愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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シリアスさようなら、そして久しぶり、いちゃラブの空気よ

ちょっと進展しますよー。


見舞い、二人っきりの病室

 高町なのはが撃墜されてから早数週間が経過した。

 加添十四にとってみれば、光のような早さで過ぎ去った日々であった。

 学校が終わって放課後になれば、まっすぐなのはの入院している病院にかけつける。休日になれば、つきっきりで看病。そんな毎日の繰り返しであった。

 毎日毎日、なのはの病室へと通っていた。

 高町の家に、なのはがいない。早朝の訓練に、なのはがいない。学校に、なのはがいない。十四が今まで過ごしてきた“いつもの”に大きすぎる空白があった。

 その寂しさを埋めるように、なのはのために費やす時間の割合を出来る限りまで増やした。

 

 なのはへと迫った選択云々の話題を、十四は再び切り出すことはなかった。なのはが答えを出すまで、待つと決めた。この問題は、なのは自身がじっくりと考え抜いて選び取って決めることに意味があると気づいた。後になってそのときの自分は平静でなかったと省みた。選ばないこともまた選択肢と知ったのはあの事件の教訓でもあり、忘れるところであった。

 なのはの方も、どうして十四がブラウニーを使うことができたのか、それを聞くことはない。クロノの方から、なのはとフェイトとはやて、ヴィータへ口止めをされた。『あいつから事情を話すまで、見なかったことにしてくれないか』と。

 故に二人は、お互いのことを深くは聞かない。自分の中の答えを決めてから、相手に聞くことを選んだ。そうでなければ、フェアではない。相手に聞きたいことがあるのなら、自分のことを知ってもらわなければならない。

 

 そして今日もまた、十四がなのはの病室に訪れていた。学校は休日で、朝からここに顔を出していた。

 今では病院の受付とも顔なじみになるほど。ませた少年が気になる少女のために足繁く通ってきている話題は、微笑ましく見守られている。

 午前八時。病室を開けると、なのははまだ寝ているようだった。

 墜ちる前までは毎日のように早起きして魔法の練習をしていた彼女であるが、本来彼女は朝に強くない。今では休養の意味もあり、寝坊もまた彼女の仕事の一つである。

 そのせいで、朝食も食い損なう目にもなっているが。そこは彼女の自業自得である。

 

「まったく、お寝坊さんめ」

 

 ベッドの近くに用意されているパイプ椅子に腰を下ろして、彼女の顔を眺める。

 安らかな寝顔を見せている少女に、十四も笑みをこぼす。

 彼女の寝顔を拝する機会は、今までにあまりなかった。そう思えば、彼女が入院していることも少しは得したのかもしれない。

 今では大分、容体もよくなった。ベッドの上に縛られたままではあるが、事件直後の負傷はほぼ回復している。

 ……だが、立ち上がるにはリハビリが必要になる。自由に歩くことが出来るかもわからない。魔法の行使などもっての外。

 なのはの選ぶ道によっては、彼女は地獄を見る。十四は強い確信があった。

 だけれども……彼女が地獄を選ぶか、それとも魔法を捨てるか。どちらを選ぼうとも、十四は彼女の傍を離れるつもりはない。

 自分の居場所は、いつだってなのはの隣にある。そう、決めたのだから。

 

「可愛いな、本当」

 

 そんなことを言ったらまた、彼女は照れ隠しで怒るだろう。

 ツンツンと、なのはの頬を指でつつく。やわらかい感触が、つついた指を反発させる。

 

「……俺は、お前に救われた」

 

 十四は、なのはに二度も救われた。

 一度目は、殺人鬼によって何もかもを失ったときに。

 二度目は、彼女に責任を取ると言われたときに。

 

「俺は、お前のものだ」

 

 自らの命を絶とうと躍起になっていた時に、懸命になってそれを拾い上げようとしていたのはなのはたちだった。

 拾い上げた命に、責任を取ると言ったのは、なのはだった。

 

「だからこそ、今度は……」

 

 今度は、自分がなのはを救う番だ。

 地獄の道を行くというのなら、喜んで同行しよう。歩む痛みや辛苦を共に味わい、果ての結末を共に見よう。

 魔法を捨てるというのなら、自分も力を捨てよう。魔法では到底得ることはできない幸福を共に甘受しよう。

 

「お前が責任は取れよ、なのは」

 

 嫌だと言っても離れてやらない。思いっきり走って行っても、追いすがってやる。

 その過程で、己がボロボロになろうとも知ったことではない。その道こそが己の本望である。

 お前こそが、生きる希望そのものなのだから。お前こそが、自分がここにいる理由なのだから。

 

「んぅ……」

 

 頬をつつかれて、目が覚める。

 彼女の寝ぼけ眼が、ベッドの隣に座る少年を認識するのに数十秒かかる。

 

「おはよう、寝坊助」

「ふぇ……」

「おーい、まだおねむか?」

 

 ニヤニヤと笑いながら、なのはの間抜け顔を観賞。

 心うたれる。ああ、抱きしめたくなる。そんな感情が十四の中に渦まいている。

 

「とし、くん……?」

「ああ、おはようのキスはいるか?」

「いらない」

「そうか、少し残念だ」

 

 寝起きで十四の冗談に付き合う思考の余裕がないので、いつもなら狼狽える内容の言葉になのはは切り捨てることができた。

 全く残念そうには見えない笑顔の十四は、冗談を切って捨てられても上機嫌。

 半目でぼやけてよく見えない視界のピントを合わせるために、目を擦って意識を覚醒させる。

 

「……あれ?十四くん……」

「今度こそ起きたか?じゃあもう一度。おはよう、なのは。お目覚めのキスはいるか?」

 

 完全に目が覚めてからまた、同じ言葉が繰り返される。

 理解が完了するのに少しの間が開くが、言った言葉の意味を呑み込み終わると一気に顔が真っ赤に変わる。

 

「ふぇっ?!えっ、ちょっ、き、キス!?」

「ほっぺか?デコか?それとも唇か?思いっきりディープなやつでもいいぞ」

「あ、あわわわわっ……!」

 

 頭から煙が出てきそうなほどに、なのはの頭の処理装置の温度は高まってきている。

 これだ。十四が求めていたのは、こんな初心で初々しい乙女のような可愛らしい反応だ。つれない反応も悪くはないとは思うけれども、年相応の動揺の方が十四にとって好ましい。

 

「八神の言った通りだな。可愛いぞ、なのは」

「……はっ!?」

 

 クククと笑う十四がはやての名前を出したことによって、なのはは自分がからかわれたことに気付く。

 はやてが考えた悪戯なのだろう。十四だけであったならこんな恥ずかしいことを言えるはずがない。今度会ったら絶対に問い詰めてやるとなのははしっかり覚えておく。

 本当に、抱きしめたくなる。独占したい。自分の腕の中に閉じ込めたくなる。

 そんな欲求を、理性で抑えるのを彼は非常に苦労している。

 

「もう!十四くん!!」

「悪かったって。けど、お前が可愛いのが悪いんだぞなのは」

「む~!」

 

 そんなお世辞──十四のことであるなら十割本心からの言葉であるのは間違いないが、可愛いからという理由でからかわれていれば、なのはにしてみれば理不尽でしかない。

 憤りと、照れと、嬉しさが同居するこの心情。一体どうしたらいいのかわからない。

 

 十四の存在は、なのはの心を常にかき乱す。停滞することを許さない。

 事件後の彼と一緒にいると、よく笑ったりよく怒ったり……喜怒哀楽の起伏が今までよりずっと大きくなったとなのは自身が感じている。

 自分は誰よりも、十四という少年に心を動かされている。心の大部分を、十四に占められていた。

 

 ──いつの間にか、なのはにとっても十四の存在は大きいものになっていた。

 

 思い出すのは、自分が撃墜された日。雪の降るあの世界で、重傷を負って救助隊を待つ身であった時に。

 ああ、自分は死ぬのかなと彼女が考えていた時に。

 …………一番最初に思い浮かんだのは、十四が泣いていた顔であった。

 あの、忘れてはならないと刻んだ殺人現場。こぼれ落としてしまった、救えなかった命。新たに生んでしまった深い悲しみ。あの雨の日を彷彿させた血に塗れていた泣き顔が、なのはの頭に過った。

 

 ──泣かないでよ……。十四くんが泣いていたら、私はどうしたらいいのかわからないよ……。

 

 少女の内には、死に対する反抗心が生まれていた。こんなところで、たった十数年生きた程度で、自分の人生に幕を下ろすことは許さない。

 死ぬより、怖い。あの少年を自分が泣かせてしまうことに比べたら、こんな傷……なんてことない。

 誰よりも自分を心配していた彼を自分がまた泣かせてしまったら……今度こそ、立ち直れなくなってしまう。

 笑え。不遜に笑え。高町なのはは、窮地にこそ笑うのだ。不屈の心を、持っているのだろう。こんなもので、屈するわけがない。

 彼女は己を昂らせた。士気を無理矢理に上げた。

 心の高揚から生まれた脳内麻薬が、痛みを和らげて出血を止めた。

 …………高町なのはは、死に屈することはなかった。

 

(……ずるいよ。勝手に私の心を独占するなんて)

 

 思い返してみれば。生死の境に立っていた時に真っ先に思い浮かんだのが、十四の顔だった。親友であるフェイトでもなく、はやてでもなく、アリサでもなく、すずかでもなく。自分の家族の顔でもなく、一番近くにいたヴィータでもない。

 一番、過ごした年月は少ない。

 異性という、遠いはずの存在のはず。

 一時は、敵対した関係でもあった。

 それでも、なのはにとっての十四は……決して無視できない、とても大きすぎる存在になっていた。

 心に不法侵入罪があるのなら告訴してやる。土足で人の中に入ってきて、当然のように居座って──。

 

(ほんと、ずるい)

 

 だから、今から仕返しをする。

 これは散々いじわるされてきた報復であると、なのはの中で正当化させる。そう、これは報復である。

 ゆえに、他意は、まったく、ない。

 

「十四くん」

「おう、どうした」

「……ん」

 

 ──少年の頬に、瑞々しいやわらかいものが触れる。

 ──鼻孔をくすぐる、柔らかい女の子の匂いがいっぱいになる。

 十四は、自分が何をされたのかまったくわからなかった。僅かに残る頬の感触と匂いの残り香が、何かされたという証拠であった。

 

「……え?」

 

 そして、何かをしたであろうなのはは、掛け布団を頭までかぶって不貞寝をしている。

 

「……………………え?」

 

 脳の、処理が、許容量を、超えてしまう。

 十四はそのまま、壊れかけのパソコンのように動作を停止(フリーズ)する。

 

 

 

 

 

 再起動(リブート)が完了した時には、時計の短針が四の数字を示していた。





いかがでしたでしょうか。ちなみに、十四くん何されたか自覚してません。

さて、ここでおひとつ連絡します。


ストックが、切れましたぁ~~!


よって、更新頻度が減ったり文字数が少なくなる可能性もあります。

できるだけ、毎日更新は続けたいと思っています。

といってもこれからテストやらバイトやらで忙しくなるころなので、難しくなると思いますが……。
『悪に~』を連日連載していた頃を目標に頑張っていきますので、よろしくお願いします!
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