愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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恋話、姦しきガールズトーク

 日曜日。フェイト、はやて、アリサ、すずかといった全員の都合がついたこの休日に集まった場所は、なのはの入院している病院だった。

 昼間のこの時間、ロビーには様々な人が老若男女問わず待っていた。

 ここに来た目的は、もちろんのことなのはの見舞いである。

 各々がここへと訪れることは十四のように毎日とはいかないが、結構な頻度でよくある。大切な親友のことだ、心配でないはずがない。

 それでもこうして、女子たちが皆そろってなのはの病室に訪れることはめったにない。

 

「……けど、十四くんは気の毒だったね」

 

 すずかが思い出すのは、ここへ最も来たかっただろう人。毎日ここへと来て、なのはの顔を見ることが何よりも生きがいとしている少年。

 ──丁度この日、加添十四は管理局の仕事が被ってしまっており、ここに来ることはできなかった……。

 

 先の事件を引き起こした罪に対する罰として、十四は管理局の無償奉仕を義務付られている。このこと自体は、十四も納得していた。

 無償奉仕といえども、現在の十四の魔法の力は本来の力とはかけ離れている。普段は完全封印状態、許可が下りてやっとCランク程度の力を発揮することができる。フェイトやはやて、そして負傷する前のなのはのように頻繁に仕事が来るわけでもない。もちろん学業優先であり、平日に仕事が来ることもあり得ない。

 ……元々この日は十四も休日であった。

 緊急の仕事が舞い込み、事前に休日の申請を出していたフェイトやはやてを送り出すわけにもいかず。仕方なく、彼を駆り出していくことになったのだ。

 十四が泣きながら仕事へと引きずられて行かれた光景は、見ただけでも気の毒に見えた。仕事へと引きずったクロノも、罪悪感で胸がいっぱいになっていた。

 もし、自分に子が出来て。おもちゃ売り場でわが子が泣きながら駄々をこねるのを無視する気持ちというのは、コレに似たようなものなのだろう。

 

「それほどなのはのことが好きなのよ、アイツは」

 

 十四がなのはへと向ける好きは、男と女が向け合うものとは違う。

 家族へ向ける親愛の情。女神像へと祈り捧げる信仰の愛。それらを足して二で割れば、十四の愛の形になるだろう。

 だがこのところ、風向きが変わった。女子たちの嗅覚は、そう感じていたのだ。

 少しずつ。少しずつだが、情の形が変わったようだと、会話の節々から読み取ることができた。

 

 ──意識、している。

 

 ────あのなのは(・・・・・)が、だ。

 

 十四が、ではなく。なのはが、意識をし始めている。誰に?無論、十四へと。

 先に惚れたのがなのはの方であると、彼女たちは察知したのだ。

 十四は変わっていない。恋愛の「れ」の字も知らないあの少年の心を永久保存したような彼は、相も変わらずであった。

 ほんの少しでも、十四が恋心というものに意識が向いていたとしたら。ほんの僅かでも、なのはのことを女の子として見ていたとしたら。アリサたちと一緒に悩みを共有したときに、あれほど苦労することはなかっただろう。

 その十四を悩ませたなのはこそが、十四を意識していると考えて妥当だろう。

 

「楽しみねーホント」

「そうやねー、ホンマ」

「なのはと十四には悪いけど、ね」

「私たち、女の子だもん。しょうがないよ」

 

 しょうがない。しょうがないと、正当化する。ある意味では、今日十四が来ることが出来なくなったのはよかったのかもしれない。こんな話は、女の子の間だけでしかできないものだから。

 いつだって、どこだって。国が違えど、世界が違えど。恋の話は女の子の大好物なのだ。

 悪い悪いと言いながらも、彼女たちにはまったく罪悪感というものが感じられない。自分が悪いとさえ思っていない。

 ──その証拠に……少女たちは皆、楽しみにするように笑顔でいっぱいであった。

 

 

 

 ────同時刻、なのはは急に背筋が凍ったように怖気が走り。

 ────十四は次元航行艦の中で、未だに泣きべそをかいていた。

 

 

 

 

 

 ────あの時、私はどうしてあの子にあんなことをしたのだろう。

 

 高町なのはは自問する。寝転がって、掛け布団に包まって、サナギの気分になりながら暗闇で考え続ける。

 あれは報復だ。自分のことをたくさん振り回す男の子へと向けた、精一杯の復讐だ。なのはは心の中でそうやって正当化したはずだった。

 何の他意はない。ない、はずなのに。

 

「……何で」

 

 ──なぜこんなにも、私はさみしい?

 

 この孤独な病室。用意された個室は少女にしてみれば不相応に広く感じられた。

 今まではなかった。あの少年が……十四が、毎日のように訪れてきてくれた。

 退屈に満たされたこの空間が、彼が来た瞬間に明るい色調の花々に囲まれた庭園に早変わりする。そんな気すらするのだ。

 さみしさ、というものはここであっても最も縁遠い感情のはずだった。

 十四がいる。十四が来てくれる。それだけでよかった。それだけで、さびしさというものが感じられなくなった。

 

 ……最近は、そうではなくなった。

 あんなことをしてから、ここずっと……なのはは久しく感じていなかった孤独感の重圧に潰されていた。

 たとえ、隣に十四が来たとしても……このさびしさが消えてくれない。

 

「……違う」

 

 さびしさが消えないのは、自分が逃げているからだ。十四がここへ来ても、顔をあわせられない自分がいけないのだ。

 どうして、顔を合わせられない?今まで、毎日毎日顔を合わせてきた男の子だろう。

 そう、“いつもの”ことだ。いつものように顔を見て、いつものように挨拶をする。簡単なことだろう。

 

「…………!」

 

 無理。できない。そんなことをしたら、高町なのはが壊れてしまいそうになる。

 なのはの心だけでなく、自らの心の中にいる十四も一緒に。

 ……なのはを支えとしている十四の心すらも、砕いてしまいそうになる。

 嫌だ。厭だ。イヤだ。そんなことしたくない。

 

 そんなことになってしまえば……十四は今度こそ本当に一人ぼっちになってしまう。

 

 なのはは、自分が壊れてもいい。孤独のまま壊れ果ててもかまわないとさえ思っている。

 しかし、十四の心を壊すくらいなら。自分のせいで十四を一人ぼっちにさせてしまうのなら、こんな自分はどうなったっていいとさえ少女は覚悟している。

 

 十四がしびれを切らして、無理矢理に掛け布団を引き剥がしたことがある。

 その時のなのはは、心臓が止まる気分を味わった。

 十四の顔。それがなのはの目に映った瞬間、体が勝手に彼へと飛びかかろうとさえしたのだ。

 この時ばかりは、まともに動けない原因であるわが身の負傷に感謝した。一瞬の猶予があったおかげで彼女はなんとか理性で抑え付けることに成功した。

 抑えきれない。こらえ切れない。なのははもう、十四が隣にいるだけでは物足りなくなってしまっていた。

 ──抱きしめたい。その肌の温もりを感じたい。

 今度はほっぺじゃない。別のところにもしたい。

 自分の物だと印をつけたい。誰のものでもない、高町なのはのものなのだと残したい。

 

 ────世界で一番、誰よりも。十四の一番近くにいたい。

 

(いやだ、いやだ、いやだ……!こんな私を見られたら、私……!)

 

 こんな姿、こんな願い、こんな欲望……十四に見られたら彼がどれだけ傷ついてしまうだろうか。

 十四がなのはのことが好きだということは彼女自身もわかっている。そして、その好きのベクトルが親愛と敬愛の情によるということも。

 醜い……爛れた自分を見てほしくない。こんな自分を見て、十四は心を砕くに決まっている。

 十四にとっては、自分は生きる希望なのだから。自分に失望されてしまったら、彼はまた……!

 

 高町なのはは、彼の女神でなければならない。淫らな心など、持ってはいけない。

 

 愛したいのに、愛せない二律背反。欲望に素直になれば彼を壊してしまう。欲望に抗おうとも自分が壊れ、同時に彼も壊れてしまう。

 本能から来る歪みと、それを許さない理性。それらがぶつかり合い、心は摩耗していっていく。

 ……十四もこんな気持ちだったのだろうか、となのはは思い出す。

 大切な人たちを殺めたい欲望に、そんな歪みを背負った自分を殺したい理性。加添十四はあの事件当時、潔癖すぎる己の善性から自分自身を許せず、悪に身を投じようとした。

 今ならその気持ちが理解できる。これは、辛い。これは、痛い。これは、苦しい。

 いつまで続く、この地獄。幕引き(カーテンコール)はまだか?ご都合主義の神(デウス・エクス・マキナ)を求めたくなる。

 

「……助けて、よ……!」

 

 暗闇に手を伸ばそうとも、掴む手はない。

 この世界に、なんだって出来る絶対無敵最強の主人公(ヒーロー)はいない。

 誰だって皆、苦悩し続ける限り囚われの姫君(ヒロイン)だ。

 

 

 

 

 

「おっす、なのは。遊びに来たわよ」

 

 

 

 

 

 ──だが同じように。ヒロインだろうと主役になれる力を持っている。

 

 ──悩み苦しみ、助けを求める誰かの手を掴めば……。

 

 ────誰だって、誰かの英雄になれるのだから。

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