ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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33.下は大火事、上は大雨

 テスタロッサ家にキャロがやって来る少し前のお話。

 俺とアリシアは飛行機に乗っていた。いやなんだろうな……車があるんだから飛行機があることも知ってたけどさ。魔法という文化が浸透してるくせして地球と変わらない、いやそれ以上の科学も発展してるミッドには開いた口が塞がらない。

 

「ふぃー、楽しい仕事だったねぇ」

「あー、まぁな。かなーり特殊だったけどな」

「だからこそだよ」

 

 元々は俺が頼まれた仕事なのだがその内容が極めて珍しかった。

 “意図的にデバイスに不具合を起こさせて欲しい”

 

 そんな内容だった。始めはさすがに俺も首を傾げた。しかし、武装部隊としてデバイスに不具合が起きた緊急時に対処できるようにする訓練のためと聞き納得し引き受けた。それに加えてもちろん不具合を起こさせたデバイスは訓練後には正常に直さなければならないわけで……世知辛い話なのだがこれを依頼してきたのは陸の武装部隊。面倒な内容の仕事のわりに財政的にもカツカツな陸からの報酬は大口の依頼としてはちっと少ないものだった。

 そんなわけで普段からフラフラーっと格安とまでは言えないけど割安でデバイス整備してる俺に話がきた。

 

「それでもナナシは引き受けたんだよねぇ」

「どうせ暇だったし大口な仕事だったからなぁ、それに嬉々として着いてきたアリシアも人のこと言えないぞ」

 

 そう、一人ではさすがに厳しかったので一人で百人力のアリシアに声をかけたのだ。ついでに喜びそうだったし。実際に、度肝抜いてやるよ! とか意気揚々と参加した。

 

「そりゃ、意図的に不具合を試せるとか面白すぎるよ!」

「お陰で俺一人でやるよりウン倍阿鼻叫喚の訓練になったけど」

 

 不意の事態で起こらないような意図された不具合じゃ訓練にならないので自重はしてたようだが。

 砲撃魔法を撃ったお兄さんが反動でロケットのように後ろに飛んでいった姿は忘れられない。射角的に空から地上に向けて撃ち込んでたので本当に空に向かって軌跡を描いて星になってたし。無茶しやがってと敬礼するアリシアと俺を除いた他の方たちは愕然としてた。

 というか、そこからかなり慎重に使うようになってた。

 

「あれはね、普通は自動的にオンになってる無反動装置系を駄目にしたうえに、術者が踏ん張るための擬似的座標固定のための魔法が駄目になるっていう極めて特殊な不具合だね! だから星になったのも不具合のせいだよ!」

「不憫すぎて涙が止まらない」

 

 整備状況にもよるけど発生する確率にして1%切ってんだろそれ。

 

「ナナシの魔法のプログラム読み込みが正常にされないやつもえげつなかったよ」

「シールド張ろうとしてたのに加速魔法が何故か発動されて魔力弾に突っ込んでいってたやつか。けど不具合だし仕方ないよな」

「仕方ないね」

 

 しかし流石武装隊の皆様というべきか。初めはデバイスに振り回されがちだったが半刻もしないうちに適応し始めていた。後半は俺もアリシアも意地になり始め、自然に起こる不具合という縛りのなかで如何にとんでもないものを起こせるかという部隊の人達にとっては迷惑なことをしてた。

 

「強いていえば最後に直すのが手間だったよね」

「まぁ、この手の依頼が個人経営で断られがちなのはそこが理由だろ」

「私は余裕だったけどね!」

「わー、アリシアサイコー!」

「そう、私最高! ってこれは私の持ちネタじゃないんだけどね」

「そもそも持ちネタないっていう」

 

 それはフェイト似な僕っ子の持ちネタだ。そんなこんな話してるうちに空港へと飛行機が着陸。このまま家に帰ってもいいのだが夕時でそろそろ腹の虫も鳴く頃合い。

 

「適当に晩飯食べて帰らね?」

「そうだね。混む前にパパッと決めて入っちゃお、希望ある?」

「あー、いや任せるわ」

「ならオムライス食べようよ、なんとなーく食べたくなった」

「よくよく考えればアリシアが卵食べると共食いにならねぇか?」

「なんで!?」

 

 いや、王様がアリシアのことをヒヨッコって呼んでたなって……さっきレヴィを真似た台詞を聞いたからふと思い出した。もう何年も前になるのか。あれはこっちの世界に来てからの生活のなかでもトップに入るほど衝撃的だったな。

 

「そういえば懐かしいね。みんな元気にしてるかなー」

「王様の料理旨かったな……」

「美味しかったね……かなりお腹が空いてきたよ!」

「よっし、飯だ!」

「おー!」

 

 ――ジリリリリリリリリリリリリ!

 突然鳴り響く警報。続いて流れるアナウンス。

《火災が発生しました。空港内のお客様は職員の避難指示に従って速やかに避難をしてください。繰り返します、火災が発生しました》

 

「……あれかな、シュテルのこと話題に出さなかったから自己主張してきたのかな?」

「激しすぎるよ!? てか避難しないと!」

 

 そうだな。けど周りを見れば人がいないのなんの。駄弁りながらフードコート目指して歩いてたからなぁ……そも、ここはどこって話なんだけど。フードコート目指してたけど、アリシアに着いて歩いてただけなんだよな。

 

「現在地どこ?」

「知らないよ、ナナシが知ってるんじゃないの?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 ……マズくないか、これ? これお互いに相手が行き先知ってると勘違いして迷子のパターンだ。

 

「……ここは素直に職員の指示に従おう!」

「職員いねぇじゃん」

「あっ…………」

 

 空港内の火の回りが早いのだろうか。熱気が漂い始めるなか俺とアリシアはただの汗ではない、冷や汗がタラリと頬を伝う。こんなときのセオリーはジッとしているべきだったか、それとも出口を探すべきか。

 

「取り敢えず動くか」

「そうしよう、ムワッとしてきてるし」

「レベル的には初夏だな」

「猛暑日になる前に出口を探さないとね」

「その前の梅雨が来ない、スプリンクラーが仕事してないぞ」

 

 ま、そんな冗談と切実な問題は置いといて冷静に屋外に出るためミソッカスコンビは動き始める。

 まずはデバイスでセットアップ、なんか久しぶりデイブレイカー。アリシアがエリアサーチをする……といってもしょせんミソッカス。大層なことは出来ず、動けなくならない程度に行き先を探りつつ移動する。

 

「ちなみにこれ約100m先までしか探れないんだよね」

「なのはとかと比べると悲しくなるよな」

「バカ魔力とミソッカス魔力だからねー、っと左は駄目。もう崩れてきてる」

「ちょっと空港の責任者とか建てたやつ出てこい、耐久性無さすぎだろ」

「まるで私たちみたいだね……」

「やめろ、なんか縁起でもないからやめろ」

 

 火の手の勢いは増すばかり。そろそろアリシアの危機を察知したプレシアとか登場しないかと期待してるんだがまだ来る気配はない。どうした親バカ、電波が通じないところにいるのか?

 

「ナナシぃ……右がさ、崩れそうなんだけどさ」

「うん? なら避けようぜ」

「人の反応がひとつある……身長からして小さな子供だよ」

 

 無言で顔を合わせため息からのダッシュ、進行方向右! パラパラと落ちてくるコンクリの破片が頭に当たって超痛い! 本音はスッゲー見なかったことにしたい。けどそうしたらこの先の人生楽しめないじゃん?

 

「きゃー! 天井が剥がれて落ちてきそうだよ!?」

「ホント出てこい責任者ぁぁぁぁ!」

 

 人これをやけっぱちとも言う。子供の反応があるというところに絶叫しながら走り抜ける。

 

「見つけた……! あの紫の髪の子!」

「紫ってプレシアさんじゃねえの!?」

「あり得ないくらい若返ってたらそうかもしれないけど違うから!」

「それ俺が言ったら殺されそうな台詞だな!」

 

 お互いに端から聞けばもう悲鳴じゃないかというような勢いで軽口を言い合いながら泣いている紫少女のところは辿り着く。

 

「はい、お嬢ちゃん確保! ナナシ急いでリターン!」

「言われずとも! なんかもう天井が落ちたそうにグラグラしてんだよ!」

 

 身体強化したアリシアが少女を抱きあげ180°方向転換からすぐさま再度ダッシュ。その際にアリシアの体格的には抱えて走ることは難しいので、こちらへ少女をパスしてくる。泣いていた少女に対して扱いがちょいと雑な気もするが許してほしい、こっちも余裕なんてないんだ。

 しかし天井もそろそろ耐えきれないぜと言わんばかりに異常な音をたて始めてる。

 

「クイックバスターで天井吹き飛ばせない!?」

「無理じゃー! 穴開けて終わる! てかそれが原因で天井が落ちてきて俺たちが終わる!」

「このミソッカスー!」

「るっせぇミソッカスー!」

 

 ホントに抱えた少女など気にする暇なく軽口を通りすぎ罵倒し合いながら駆け抜ける。アリシアをよく見れば涙目、きっと俺も涙目だ。超怖い、怖いからこそいつも通りに。ウハハ、全部笑い飛ばしちまえ。

 

「私ここから無事に帰れたら」

「待て、こんなとこでまでフラグ建てようとするな」

「ほら、こんな崩れやすいもの建てる建築士の代わりに私が立派なフラグを!」

「ボッキリ折ってやんよ!」

 

 うん、いつもみたいに話してるが小石サイズのコンクリが雨のように降り始めている。アリシアは器用に頭部にシールドを張って傘にしてるが俺は直撃しててハゲそう。

 手元の幼女のみは気合いでシールド張ってカバーしてるけどそろそろ色々尽きそう。崩壊しきる前に脱出できるか本格的に怪しくなり始めたそのときサーチを続けていたアリシアは急ブレーキをかけた。

 

「ナナシ! ここ! ここの壁ぶち抜いて!」

「外に繋がってるのか!?」

「たぶん! きっと!」

「不安すぎるなコンチクショウ! 圧死したら建築士恨んでやらぁ!」

 

 建築士よりも許可出したやつかな? ま、そんなこと今はどうでもいい。デイブレイカーを構えるにはかさばる少女だか幼女だかを頭に乗せ腰だめに構える。

 

「クイックバスター!」

《Quick Buster》

 

 衝撃で頭上から垂れてくる紫の髪の毛がたなびき目に入って痒し痛し。しかしどうだ、かっちょよく壁をぶち抜いてやったぜと思えば……ちょっと人が通るには小さいかなという微妙なサイズの穴が開いていた。カッコ悪ぅ!

 

「な、ナナシのミソッカスー!」

「う、うっせー! こちとらそのミソッカス振り絞って身体強化とかしてて既にスッカスッカなんだよ!」

「カートリッジ使えばいいじゃんか!」

「あっ……!」

「あっ、じゃないから! やって早くハリー!」

「ポッター!」

「だからふざけてる暇ないからぁぁぁ!」

 

 テンパり過ぎてカートリッジロードしてなかったことに気づく。頭の上の幼女が震えてる。ごめんな、次こそ決めてやるから。そう決心し気前よく景気よく3発カートリッジロード。ふへへへ、身体から既にほぼない魔力が骨の髄までしゃぶってやるぜって感じで吸い出されるがやってやらぁな。見とけ紫ガール、次こそ決めてやんよ!

 

「クイックバスター!」

《Quick Buster》

 

 なのはなら壁丸ごととか崩れそうな天井を消し飛ばしたかもしれんが俺じゃ壁一枚撃ち抜くのが限界。しかしそれで十分、今度こそ快音が響き渡る。ちょうど普通の扉より少し大きいサイズの風穴が出来た。

 アリシアがそこから顔を出し外に繋がっていることを確認。もう流れてくる空気がいい感じに涼しいので外ってわかるんだけどね。

 

「出られるよ! ほら早く!」

「お、おう……」

 

 足をカクカク言わせながら外に行こうとするもなかなか進まん。うーむ、カートリッジ3発はやりすぎた。完全にカッコつけるノリに流されちゃった。俺ももうちょっと主人公補正的な物があればビシッと決めれるのにどうにも締まらん。ま、似合わんけど。

 

「お爺さんごっこしてる暇じゃないから!」

「してないぞ、割りと本気で動いてるんよ?」

「……がんばれ、がんばれ」

 

 む、たれパンダ的な状態で頭に乗ってる幼女からの声援。気合い注入のつもりかぺちぺちと頬を叩いてくる。

 

「ふぎぎぎぎ」

「なんかガニ股で足震えてて見た目すごいダサいけど頑張れナナシ! もう外だよ!」

「……ふぁいとー」

「いっぱーつ!」

 

 膝まで泥に浸かったような重さを感じながらも、ほうほうのていで脱出した。外の空気が美味しい、別にミッドって自然が多いわけじゃないがこんなに空気をうまく感じたのは初めてだ。

 しかし案外幼女が余裕持ってる気がするのは気のせいか? 実はさっき震えてたの笑ってたからとかじゃないよな?

 

「……しかし魔力も気力もスッカラカンだ」

「体力もだよ……あー、その子どうしよう」

「そりゃ親が心配してんだろうし探すべきだろうなぁ」

「……動ける?」

「無理に決まってんじゃん!」

「だよね!」

 

 ブラストカラミティーくらったあと並みに魔力的にも精神的にも削られたせいで動けん。ぶっ倒れた俺とアリシアを紫幼女が引っ張ろうとしてくれてるが動くわけもない。ほら、あっちに消防車とか見えるだろ? あっちに行けば保護してもらえるから。

 

「いやー、でも私たちらしくもなく肉体労働したけど頑張ったよ……」

「ホントな、こういうのはなのはたちのお株だっての。もう指先も動かないぞ」

「もうゴールしていいよね……」

「……ゴール」

 

 ごめん、幼女。親元まで届けたかったんだけど無理だこりゃ。俺たちは互いに魔力が空になったせいで意識がズルズルと無くなっていくのであった。薄れ行く景色のなかでなのはやフェイトが見えた気がした。来るの遅い。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 目が覚めたら病院だった。横のベッドには既に目覚めてテレビでニュースを見ているアリシアがいた。俺が起きたことに気がついたのかこちらに向き直る。

 

「おはようナナシ……あれから一週間も寝てたんだよ?」

「嘘こけ、バッチリテレビ画面に日付が映ってんぞ」

 

 完全に翌日である。テヘペロじゃないから、似合ってると思ってしまうのがなお腹立たしい。

 それから話を聞くに頭にコンクリの破片がぱんぱか当たってたので一応検査入院というかたちになったそうな。

 

「ナナシ頭大丈夫?」

「おいこら、その聞き方確信犯だな? まぁ問題ないけどそっちは?」

「なんか縮んだ気がする」

 

 火災への冤罪だ、確実になんも変わってない。

 

「むしろいつから背が伸びたと錯覚していた?」

「なん……いやいや! 伸びてきてるし!」

「可哀想に……頭を強く打ち過ぎたか」

「シールドで守ってたし打ってないよ!」

「なら縮むこともないな」

「あ、嵌められた……!?」

 

 ふぅ、と一息。なにはともあれ無事でよかった。我ながららしくなさ過ぎる展開で焦りに焦ったなぁ。ああいうのは他人事と思ってたが巻き込まれるときは巻き込まれるらしい。当たり前と言えば当たり前、今さらといえば今さらなんだけど。

 

「さて、もうちょっとしたらフェイトやなのは、はやてがお見舞いに来るらしいんだけど」

「普通に見舞われるのも楽しくないよな」

「だよね」

 

 ちょうど二人とも病衣なので、ちょっとばかり古典なイタズラというかネタをすることにした。やることは簡単。布団から俺が上半身を外に出し、アリシアが上半身だけ布団に入り足だけを出す。するとあら不思議、ノッポナナシの誕生である。

 タイミングよくノックの音、入ってもらうと噂をすればなんとやら。いつもの三人組であった。

 

「ナナシくん、アリシアちゃん大丈……えぇぇぇぇぇ!? な、ナナシくんがの、伸びてるぅぅぅ!?」

「なのは、なに言って、る……え?」

「ブフッ! ま、またえらい古典的なフフッ」

 

 反応は三者三様。なのはは驚き叫び――病院は静かにしよう――フェイトは目を丸くしてフリーズ、はやては何をしてるのかわかってるようだが笑いがこらえられないようだ。

 その後アリシアが出てきてネタばらし。間違いなく16歳にもなってやることじゃないけど楽しいから仕方ない。

 プンスカ怒るなのはを宥め、へたりこんでしまったフェイトを起こしてから今回の火災の事の顛末を聞いた。

 

 なんでも火災自体は普通の、というには多少語弊があるもののただの火災であったらしい。しかし、消火の際にちょっと管理局の海と陸やらなんやらのいざこざが影響し手際よく行えなかったとかなんとか……ほー、空港の耐久値は問題なかったとな。

 ん? ……管理局のいざこざについて思うことはないのか?

 

「ないぞ、みんな頑張れ」

「他人事やなぁ」

「そういうのがめんどくさいから入局してないって面があるからねぇ。私もナナシも」

「子供心を忘れるからそうなる」

「ナナシくんは子供心で埋め尽くされてるよね?」

 

 なんか痛いとこ突いてくるなのはがいる。きっと、たぶん……恐らく俺だって成長してるわ。

 

 あとは助けた紫っ子、あのあと無事に母親と合流できたとのこと。それはよかった。

 話を聞くになのはも子供を助けたとか……うんうん、砲撃で天井吹き飛ばして助け出した?

 らしすぎて言葉も出なかった。

 

 

 

 

 数年後、大規模火災の際にあまりにも建築に文句を言い過ぎていた俺のせいであの紫ガール。ルーテシア・アルピーノが建築に興味を持つこととなるのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
事故に巻き込まれた、らしくなく割りと命がけに。なるべく二人のペースは乱せず出来たなら幸い。
紫ガールが誰とか知りません。

あと2~3話目安で空白も終わりそうです。たぶん、きっと、恐らくMaybe……次話は少し変わったものになるやも。

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