いじめ?俺には関係無いな 作:超P
この場所に来てからもう半年になる。
未来の症状は以前よりも良くなってきている。
最近では俺がいなくても夜寝れるようになったし、殆ど日常生活は自分でなんとかできるようになった。
自傷行為もしなくなってきたし、前向きな考えをするようになった。
良い傾向だ。
だがそれゆえに俺は未来を哀れに思ってしまった。
あれから俺は知りたくない事実を知ってしまったのだ。
本当に救いようのない馬鹿ばっかりで気が滅入る。
どうして未来が俺に依存したのか、どうして実の母親は警察に届けを出さなかったのか、今になってやっと分かった。
この二人は未来を愛していない。
正確には『娘として愛していない』のだ。
最初は未来のこれからを考えて届けを出さないのだと思った。
被害届と言うのは必ずしも出す事が正しいとは限りない。
なぜなら届けを出すという事は『自分は事件と関わっている』という事を公表するようなものだからだ。
それゆえに届けを出さずに身内のみで解決する者も増えている。
おそらくそれは難しい方法なのだろう、だがそれは確実に届けを出すよりも波風を立てないで済むのだ。
俺は未来の両親が未来の為を思ってその選択をしたのだと思っていた。
だがあの二人からは愛を全く感じない。
愛とは祖父さんが教えてくれた温かいものだ。
あんな取って付けたような笑顔は祖父さんはしなかったし、商品のように扱う事もしなかった。
本当に心の底から相手を想い、支える事の出来る笑顔とは一切の嫌悪感を感じさせない。
そして安らぎを産むのだ。
性別も年齢も、人種も宗教も、関係なく信頼出来る感情、それが愛。
俺はかつて祖父さんからそれを教わった。
なのに未来の両親からはそれを感じないのだ。
最初は俺の勘違いだと思っていた、俺がおかしいだけで未来の両親は未来の事を愛してるのだと。
だが俺は聞いてしまった。
以前
母『あの子も良くなってきてるわね………』
父『あの調子なら先方も文句は言わんだろうよ』
母『物好きな人もいるのね』
父『本当に助かったよ………長年金をかけてきたのが無駄になるところだった』
母『私なら死んでも嫌だけどね…………』
父『傷物になった子供が良いとはな……………逆にこうなって良かったのかもな』
母『ちょっと、いくら何でも不謹慎よ?………事実だけどね』くすっ
父『お前も大概じゃないか』
母『あの子はどうするの?』
父『そのうち金でも握らせるさ。なーに、あの年頃の餓鬼は金さえあれば何でも言う事を聞くものだよ』
あの時俺に見せた表情は娘を傷つけられた事で出たものではなく、自分の娘が売れなくなった事からきた顔だったのだ。
生まれて初めて同情から涙を流した。
未来はこの事を知らない。
未来の中では、自分の両親は自分を想い支えてくれる最愛の親なのだ。
両親は金をかけて育てたと言っていた。
こうなって良かったのかもと言っていた。
未来はそんな両親の事を信じている。
なんて
なんて皮肉なんだろうか。
未来「どうかした?」
達也「…………………未来」
未来「怖い顔してるの………未来、嫌だな」
達也「悪い、ちょっとこの問題が分からなくてな」
未来「もー……………貸して?」
達也「………………」サッ
未来「ここは〜〜〜だから〜〜〜になるの、分かった?」カリカリ
達也「なるほど、分からん」
未来「むぅ…………もう休憩!」
今、俺は未来と勉強をしている。
普通なら俺達は受験生一歩手前だ、療養中でも勉強はしておくべきだろう。
ここに一生居れるわけではないし高校卒業は社会で自然と求められてくる。
未来は元々ポテンシャルの高い人間だ。
俺なんかよりもずっと先の内容を学んでいる。
それに比べて俺は……………まぁ、中の下だとだけ言っておこう。
未来は女子校へ行かせるつもりだ。
つもりというのも、未来は俺に通う高校を委ねてきたのだ。
両親は既に相手を見つけおり、嫁ぐ事を勧めてくるようだ。
例のあの会話の相手なのだろう。
未来はそれを望んでいないというので、俺は進学を勧めた。
もちろん俺とは違う場所にだ。
俺は今回、祖父さんの力を借りる。
真っ向から両親の思惑を叩き潰してもらう。
祖父さんなら簡単だろうし……………利用するようで心苦しいが、未来のこれからを守るためならば手段は選ばない。
今日、祖父さんに面会に来てもらった。
名目上は俺との面会だが、本当の理由は未来の両親に睨みを利かせてもらう為だ。
祖父さんともなるとかなり顔が広い。
クソみたいな思惑の一つや二つ、握り潰すのは簡単らしい。
そして思い通りの反応をしてくれた。
祖父さんに睨まれたあの二人の顔は忘れられない。そして両親は祖父さんとの話し合いの末、未来の親権を手放すようだ。
その時の祖父さんは俺なんかと比べ物にならない程怒っていた。そして、悲しんでいた。
未来の母親は祖父さんに金を請求したのだ。
どうやら未来を女として迎えると勘違いしたらしい。
祖父さんは怒りのあまり、小切手を投げ捨てて『好きなだけ持っていけ!この外道どもめ!』と言ってしまったらしい。
祖父さんは本当に俺のヒーローだ。
その後に祖父さんは未来と話をした。
未来もなぜか、祖父さんを拒む様子がなかった。
後で聞いたところ、俺と同じ匂いがしたのだと。
…………………思わず顔がにやけてしまった。
俺にも嬉しいという感情は勿論ある。
この世で数少ない俺のヒーローと同じ匂いがすると言われたのだ。
嬉しくないはずがない。
ともあれ、これで未来は祖父さんの娘となった。
ある意味。これで初めて未来は自分の足で進めるようになったのだ。
それと、未来は自分の両親の事を知っていた。
愛を感じる事ができなかったのだと。
だがこれからは俺と祖父さんが一緒だ。
もう独りじゃない。
春
未来「本当に行っちゃうの?」
達也「おう」
未来「……………でも、また標的にされるでしょ?」
達也「ンなもん関係ねぇよ。俺には真也の頭を叩いてやる義務があるんだ」
未来「…………寂しいよ」
達也「祖父さんがいるだろう?向こうでもお前を守ってくれるさ」
宗介「……………お前も来ていいんだぞ?」
達也「はぁ?…………俺の居場所はあの街ですから」
宗介「………………咲がマズイと思ったら連絡を入れてくれ」
達也「何かあったんですか?」
宗介「浩太が自殺したよ」
達也「………………」
宗介「仕事がうまくいってなかったらしい」
達也「咲と真也はどうなってるんですか?」
宗介「二人で暮らしてるようだ。………だがかなり荒れてるらしい」
達也「……………………やれやれ」
未来「………手紙、書くからね」
達也「………おう」
未来「………………メールはダメなんだよね?」
達也「多分一週間もケータイが保たない」
未来「………会いに行くのも」
達也「駄目だ」
未来「………………またね」
達也「おう………………お」
雨が降った。
空は明るいのに。
未来「…………………雨だね」
達也「みたいだなぁ………」
未来「達也君、雨は好き?」
達也「雨、…………好きだよ、未来」
こうして未来ちゃんは祖父さんと共に達也とは離れた場所で暮らします。
未来ちゃんは女子校に通う事になりますが、祖父さんが面倒を見てくれます。
また、祖母さんは既にお亡くなりになられているので未来ちゃんが虐められる事はありません。
祖父さんの家は人間しかいません。
未来ちゃんはやっと、安息の地を見つけたのです。