前回は夕暮れの路地で小石を拾うと現れた。
今回は小石を唾液まみれのテラテラにして、四次元空間に突っ込んだら現れた。
この目の前にいる金髪少女が現れる原因はやっぱり小石に関係してんだろうか。なんなの、小石マニアなの?
てか、前回は「ちょい、ワレぇツラ貸せや」ってニュアンスだったのに、今回は「動けば殺す、ブツを渡さなくても殺す」的なニュアンスで物騒になってる。しかもデカいオレンジ狼のオプションつき。狼じゃなくて白いお父さん的犬にして欲しい。
まだ倒してもないのに何でパワーアップして来てるの? RPGならクソゲー確定だぞ。
取り敢えずジュエルシードなんて知らないし多分人違いだ、人違いであってくれ。
「ジュエルシードを渡してください」
「人違いだ」
「えっ?」
「あ、違ったか。普通に俺に用があったのか……」
ワンチャン人違い説は儚くも消え去った。
「はい。だからジュエルシードを」
「ジュエルシードってなに?」
「さっき、あんたが何処かへ仕舞った石のことだよ」
あれ、目の前の金髪少女じゃない声が急に聞こえたような……周りを見るけど誰もいない。
金髪少女をジッと見るが首を傾げられる、首を傾げたいのはこっちなんだけど可愛いのでよし。だが、通り魔なのでプラマイ零、むしろマイナス。
あと声はたぶん精神的な疲労による幻聴だな。
「で、ジュエルシードってなに?」
「だから、さっきあんたが何処かへ仕舞った石のことだよ! さっさと出しな!」
「へぇ……ちょっとタイム」
どう見ても狼が喋った、バッチリお目目が合ってやんの。やめてほしい、これなら幻聴の方が幾分マシだ。
こちとら記憶なしで転生させられるわ、小石が急に光だしたり、死んだと思ったらコンティニューさせられる。
とどめに目の前のちょっと危ない格好をした普通に危ないハルバートを振り回す、普通じゃない金髪少女がいたりする世界に頭が一杯で、これ以上は容量オーバーだ。
あれ? 『やり直し』させられたり、幼女がハルバート持ってエネルギー弾ぶちかます世界……狼が喋ったくらいなんだ、普通じゃん。インコだって喋るし普通普通。
「言葉を話すなんて賢い狼だな、うん賢い狼なんだ」
「あ、うん。アルフは頼りになるんだよ……でジュエルシードは渡してもらえる?」
「えーと、さっきの小石かぁ……もう大丈夫だよな?」
「なにブツブツ言ってんだい、断るならガブリといくよ?」
そう言って口を開く狼……いや、アルフか。牙が見えて怖いので閉じてほしい、ジュエルシード投げ込むぞ。
とにかく噛まれたくないし、魔法弾もごめんなので四次元空間を開く。
そっと出してみるとテラテラしてるが光は収まっていた。
「これ?」
「うん、貰えるかな?」
「いいけど……いいのか?」
「……?」
「ちょいと待ちな。なんかテラテラしてないかい?」
「ごめん、空腹に耐えかねてちょっと食おうとした。食えんかった、文字通り歯が立たなかった」
「何してんだい、あんた!?」
だから、いいのかどうか聞いたじゃん。おい、やめろ可哀想なもの見る目で見ないでくれ金髪少女。そんなコスプレみたいな格好をしてる人間に同情されると心が折れそうだよ。
ひもじいのかな? って聞こえてるから。たしかにひもじいし貧しいけど。
「でも貰えるなら唾がついてるくらい別にいいけど?」
「そこまでしてこの石が欲しいのか……変た、君の考えることはよくわからん」
「待ちな、あんた何て言いかけた?」
「さすがにこのままはなんだし洗ってくる」
そのまま渡すのも悪いので服で拭く……のも嫌なので水道水で洗ってから服で拭く。うん、まあこれで許してほしい。変態と呼び掛けたことも許してほしい。
「じゃあ――」
「駄目ぇぇぇ!」
「え?」
「あっ!」
「チッ! また来たね!」
ようやくジュエルシードを金髪少女に渡して、金髪少女にブッコロがされるイベント回避と思ったら乱入者が現れる。
白いヒラヒラした何処かの制服っぽい服に、メカチックな杖。肩にはフェレット、そうですか金髪少女の同類がいたのか。
しかし味方同士といった雰囲気ではなくピリピリとした空気になっている。
「ジュエルシードは危険なんだ!」
次はフェレットが喋った、まあ普通だよね。インコだって狼だって喋るんだもの。この世界の動物は賢いナー。
「ハッ、何度も何度も邪魔しに来て懲りないねぇ!」
「フェイトちゃん! どうしてジュエルシードを集めてるのか、お話を聞かせて!」
「話すことなんて――何もない!」
おっとぉ、栗色の髪の少女曰く、金髪少女はフェイトと言うらしい。そして栗髪少女とフェイト、それにアルフは空へと飛び空中で戦闘を始めた。まあ魔法弾もあるし飛ぶよね、人くらい。狼だって人が飛ぶなら飛ぶ。
至って、普通きわまりないな。
「でもお話しないとわからないことだってきっとあるよ!」
「黙りな! あんたみたいな平和に暮らしてきた餓鬼にフェイトの何がわかる!」
「なのは、危ない!」
フェレット曰く、もうひとりの少女はなのは。狼が放ったオレンジの魔法弾を、フェレットが緑のシールドで防いだ。残りフェレットの名前でコンプリートだ、してどうするって話なんだけどさ。
横を見ればフェイトが目まぐるしい速度で動き回り、なのはを攻め立てている……なんかハルバートだったのに鎌になってるし刃の部分がエネルギー体っぽくなってる。しかし、なのはも負けじとシールドを張ったり、これまたピンクの魔法弾を撃ち込んだりして反撃。
「またそのデバイスが壊れても知らないよ?」
「フェイトちゃんだって!」
「凄く……カラフルです」
目ぇチカチカする。フェレット以外みんな魔法弾撃ってるし、フェレット含めて魔法、たぶん魔法を使っている。さっきから一応魔法弾っつてるけど、誰か正式名称教えてほしい。『ディバインシューター』とか『フォトンランサー』とか聞こえてくるけど、どれがどれだよ。
さっきからフェイトの魔法弾は何度も撃ち込まれているが、別段爆発する気配がない。あれはジュエルシードのせいだったらしい……なに口に入れてたんだろうか俺は。下手したら頭が爆発して、ザクロみたいに弾けてたのか……グロい。
しかし車椅子少女め、人どころか動物まで魔法を使ってるじゃないか。今度会ったら一言いってやる。
ついでにゲートオブバビ、バビ……なんとかさんがあればどうにかなると思ってたけど無理です、これ。まず飛べないし、目が疲れる。フェイト速すぎ、ずっと目で追ってると酔ってきた。
「そもそもジュエルシードがふたりの目的なら置いていけばいいのではなかろうか?」
そう思い周りを見るがなんか景色が変だ。暗くて分かりにくかったけど、幾何学模様になってる。
ちょっと今回ハッスルしすぎじゃない? 前回はフェイト一人と結界だったのに、今回、魔法少女一人と喋って魔法を使う動物が二匹追加である。しかもみんな空を飛んで戦ってる。
なのはって子はスカートなのにそんなに飛び回ったら駄目だ、一部の大きなお友達が大喜びするから。
「まぁ……逃げれんか」
ちょくちょく弾かれたピンクと外れたオレンジの魔法弾が地面を抉ってるし、下手に動くと死にそうだ。
大人しく三角座りで決着を待つ、勝った方に渡して帰ろう。帰って寝よう。
「……帰る場所なかった」
頭上での魔法少女たちの戦闘並みに、目を逸らしたかった現実を思い出しヘコむ。
三角座りの膝の間に頭を入れてうずくまる。あーもう、フェイトでもなのはでも動物たちでもいいからジュエルシード買い取ってくれないかな? 百円でいいしさ。
たまに飛行石みたいに光るし、爆発する優れものなんだけど。ワンチャン滅びの呪文で相手の目も潰せるかもしれん。
顔を上げてみれば、なのはとフェレットがフェイトとアルフに必死に何か訴えてるようだけど、ほぼフェイトたちは無視して鎌を振るったり魔法弾撃ったりしている。話すだけ話してみればいいのになぁ。
俺なんて協力は欲しいけど、戸籍もないから話すに話せん。
「……ん? あぁ、あの子もそうなのか?」
話すに話せんって別に俺だけなわけないか。フェイトの目的が、例えばジュエルシードでこの荒んだ世界を爆破するとかだったら話しても意味ないし、話すに話せんもんな。
でも、なのはからすればそれこそ話してもらえないので何もわからない。だから話して聞かせてというし、話すに話せないフェイトは断り続けて……不毛なスパイラルの完成だな。
「もう……! 話を聞いてよー! ディバインバスタァァァー!」
《divine Buster》
「なっ、おおぉぉぉぉぉ!?」
ついに焦れたのか、なのはは何やら叫ぶとビームを撃った……ビームというか砲撃だぞ!? フェイトは余裕をもって避けたが、避けた先の木々は倒され地面は抉れた。地面からはブスブスと煙が上がってる。
お話を聞いてって感じじゃない、言うことさっさと吐かねぇとぶち抜くぞって感じだ。
フェイトも威力を見て再び撃たれては敵わないと思ったのか、距離を詰め近距離戦に持ち込もうとする。いいぞ、もう撃たせるな! まかり間違ってこっちに砲撃来たら死ぬから!
そして砲撃があったくらいから無視したいけど無視できない事態が発生していた。俺の手のなかで。
ジュエルシードが……凄く眩しいです。
「ま、不味いなのは! 早く封印を!」
「うん!」
「させない……!」
「行かせな」
「フェイトの邪魔はさせないよ!」
ジュエルシードが光始めたのに、フェレットが気づきなのはとフェイトがこちらへ突っ込んでくる。来んな来んな来んな! 鎌と砲撃を放つ杖を持って突撃して来るな!
……今回はここでコンティニューかと諦め半分に思ったそのとき。
なのはたちの進路に青い魔力弾が撃ち込まれた。が、ふたりはギリギリで弾かれるように避けていた。反射神経いいね二人とも。
「そこまでだ! ここでの戦闘は危険すぎる。管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。双方武器を収めて話を聞かせてもらおうか」
そう声がする方を見れば、黒い服着た少年が杖を持って飛んでいた。
――ふむ、どうやら30歳までチェリーでなくても魔法使いにはなれるらしい。
ここまで読んでくださった方に感謝を。