ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

5 / 56
05.ミソッカス魔力の無限容量ゴミ箱

 昔々、一児の母は魔導工学の研究開発者であったそうな。

 その母は『新型の大型魔力駆動炉開発』の設計主任に任命される。だが、問題の多い前任者からの引継ぎ、上層部の勝手で厳しくなるスケジュール。必然的に上層部に嫌気が差しやめていくチームスタッフたちの事後処理に追いたてられる日々だった。

 そしてその母の人生を狂わせる決定的な出来事が起きた。上層部が自分達の都合で出した決定の末に行われた実験により『駆動炉の暴走・エネルギー漏れ』が起こってしまう。ただ母を含むスタッフたちは結界に守られ無事助かった。スタッフたちは、である。

 

 ――それだけならば、よかったのだ。それだけならば。しかし、その日に母の娘アリシアがその施設に来ており事故当時――結界の外にいたのだ。結果、アリシアは事実上の死に至り母は奇跡を求めた。なまじ天才であるだけ願い求めるだけでなく己で探し求めた。

 

 狂ったかのように娘を生き返らせる方法を探し求めた。そのうちのひとつの方法、記憶を転写したクローンによる蘇生でない別の方法を試み上手くいかなかったこともある。

 そして今、ようやく辿り着いた方法が、願いを叶えるロストロギア『ジュエルシード』を応用した蘇生である。

 だからプレシアたちはジュエルシードを集めている。

 

 

「ってまとめれば、こんなとこね。ただ昔々ってほど昔々じゃないわ」

「……これ、ポッとでの俺が聞いていいような話じゃないなぁ。聞かされたとはいえ、気軽に聞いてしまって気が重い」

「そうよ、だから口外したら今度こそ殺してしまうかもしれないわ」

「するわけない、人様の身内事情なんて言いふらして何が楽しいんだか。で、これだけ話してお願いって何?」

「蘇生には、貴方みたいに活きの良い生きた人間の心臓が――」

「助けてくれぇぇぇぇぇ!」

「冗談よ」

 

 出会い頭で魔法ぶっぱなしてきた人間がいうと冗談に聞こえんからやめて欲しい……で、ホントのとこは? 心臓じゃなくて脳がいるとか言うなよな、今度こそチビるからな!

 

「あなたのレアスキル、四次元空間の力を借りたいの。報酬を求めるなら可能な限り支払うわ」

「いいよ、三食寝床つきで引き受けた」

「安っ、早っ!? 母さん詳細なにもまだ話してないよ!?」

「あれだけの話を聞かされて断るなんてこと道徳の塊と噂されてる俺には無理だった……という表向きな理由は取っ払って飯と寝床が死活問題。イエス、ギブ&テイク! あと四次元空間くらいなんに使ってもいいよ」

「無欲……なわけではないわね、顔に真剣に死活問題って出てるし。ま、あなた人の良さそうな幸薄い顔してるから断らないとは思ってたけれど」

「幸薄いの言わなくてよくない?」

 

 たしかに、ないない尽くしで転生して一回たぶん死んで色々幸薄い感じするけどさ。

 して、手伝いってなにするんだろう。四次元空間なんて物仕舞うくらいしか出来ないんだけど、まさかそれだけであそこまで話さないだろう。

 

「ナナシ、あなた暴走しかけていたジュエルシードを四次元空間に放り込んでいたでしょう?」

「え、ああ、熱かったんで。まずかった?」

「……理由は何でもいいわ。あれ、封印せずにそのままにしてたら小規模次元震――軽く世界ひとつ滅亡する爆発が起きていたわ」

「危うく死ぬとこだった……!」

 

 あ、いや一回死んでるな。やっぱアレは死んでたのか……

 

「それで、あなたは四次元空間に放り込んだといったわね? それで次に取り出すときには光は収まっていたと」

 

 

 ん? ああ、たしかに収まっていた。時間を置けば収まるものと思っていたけど、今の話を聞く限り違うのか。あら、でも暴走したジュエルシードはどうやって収まったのかが説明つかんぞ。四次元空間に封印機能なんてないだろうし。

 プレシアさんは、何やら資料を書いていた手を止めこちらを見る。

 

「簡単よ、一度小規模次元震は起こったのよ。貴方の四次元空間のなかで。そのなかがどうなっているかなんて知らないけど無限(・・)に所有物を保持できる、恐らく限度という概念を捨てた無限の空間が広がっているんでしょう? それに対してジュエルシードの持つ魔力エネルギーは、膨大とはいえ無限ではない。だから暴走したジュエルシードは無限の空間のなかで、魔力エネルギーを放出しきって元の状態に戻ったんでしょ」

「はぁ……で俺は何を」

「アリシアを蘇生する一歩手前まで来てるの。歪めて願いを叶えるジュエルシードだけど、データも揃って正しい方向へ歪みを無くす方法もわかったわ」

 

 なら、俺いらなくない? そう思ったが違った。

 暴走はしなくてもジュエルシードは、願いを叶える際には膨大な魔力が流れる。それは非殺傷設定なんてぬるいものではない。ただただ、純粋な破壊的エネルギーとして猛威を奮うようだ。

 

「それもいくつもの世界を滅ぼすだけの魔力がよ」

「たしかにそれは願いが叶っても……」

「ええ、正しい形で願いが叶ったとして。アリシアが生き返ったとしても世界は滅んでいるわ……そしてアリシアもまたすぐに」

「そこでナナシの四次元空間を借りたいの。さっきの母さんの一撃でも、物質じゃない魔力でも入るってことがわかったから……」

「あ、さっきのそういう実験だったのね」

 

 事前に言ってほしい、漏らすかと思った。それにあれはたぶん収納じゃなくて無理矢理入れただけだからもう出せない。

 しかし四次元空間のなかで、世界を滅ぼすだけにたるエネルギーが暴走してたのか……ゲート開けるタイミングミスったら死んでた?

 

「それでいくつ開けれるのかしら? なるべく魔力に指向性を持たせるプログラムを組むつもりだけど、数があるに越したことはないわ」

「いくらでも。というかひとつのゲートの広さは固定じゃないはず……」

「ならまた大きさ、数はまた言うわ。あと既にフェイトがジュエルシードを5つ回収してるのだけれど、出来ればあと3つは欲しいの」

「まさか、その手伝いをしろと?」

「それこそまさかよ。あなたが捕まったら、ジュエルシードの魔力を廃棄するゴミ箱がなくなるじゃない」

 

 もうちょっと言い方ないですかね? でもちょっとしっくりきて悲しい。余分な魔力や危険物の処理引き受けます、連絡はナナシまで。代金は応相談……お、案外これで一儲けできないか?

 

「ジュエルシードの回収はフェイトとアルフに任せるわ。その間に私は大詰めに入るから……あなたは外でそのミソッカス程度の魔力で、魔法の練習でもしときなさい。いざというとき何も知らないよりマシでしょ」

 

 そういって目の前に積まれる資料の束。初級魔法講座みたいなタイトルの上に、斜線が引かれ“猿でもわかる魔法講座”と書かれている。プレシアさんの顔を見ればイヤらしい顔で笑っている。ちょいちょい当たりが厳しくねぇですか?

 

「フッ、それで解らなかったら猿以下ね」

「上等……! 魔法とかいうマジカルなくせしてロジカルでケミカルな似非ファンタジーなんざ、すぐ修得してやらぁ!」

 

 

 そう意気込んで外へ飛び出した俺はさっそく資料を読み込む。

 ふむふむ、魔法って言ってはいるけどそもそもプログラムを組んで集中や詠唱みたいなトリガーとなるもので発動されるのか。

 なんだ、この中途半端に科学と魔法が合わさったかのような感じは。面倒だから頭で思い描いたものがそのまま使えるとかの完全ファンタジーでいいのに。

 簡単な初級魔法としてフォトンバレットのプログラム公式が書き込まれている。

 

「……今更ながら気づいたけど、これ全部手書きだ」

 

 さっき話をしながらわざわざ書いててくれたのか……ありがたい。でもやっぱりタイトル“猿でもわかる魔法講座”に書き直す必要はなかったよね。

 気を取り直して、この公式を覚えて……体内の魔力を操作しながらプログラムに組み合わせ、『集中』するというトリガーで――撃つ!

 

「……って撃てるか! 体内の魔力がそもそもわからねぇ!」

 

 四次元空間を開くときの感覚は……なんも体内の魔力とか意識してないし魔力関係ないか? ならどんな感覚だ、精神力とかそっち系でもなさそうだよな。リンカーコアとか何とかがあるかないかで、魔法が使えるか決まるらしいし。あれか、血液が流れてるみたいな感じで魔力も循環してるのか?

 

「あ、いたいた。ナナシ!」

「んぁー、フェイト……さん?」

「フェイトでいいよ。あと、これ」

「何これ、杖?」

「デバイスだよ。たぶん魔法を使うのが初めてなら、デバイスの補助なしじゃ無理だろうからって母さんから」

 

 フェイトが魔法を使い始めたときに使った超初心者用デバイスで、長年使わずに放置されてたものらしいけど関係ない。因みにフェイトは数時間で使わなくなったとか、よくわからないけど早くない?

 何にせよきっとこれで出来る、出来たらいいな、出来る可能性は出来た。

 

「感謝! して、フェイトは今からジュエルシード集め?」

「うん」

「じゃ、気をつけて行ってらっしゃい」

「いってきます!」

 

 ジュエルシード集めに行くフェイトを見送ってから受け取ったデバイスを見る。ネームシールのフェイトって書かれた上に、斜線が引かれ『ゴミ箱』って書かれてるのは何故だろう。きっとゴミ箱行きだっただけだよね、俺のことじゃ……たぶん俺のことだな。

 ま、いいさ。デバイス貸してもらえただけで儲けもの。公式は覚えたし、いっちょやってみますか。

 

「フォトンバレット」

《Photon Bullet》

 

 フォトンバレットと口にした直後、デバイスの先から野球ボールサイズの水色の魔力弾が出ていき飛んでいった。で、出来た……! まぁ、自分が撃ち込まれたのはバレーボールサイズだったけど。

 

「デバイスってすげぇ」

 

 しかし、魔法のプログラムは地球の数学、物理と大きな差はないようだ。ちょっと弄れたりしないかね?

 ここが加速度に関する式で、弾速を上げるには……あ、何か出来た? よし、ものは試しにやってみますか! デバイスがあれば何でも出来る!

 

「弾速加速付与試験魔法プログラムα――ファイア!」

《――fire》

 

 結論からいうと暴発した。出てきたフォトンバレットにジャイロ回転かかり始めたと思ったら、そのまま収束して爆発。後ろにブッ飛ばされて5mくらい転がった、非殺傷設定じゃなかったらヤバかった……!

 プログラム弄るのは止めよう、俺は猿なんだ、猿がまともな計算できるわけないじゃん。でも、ちょっとくらいならいける気もするんだよなぁ。

 次は飛翔魔法を――いや、先に防御魔法……お、この公式弄ればかなり硬い防壁になるんじゃ、猿でもできそうだ……ファック! 防壁が爆発しやがった!?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ふぅ、あと少しで完成ね。アルフがナナシを持ち帰ってきたときにはどうしようかと――いえ、考える前にフォトンバレットを撃ち込んでたわね。まぁ、とにかく最悪記憶でもとばして元の世界に帰そうと思ったのだけれど。

 

「アリシアを目覚めさせる最後のキーになるなんてね」

 

 何が切っ掛けになるか解らないものね。

 フェイトだって本当は……あの子はアリシアのために造り出したクローンだった。だけど、その目論みは失敗した。アリシアの幼少の記憶の複写までは成功したのだが、それだけだった。

 当たり前である。記憶を写したからといっていくら同じ身体のつくりだとしても、科学では解明できないナニかがきっとあって別人になるのだ。

 ……正直失敗したとわかった当初はフェイトのことを受け入れがたかった。思い返したくないが、あの子には死ぬまで伝えないが失敗作と扱おうとした。

 けど、思い出せたのだ。アリシアが生きていた頃に妹を欲しがっていたことを。

 なら私がフェイトを無下に扱えばアリシアは悲しむだろう、生き返れたとしても幸せだったあの頃には戻れなくなる。

 

 生まれ方がどうであろうと、生み出したのは私でフェイトは私の娘だ。そのことをアリシアの言葉のお陰でフェイトをフェイトとして、娘として受け入れることができた。あの言葉をあのときに思い出せていなければ、そう考えるとゾッとするわね。

 

「ナナシも……アルフが連れ帰ってきてくれてよかったわ。まさか一番ネックな膨大な魔力の処理方法がこんな形で見つかるなんてね」

 

 さて、上手くナナシの四次元空間に魔力を送り込める魔法公式を仕上げなければならない。大詰めなんだから気を引き閉めないといけないわね。

 ――さっきから外から聞こえる爆発音はなにかしら?

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
魔法のプログラム公式が見て覚えれるかは置いておきます。それで上手くいくかも置いときます。
爆破オチなんてサイテー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。