ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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空白期
20.ジャスト1分や


 クリスマスの翌日、リインフォースの脱け殻である夜天の書が空へと還された。

 なのはとフェイト――そして、八神の手によって。

 夜天の書は祝福の風リインフォースと自身の欠片を遺し、数々の災厄を巻き起こした闇の書は消え去った。

 その場にいた者たちは目に涙を浮かべていたそうな。なのはもフェイトも、目の端に涙がチラリと見えていたらしい。

 うん、『そうだ』『らしい』である。

 アリシアと俺は、海鳴市のテスタロッサ家の炬燵でぬくぬくしてて、その場には居合わせませんでした。リインフォース……長いからリインって呼ぶことにしたんだけど、リインを新ユニゾンデバイスに移した時点で俺たちの役目終わってたし。

 そもそも事件に深く関わってないせいで、その場に居合わせてもなぁ。周りが感動の雰囲気漂わせる最中に、俺たちはボケーとしてるだけという浮き具合を発揮してたと思う。

 

 リインが、

「これで……これでようやく主も守護騎士たちも、闇の書の呪いから解放された。本当に感謝する」

 って、安堵の表情を浮かべなのはたちに礼を言ってるときに俺たちは、

「ナナシー、ミカン取ってきてー」

「炬燵から出たくねぇ……俺、炬燵と結婚するわ」

「バッカ、炬燵は既に私の嫁だよ……」

 

 とか言ってた。

 八神が夜天の書が遺した、小さな十字架を胸に抱いて、

「夜天の書が遺してくれたこの子からリインの妹、ツヴァイをつくろうか」

 と、決心してるときには俺たちは

「これは炬燵を嫁に重婚だ」

「よし、認めてあげるからミカン取ってきて」

「じゃんけんしようぜ? じゃんけん」

「ポンっ! 言い出しっぺのナナシの勝ち……!?」

「俺のグーは法則すら覆す……! 茶もよろしくー」

 

 とかやってた。ほら、俺たち居合わせなくてよかっただろ?

 てか、俺たちはこの頃ずっとこんな感じである。デバイス関係もゆったりしており、1日の半分は炬燵と過ごしている。そろそろ年末なのに、なにやってんだろ。

 

 それで闇の書事件の後の話。なのはやフェイトは嘱託魔導師として、管理局で働き始めた。もちろん小学校と平行してである。フェイトは執務官を目指し、そちらの勉強も始めている。

 あ、プレシアは現在研究所で再び働き始めてる。ただし、一番頂点にたってである。前回の事故――アリシアを一度失って気づいたと言っていた。

 無能な上の人間は全て蹴落とし私が頂点に成ればいい、ってさ。とてもイキイキした顔をしてました。

 八神たちは、色々面倒な過去の事件についてや、偉いさんたちの話し合いを経て管理局で働くことで収まったようだ。本人たちも嫌がってなかったし、いいんでないかな?

 

 そして、俺たち。俺とアリシアは夢の第一歩を踏み出した。

 カートリッジシステムのミッド式への応用方法で、一稼ぎしたんだよ。うはははは、ボロ儲けだった。

 

「特許取れたしねー……もう働かなくていい気がする。はい、お茶」

「サンクス、まぁ、でもそんな都合よくはいかんだろうな。八神も特別捜査官を目指すって言ってたしな、俺たちも職を探さにゃならんかもしれん……」

「あれ働こうとしてないの私たちだけ?」

「ああ……妹も働いてんだぜ?」

「なんてこった……!」

 

 周りがやり始めて、ようやく焦り始める駄目人間がここにいた。俺たちだった。

 ちょっと真剣に資格や職に関する雑誌を読み漁る。

 嘱託魔導師? 武装局員? ハハッ、死ぬわ。

 

「ただいま……あら、何してるのかしら?」

「母さん、おかえりー」

「お疲れさまプレシアさん、職を探してます」

「あら? 出ていくのね、荷物はあっちよ」

「圧倒的急展開……!」

 

 開けられたふすまの向こうには、段ボールまで置いてある。あれだろ、引っ越したときの整理がまだ出来てないだけだろ?

 

「そうね、そして整理してないのはナナシあなたよね」

「つまり、あれは俺の荷物……!」

 

 完全な自爆である。い、忙しかったし、闇の書事件とか炬燵といちゃついたりとか布団とランデブーしたり……へへっ、やっべ完全にダメ人間だこれ。

 

「ナナシ! こっちの段ボールも中身を確認するといいよ!」

「ん? それ、さっきまでなかったよな?」

 

 まぁ、気にするほどのことでもなかろう、言われた通りに段ボールを開けるとフェイトが入ってた。ちょこん、といった感じで入ってたんだ。

 

「……」

 

 閉じた。

 

「お前、執務官試験の勉強してる妹に何してるの?」

「タイミングよく、フェイトがちょうど息抜きに来たから。つい、ね?」

「ついじゃないから、ったく」

 

 とか言いつつ、俺もその段ボールを押してプレシアの前まで移動させる。

「え、あれっ? 動いてる!?」

 なんて中から聞こえたりする気がしないでもないけど、恨むなら姉を恨むがよい。

 

「プレシアさん、お届けもの」

「遅いわ、速達便で届けなさい」

 

 無茶言うな、ヒト一人って案外重いんだぞ。フェイト軽そうだけど、それでも段ボールに入ってるのを押すとなると摩擦面積がだな……っと悪かったからバルディッシュしまってくれフェイト。

 フェイト軽いから、うっわー羽毛かと思ったわー。

 

「もう……女の子に重いなんて言ったら駄目だよ?」

「女の子にかぎって重いんじゃなくて、人体の重量を入れた段ボールを押したとき……いや、フェイトは軽かったよ? もう、ここは月じゃないかってくらい。なんなら片手で持ち上げてみせよう!」

「よくもまぁ、つらつら出てくるものね」

「プレシアさんほどじゃない」

「そして見事に地雷を踏み抜いてくるわね」

 

 頬を引っ張られる、痛い。

 でも事実ですやん、アリシアの蘇生について裁判員というかわかる人がほぼ居ないような、専門用語乱舞で混乱させてアリシアは死んでなかったことを証明してたじゃん。そのあとに混乱して心に隙の空いてる皆に、お涙ちょうだいストーリー話してたじゃん。

 クロノを適当な話で足止めしてた俺とは格が違う、さすがプレシア汚ない。

 

「それで結局どうして職を探してたのかしら?」

「周りが働き始めて」

「焦るこの気持ちプライスレス」

「あれ、ふたりともカートリッジシステムでお金は入ったんじゃなかった?」

 

 そうなんだけど定職に就かないとっていう思いがだな。正直アリシアだけなら発明で生きてけそうだけど、俺はそこまで卓越した技術はないからね。

 

「ふへへ、それほどでもあるかな」

「そうね。ナナシは時たま予想外に役立つときがあることは認めるけど、それじゃ生活していけないわ」

「だろ?」

 

 というか、珍しく普通に誉められた気がする。明日は槍でも降るんじゃねぇの?

 口には出さないけど、槍の前に雷(not比喩)が落ちてきそうだし。槍より怖い。

 

「ナナシってしっかり考えてるんだね……」

「立派な目標もって執務官目指してるフェイトほどじゃない」

「そうね、生活するため最低限働こうとしてる人間とは比べるまでもなく、フェイトは立派よ」

 

 ヒュー! これこれぇ!

 初めはこんな感じでプレシアと会話してるとオタオタわたわたしてたフェイトも、これもひとつのコミュニケーションとわかってきたのか苦笑いするだけとなった。

 そんな傍らで再び雑誌を見始めていたアリシアがふと声をあげる。

 

「あ、私これが合ってる」

「ん……デバイスマイスター?」

「そう、それそれ。デバイス弄りが好きだし才能もあるし? いずれフリーでやれるとベストかな」

「自分の才能をハッキリ認めるあたり、プレシアさんの娘だわ」

「ふっふー、ナナシもこれどう? 戦闘なしの今ある技術をそのまま転用できる感じだけど」

 

 そう言われ目を通すが、内容が難しくて脳から何か出てきそうだ。脳汁ダパー!

 うーん、これはデバイスとかに対して()()に強い人間向きだな。熟練者(マイスター)だから当たり前なんだけど。残念ながら無理だ。

 

「能力的には俺は精々こっちだろ、デバイスマイスター補佐」

「えー、ナナシも頑張ればいけそうなんだけどなぁ」

「どんくらい?」

「禿げて血尿出るくらい」

「死ねと?」

 

 そこで我慢の限界がきたのか吹き出して笑ってるあたり、本気ではなかったようだ。

 しかし、なんとなく腹立たしかったのでアリシアの頬を両側に引っ張る。引っ張り返される。お互いよく伸びる伸びる、モチモチー。

 

「ふぁひひひひ」

「ふぉふふふふ」

 

 お互いに変な顔なので笑うが、また笑い声が珍妙な感じになってて余計に笑う。それが珍妙な以下ループ。

 笑いすぎで疲れたところで、手を離す。あー、頬がヒリヒリする。

 

「そういえば、姉さんたち明日は予定あるかな?」

「特になかったかな」

「じゃあ、ちょっと私となのはに付き合ってもらっていい?」

「いいけど買い物か? 俺いても仕方ない気するんだが……」

「ううん。その、前に言ってた

 

 

――模擬戦をしたいなぁって」余命宣告残り1日だそうです。救急車? 馬鹿野郎、葬儀屋を呼べい!

 

 ――ゴプッ。アリシアと俺は無言で口の端から吐血した。

 り、リリ……

 

 

▽▽▽▽

 

 

「リイィィィィィン!」

「ヘルゥゥゥゥプ!」

 

 5分後、八神家に強襲を仕掛ける奴らがいた。やっぱり俺たちである。

 無言の吐血のあと、チラチラこっちを見て返事を待つフェイトに嫌だ(No)と言えるはずもない。例え自らの寿命を縮める(首を絞める)行為でも断れなかった。

 結果、延命したいのでリインにヘルプを求めに来た。葬儀屋に世話になるにはまだ若すぎるのだ。

 

「なんや、慌ただし……あ、おふたりさんいらっしゃい。そない慌ててどうしたん?」

「八神ぃ助けてくれ……死にたく、死にたくねぇ……!」

「私たちは……ッ! 生き残るんだ……ッ!」

「あかん、凄い真剣なんはわかるんやけど理由が案外しょうもない気がしてならんのはなんでやろ?」

 

 俺たちなせいだと思う。いや、至って真剣なんだけどな。精神的にも死なないためにここに来たわけだし。

 取り敢えず、家にあがらさせてもらいお茶を飲み落ち着く。

 

「出来ればこうやって老後も過ごしたかったね……」

「縁側でゆっくりとなぁ」

「なに余命宣告されたみたいになっとるんよ」

 

 かくかくしかじかウマウマと八神に説明をすると、八神家の面々が御愁傷様と言わんばかりの表情になる。

 ヴィータとリインが俺たちの肩に手を置いてきた。

 

「死ぬなよ」

「……あれはかなり痛かった」

「あぁ、ヴィータはタカマチと戦っていたからな」

「リインフォースはふたりにブラストカラミティ撃たれてましたよね……」

「シャマルも受けてみるといい……魔力ダメージでナハトと共に消し飛ぶかと思った」

「嫌ですよぅ!?」

 

 ヴィータも負けず劣らずに暗い顔をしてる。いや、確か直撃はもらってなかったって聞いたけどなんで?

 

「あいつ会うたんびに砲撃の威力が増してんだよ……」

「おいやめろよ、言っていい冗談と言わない方が幸せな事実があるんだよ……!」

 

 八神家が重苦しい空気に包まれる。

 少し間を置いて、リインとユニゾンしてみようという話になった。大変申し訳ないんだが、やはり八神はユニゾン出来なくなっていたそうだ。

 改めてその事については頭を下げておく、八神は笑って許してくれてるけどケジメケジメ。絶対に必要な訳じゃないけど、円滑な人間関係を崩さないためには必要なもの……いやー、こんなこと考えるあたりゲスい感じに汚れてる。

 

 さて、気を取り直して初ユニゾンといこうか。

 

「アリシアからどうぞ、立役者だからな」

「おっ、なら遠慮なくいくよ! これでやっぱりユニゾン出来なかったなんてオチなら、今夜は枕に局所的に雨が降るよ! ユニゾンイン!」

 

 また、変なフラグ建てやがって……と思ったがおっ建てたフラグも何のその。アリシアは見事にバッキボッキへし折ってユニゾンを成功させた。

 目は翡翠色となり、金髪は色が薄くなっている。

 

「成功した……成功したよナナシ! いぇーい!」

「いぇーい!」

 

 気持ち的に久しぶりのハイタッチ。リインは自分のなかにいる感覚らしい。

 魔力も上がっているのがわかる、ミソッカスから一般程度になっている。

 

「けど、無理矢理適性を合わせたからかなぁ? 結構疲れるよ」

「ま、ユニゾンしなきゃ疲れるひまなく落ちるしそれくらい目を逸らそう」

「んー、そうだね。これは簡単に弄れるものじゃないし今は目を逸らしとこう」

 

 フワッ、と発光したかと思ったらアリシア(単体)とリイン(単体)に戻っていた。次は俺か、胸の高鳴りが押さえられない。ドキドキしまくりだわ。

 

「さて、ナナシユニゾン結果の晩御飯を賭けたトトカルチョ始まるよー。自爆、ユニゾン事故でリインがメインに、そもそもユニゾン出来ない、ワンチャン成功」

「倍率は上から1.2倍、1.5倍、1.7倍、ラストは大穴で2.5倍や!」

「あたし自爆で」

「私も自爆にしよう」

「じゃあ、ユニゾン出来ないに」

「ふむ……大穴の成功に賭けてみるとするか」

 

 なにいきなり始めてんの? 泣くぞ、こら。ザッフィー以外失敗に賭けてるあたり目から垂れる汗を我慢できねぇ。そのザッフィーも外れることを念頭に置いてるあたり、ある種の八神家での俺の評価がわかる。

 その後、八神はリインがメインになるに、アリシアは自爆に賭けやがった。リインだけが真面目に成功に賭けてくれたのが救いです。

 

「俺は成功に賭けるかんな! 自爆フラグなんざ折ってやるわ! お前ら見とけよ、晩飯を俺とリインとザッフィーでかっさらってやるからな……!」

 

 フュージョ……んんっ、ユニゾンイン! その掛け声と同時身体が魔力の光に包まれる。

 不思議な感覚だ、なんか俺の身体(コックピット)のなかにリインフォース(操縦士)がいるような……リインは窮屈でない?

 

『大丈夫だ、心地よいとまではいかないけど不思議と楽しくなる空間だ』

 

 念話のように頭に響くリインの声。楽しくなる空間って俺の体内は危ない薬でも分泌してるのか?

 いや、そんなことよりも……成功してるじゃないか。

 目を丸くする八神家とアリシアに、渾身のドヤ顔を見せつける。

 

「そんな、そんな……ナナシが成功した」

「クッソー! はやての晩飯が!」

「まさか大穴とはな、ザフィーラよかったな」

「俺も予想外だ……凄いドヤ顔だな」

「夜天の書と転生してきたなかでもあそこまでのドヤ顔は始めてです……」

 

 おー、ガラスに映る姿を見るが髪の毛が灰色になっているし目の色も緑だ。ワハハハ、魔力が上がっているのも実感できる!

 

「はー、成功してよかったなぁ。けど見た目が間違った中学デビューする子みたいやで」

「いいんだよ! 珍しくこんなにもきれいに成功したんだ、喜ぶしかな」

 

 いだろ、と言葉を続けるはずだった、はずだった。

 ――しかし、次の瞬間俺の中からリインが弾き出された。途端に全身を襲う疲労感、真夏炎天下のなか水分補給をせずに走りまくったかのような気分。

 

「はぁー! はぁー! な、なに……起きた?」

「すまないが時間切れだ……元々ナナシにはアリシアに比べても適性が無さすぎることと、魔力の無さが原因だろう。魔力を増やす特訓さえすれば、もう少し改善するだろうが……」

 

 将来的にはともかく模擬戦は明日。間に合うわけがない。

 

「制限時間……な、何分だ?」

「はやて……教えたげて」

「……ジャスト1分や」

「いい夢見れねぇよ……!」

 

 ――無理ゲーを明日に控えた今日、攻略法を目の前に新たな壁にぶち当たったのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ナナシ強化完了、イヤー主人公らしくなりましたネー。

▼ナナシ`sステータス
・デカイ倉庫
・ミソッカス魔力
・超凄いドヤ顔←new
・ユニゾン(1分)←new

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