30歳までチェリーを守り抜かずとも、魔法使いになれるという希望の魔法少年クロノ現れた。
なんてくだらんこと考えてたら、フェイトがハッスルしてジュエルシードを奪っていこうとしたんだが、残念無念。クロノの魔法弾に阻まれフェイトが一撃KOされる。
あわや墜落の危機に瀕したフェイトだがアルフが回収した……なんて呑気に眺めてたんだが、手元が眩しい。
おや、ジュエルシードさんも大変ハッスルされてるようです。めっちゃ熱い!
俺は手のなかで輝き、滅茶苦茶熱くなり始めているジュエルシードを緊急措置として四次元空間にしまう。おー、熱かった。その光景を目にしたのかクロノが目を丸くしこちらを見てフリーズした。男にそんな見つめられてもちょっと……
それに乗じてとんずらしようとしてた俺は、アルフに襟首をくわえられた。そのまま駆け出すアルフ、背景に月でもあれば某宇宙人だよね。
おれ、おうち……かえる……あ、お家ないんだった。
「てか、ヘルプ! 高い高い怖い!」
「……はっ! しまった!?」
そしてアルフは魔法陣を展開してワープ、展開してワープ、展開してワープ。追跡を振り切るためとかそんなんだろうけど……酔いそう。景色が歪んだと思ったら、フワッと身体から重さがなくなる、と思いきや次の瞬間また重さが戻ってる。エレベーターの停止の感覚、あれをかなりキツくした感じ。
そうして幾度となくワープが繰り返された最終地点は魔王城だった。端的にいうと異空間に城ひとつ浮いてる感じ。本格的にファンタジーになってきた。
「悪いけどあんたにも付き合ってもらうよ、あとまたどこかへやったジュエルシードを出してもらうからね」
「転生して一日目、『やり直し』一度目でどうなってんだこれ。せめて日本国内でことを済ましてほしい。魔王討伐パーティーにしても俺いらないよね?」
「何言ってんだい? ほら、なかに入るよ」
「なんで俺連れてこられたの?」
「ジュエルシードを持ってたからに決まってるだろう?」
しまった、投げ捨てとけばよかったのか。
まぁ、連れてこられた以上
「その扉を開けておくれ」
「あいあい」
そうしてナニか大切なものを諦めた俺は扉を開くと――白衣を着た女性がいた。何やら眉間にシワを寄せ資料とにらめっこして、こちらに気づいていないようだ。
アルフは人の姿に変身すると、その女性がしかめっ面で睨み付けているデータを取り上げた。
俺は狼が人に変身した程度ではもう驚かないぞ、喋るし魔法使うし――嘘、内心ビビったけどナイスバディなので、そっちに意識が持っていかれた。だって男だもの。
「あら、アルフお帰りなさい。フェイトはどこかしら?」
「執務官にやられて今は気を失ってるよ、特に怪我は負ってな――」
「アルフちょっと出てくるわ。ええ、何すぐ帰ってくるわ。執務官ひとり灰にするくらい、どうということないわよ?」
「ちょいと待ちなプレシア、駄目だから。それよりそこに連れてきた男な」
「アイツが犯人ね、わかったわ」
察するに白衣の女性はプレシアといいフェイトの母、もしくは保護者的立場なのだろう。そして、まごうことなき親バカ。メチャメチャ睨まれてる、視線に物理作用があった今ごろ俺は串刺しになってるだろう。
突き刺さる殺意が意味もなく俺を襲う――!
「吹き飛びなさい――フォトンバレット」
《Photon Bullet》
「……えっ?」
「不味いッ! 避けな!」
そんな呑気なことを考えてる暇は無かった。ただの親バカどころではなかった。狂気的なまでの親バカであり、気がつけば――紫色の魔法弾が身体を貫いていたのだから。
▽▽▽▽
気がつくとベッドの上にいた……はて? 今まででベッドで寝た記憶がないのだが、どこからまた『やり直し』になったんだ?
あたりを見渡そうと横を向けば、某出現条件未確定な通り魔系魔法少女で有名なフェイトさんのお顔が。何故にいきなりエンカウント?
あれ、これ『やり直し』するほど、スタート条件がハードになるとかそういう感じなのか? 勘弁して欲しい、クソゲー・オブ・ザ・マイライフじゃねぇか。
「あ、目が覚めたんだね」
「あら、生きてたのね」
「プレシア縁起でもない……いや、ホントによく生きてたねアンタ」
ほっほう、ハードモードというか鬼とかルナティックなレベル。なんでLv.1の勇者を起こすのに、母親じゃなくて魔王自ら来てんのさ。別に勇者じゃないけど。
ん、いや“生きてたのね”?
「俺死んでない?」
「当たり前よ、いくら私でも非殺傷設定の初級魔法では殺せないわ」
「もう母さん! ご、ごめんね? 母さんが勘違いで……」
どうやら『やり直し』にはなってなかったようだ。それにしても非殺傷設定やら初級魔法やら……なんだそれ? 知らない単語が多すぎて意味がわからん。
「魔法を知らないですって?」
「説明プリーズ」
「はぁ、仕方ないわね。さっきのお詫び分程度に軽く説明してあげるわ」
そうして始まる、ようやく聞けたこの世界についての話。
けど難しかった、なんか数多くの世界があって管理局ってのが支配というか統治してるらしいことはわかった。
で、その管理局が統治してる世界には魔法の文化が発展してて、クリーンでエコな力ってのが売り。さらにはデバイスという機械を使用して魔法を行使すれば、魔法に必要な演算などが楽チンに出来ると――もうなんか発展した科学みたいなものと理解した。
そして何故魔法で貫かれた俺が生きていたのか。それは魔法を行使するときには“殺傷設定”と“非殺傷設定”ってのがあるらしい。両者読んで字の如く。
非殺傷設定は怪我させることなく相手を無力化させることも可能らしく、スポーツなどで魔法を使うときはこの設定でやるそうな。
大雑把にだけど世界観を把握できた。
「なんだい魔法を知らないのかい? ならあの暴走しかけのジュエルシードはどうしたんだい」
「ちょいとお待ちを――っと、あったあった。はい」
「え? あ、ありがとう」
四次元空間から出したジュエルシードをフェイトに渡す。今回も光は収まっていた。
もともとあげる予定だったし、むしろ貰って欲しい、出来れば買い取って欲しい。現在ぶっちぎりの死亡原因な気がするし。
「待ちなさい、今のはなにかしら?」
「四次元空間、所有物が何でも上限なく仕舞えます。一家に一台あると便利。光輝いていたジュエルシードの光だって収めれます」
「じゃあ貴方の所有物は全てそこに入れてるのかしら?」
「残念! 金なし、家なし、戸籍なし! とどめに記憶なしな自分には財なんてひとつもない!」
「記憶も戸籍もない? あの世界に? あなた次元漂流者……?」
「なにそれ」
プレシア先生の追加講義が始まった。世界と世界の間は次元空間と呼ばれてるらしいが、何らかの事故かに巻き込まれそこを漂って別世界に漂流した人のことらしい。
まぁ、ぶっちゃけ転生しただけなんだけど似たようなものだし次元漂流者ってことにしよう。
「へぇ、じゃあ次元漂流者で」
「あなた名前は?」
「名も無し」
「じゃあナナシって呼ぶわね、ナナシちょっと四次元空間開きなさい。それを上手く使えば何とかなるかもしれないのよ」
「何が?」
名前がナナシになった。異論はない、ジョン・ドゥとかでもカッコ良さげだけど。
そして急かされるままに四次元空間を開くが――四次元空間にデバイスを向けられフォトンバレットを撃ち込まれた。
「ジッとしてなさい、フォトンバレット」
《Photon Bullet》
「ひぃっ!?」
が、しかし特にダメージもなくフォトンバレットは四次元空間に消えていく。
「フォトンバレットが消えた。いえ、恐らくなかに入っていっただけね……ならジュエルシードが暴走しかけた状態で入れたものを時間がたてば戻っていたのは、違うわそれじゃ――」
そしてそれを見てブツブツ言い始めたプレシアさん、ちょい怖い。フェイト、アルフを見れば苦笑してる。
「ごめんね、母さんこうなると中々戻らないから……ご飯食べる?」
「ぜひ、何でも食べます」
「あんたあたし達に会うまで無一文でどうしてたんだい?」
「ちょうどあの日に漂流したっぽいから、特にどうも……漂流して当日にこれだけの騒動に巻き込まれたのは運が良かったのか悪かったのか」
色々差し引いても、飯にありつけるので良かったとしよう。そうじゃなきゃ雑草でも食べてた……うん、食べてたな。
飯を食いながら気になることをいくつか聞いてみた。
アルフは狼か人か――狼でフェイトの使い魔とのこと。
俺も魔法を使えるのか――微弱ながら魔力は感じたので恐らく使えるらしい。
夢が広がった、魔法で飯を出したい……出せないらしい。なら魔法で大道芸でもして……魔法文化の無い地での魔法の行使は犯罪らしい。夢が萎んだ。
「ご馳走さま、ジュエルシードは何で集めてんの?」
「えっと……それは」
フェイトが解答に詰まった、言えないことなら別にいいんだけどね。ただの好奇心だし。そう思い伝えようとしたところ――ドアが弾けとんだ。
もちろん現れたのはプレシアさん、目がギンギラギンで完全に捕食者の
「もう一度、もう一度四次元空間を開きなさい。なるべく、貴方から、離れたところに、よ」
「あっ、ハイ」
忠告が一言ずつ区切って、捩じ込むかのような気迫で言われたので、目一杯距離をあけておく。おお、結構離れたところに開けた。
これでどうだとばかりにプレシアを見れば、ええ、やっぱりデバイスを構えてました。でも、ヤバい。何がヤバいってさっきの比じゃない
助けを求めてフェイトたちを見たら、焦った顔でこっちゃ来いと手招きしている。
「早くこっちに来て! シールド張るから!」
「バッカ……腰抜けて動けないッス」
「仕方ないねぇ!」
アルフがこっちに走ってきて拾ってくれた。そしてフェイトのところへ戻り二人が全力でシールドを張っている。
「バルディッシュ! ラウンドシールド!」
《Yes sir.Round Shield》
デバイスの声と共にシールドが張られ、更にアルフが張っているであろうオレンジのシールドが張られる。
その直後、チャージが終わったのか一瞬今まで空気中を走っていた紫電がなくなる。
「フルパワーで放つわよ、フォトンバースト――!」
《Photon Burst》
その魔法の余波で部屋のなかは蹂躙された。机や椅子は焼け散り、石で出来たであろう床も砕けた。ああ、高そうな花瓶が!
だが、たった今割れた高級そうな花瓶とは違いフェイトとアルフは必死に踏ん張って耐えきってくれた。ありがとう、間違いなく外にいたらミンチになってた……!
とんでもない魔法を目の当たりにしたからか、シールドを張ってくれていた二人は目を見開き驚いている。何故かこっちを見つつ。なんでさ、いきなり魔法をかました母を見ようよ。
「なっ、ナナシ! 何をしたの!?」
「え、何も?」
「なにもしてないわけあるかい! プレシアのフォトンバーストのフルパワーっていったらこんなもので済むわけないだろ!?」
「そうだよ! 建物の半分は無くなってるよ!」
「ナニソレ怖い」
プレシアさんはデバイスを片手にポンポンと軽く叩きつけながら、部屋の惨状を……いや四次元空間を観察している。持ってるものが鉄パイプならまんまヤンキー。
「……成功ね。ねぇ、ナナシ」
「はい?」
「少し真面目な話をしていいかしら。いえ、お願いかしら」
「目の前のデバイスを下げていただけるならいくらでも、はい」
ヤダナー、あの魔法を見せつけたあとにデバイスを突きつけられて断れるわけ無いじゃないですかー。
――振り返ってフェイトたちを見れば、フェイトは顔の前で手を合わせてお願いかごめんかどっちかのポーズをしてた。どっちでもいいからデバイスを下げるように言ってお願い。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
プレシアはInnocent寄り的な意味で壊れてます、ごめんなさい。
四次元空間については勝手に考えました、重ねてごめんなさい。
名前決定、ナナシ。決して考えるのが面倒臭かったとかそんなことないです。