ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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40.六課へようこそ

 いったい何が悪かったのか。前日にアリシアとワクワク隣の六課突撃訪問の計画を練ったうえで今朝にはエリオやキャロへのお土産を購入した。そんな珍しく準備万端にしてしまったのがフラグだったのだろうか?

 

 事の発端はサプライズでちみっ子たちに会いたいのでこっそりと六課にお邪魔した次の瞬間、アラートが鳴り響いた。どう考えても隊舎のなかの空気が変わった、張りつめた肌を刺すような静寂。反射的に物陰に隠れたのはきっと間違いだったんだけど通路からはドタバタと足音が聞こえる。

 

「……ここまでしてサプライズでエリオとキャロに会うのを邪魔立てする気か」

「これはなんとしても見つからずに会うしかないね……!」

「ファンキーに行くぜ!」

「モンキー?」

「猿じゃねぇよ」

 

 そして引っ込みのつかなくなったバカ二人。遺憾なことに二人の辞書には《冷静》の二文字はなく改訂版が出る予定もないし、あらぬ方向へ駆け抜けていく思考にブレーキをかける者もいなかった。ついでにネジは外れて釘でも打ち込んで雷でも撃ち込まれたくらいに頭がパーだったけどやっぱり止めてくれる人はいなかった。

 ビッグボスさながら息を潜め通路が落ち着くのを待つ。残念ながら段ボールは見当たらない。

 

「監視カメラの目を潜って移動するよ」

「なのはたちや守護騎士の面々に見つかれば即終わりか……」

 

 冷や汗が頬を伝う。出来れば段ボールが欲しいがそれは見つかったらにすることにしよう。エリオとキャロ、通称エリキャロの居場所を探ることにするがなにぶん情報が無さすぎる。どうしたものか……メールで聞いてもいいけど仕事中だろうしな。二人とも真面目そうだし電源とか切ってそうだ。

 

「隊舎の方じゃない?」

「いや訓練場の可能性もある、あるんだが訓練場となると見晴らしがよすぎるな」

「なら隊舎から行こう、行くよビッグボス」

「ああ、影武者」

「影武者!? 私が影武者ならビッグボスはフェイトかな?」

「いや、もう間違いなくプレシアさんだろ」

 

 まあ潜入とかせず正面突破しそうだけどさ。いや、でもヒッソリ裏方ってのも案外合ってそうだな……裏ボス感が犇々(ひしひし)と漂ってきそう。ビッグというより真のラストに構えるボス。

 

「空気ダクトのなか通れないかな……いか、さすがに私ももう体格おっきくなっちゃったしなー」

「微塵も残念そうに見えない件について」

「いやー、そりゃ嬉しいよ。ちゃんと背も伸びてメリハリある身体になってきたんだし」

 

 たしかにここ最近で非常に成長したと思う、元からアレな中身はともかく。

 

「そのせいでダクトに尻が引っ掛かるとは……いいケツしてるせいで」

「引っ掛かってないし、むしろお尻は小ぶりだからね!? むしろナナシのお腹が心配だよー?」

「結果にコミットするから大丈夫」

「アイザック!」

「なんか違う」

 

 誰だよアイザック。いや、まあ本当にコミットする方もしてないし、腹は出てないから問題ないんだけど。

 

「あ、奥に扉があるよ」

「お……開く、ふっザル警備め」

「段ボール! 段ボール発見!」

「勝ったな、風呂入ってくる」

「勝利は私たちの手の上に……!」

 

 しかも大型の段ボールである。これは二人入れるし完璧だろ。さっそく中に入り移動開始だ。配置的に前が俺、後ろはアリシアでモゾモゾと動き始める。ちなみにだがコイツら20歳である。

 

「前方に人影、3秒後に停止……」

「了解」

「3、2、1――0」

 

 息を合わせピタッと停まる段ボール、前から駆けてくる青髪とオレンジ髪の少女たち。あ、魔導師Bランク昇格試験を受けていた子達だ。つまり見つかれば負ける、いや基本的に負ける以外の未来がないんだけどツヴァイあたりなら口八丁でなんとか出来そう。

 むしろガチ勝負で勝てるのって誰だ……近所のガキんちょくらいじゃなかろうか?

 

「ん、なんで段ボールがあるのかしら……?」

「ティアなにしてるのー? 早く行かないと! 侵入者だって!」

「スバル、この段ボール」

「はーやーくー!」

「ああもう、わかったわよ!」

 

 少し疑われつつも無事見つからず二人は去っていった。スバルナイス……! アリシアと共に汗を拭う。それにしても侵入者とは物騒な、是非とも頑張ってほしい。

 再び前進、目標エリキャロ。ゲームみたいにマップがほしい。

 

「ふぅ、危なかった」

「しかしこの段ボールを怪しむとはティアナって子はやるね……!」

「まったくだ、あのこの将来は有望だな……!」

 

 冷静に見たらどう見ても怪しいんだけどやっぱりツッコミを入れてくれる人はいなかった。

 

「隊舎到着、人影は見当たらないな」

「このまま訓練場へ移ど――ッ!? 後ろより人影……! 至急停止されたし!」

「了解」

 

 再び呼吸を抑え気配を消すように努める俺たち――俺たちは空気だ。ここには段ボールしかない、空気と一体となるのだ。

 

「んー? こんなとこに何がおいたるんや?」

 

 ――はやて……ッ! 部隊長自らお出ましとは熱い歓迎だと思うけどエリキャロに会うまで引っ込んでて欲しかった。ジーっと段ボールを見つめるはやてに眉ひとつ動かさず時が停まったかのように微動だにしない俺たち。

 

「なんや、段ボールか」

 

 そう言ったのは勿論はやて。クルリと踵を返し戻り行く姿に一息つこうとしたとき――フェイント、猛ダッシュで帰ってきた!?

 

「ってそないなわけあるかぁぁぁッ!」

 

 ゴールに向かってシュートを決めんとばかりにはやての黄金の右足が炸裂、見事段ボールが弾き飛ばされた。マズイ、瞬時にそう判断した俺たちは後ろに回り込んで首を極めてはやての意識を落とす――なんてこと出来ないよ? 仲良くバインドで捕獲されました。

 

「こんなところで奇遇だね!」

「よっす!」

「奇遇でもよっす、やないわ……侵入者がいたってアラートが鳴ってこっちは割りと真剣に焦っとったのに」

「おいおい、侵入者とは物騒だな。そんな警備で大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない……ってな。いや、そうやなくて侵入者はナナシ君とアリシアちゃんや!」

「侵入って失礼な! 私たちはアポなしでエリオとキャロに会うためこっそり来ただけだよ!」

「そうだそうだー、こっそり部隊に来ただけだー」

「それを侵入っていうんや!」

 

 カックリ肩を落としたはやてはそこらにヒョイヒョイと通話し事態の収集にあたってくれた。なんか、ごめん。

 

「あ、そうだはやて。プレシアさんから六課への協力についての返事を承ってるぞ」

「あぁ、ずっと返事なかったんや」

「零から十までの全権限を持たせてもらえるならやるって」

「それ遠回しに断ってへん?」

「いや、多分それ母さん大真面目だよ」

「しかも割りといい仕事すると思う。ただ指示を聞かないだけで」

「それが組織としては致命的なような気がするんやけどなぁ」

 

 少し悩む風に思案するはやて。しかし、まぁ全権限を持たせることは試験的なこの部隊では難しいようで結局話は無かったこととなった。はやては謝っといて欲しいと言うけどプレシアは全く気にしないだろう。あの人の名前で脳内メーカーしたら娘で埋め尽くされてたし、バグかな?

 

「さーて、二人はぶっちゃけアウトなことしたわけやけど。まぁ、ツヴァイのときに手伝ってもろうたりしたわけやし今回だけは私がなんとかしたる。二度はないで!」

「二度はない、つまり今度までセーフと」

「今回もアウトにしたろか」

「サーセン」

 

 やめて、夜天の書で頬っぺた叩かないで。おい、アリシアにやるとプレシアが怖いからって俺ばっかに子狸め――ごめんなさい火消しありがとうございます。

 

「さ、皆が集まってるし行くで」

「え、なんで?」

「今回のアラートは侵入者への対処がどれだけ出来るかっていう抜き打ちでのテストってことにしたるから、協力者として紹介だけな」

「了解、アリシア任せた」

「嫌だよ、ナナシ行ってきて」

「両方に決まってるやろ」

 

 身体強化したはやてにバインドでぐるぐる巻きにされたまま引きずられる俺たちだった。ドナドナってね、出荷よー。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「――ってなわけで今回の抜き打ちの侵入者への対処に協力してくれたこちらがナナシとアリシア・テスタロッサや」

「どうも、なかなかの動きだったようで何より」

「なんでナナシ君あんな偉そうなの……?」

「捕まらなかったから、かな?」

「ナナシのやつを見つけれなかったって割りと問題な気がするぞ」

 

 なのは、フェイト、ヴィータが何やら話してるけど見つからなかったのは段ボール様のおかげだ。あとスバルがアリシアを見ていかにも『ああ!?』って顔してるしティアナは俺たちに訝しげというか悩ましげな視線を向けてきていた。後々に知ったがいつかのリインとアリシアと出掛けたときに犯罪者を追っかけてたオレンジ頭なお兄さんの妹だった。そのときの話を聞いててもしやと思ったらしいが鋭すぎやしないか?

 

 その後なしくずし的に挨拶してエリキャロにお土産のお菓子をあげたのだがここで予想外な事態が起こった。なのはたちの部下のスバルとティアナにもあげたんだけど。

 

「エリオが食べるのは知ってたけどスバルも食べるんだねぇ……」

「キロ単位で買ったのにみるみる無くなっていくのは見てて面白いな」

「スバルがすみません……」

「いいよ、遠慮せずにどうぞどうぞ。スバルは私が作ったデバイス使ってくれてるし私としても嬉しいんだよね」

「あっ、ああ! そうでした! 母さんと同じ型のものをありがとうございます!」

 

 掃除機もかくやというほどの変わりない吸引力で食べていたスバルがガバッと顔を上げ、アリシアの方を向いて勢いよく話す。そうすると、

 

「ぎゃー!? お菓子のカスが飛んできたぁぁぁ!?」

「わぁぁぁ!? すっ、すみません!」

「スバル! まず食べてるものを処理してから喋りなさい!」

 

 飛散した食べ滓がアリシアに飛来して悲惨なことに。

 なんか大惨事になってるのを横目に眺めていると肩を叩かれた。振り返るとなのはがいた。

 

「ナナシくん、ナナシくん。私たちにはないのかな?」

「あぁ、はい」

「ありが……草と小石しか入ってないよ!?」

「デスクワークばかりで外の自然を見れてないかと思って、お腹のお肉大丈夫? プロテインがよかったか、コミットする?」

「外に出てるから! 皆の訓練とかで出てるからね!? 動いてるから!」

「でもなのはってウンチじゃん」

「そうだけど運動音痴をそう略すのやめて!」

 

 荒ぶるなのはを横目にエリキャロを確認すると美味しそうにお菓子を食べてて満足。まぁそのエリキャロをにへらぁ~っとした、見たことない顔で眺めるフェイトは見なかったことに――せずにエリキャロとまとめて写真に納めておく。

 帰ってからプレシアさんに見せたらデータを売るように脅された。

 

「それにしてもプレシアさん呼ぶくらいだから切羽詰まってると思ってたけどかなり余裕ありそうじゃん。なのはにしごかれてる部下の子たちもいい子っぽいし」

「皆いい子だよ、それぞれ個性もあってそれに合ったように教えるのはやりがいもあるし」

「なら俺の個性に合った教導プランたてて」

「ナナシくんの個性……より癖に合わせてたらプランたてれそうにないよ」

 

 こやつめ本当に困った顔で言いおる。いや真剣に考え始めなくていいから。魔導師ランクおよび魔力ランクともにEかつ素行が良くない生徒の仮定とかいらねぇよ、バッサリ才能ないって言ってやれ。やる気のない素行が悪い奴にはディバインバスターだ。

 

「撃たないからね?」

「頭冷やさせるためにちょっとくらい、先っちょ先っちょだけ」

「なんの先っちょ!?」

「それはそうとなのはのディバインバスターとかをフェイトのザンバーみたいに出来たらカッコいいよな」

「話があっちこっち行くよぅ……」

「ディバインザンバーとか、なのはの得意な収束で刃みたいに薄くして速度を上げたうえで斬りつけた瞬間爆発とか」

「あれ、ちょっと真面目な話に変わってる?」

「あ、フェイトとネタが被りそうだしやっぱりなしで」

「ネタってなに!? てかやっぱり真面目な話じゃなかったよ!」

 

 俺が真面目な話とかそうそうするわけないじゃん。ほらなのはも菓子食べろよ。あそこに山ほど……山ほどないな。

 

「エリオとスバルが食べちゃったね」

「ならほれ、飴やる」

「ありがとう」

「私もくださーい!」

「ふぺっ」

 

 顔になにか張りついたと思ったらツヴァイか。遅れてリインもやって来た。

 

「ナナシさん! 実際既に横で惨事が起きてる、ナナシさんたちのグダグダ感に賛辞を送るため、午後三時のおやつの時間馳せ参じました!」

「さて、何回サンジって言ったでしょう……はい、なのは」

「わ、私? よ、四回?」

「外れ、まぁ、それはいい……ナナシ、私にも飴を」

「私にもいただきたく!」

 

 あれ、四回じゃなかったっけ? と首を捻るなのはを置いておきリインたちにも飴を渡す。あと五回言ったね。

 ツヴァイはどう食べるのか、フルフレームになるのかと思ったらリインが指先でつまみ潰して程よいサイズにしてた。何故か角のないものに仕上がってるし。力業なくせに匠の業だ。

 

 その後はなのはやリインとツヴァイと茶を啜りつつ駄弁っていた。リインは興味のある人に白兵戦、魔法なしの格闘を教えてるそうな……なのはも習ったら? 涙目で首を横に全力で振られた。

 




新年早々ここまで読んでくださった方に感謝を。
明けましておめでとうございます。1月1日ですが新年なんて無視して進みます。

どうでもいい不確かな情報:きっとアリシア20歳(16歳)はきっとフェイトほど胸があるわけでもないけどそれなりにあってスレンダーに伸長が伸びてきている。

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