プレシアが陸の話し合いから帰宅した。どうにかレジアスさんとの話し合いは落ち着いたようで、いや何故か落ち着いたようでプレシアは陸の防衛強化に協力するらしい。
「なんで話まとまってるんだ……? 全権限プレシアさんに握らせるとかレジアスさんってば、ついに疲労度が突き抜けて判断力が狂ったか」
「失礼ね、焼き焦がすわよ。ただ開発の権限は私、開発するものの採用不採用はあの髭ダルマが決めることになったのよ」
「陸のトップになんて言いぐさだ」
「ならクマね」
「っぽいのは否定しない」
「でしょう?」
人材不足な陸に、目の前の優秀すぎるともいえるこの人は、まさしく喉から手が出るほど欲しかったんだろう。ただ、プレシアの出す条件も飲み込みがたく、レジアスさんが粘りに粘った結果そういうことになったそうな。
「あぁ、あと貴方たちも手伝いなさい。人材が足りないどころか人手も少ないのよ、あそこ。アリシアだけ選択権があるわ」
「んー、どうしようかな……」
「待て、なんで俺には拒否権がないんだよ」
「あなたは基本的に暇でしょ」
「暇そうに見えるかもしれんが仕事とかしてるんよ? 割りと暇だけど」
「じゃあ私も行こっかな、ただ海鳴の方に置いてる機材だけ回収しときたいけど」
そういや色々置いたままか。今日もアニマルなガジェット解体するのにないものもあった。あちらの警察に家宅捜索されたらヤバい系の工具とか色々。
「ナナシ、あなた便利な倉庫なのだから入れときなさいよ」
「俺は倉庫じゃねぇよ、いや工具はアリシアも使うし入れてると困ることもあるんだよ」
「なら仕方ないわね。明日にでも取ってきなさい」
「そのまま地球に逃げていい? 一定期間とはいえ定職は落ち着かん」
我ながら駄目人間な自覚はあるんだけど、どうにも今の生活に慣れるといかんね。
「アリシアも連れていくつもりなら、久々に張り切ってしまうかもしれないわね」
デバイスが鞭型に変型する。え、なにその機能……ああ、アームドデバイスから応用して可変式に。ふぅん、取り敢えず仕舞ってくれない? いや、違うから。鞭の舞いを見せてほしいわけじゃないし、舞うことになるの俺だろ、わかってんだぞ。
「ナナシ、逃避行しようか」
「やめろ、誘うようにみせかけて殺しにかかってくるな! 行く、行くから!」
「逃避行に?」
「違っ、プレシアさんタンマ――」
▽▽▽▽
昨晩のグラタンは美味しかったナァ。前日の徹夜のせいか、実は昨日の記憶が途切れ途切れだったりする。
おぼつかない足取りで歩いてたのだろうか。どこかにぶつかったのか身体の各所が痛かったり、現在海鳴のテスタロッサ家にいるのだがここにどうやって来ただろうか。いまいち記憶がハッキリとしない。
一番気になるのはアリシアが目を合わせないことなんだが……俺なにかしちゃったか?
「なぁ、アリシ」
「あっ、そうだナナシ! 久々に海鳴に来たんだから少しサンボでもしようよ!」
「なんで
なのはに次いで運動音痴なくせしてなに言ってんだ。リインに稽古づけてもらってから出直して来ればいいと思う。
「よぅし、なら散歩しよ! 一日一歩、三日で」
「サンボ」
「三日で格闘技にまで昇華された……!?」
「一歩で格闘技と言うならボクシングな気もするけどな」
「リインは極めたらしいよ」
らしいね、綺麗な∞描いて身体揺すってたよ。シグナムに模擬戦誘われた瞬間に逃走してたけど、足腰も鍛えたらしい……ユニゾンデバイスって筋トレで筋力上がるの? 魔力も上がることはあるらしいし、上がらないことはないか。
「てか昨日のことなんだが」
「さってっとー、荷物も片したし外行こっかな。ほらお昼ご飯とか食べたいじゃん?」
手を取られ、半ば引きずられるように外へと連れていかれる。なぁ、なんか話そらそうとしてないか? 下手くそな口笛吹くなよ、掠れてんぞ。
結局、昨日のことは聞けなかった。別にいいんだけどね、アリシアが言わないなら聞かなくていいことだろうし。
「そーそー、世の中知らない方がいいことだってあるんだよ」
「その知らない方がいいことが、我が身に振りかかったと思うとゾッとするんだが」
「まぁ、雷は振りかかったというか落ちたって」
「オーケー、なにも聞かない」
何となく察した。この身体に痛みがあるわりに節々の凝りが取れてる原因はわかった。詳細を知る必要は、ない。
そうして、アリシアに手を引かれつつ歩いてると背後より声をかけられた。声をかけられた、のは良いのだが地球に知り合いはほとんどいない。さらに言えば、呼び掛けられた名前が俺たちのどちらにも当てはまらない。しかし、よく聞く名前で呼ばれた。
「フェイトじゃない、早かったわね!」
「フェイトちゃん、久しぶり……あれ?」
振り返ると、うん全く知らない女性が二名。まぁ、事情はおおかた察せるよな。アリシアとフェイトを間違えたんだろうし、つまりフェイトの地球の友達ってことだろう。今、俺たちにゃ地球には友達いないし、泣いてないし。
「どうしたのよ、フェ……ん? もしかして、フェイトじゃなかったかしら……?」
「さーて、たぶんフェイトのお友達なんだろうけど視線を胸部に下げてから判断した理由を言ってみようか? ん、ほらお姉さんに言ってみなさい」
金髪ショートの子がテスタロッサ姉妹の一番見分けやすい部分で判断したせいで、微妙にコンプレックスなアリシアが怒筋を浮かべる。
「どうどう、落ち着けアリシア。事実として負けてるだろう」
「アリサちゃんも失礼だよ。ほら、謝って」
「そうね……胸の大きさで判断してごめんなさい」
「謝られたはずなのに、私の心がズダボロなんだけど!?」
じゃあ、どうしろってんだ。それに小さいわけでもなかろうに贅沢いうなよ。スラリとした綺麗なモデル体型、なにが不満なんだ。世の中の真のナイムネに謝れ。
「わかってるんだけど、母さんとフェイトに挟まれたときになんか悲しい……」
「見事な凹凸になるな」
「凹んではないから!」
「虚乳」
「母さんたちが巨乳なだけにね! って誰が虚ろな乳かぁ!」
「あ、あの少しいいですか……?」
覚えてないけど、全くもって全然さっぱり覚えてないけど昨日の復讐がてらに、アリシアを弄ってると声をかけられ……あ、すっかり忘れてた。金髪の子は呆れた目で、紫がかった髪の子には心配そうな目で見られていた。フハハ、そういう目で見られるのは慣れてるからなんとも思わんぜ。
さて、改めるまでもなく一回目の自己紹介。我ながら自己紹介をする前に相手の名前を知ることが多い気もするが仕方ない、無駄話が多いんだから。
「えっと月村すずかにアリサ・バニングスだね。私はアリシア・テスタロッサ、こっちはナナシ。フェイトの、お姉さん、です! だからアリサはいい加減胸から視線外そうか? 胸のサイズで年齢を判断するなー!」
「そんなことしてナイワヨ?」
「カタコトなんだけど? ……私よか小さそうなのに」
「なっ、なん――」
「ナイムネェェェ!」
「じゃないわよ! あるわよ!」
あらあらすっかり仲良くなっちゃってと眺めつつ、隣で『しょうがないなぁ』と言わんばかりの苦笑を浮かべてる月村へ挨拶をかましておく。
「どうも、フェイトがお世話になってます」
「あ、はい。こちらこそです……ナナシさんはフェイトちゃんのお兄さんですか?」
「んんー? いや、違うけど。テスタロッサ家の居候で候う」
金髪二名の胸がないわけじゃない、程よいサイズに保つことによって全体的なラインを美しく云々と話してるのをBGMに月村と世間話。
話していくと、なんと魔法文化について知っているらしく、話はそちらへスライド。どうやら闇の書事件のときに軽く巻き込まれたらしい。最終決戦的なあれのときに結界内に取り残されてたとか。
魔法なんて驚かなかったのか聞いてみると、やっぱり初めは驚いたようだ。
しかし、普通じゃないことが普通なことは知ってるので、普通に受け入れられたとかなんとか。普通と言う言葉のゲシュタルト崩壊を起こして、よくわからんかった。
ツイン金髪はまだ胸の話してる。
「へぇ、今日なのはとその愉快な部下たちも
「はい、お仕事で来るみたいなんですけど」
「ふぅーん……」
なのはたちの仕事と言えばロストロギア関係か?
……正直ロストロギアには、嫌な思い出があるので是非とも頑張ってほしい。今回ばかりは邪魔しないでおこう、そうしよう。ダブルゴールデンはまだ胸の話してる……
「あの、なのはちゃんにフェイトちゃん、はやてちゃんたちは元気ですか?」
「どこかの顔を変えたばかりのアンパン野郎の百倍は元気。なのはは部下を訓練で千切っては投げ、フェイトはジワジワ親バカの気が染みだし、はやては社会の荒波に揉まれて腹が黒くなって……皆、立派に働いてるぞ?」
「あ、アハハ……それなら安心かな?」
後日、三人に怒られたなんて事実は知らない。
まぁそんな感じで少し話してたりもしたのだが、時間もいい頃合い。いい加減に腹の虫が鳴り出しそうだったので話を切り上げる。
「ほれ、そろそろ飯食いにくぞ」
「つまり私は美乳の正義なんだよ!」
まだその話続けてたのか。
「あー、うんうん。アリシアさんチョースタイルいいし美っじーん! 並みの男なら
「フッフッフー、照れるなぁ! なんかイチコロが物騒な気するけど!」
まぁ、一撃必殺だろ。きっと空腹で頭の回りがよくないのだ、昨日のグラタンから食べた覚えないし……意識すると余計に空腹感が増す。人間、マイナスな状態を知覚してから意識するとドンドン駄目な方にいくよね。
「さて……そろそろいい? 飯行こうぜ、腹減ったんだって」
「急に素のテンションに戻られると、私が恥ずかしいんだけど?」
「恥も外聞も捨てた内容を話しといて何を今さら」
「そいつたちは置いてきたよ、足手まといになるからね」
「ギョウザのことかぁぁぁ!」
「あ、いいね。お昼ラーメン食べない?」
悪くない。お昼ご飯が決定したので、二人に別れを告げようとすればバニングスが頭を抱えている。どうやら白昼堂々と胸について語ったことに葛藤があるらしい。
「うぅぅぅ、あたしとしたことが……!」
「気を取り直せってバニングス、きっといいことあるから」
「励まし方が適当すぎるわよっ!」
「そういやハゲの人に励ますって言葉遊び的に、遠回しな嫌がらせだと思わないか? だってハゲ増す、だし……なぁ?」
「そんなこと知らないわよ!? あたしじゃなくってハゲに聞きなさい!」
ムキーッ! とさっきまでの落ち込み具合はどこへやら。キレの良いツッコミを入れてくるバニングス、きっと友人にボケる人間がいたせいだろう。主にはやてとか、はやてとか、はやてとか。
「じゃ、今度こそこれで」
「縁が合えばまた会おうねぇー」
「はぁ……えぇ、じゃあまた」
「お話ありがとうございました」
そうして月村とバニングスと別れた俺たち。お昼を適当なラーメン店で済ませ帰路につく。そこでスライムとすれ違った。あ、丁寧にお辞儀までどうもどうも。
「あっ……!」
「ん、どうした?」
「いやぁ、どうせご飯食べるならなのはの実家の翠屋行けばよかったかなーって思って」
「そういや喫茶店だったな……ま、それは今度の機会にでも」
なにはともあれ、久々の地球だったけどあれだな。ミッドとあんま変わらんかった。こっちでも基本的に室内にいること多かったし、懐かしさがあんまりなくて物悲しいな。
「えぇ、なんか思い出ないの?」
「そう言われてもな……おっ、そこの公園ならあるぞ」
「お、聞かせてよ」
「お宅の妹にジュエルシードのカツアゲされて、なのはVSフェイトの戦いに巻き込まれた」
「その節はご迷惑お掛けしました!」
「ま、そのお陰で今があるようなもんだから気にしてないけど」
「ふふん、フェイトに感謝するべし!」
「鮮やかすぎる手のひら返し」
あー、あそこの路地は一回目に襲われた……止めよ。
ちょっとトラウマ的な黒歴史っぽい何かが掘り起こされた。過去の俺は倉庫でなにするつもりだったんだろうか……
今日は楽し痛し痒しな地球帰りとなった。明日からは非常勤的な立場で定職に……いっやだなー!
ここまで読んでくださった方に感謝を。
最近忙しく、投稿ペースがじわじわと遅れるこの頃。2月に限れば丸々投稿できないやもしれません、3月には戻りますが。そこら辺の旨は活動報告にてちょくちょく書くかと思います。書いてます。
胸:普通にある方、周りが大きい
ギョウザ:もしかして、チャオズ
スライム:お辞儀をする丁寧さ
あそこの路地:世界滅亡