ジェイル・スカリエッティは管理局の歴史に名を残す。
――歴代史上最高のアホだと。
その日の明け方にひとつの山が消えた。その山があった場所より飛翔したのは聖王のゆりかご。
古代ベルカの聖王が所持していた超大型質量兵器であり、数kmもある空中戦艦。それが聖王のゆりかごである。
聖王の一族はこの中で生まれ、育ち、死んでいったことから“ゆりかご”の名が付いたと言われている。中で一生を過ごしてたのに何でそれが外に伝わってるんだとかそんなことは知ったこっちゃない。きっと誰かが突撃! 隣のゆりかご、とかでもかましたのではないだろうか。
かつて聖王の下、世界をぶっ壊しちゃったり、ちょちょいっと大規模次元震を起こしたこともあるといわれるマジでヤバい代物だ。だから大規模次元震を起こしたのに誰が見て生き残って、記録を残したのかとか聞かれても知らない。
――ということが無限書庫の司書長たるフェレット擬きもとい、ユーノきゅんが久々の休日に出勤させられ口から呪詛吐きつつ調べ報告してきた内容である。彼の休日はまだ遠い。
起動には本来“鍵の聖王”が必要だが、ちょっと頭のネジがフライアウェイしちゃってるジェイル・スカリエッティはこれの裏をつく。聖王の遺伝子より作られた少女――ヴィヴィオにレリックで作った玩具を渡すことにより鍵の代用とし、元聖王のゆりかごを起動させた。
そう、
新暦75年9月19日、今日飛翔したのは観覧車が見えるわ、破壊兵器の象徴たる砲身から色とりどりの花火をあげてるわなんだこれ。極めつけにはライトアップされたファンシーなお城が見え○ッキーパレードのような曲を鳴らす夢の国のような、飛行型遊園地――ドキ☆空飛ぶスカリエッティパークだ。
「あかぁぁぁぁん! スカリエッティそれアウトやぁぁぁ! 緊急召集や、皆アレ落としに行くで!」
「スカさんそれヤバいやつ! ヤバいやつだからな! ねずみカンパニーに消されるぞ……!? 行くっきゃないな! アリシア40秒で支度しな!」
とは地球生まれの転生野郎や地球暮らししていた新部隊の隊長が見た瞬間に叫んだ証言である。大方察せる人は見たときに察したのだろうが、残念ミッドでわかる人間はほとんどいなかったようだ。
そんなこんな紆余曲折を経て、ミッドチルダ犯罪歴史上、最もアホな一日の始まりとなったのであった。
▽▽▽▽
朝早くから二件のメールが届いていた。
一件はスカさんからの招待状、ネズミはいないので安心して来てくれたまえとか書いてた。なんでスカさんが例の奴を知ってるのかは知らない。
もう一件ははやてから。アレに行ったらあんからな、絶対にあかんからな! とか書いてた、フリですねわかります。40秒で支度した。
「聖王のゆりかごって元々古代ベルカのオーバーテクノロジーが詰め込まれた、変態レベルの兵器だったのにどうしてああなった」
「変態たるスカさんが改造したからじゃね? 古代の変態と近代の変態、奇跡のコラボレーション」
「変態同士惹かれあっちゃったかぁ……駄目だ、リインに繋がらないや。通信切ってるみたい」
というわけで、某部隊長さんのご期待に沿えてスカさんパークを目指してるわけだが、残念ながらリインには通信が繋がらないようだ。
まぁ、正直六課の皆もスカさんパークに行くんだろうしそのうち会えるんじゃないかな。とかそんなこと考えてるうちに目前に見えてきた。あとはコッソリ飛行魔法を使って入るだけなんだけど、とにかくデカいな。
アリシアと手を繋ぎ、ちょっと試してみる。
「「バ□ス!」」
……………………うん。
「……落ちないか」
「ガッカリだよ! まぁ、これで落ちてたら大惨事だったんだけどね」
と噂をすればなんとやらなのか、ちょうど元聖王のゆりかごの下にリインとツヴァイが待ち構えていた。
「ここで会ったが百年目です! マイスターはやての命によりナナシさんたちは行かせません! ここを通りたくば、私たちリイン姉妹を倒していくことです!」
「と、いうこと。お前たちなら、絶対に来るので……止めろと言われた」
「いやいや、リインにツヴァイったら困っちゃうなぁ。本気で私たちが戦ったら勝てるわけないじゃん」
俺たちがな。開始直後に返り血まみれになるくらいの覚悟をしてからかかってくることだな。
ひとつだけ言っておくが、皆が考えているより俺たちは――遥かに弱い!
ぶっちゃけこの頃は軽い訓練も全くしてません! たぶん、二人もいらない。リインかツヴァイのどちらかだけで余力を十二分に残して俺たちを倒せるから。俺たちの実力なめるなよ?
ただ楽しそうなのでやっぱり言わないことにしておき、流れにノッておく。
「お二人は肉弾戦派なお姉ちゃんより、ぶっちぎりのミソッカス魔力ということはリサーチ済みなのですよ! そんなハッタリはツヴァイには通用しないです!」
「フッフッフ、確かにその通りだ。けどリインやツヴァイのボディを作ったのは俺たちということを忘れていないかな?」
「まっ、まさか! 背中に強制終了のボタンがついてるとかですか!?」
「それだと寝る度に強制終了されてしまう件について」
「ハッ!? 私の寝付きがよい理由は……!」
「まぁそんなもの付けてないんだけど」
「はやとちりしてしまいました!」
顔に手をピシャッと当ててヤッチマッタゼ、と言わんばかりのリアクションのツヴァイ。キャッチし胸ポケットに入れる。よし、ツヴァイゲットだぜ。
「これで三対一だ、リイン!」
「あれっ、いつの間にか味方に数えられちゃってます!?」
「む……でも、止めるように努めるよ。頑張る」
「リインの意思は固いようだね……仕方ないなぁ、じゃあ戦う前に握手を」
「……うん? 別に、いいけど」
ロクなこと考えてない爽やかスマイル(0円)を浮かべたアリシアがリインと握手をし――目の奥がキュッピーン! と輝いた。
「かかったね! ユニゾンイィィィン!」
「あっ……」
リインの姿が消え、アリシアが変身。普段は爛々と煌めく金髪が透き通るかのような銀と見間違えるほどに薄くなり、紅い瞳は翡翠色へと変わった。まるで魔法少女みたいだ……肉体年齢的にギリギリ魔法少女かね?
「きゃー!? お姉ちゃんが食べられたのです!?」
「ユニゾンインだから、アリシアそんな雑食じゃないから」
「なんと、私もユニゾンデバイスなのにうっかりです! アリシアさんがバリバリの肉食系女子かと思ってしまいました!」
「俺に任せろバリバリー」
「やめてください!」
変身後のアリシアがノリだけでポーズ的な何かを決めている。口でシャキーンとか言うなし。けどまぁ、人のデバイスは弄るわりに自分たちではあまり使ってなかったので、アリシアのバリアジャケットを見るのも久しぶりだな。
「フッハッハッハ! ユニゾン解除されるまでにゆりかごに突撃だー!」
ユニゾンしたアリシアにお姫様抱っこされる。いやん、パワフル。そのまま招待状に描いてある地図を見つつ元聖王のゆりかごに入る。本来はAMFとか全体的に張ってるらしいんだけど、今はオフっぽいな。
丁寧に抱っこ状態から降ろしてもらう。ふぅ、到着到着。パッと見の内装はもう完全に遊園地で兵器の面影もない。
「ユニゾン解除。ふぅっ、ちかれたー」
「不覚、いっぱい喰わされた……」
「ふふふ、そしてリインたちはここに来させないように言われてるだけで、ここに来てしまった場合の指示は受けてない! つまり!」
「もう俺たちの進行を阻むものはいないのだ!」
「とんだトンチなのです!?」
「なら、仕方ないな……どこから回ろうか?」
「お姉ちゃんも案外ノリノリですか! ならばリインも楽しみましょう! ほらナナシさん、あそこに案内板が!」
ツヴァイの指差す先を見れば案内板というより、こっちに進めと言う感じの矢印マークが続いていた。ふーん。
「なら反対に進むか」
「よーし、ワクワクしてきたよ!」
「あっ、なんとなくはやてちゃんが止めるように言った理由がわかりました」
「平常、運転」
さぁ、出発だ。おーいアリシア、ヒャッホゥ未知の技術だじゃないから、壁からひっぺがすなひっぺがすな! ん、金になる……?
うん、ちょっとぐらいいんじゃないかな、リイン手伝っておくれ。ここは俺に任せろ、バリバリ。
▽▽▽▽
ホラーハウス。指示板に従って進んでいた、私たちが入ったのはそう命名された屋敷のなかだった。
うん、ホラー。怖いんだろうと思って入ったんだよ、たしかに雰囲気もあったし。それに遊園地みたいな見た目とは言え、超大型質量兵器とされる聖王のゆりかご。警戒心も持って入ったのに……! 入ったのにぃぃぃ!
「バスタァァァー! バスタァァァァァァ! バスタァァァァァァァァァァァ!」
「な、なのは落ち着いて! 空間モニターだからいくら撃っても消えないよ!?」
私たちがホラーハウスの中に入ると不意に空中投影型のディスプレイが出現し――いつかのアニマル型ガジェットに揉みくちゃにされる私や、国語に苦しむ私が映された。映像は延々とループしている。
とんだホラーだよ!? たしかに恐ろしいものだけど! ものだけどさ! そもそもなんで国語で大変な私の姿まで……!
消えない映像を私の全力全開のバスターでどうにか消そうとしていると、新たなディスプレイが現れ――エリオとキャロのアルバムを眺め、緩みきった表情をしてるフェイトちゃんが映「ザンバァァァー!」真っ二つになった、ワザマエ。
「なんであんな映像あるの!?」
「バスタァァァー! わ、私にもわからな……あっ」
国語に四苦八苦する私の映像とフェイトちゃんの映像の下には小さく、本当に小さく――提供者ナナシ&アリシアと書かれていた。
「ナナシくんなにしてるの!?」
「お姉ちゃん……!」
あっ、あの二人はほんとにもう! 著作……じゃなくて肖像権の侵害で訴えちゃうよ!? あ、でもそうするとこの映像が……こ、今度は許さないからね!
本人からのコメント欄には『これをバネに魔法だけじゃなくて日本語も頑張ってほしい』とか『この頃お姉ちゃんは妹の新たな一面を見つけてちょっぴり不安です』とか書いてるし! 私こっち来てからも頑張ってるからね!?
「うぅ、母さんからの遺伝かなぁ……でも取り敢えずなのは」
フェイトちゃんと顔を合わせ力強く頷きあう。なにはともあれ先ずやることはひとつだね。カートリッジのマガジンを取り出しセット。
「「このホラーハウスを正面から」」
「撃ち抜く!」
「ぶった斬る!」
レイジングハートとバルディッシュを構えカートリッジリロード。薬莢を弾き出し魔力を集束……!
「なのは、中距離殲滅コンビネーションいくよ!」
「うん、全力全開!」
「疾風迅雷!」
「「ブラストシュゥゥゥゥト!」」
《Blast Calamity》
この後、ゆりかご全体に震度三くらいの揺れがあったみたいだけど私たちはなにも知らない。知らないったら知らないのだ。
――聖王のゆりかご、5%ロスト。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
はい、お姫様抱っこなイベントですよ。神様転生オリ主らしいですね……え、なんか違う?
さて、唐突ながら申し訳ありません。明日から2月に入るのですが、以前より活動報告で言っていた通り、割りと忙しく投稿が出来ない可能性が濃厚です。また詳しいことは活動報告にて記載しておこうかと思います。きっと、記載してるはずです。改めて申し訳ない。
ps.きっと4月頃には完結。