ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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AnotherSide:五里霧中の曇り眼。

 駆けていた。たたらを踏んで振り返ればまだテスタロッサ家が見える。そうか、戻ってきたのはここか……前回より進んだところじゃん。そこまで認識してから無意識に腹部に手を当てていた。大丈夫、穴なんて開いてない。

 

 ため息をひとつ吐きかけるも飲み込む。あんなのどうしろっていうのか。あんな速度に相対するべきはフェイトとかじゃん。

 俺みたいなポンコツの領分じゃないから。アリシアが拐われてなかったら、チャレンジする前から諦めてたのになんで拐われちゃってるのか。俺たちってこういう事件が起きても家でゴロゴロしてるタイプで、何だかんだで上手く収まってたあとにちょっかい出す役割のはずだろ。

 

 踏み出したくない足に括を入れる、踏み出す。遠目に見えるのはフェイトの車か、ほーら俺ってば目はいいんだ。

 けどフェイトは優しいからなぁ。俺を見かけたら一緒に来るか他の案を考えるか、とにかくジェイル・スカリエッティに意向に反する形になる気がする。フェイトが姉を心配してないとかそういうことじゃなくて、最善を取ろうとすると思う。でもなんかテンパってそうだしなぁ、あの性悪にフェイトみたいなタイプは相性悪い気するし。

 

 暗くなりそうな気分を振り切るため軽い足取りでスタコラサッサ。さっきとは違うルートを取って目的地へと向かう。

 前回を思い返せば自動障壁が機能してなかったのはデバイスの不具合ってわけじゃないはず。張れたところで意味あるの? って疑問はさておき。アリシアが整備してくれてるデイブレイカーがそんな初期的なところで不具合起こすはずがない。なら相手がなにか使用してたに違いない、というかたぶん魔法無効化みたいなやつ。アリシアならパッと名前浮かぶんだろうけど、俺にはわかんねぇよ。解説役のアリシアさん帰ってきてくれ。

 

 雑木林を抜けたところでまたも人影。

 

「ナンバーズ5番のチンクだ」

「クッソゥ、なんで道を変えてもいるんだよ。めげそうだ……え、チンコ?」

「多少の罪悪感がないでもなかったがお前はブッ飛ばそう」

「しまった、いつもの癖が! デイブレイカー!」

 

 銀髪ロリっ子が襲いかかってきた! うわっ、投げナイフとかテクニカルな!? ぐわーっ!?

 

 

 

 少し時間は遡り。ナナシがテスタロッサ家を抜け出してそう時が経たないうちにフェイトは帰宅していた。自身の姉、アリシア・テスタロッサが誘拐されたと聞いて飛んで帰ってきたのだ。ミッド内での魔法行使は基本だめなのでもちろん比喩で。

 

「母さん、ナナシ! 姉さんが誘拐されたって……! ……あれ、ナナシは」

「出ていったわ。きっと犯人の要求でね。それでフェイト、あなたはここに帰ってきてどうするの?」

 

 淡々とした母の言葉に思わず唾を飲む。

 そんなフェイトを見てプレシアはため息をつく。思わず飛んで帰ってきてしまったであろう娘、その気持ちはわかる。けれどもそれは意味のない行動だった。

 

「はぁ、あなたも私も頭に血が昇りやすいのが駄目なところね。フェイト、あなたがここに帰ってきてもアリシアを見つけるためにならないわ」

「……あ、うん」

「まぁ、今回に限っては私とナナシが犯人と直接会話したから無駄にはならないのだけれど。フェイト、車を出しなさい。移動しながら話をするわ」

「えっ、どこに向かったら」

「機動六課、あなたの勤め先よ。犯人はジェイル・スカリエッティ、次元犯罪者にしてロストロギア窃盗の容疑とあるとなればあなたたちの管轄でもあるでしょう」

「ジェイル・スカリエッティ──ッ!?」

 

 ナナシが三度目の死を迎えるその頃。テスタロッサ親子は機動六課へと到着し、管理局へ今回の事件が伝わることとなった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ポケットにドライバーだけ入っていた。壁をガリガリと削ってみる。工具をこんな使い方するなんてまことに遺憾だよね。

 はやてにでも見られたらどこの凄腕ヤブ医者やってツッコミもらいそうなんだけど……ちぇ、全然進まないや。指でなぞっても僅かな窪みが出来た程度。

 これもあれだよね。削れないわけじゃないけどほとんど削れないってくらいに調整されてる。このまま削ったとして先に使えなくなるのはドライバー。その頃には割りと大きく削れてるんだろうけど、それだけ。

 

 私が保証する。ここに閉じ込めた人は性根が狂ってる。歪んでるのでもなくねじ曲がってるわけでもなく狂ってる。

 暗闇に置いとくだけでも心なんて疲弊するのにあの手この手で心を磨耗させようとしている。そんな悪辣さが詰まっている。それはどうしてかって考えてみれば、私が精神的に壊れれば悲しむ人がいる。私を壊すことから派生する被害が目的ってところかな?

 

 そんな悲しんでくれそうな人の顔を脳裏に浮かべてみれば、よし、大丈夫。私は図太いからそうそう折れたりしないよ。

 

 壁伝いで段ボールまで歩いて食事。うぇ、美味しくないし、やっぱり早く助けに来てほしいや。もーいいよ、普段徹夜とかして不健康だからこの機会に寝よう。

 ウトウトとし始めて、懐かしい夢を見た。

 

 ──母さんもフェイトも事情聴取で私がひとりでアースラ艦内を歩いていたとき。出会ったのは食堂でひとりで食事をとってるナナシだった。子供でも働ける管理局とはいえ、やっぱりアースラ艦内には大人が多い。そんななかで年の近い存在に興味を引かれたのか、親近感を覚えたのか。

『なにしてるの?』

『どう見ても飯を食ってる件について』

 初めっから気遣いもなにもないナナシだった。失礼じゃない程度に無礼というか、あえて気遣いをしたりしないタイプ。

 

『伝わってるのに伝わってない言葉の難しさ……んー、なんでひとりでいるの?』

『プレシアさんとフェイトが事情聴取されてて暇だからなぁ』

『あ、私と一緒か』

 

 このあと一緒にご飯食べて、話題は母さんとフェイトっていう共通の話題もあって(だんま)りになることもなかった。なんてことない話をして、暇をもて余して。

『リンディさんのお砂糖を塩に変えてみようか』

『乗った。ちょうど食堂だ、やったぜ』

『いぇーい!』

 あれ、私たちって出会った頃からどうしようもないなぁ。自分に呆れて目が覚めちゃったよ。

 

「……ナナシ、早く来てよねー」

 

 けど、無茶はしないでほしいなぁ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 チン○ではなく、銀髪ロリもといボンバーマンに殺されてから何度か死んだ。なんでナイフが爆発するのか、手のひらと足に刺さったものが爆散、俺の身体は四散して惨たらしく死んだ。

 それから砲撃とブーメラン、二刀流エトセトラなんて選り取りみどりな殺され方。そして今回はクイントさんを彷彿とさせるガンナックルとジェットエッジ。俺も死んで経験値とか貯まればいいのになんて考えてしまう。蓄積されるのは記憶だけで思わずため息が漏れる。

 

「ナンバーズ9番のノーヴェだ」

「何回目か聞くんでしょ、知ってる」

「そうだ。わかってるならさっさと言えよ」

「8回目だ」

「なら、これが9回目だなッ!」

「自分の番号と俺の死ぬ回数をかけてるのか、なるほど面白くない」

「死っ、ねぇ!」

 

 以下略、テスタロッサ家からだいぶん離れたところからのやり直しになった。どうでもいいけどハートキャッチ(物理)を体験することになるとは思わなかった。プリティさは微塵もないし日朝じゃ放送できない。

 

 それでどうでもよくないこととして、『やり直し』を連続して初めて知ったこと。戻る期間が一定なのと一度やり直しが始まった場所より前には戻ることがないらしい。

 つまりここで自殺したとしてもテスタロッサ家でジェイル・スカリエッティと会話していたときに戻ることはない。勇気を出して自殺を繰り返してもアリシアが拐われる前には戻れないようだ。なんとも使い勝手の悪いことか。

 

 下水道からの移動を試みる。排泄物の臭いの漂うなかを突き進むと、下水道に似つかわしくない金属らしき光が──こんなところまで妨害あるのか!? ガジェットと呼ばれる魔法無効化を搭載したドローンが山盛りいた。死んだ。奇をてらい街の中心を突っ切ろうとしたら擦れ違った女に刺されて死んだ。路駐された自動車を盗んで走らせれば鴨撃ちされて死んだ。配置されたナンバーズの隙間を縫うように移動しようとすれば回り込まれて殺され死んだ。

 死んで死んで死んで、呆気ない死を重ねて思わず悪態をつく。

 

「どうすれば辿り着けるってんだよ……きっついなぁ」

 

 アリシア誘拐前に戻りきれないにしても、最悪の場合には自殺してのリセットも考慮しないといけないだろうか。なんて思考がよぎるほど、何度目かそろそろ忘れたやり直し。どうにも辿り着ける気がしなくなって苛立ちが出始めたそのとき、再び通信端末が鳴った。

 

『その様子だと八方塞がりになってきた頃だね。ふむ、私にとっては一度目だが君のその憔悴した様は面白いね』

「さいでか」

『下水道などは──その顔はもう行ったみたいだね』

 

 ガジェットのレーザーに撃ち抜かれて死んだよ。てか死ぬことがわかってるルートを提案するとか、だいたいこいつの性格もわかってきた。普段はバカな方に回してる思考が嫌にクリアになってしまってて、らしくなさに苦笑してしまう。

 

「大方、死んで生き返ることの確認とか、それによって精神的にどれだけ磨耗するか測ってるな?」

『ほう? 君は予想よりも頭が回るみたいだね』

「アリシアと過ごしてればなー。なんで俺を直接拐わないかってのも気になってたけど納得だよ」

 

 ついでにガキみたいな性格ってことは単純な嫌がらせって目的もあるはず。言い換えれば歪んだ遊び心。子供の残虐性だけを残して育ったような人でなしめ。

 

『そうか、それもそうだね。では趣向を変えようか、どうせこのままでは君は辿り着けないだろう。

 私の体感では先程の通信から一時間も経ってないのだが、君がどれだけの時間をかけて死に続けたかと思うとその賢明さに心打たれるというものだよ』

「ダウト、遊び心が揺り動かされただけだろ」

『心には変わりないさ。そうだね、君は周りに助けを求めればいい。プレシア女史に協力を仰いでもいい』

「なんで、厄介なんじゃなかったのか」

『厄介さ、だが逆に言えば厄介なだけだよ。それに初めから他人を頼れたら精神的磨耗がわかりにくいじゃないか』

 

 当然だろうと言わんばかりのその顔を殴りたい衝動に駆られるのは何度目だろう。拳を握りしめ深く吸った息を吐く。

 ジェイル・スカリエッティが何を考えてるのかはこの際いいや。ただ、六課に揃った面子を舐めてるのか知らんけど協力を要請していいなら喜んでしよう。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「ってわけで助けて、ハヤえもん」

「小狸いう意味で言ってるなら話があるで」

 

 六課に集まった面子に事のあらましを伝えると反応は様々。まぁ、だいたい憤慨してる。その感情はかなり前に発散しきったせいで早く行動に移してほしいと感じる。

 周りと感覚がズレてきてるような、頭を振って気持ちリセット。自分がわかり得るジェイル・スカリエッティと保有戦力について話す。

 

 ──けど俺以外にとっては事件発生からまだ時間は経っておらず、俺もそれを知りうるだけの時間がこの『やり直し』した世界ではなかったことが頭から抜け落ちていた。だから何故それだけのことを知っているか問われるのは必然で、俺にとっては予想外の障害だった。チクショウ、冗談言ってる暇なんてなかった。

 

 向けられる疑問の視線。疑惑ではないのは今までの関係からの信頼を差し引いた結果かね。涙が出てくるありがたさだよ。皆が悪くないのはわかってるけど、思わず悪態をつきたくなる。

 

「黙していないで説明してもらえないか? それもテスタロッサの姉を助けるために役立つかもしれん」

「俺のレアスキルのせい、ってところじゃないかな」

「その、ナナシのレアスキルは容量無限の倉庫じゃないの……?」

 

 うげぇ、苦し紛れの発言って首を絞めるだけってよくわかった。さすがアリシアの妹じゃん、痛いとこ突いてくれる。責めるような視線でもなく、ただただ知ってることがあれば話してほしい。そんな雰囲気が辛い。

 ……死んで生き返ってることは伝えたくないってのになぁ。転生したことを除いても、ずっとアリシアとプレシアと秘密にし続けていたことなのに。今もそれについてだけはプレシアも黙っていてくれているのに。アリシアが抱えた死んで生き返ったことへの不安とお互いに秘密にしてることに関わってるのに。

 

 いらないところに注目されたことに理不尽な苛立ちが湧いて、注目されるのは当然と納得している理性が苛立ちを押し込めてくれる。やぁーだ、アリシアと過ごしてるとちょっとだけ物事を俯瞰で見る力が備わっちゃってて困る。デバイス製作してるとよけいになー。

 皆が悪くないのはわかってるし、わかってるなら怒るなってアリシアが電波飛ばしてきやがる。

 うっせー、こちとらわかってんじゃー!

 

「端的に言えば、俺が死んで生き返ってを繰り返してるからだよ」

 

 なるべくシンプルに、俺がどうやって死んで生き返ったかを説明する。

 気づいた発端はジュエルシードによるアリシアの蘇生ということにしてぼやかして、今回の事件でのことは事細かに、名前から武装や特徴まで自分の死から学んだことをなるべく詳しく伝えた。

 

「まぁ、これが俺のレアスキルってなわけだ。ぶっちゃけ倉庫はオマケ?」

「そんな……そんなことって」

「あり得ちゃったんだよなぁ。レアスキルふたつってズルいかもしれんが、両方微妙なうえにミソッカス魔力だし許して」

 

 本当は神様からのギフトなんだけど、活用法もその情報も今は役に立たなくて仕方ないので黙っとく。

 しかし、皆が黙りこくってレスポンスがない。プレシアに無言でヘルプを求めるけど、何も言ってくれない。

 

「ま、俺のどうでもいい力の話なんて置いといてさっさと解決しに行こうぜ」

「そんな、そんなことないよ! どうでもなんてよくない!」

「うぉっ、びっくりした……なのはどうした?」

 

 涙目になったなのはが詰め寄ってきて思わずたじろぐ。なんでそんな悲しそうな目をしているんだよ。茶化してやろうかと思ったけど喉が詰まって言葉にならなかった。

 

「それだけ辛い思いをして、痛い体験をして……どうともないなんてことないよ……」

「主語がなくてわかりづらいんだけど」

「何度も、何度も繰り返しているって、お話のことだよ!」

「……あー、そういうことか」

 

 不覚だった、思ったより感覚狂い始めてるなぁ。

 これがゲームみたいにぽんぽこコンティニューしてる弊害か。緩やかに死への忌避感が薄れてる。おかしいのは自分という自覚がもててるし、まだギリセーフと思いたい。自覚、出来てるよな……?

 なのはの肩をポンポンと叩く。半べそまでかきそうなその様子に思わず苦笑しながら話しかける。

 

「実を言うと結構痛いし辛かった。ちょっと感覚がズレてきてたけど、なのはのおかげで戻った、はずだ。だからさ、俺とアリシアを助けてほしい」

「うん、うんっ! 任せて!」

「皆も頼む」

 

 そういうと皆が頷き、任せろと各々返事をしてくれる。そんな仲間に頼もしさを感じつつ、ずっと疑問に思ってたことを口にした。

 

「んで、そういやなんでプレシアさんがここにいんの?」

「ここでそれを口にするあたりナナシね……もちろん、アリシアを取り返すために決まっているでしょう。あの子の居場所を特定するためにここを利用しているのよ」

「協力じゃないのかよ、てか場所は?」

「私を誰と思っているのかしら? ……ただアイツも居場所の特定は想定済みでしょうね」

「逃げられんじゃん」

「それが逃げてないのよ。三つまで絞った候補地をずっと監視しているのだけれど、不気味なほど動きがないわ」

 

 ジェイル・スカリエッティは逃げも隠れもせずにただ待ち構えているらしい。不気味というよりは、確実になにか悪辣な罠を仕掛けていると見るのが妥当。

 

「候補地が三つまで絞れた、逆を言えば三つまでしか絞らせなかったのは戦力の分散のためかもしれないわ」

 さすがにここにいる全員が一挙に押し寄せるのはアレでも嫌なのか。それとも、なにか意図があるのか。考えてもキリがない。

 

「けど順当に三つともに人手を送るしかないですよね……」

「じゃあ、早く行こうぜ。あのアンポンタンな科学者気取りの狂人をしばきたくて仕方ない」

 

 それからは手早く誰がどこに行くかを決めた。六課の運営的にここに戦力を裂いていいのか、気になるところもあったがいいらしい。機動六課設立の理由に関わるかもしれないとのことで大きな問題にもならないとのこと。

 

 そんなこんな、特に問題もなく編成は終わり、俺は三つの候補のなかで一番有力な拠点にやってきた。はやてとフェイト、それにユニゾン出来るリインが同行。他の拠点にはなのはとヴィータ、他の守護騎士たちと別れての行動だ。

 

「さっさと入っていくぞ」

「ナナシくん、焦る気持ちもわかるけど落ち着きいや?」

「わかってるから」

 

 焦ってるのはわかってる、けどどうにもならない。やっとここまで来たんだって気持ちが急かしてくる。堅牢に閉じられた入り口を破壊して乗り込む。途中の妨害は他の三人が除去してくれた。そうして進むうちに別れ道。

 

「道が三本に別れてるね」

「ナナシくんはリインと行くようにして、あとは私とフェイトちゃんでかな」

「それじゃあ、それで」

「あ、ジェイル・スカリエッティ捕まえたら殴らせてくれない?」

「あかんで」

 

 ちぃ、じゃあ自分で見つけて腹パンせねば。もちろん、リインとユニゾンして思いっきり。

 スカリエッティへの恨みを晴らそうと虎視眈々と目論んでいるとリインが憂いげに言葉をかけてきた。

 

「なぁ、ナナシ。お前の力は、酷く疲弊するものなのだろうな……」

「ん、どういうことだ?」

「お前は、いやなんでもない。早く行こう」

「……?」

 

 よくわからない会話を挟みつつもリインと道を進み、道中に入った妨害はガジェット程度。いやに呆気ないそれに、けど俺は違和感を覚えることもできなかった。

 そして辿り着いたのは研究室ともいえる機材に囲まれた部屋。

 そのなかにはいるのは──

 

「ジェイル・スカリエッティ……ッ!」

 

 ようやく、やっとジェイル・スカリエッティに相見えた。あの面をぶっ飛ばせばあとはアリシアを助けて、それでハッピーエンドだ。

 リインとユニゾンをして構える。余裕綽々なスカリエッティのあの鼻面をへし曲げてやる。

 

「くくっ、よくここまで辿り着いたね。いやはや、しかも君がここまで来るとは」

「予想外だったか? なんのためにこんなことしたのか知らんけど……」

「なんのためか。理由と言えば、そもそも君の稀少技能は古代ベルカに由来するものでね。

 これから私が行おうとしている計画に親和性が高いのだよ。不死の聖王なんて心踊らないかい? まぁ、君の稀少技能の性質はだいたいわかったからね。あとは奪うか再現すればいいだけだよ」

「知らねぇよ。いいからさっさとアリシアの居場所を吐け、ゲロッと吐けよ」

 

 つれないねなんて肩を竦める芝居かかったリアクション。制限時間も迫っている、もうぶん殴って自分で探すかと歩を進めようとしたとき。やっと口を開いた。

 

「アリシアくんの場所かい? いいだろう、ここまで来た褒美に教えてあげよう。

 ああ、その前にだ。ひとつ間違いを訂正しようじゃないか。君は予想外かと問うてきたが、君がここへ来るのは──計算通りだよ」

 

 ジェイル・スカリエッティの口元が三日月のように裂け笑みを浮かべた。

 脊髄に氷柱を差し込まれたような悪寒が走る。

 スカリエッティに駆け寄ろうとするが、それよりも圧倒的に早く、スカリエッティがパネルのボタンを押す。ドンッ! とナニかが崩れるような重苦しい音が鳴り床が揺れた。大きくもない振動なのに思わずふらつく。

 

「音が鳴った方へ行くといい。なに、私は逃げないさ。娘の誰かがいれば私は新たに生まれ計画は」

 

 言葉を最後まで聞くことなく駆け出す。嫌な予感が脳裏を掻きむしる。焦燥感が胸を焼き焦がす。

 加速魔法をかけて速く速く速く……ッ! 角を曲がった先でリインとのユニゾンが解け、なにかに躓き床に転げてビシャリとナニかで濡れる。転がっていたのはナンバーズ、邪魔だっての。

 

 顔についたそれを鬱陶しいと拭おうと、何で廊下で濡れたんだ?

 

 顔と手にこびりついた、赤いコレはなんだろうか。

 

 俺が向かおうとした先の部屋は、どうして瓦礫に埋もれているのだろう。

 

 何故、何故先に着いていたフェイトは泣き崩れて──瓦礫の隙間から覗く黄金色の髪は誰のものだ?

 

「──────!!」

 

 声にならない叫びが喉を裂く。誰かが駆け寄るが振り払う。なんで、なんでだよ。ここまで来てこんな、なけなしの魔力を手のひらに集める。鈍く光る手を頭に沿えて最期の力を撃ち込む。

 

「なっ、ナナシくん止め」

 

 最期に声が聞こえた気がするが──。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
配管工のようにコンティニュー、いつの間にか刷り替わる目的。桃姫を助けたかったはずなのに。
でお送りしました駆け足二話目。

感想で指摘していただき気づきましたが、今回本編と180度雰囲気の違う話になっており、それをお伝えできずの開始申し訳ないです。正直、前書きで遊び警告忘れてました。
しかしもう2/3終わってしまいましたし、配管工のように軽々しく残機減るところも過ぎてしまいました。お付き合いいただける方は読んでいただけると幸いです。

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