ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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23.ウボォア

 ありえない……ッ! この私が、世紀の科学者、無限の欲望たるこの私が! どうしてこうなったのだ、何が間違っていたというのだ。

 

「私が迷子になるとは……な」

「ドクターなら迷子になってだって辿り着けます!」

 

 トーレからの手放しの信頼が今は痛いな……反面見た目は子供そのものだが、中身は娘たちのなかでも常識人寄りのチンクは冷静にツッコミを入れてくる。

 

「ドクターはあれだな、とても賢いが慢心で身を滅ぼすタイプだな。具体的には今すぐ倒せばいい相手をいたぶろうとして手痛い反撃をもらいそうだ」

「チンクやめてくれないか、私も自分で容易に想像出来てしまう」

 

 きっと心を折ってやろうとしていると失敗するのだろう。慢心はいけないのだがな、どうしても自己主張が激しいこの子供のような性格は直らないようだ。

 

 だが、存外ミッドは広いものだな……引き籠ってばかりいたので知識としては知っていたが、体感したのは初めてである。

 たまにはこうして外へ出るのも、あぁ悪くないものだ。

 

「感慨に更けるのはいいが迷子である事実は変わらないぞ」

「現実逃避というやつだよ……交番で道を聞くとするか」

「傍目から見れば自首だなドクター。ご自身が次元犯罪者として指名手配されていることを忘れないでほしい」

「くっ……」

 

 一度帰って調べれば一瞬で片がつくのだがそれでは娘たちに格好がつかない。既に若干二名の娘たちから割りと本気で心配する目を向けられているがな!

 だが、しかし交番というのは悪くない。私には無理だが娘たちなら行ける、特に低身長なチンクであれば子供に見られ滞りなく道を聞けるだろう。

 

「……チンク、君なら迷子というていで交番で道を聞けるのではないか?」

「はぁ、仕方ないか。それで交番はどこにあるのだろうか?」

「………………」

「………………」

 

 チンクからの呆れた視線がジト目に変わった。ここ数時間で父としての威厳が大暴落している気がするのは、勘違いであってほしい。 

 

「ライドインパルスを使って私が探してきましょう」

「まて、止めてくれトーレ。皆で探そうじゃないか」

 

 ――テスタロッサ家は遠い。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「俺ナナシとアリシアの、デバイス3分クッキングー」

「いぇーい!」

「ここにある夜天の書の破片とユニゾンデバイスに必要な材料を適当にネルネルネルネすると……!」

「完成、見よ! これぞ至高のユニゾンデバイス……!」

「ほほう、これが……って出来るかぁぁぁ!」

 

 アリシアとあのお昼時にやってるチャッピー3分クッキングを真似ていると、はやてから鋭いツッコミがきた。さすが関西弁、キレがあるね。

 まぁ、関西弁に対する熱烈な偏見だけど、関西弁だからって面白いこと要求するのは止めてあげようね。

 

「もー、一応真面目な相談なんやから」

「ごめん、真剣になるにはワンクッション必要で」

「お前らめんどくせぇな……」

「そうは言うがヴィータ、はやても変わらんと思うぞ?」

「え?」

 

 恐る恐るヴィータが振り返ると、アリシアとはやてが並んでテヘペロしている。カクンッと肩を落とすその背中は哀愁漂っていた。

 閑話休題、話の内容は夜天の書の欠片から新しいユニゾンデバイスを作りたいので手を貸してほしいとのことだった。

 

「……正確には、私の姉妹機かな」

「あー、どっかの誰かがリインをはやてとユニゾン出来なくしたもんな」

「まったく酷いやつがいたもんだよ!」

「どうしてこのふたりは自虐ネタに走るんでしょうか……?」

「私に聞くなシャマル」

 

 なんとなく負い目があるからだよ! アリシアはたぶん技術者のプライドもある。だから理解できないものを見る目は止めてやれよ、ツライ。

 

「それで期限は? 1ヵ月? 1週間?」

「それ以下はさすがにぶっ通しの徹夜でも間に合いそうにないので勘弁してほしい」

「なんやそのブラックな期限、いや手伝ってほしいだけで基本的には自分で作りたいんよ」

 

 リインも設計についての知識自体はあるのだが技術や設計にあった部品などはサッパリらしい。

 

 それで仕方なくデバイスキチのアリシアとただのキチな俺に白羽の矢が突き刺さったのか。

 

「よし、目指すは最強のユニゾンデバイス」

「主など要らない、己が拳ひとつで全てを薙ぎ倒す」

 

 ――そのデバイスが通り過ぎた道に立つものは誰もいない。主が歩く道は我が切り開く。

 

「リイン・ヴァルキリー始ま――」

「始まらせへんよー」

 

 リインも嫌そうに首をふるふると横に振っている。ただしシグナムだけ少し期待した目をしてた。いいですよね、リイン・ヴァルキリー……え、戦ってみたい?

 リイン・ヴァルキリーは廃案だ、出来上がると同時に真っ二つが待ってるぞ!

 

「まぁ、はやてのリンカーコアのコピーは入れるとして」

「私のコピーをつくるやって……!?」

「ミッドの地を埋め尽くすヤガミハヤテ、無数のラグナロクが平和なミッドを襲う――!」

「ラグナロクって日本語で世界における終末の日やから、それが無数とか普通に恐ろしいんやけど」

 

 見ろよ、アリシアがちょっと真面目になると今度ははやてがボケ始めた。誰かが真剣になれば、他の誰かがふざけて永遠に続く不真面目の永久機関。

 エターナルボケ、負の遺産的な意味でロストロギアにならないなろうか?

 

「言葉通り失われちまえよ、そんな負の遺産」

「場の空気がなごむぞ?」

「和むのではなく締まらないだけではないか?」

「ぎゃふん」

「で、冗談は置いといてはやてのリンカーコアを入れといたら守護騎士の皆もユニゾン出来るはずだよ」

 

 そして、はやて主体でつくるなら1年以上かかるだろうとのこと。

 デバイスについての知識はもちろん、小学校もあるし、はやても管理局に入ろうと思っているらしいのでそりゃ時間はかかる。

 空き時間だって遊んだりしないとならんしね。子供は遊ぶことも仕事のうち……ってのは子供が仕事してることもあるミッドも変わらんはず。

 

「どっかの翌日を考えず徹夜を繰り返せる人間とは違うもんね」

「俺もそろそろデバイスマイスター補佐の勉強始めようと思う、資格を取ったら是非ご利用を。友達割り増し2割りプラスで見てしんぜよう」

「割り増ししなや、友達割り引きしてぇな」

 

 さりげなく割り増しにしてみたら普通にバレた。

 

「我が家の家計を握ってる私を舐めんことや」

「決め台詞は、迂闊に舐めると食中毒になるで」

「それ腐ってもうてる」

「腐る、BL……すまんがホモはNGなんだよ、男にとっては笑えない」

「私も興味ないわ……うちの中ならシャマルが一番ハマりそうやなぁ」

 

 なんかわかる。部屋の棚とかに薄いのがドッサリとありそう。茶菓子を取りに入ってくれてるシャマルを微妙な目で見る俺たちの失礼さプライスレス。

 

「あっ、お煎餅がありました……はやてちゃんどうしました?」

「ナンデモナイヨー、シャマルはリインの妹はどんな子がええと思う?」

「そうですねぇ……明るくて元気な子がいいです」

 

 明るくて元気な子で思い出すのは水色のアホの子。いい子ではあったがいささか大変そうでもある。

 

「明るくてアホの子大変かもよ? 暗くてじめじめして引き籠る子どうですか?」

「キノコ生やしたいわけやないんやからジメジメしてんでええんよ」

「頭からキノコ生やしたユニゾンデバイス……イジメかな?」

「そんなことしたら私が怒るから、てかそんなデバイスつくらないから」

「せえへんけど……珍しくアリシアちゃんの目がマジや、真剣と書いてマジや」

 

 デバイスだけに関してはビックリするくらい本気だからな。適当な名前つけるとスパナ装備で襲ってくる、プロテクション張ると張り付いてスパナで殴ってくる。

 

「そういや、名前はどうするつもり?」

「んー、リインの妹やしツヴァイって名前にしようかと思ってるんやけど」

「ウボォア?」

「なんや、その気持ち悪い悲鳴みたいな名前」

「シュババ!」

「素早い動きの効果音になっとる、ツヴァイや」

 

 ――このときはやては、シュババと動き敵にウボォアと悲鳴をあげさせるヴァルキリーのようなツヴァイが出来上がることを知るよしもなかった。

 

「させんで、というか作るんは私なんやから」

「あ、そうだった」

 

 横で聞いてたリインが安心したかのようにホッと肩を落とす。そうか、やっぱりゴリマッチョな妹は嫌ですか。

 

 可愛い系ゴリマッチョという新ジャンルを開拓したかったんだけど……リインほっぺ引っ張らないで、はやてが作るんだから大丈夫。

 “ゴリマッチョでも可愛いは作れる”みたいなキャッチフレーズのつく妹は出来ないはずだから。

 

 そういえば、とふとゴリマッチョから思い出したことがあった。

 

「大変恐縮なんだけど闇の書事件のことでひとつ疑問に思ったことが――クロノに皆の画像見せてもらったときに褐色ゴリマッチョ男がいたんだけど」

「あ、いたいた。あれって誰?」

 

 なんだよ八神家揃って、あぁ……って反応して。

 仮面の男たちも謎なまま終わったんだけど、褐色ゴリマッチョは一番の謎のままなんだよ。

 どうやらはやてたちは仮面の男たちについても聞いたらしいが、俺やアリシアは知らされてない。別段興味もないしね、むしろ知るとプレシアに正体が誰だったか吐かされそうなので知りたくない。

 プレシアったらあれだけやっといて、まだフェイトが襲われたこと根に持ってます。

 

 ま、今はマッチョさんの方だ。はやてにもう一度聞こうとすると、後ろからザフィーラに声をかけられた。

 

「それは私だな」

「ん、ザッフィーどう……ウボォア」

「ナナシ変な声だして……ウボォア」

「なんだその反応は……テスタロッサ家にいる使い魔も人型になれるだろう」

「そういうことや、ザフィーラの人型やね。そかそか、ナナシくんはうちに来ても犬型のザフィーラしか見てなかったんやね」

 

 フカフカでモッサモッサなザッフィーがガチガチでムキムキのザフィ男になった……現実は非情である。

 なんか、夢のワンダーランドに住んでいるはずのネズミーマウスの中身がおっさんと知った子供の気分だ。

 

「八神家のマスコットがワンコからマッスルになった件について」

「これが魔法なんや」

 

 老婆が魔術で美女の姿騙ってたくらいに夢も希望もないな。

 

「こんなのマジカルじゃねぇよ……ただのフィジカルだ!」

「来週からマジカル☆八神家は打ち切り」

「フィジカル★ザッフィーが始まるよ!」

「今やザフィーラ! マッスルドライバーや!」

 

 主からの急な無茶振りに困惑するザフィーラ、寡黙タイプなザフィーラにこのノリは駄目だったか。はやてと謝って犬モードに戻ってもらう。

 うん、こっちの方が落ち着く。男が少ないなか増えるのは嬉しいんだけどインパクトが強すぎる。ユーノは違和感なかったんだがなぁ……あ、あれは人の方がメインだっけ?

 

「ま、こんな感じでやっていこうか。はい、大まかな見積書。大体これくらい掛かると思う」

 

 無茶振りしてる間に書き上げたのか、アリシアは最低限の必要経費を書いたものをはやてに渡した。

 横から覗けば、ちょっと頭の痛くなる額が書かれていた。別に友達割り増ししてる訳じゃないぞ?

 

「あぁ……やっぱりかかるんやねぇ」

「融合型デバイスが普及しない理由のひとつだしね」

 

 インテリジェントデバイスもなかなか高い代物なのであり局員でも持ってる人間は多くない。そしてユニゾンデバイスはその倍じゃ済まないお値段というと分かりやすいかね。

 

「よくよく考えたらリインの身体も高かったもんなんよなぁ……なんも払えてへんねんけど」

「あぁ、それはいいよ。私たちが趣味で作ったものだし、ユニゾンが私たちにしか出来ないから。リインには失礼だけどお金取れるものじゃないや」

「気にしてない。私は残って主たちと過ごせるだけで満足だ」

 

 まぁ、リインの身体の元はプレシアから出た資材や資金だったんだけどね……それはカートリッジのミッド式への転用技術で取得した特許のお金で返した。今では小金持ちくらいになれてる気がするアリシアと俺である。

 ユニゾンデバイスでも完成度高めて特許取りたいけど普及しない気がして思案中。

 

「それにしても身体が高いってほのかにエロいよね」

「ナナシ何言って……エロいね」

「なんてこと言うん……エロいわぁ」

 

 身の危険を感じたリインがヴィータの後ろに隠れた。いや、ごめん響きがイヤらしい感じして、ついつい。

 その後、お金のやりくりの話や製作開始の目処を建てた。

 ――今度のデバイス製作はゆったりとしたものとなりそうだ……何気に初めてかもしれない。

 




感想感謝です。
何やら本編に関係ある内容を書くとキレが悪くなると思うこの頃。
ツヴァイはそのうちできます、そして空白期でだれないように時系列ジャンプがそのうち来ますと宣言。
約10年分の空白期とか普通に考えて鬼です。

季節を書き忘れた、既に春です。はやて学校いってます。

S(すごい)t(違う)S(ストライカー)編

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