目を頼んでしまって」
「……はやてちゃんには伝えなくていいの?」
「主は悲しまれるだろうからな……このままでいいんだ」
自分のいないうちにいなくなった方が、悲しみ後悔するかもしれないだろ。そして、八神がここに来ないわけながない。そぉら、車椅子の車輪を必死に回してやって来た。
「リインフォース! リインフォース!」
「主……!」
雪に車輪を取られ八神が転ける、それを手助けしようと動こうとするなのはたちを、リインフォースが止める。儀式が中断しないようにと、本当は自分が真っ先に駆け寄りたいだろうに。
「……はやてちゃん」
「なんで、なんでやの! ようやく……やっと自由になれたのに! これからやのに!」
「これでいいのです、このまま私が居続ければ再び防衛プログラムは復活し暴走してしまいます」
「よくない! いいことなんて何もあらへん!」
そうだ、いいことなんて何もない! ハッピーエンド上等! 悲しいビターなエンドなんてハッピーエンドで殴り倒せ!
ならば、いざ動こう! いい加減寒い! 防寒対策のための魔力なんてとっくに零なのよ!
「防衛プログラムなら私がなんとか――」
「私が! 私たち、アリシア・テスタロッサと!」
「俺! ナナシが!」
「何とかして見せよう!」
「こんな結末、サンタクロースが認めようとも!」
「私たちが認めない!」
「こんな結末をひっくり返す!」
「「メリークリスマス! へっくち!」」
そういって感動のお別れシーンに乱入した俺とアリシア。色々台無しにしたったー、へっへっへー視線が痛いけど気にしない。
ええ、途中から入っていくタイミング測ってましたとも。
ホントは始めから居たかったんだけど、色々最後の調整とかしてたら間に合わなかったのだ。そして、調整も終わりきってないけど、諦めて来ました! グダグダだぜ。
「え、ナナシに姉さん……?」
「ナナシくんと……誰やの?」
「どうも通りすがりの魔法使いアリシアだよー、これでもフェイトのお姉さん!」
無い胸をえっへん、と張るアリシアに目を白黒させるはやて……いや、皆そんな感じだな。
ま、気にしない気にしない。四次元空間から今もっとも必要なものを、雪の上にボトリと落とし出す。
「え、ナナシくん
「ついカッとなって……なのは、埋めるの手伝ってくれないか?」
「は、犯罪なのぉぉぉ!? お巡りさーん!」
「嘘だって、ユニゾンデバイス擬きだよ」
なのはったら元気いいね。死体ならこんなとこ持ってこないってのにー。
なのはは、そういう問題じゃないよ! とプンプン怒ってる。怒りながらレイジングハートをブンブン振り回さないで、超怖い。
ちなみに擬きな理由は中身に無い部分があるから。
「さて、儀式は中止……するかは置いといて新たな選択肢をプレゼント! アリシア説明よろしく!」
「はいはーい、じゃあよーく聞いといてね」
アリシアが語った内容はこうだ。夜天の書が元の形を覚えてないなら、新しいユニゾンデバイスに移ればいいじゃない。
まぁ、聞けば簡単そうだけどデメリットは山ほどある。もちろん、夜天の書としての機能は一切合切綺麗サッパリ無くなるし、今まで蒐集した魔法だって殆どが使えなくなるだろう。
それに移すのはリインフォースの人格のみであり、八神のユニゾンデバイスとしてはもういられない。
「というか、移せるデバイスが俺たちのつくったものしかないわけで……」
「このユニゾンデバイスって完全に私たちに合うように作っちゃったわけで……」
勢いよく出たはずの俺たちは気まずくなって目を逸らす。
そんなつもりはないのだが、俺たちのユニゾンデバイスを作り上げるのに、残り足りないとこを夜天の書から猫ババする感じがして大変気まずいのだ。
「要するに、そのー……私たち以外とのユニゾン適性がガクンと落ちると言いますか……」
「むしろ、俺たち以外とユニゾン出来ない可能性がエクストリーム上昇しますと言うべきか……」
あれ、おかしいな? カッコつけて登場したはずなのに、俺たちつらつらと言い訳じみた、よくわからない説明しかしてないぞ。八神や守護騎士たちの顔を真っ直ぐ見れない、泳ぐ視線は降ってくる雪を追いかけあちらこちらへ……うっわー、カッコわりー!
「つまり、リインフォースという精神、魂以外無くなると考えて」
「それで八神とリインフォースが納得できるなら、アリシアと俺は全力で手助けします」
目を逸らしながら決め台詞を言う。と、手を掴まれた。俺とアリシアが差しのべた手を掴んだのは八神。
その瞳には確固たる決意が見える……まぁ、予想してたけどさ。
「お願いや、魔法も適性も何もいらん。リインが、リインフォースがおってくれるならそれだけで十分や」
「主……」
「リインフォースはどう?」
「…………わかった、よろしく頼む」
「りょーかい! 承ったよ!」
よーし、エクストリーム頑張っちゃうぞー。
▽▽▽▽
リインフォース曰く、防衛プログラムが暴走するまで短くて3日、長くても1週間ほどしかないらしくクリスマスの早朝からすぐに作業を始めた。生き返りを果たした俺とアリシアが生き写させるために頑張るとはなんか笑え、いやいや笑ってる暇ないんだけど。
しかし、肝心のリインフォースの精神を移すための、感情プログラムの基礎部分が出来上がっておらず、移る本人に助言を貰いつつ組み上げることとなった。
「リインフォース、これでどう?」
「……そう、それでいい」
「こっちはどう? 個人的にはここのプログラムがそのうちバグりそう」
「わかっているなら直さないか……?」
「すみません、直し方がわからないので教えてください」
何となく駄目なとこはわかるんだが、こんなごちゃごちゃしたの直せないって。取り返しのつかないことになりそうだし。
「すまない……関係のない、お前たちにこんな苦労を掛けてしまって」
「関係なくなんてないよ、妹の友達のお願いだし。何より私も楽しいし! あと私はアリシアね!」
「俺はナナシね、名無しじゃないよ」
「ああ……ありがとう」
微笑みながら、お礼をいってくるリインフォース。お礼言われることでもないのだ。いや、ホント、フェイトの友達のお願いとか関係なく。
正直、俺とアリシアにも思いとか抜いて下心はあったりするのですよ、ええ。
「無事にユニゾンデバイスに移れたら、私たちとユニゾンしてもらえたりしないかなー……と思ってたり」
「先生……強くなりたいです」
おもに模擬戦で生き残るため。なのはにダンクシュートもとい零距離砲撃食らったりした日には、星になる暇もなくサヨナラしてしまう。
「それくらいでよければいつでも言ってくれ」
「ホント!?」
「あぁ、そのデバイスだって元々お前たちのものなのだからな」
「やったー! むふふー、ナナシ! 120%ガンバるよ!」
「アッハッハ! バッチ来い! フルスロットルだ!」
100%が元から頑張ってる分で、残り20%は
その日は、1日中整備室から不気味な笑い声が聞こえてたそうな……
翌日の昼下がり、完成した。ついでにユニゾンデバイスの外郭もリインフォースに合わせる余裕まであった。
アリシアが測ったんだけど、スタイルはランクSSでした。作り直してる際にそのボリュームに圧倒された俺と、打ちひしがれていたアリシアなんていなかった。
「私も将来は……! あそこまでいかなくても……! ナイスメロン、やわっこかったよ!」
「後半本心漏れてんぞ、畜生羨ましい」
「ナナシも漏れてるから」
「ふたりして恨めしそうに胸を見ないでくれるか……」
そう言って、胸元を押さえる姿はとてもそそるものがあった。
アリシア
けど、胸を仰視もとい凝視するのも失礼なんでそろそろ止めておく。けど、男の子だから仕方ないね、おっぱいは見てて飽きないから!
「ただしお子様は対象外と」
「対象外じゃないと不味いだろ」
「同い年なうちは問題ないのにね」
「……たまにそのこと忘れるわ」
「私もだよ」
リインフォースが、会話を理解できず首をかしげているが仕方ないね。
「ま、そろそろ始めますかー」
「はやてを呼んだ方がいいのかもしれないけど、私はサプライズにしたいので終わってから呼ぼう」
「それじゃ、最終確認。超弱くなります、オーケー?」
「オーケーだよ」
俺の雑すぎる確認に苦笑いをしながらも、了承してくれたリインフォース。
アリシアと目を合わせ頷き合う。リインフォースに生体ポッドと形の似通ったものの中へ入ってもらいレッツスタート。軽く言ってるけど、俺たちの額にはびっしり汗が浮かんでる。
何事にも100%なんてないわけで、八神には伝えてなかったけど失敗する可能性だってなくは無かったわけよね。
「ま、フェイトのお姉ちゃんって名乗ってカッコつけたからには失敗することなんてないんだけどね!」
「何だかんだでアリシアもシスコンだな」
「フェイトは我が家の愛され系マスコットォォ! っとぉぉぉ!? そっちの回線nD01切って!」
「あいよ、っと!」
一瞬ピンチった気もするけど気のせいじゃねーかな。何か防衛プログラムとも、リインフォースとも取れないナニカがあったように見えた。きっと、すぐ消えたし問題ないだろう。
「そういや、アリシア」
「ん、なに?」
「リインフォースが無事移ってから八神を呼ぶんじゃなくて、晩御飯のときに何気なく行かない? え、終わったけどどうしたの? って感じで」
「うわぁ、ナナシの性格が滲み出てる……けど乗ったァ!」
親指を突き立ててイイネ! してくるアリシア。
ここのふたりは皆のビックリする顔とか大好物です。後々怒られることを忘れるのが、たまに傷。
そのまま、駄弁りながら作業をすること半刻ほど。
「…………よし、完了」
「じゃ、ご開帳ー」
ポッドの開くボタンをぞんざいに叩くと、リインフォースが倒れて出てきた。ビシャリ! と抵抗なくまっすぐ倒れて出てきた……あれ? 動かない……?
「ちょ、リインフォース! 起きて!」
「……うぅ、痛い」
焦ったアリシアと俺が駆け寄ろうとしたところで、ようやく動き始めた。痛打したらしい鼻を涙目で押さえている。
「開けるなら一言、言ってほしかった……」
「いや、ごめんごめん。あんな綺麗に倒れるとは思わんかった」
「でも、成功したみたいだね。よかったよ」
「そうだな……たしかに夜天の書としての機能もあの多大な魔力も、もう無くなってしまったみたいだが……この身体も悪くないよ。ありがとう、アリシア、ナナシ」
「いえいえ」
「あ、そうだ。ミソッカス魔力同盟へようこそ」
「……?」
不思議そうな顔をするリインフォース。
いや、たぶん俺たちよりは魔力はまだまだ高いんだろう。しかし、夜天の書のときに比べりゃミソッカス。ならば、この残念な魔力コンビに仲間入りだ。
「ミソッカス魔力トリオいぇーい!」
「いぇーい!」
「い、いぇーい……?」
拳を突き上げ、なにも誇れない宣言を高らかにするアリシアにノリノリで俺も続き、リインフォースも戸惑いながらも拳をあげてくれた。
「さーて、時間もちょうどいいし晩御飯にいこうか」
「ぐふふ、驚いた顔が楽しみじゃ」
「ナナシ悪い顔してるねー、ぐふふー」
「お前たちはいつもこんな感じなのか?」
「基本的にごめんなさい、こんな感じだよ」
「これが平常運転すいません」
「いや、謝らなくていい……ただ、お前たちはいつでも楽しそうだな、と思ってな」
その言葉に目を丸くして顔を合わせるアリシアと俺。
俺たちが楽しそうだなんて何を言ってるんだろうか? 楽しそうじゃなくて楽しいし、リインフォースだって他人事じゃないぞ。
「……どういうことだ?」
「いやー、はやてたちと一家団欒してもらうのも全然いいんだけど!」
「たまには俺たちにも付き合ってもらうよ! ってことでして。つまるところ」
「リインフォースもこれからは楽しんでもらうよ?」
その言葉を受けて今度はリインフォースが目を見開く。俺たちを交互に見てくるので、ヘラヘラして頷く。
「そうか……そうか、私もこれから楽しめるんだな……楽しんでいいんだな」
「もっちろん!」
「ま、たまに怒られることもするけど、そのときはごめんなさい、で許してもらおう!」
「さー、まずは晩御飯でサプライズだよ!」
アリシアに手を引かれ、躓きそうになりながらもついていくリインフォースの横顔は――満面の笑みだった。
――その日の夕飯時の食堂は、サプライズしたバカふたりのせいで阿鼻叫喚となった。いや、いい意味でなんだけど、重要なことはしっかり伝えろとやっぱり怒られもしたのだった。
ま、涙を流しながら抱きしめあってる八神家を見ると、サプライズした甲斐があったなと……正座し、説教受けながらそう思い、顔を合わせ笑い合う俺たちなのであった。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
またサブタイで熱いネタバラシ。タイトル詐欺じゃないです。リインフォースは助かる形にしましたが、夜天の書自体はサヨナラバイバイとなってしまいました。
アリシアが主体(主役)になって、リインフォースが残ることができる形に出来て満足です。ナナシ? おまけです。