愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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恋話、姦しきガールズトーク2

 アリサたちが病室に来たとき、ベッドの上は掛け布団で完全に隠れて不自然な山になっていた。

 十四の話に聞いたように……彼に対しては絶対的な拒絶をしているようだった。

 彼女たちは、本当に今日は幸運だと思う。彼女たちの都合がついたことも、十四が仕事で来ることができなくなったことも。

 ここにもし十四がいたのなら。まず最初に彼を追い出さなければ話にならないのだから。

 その手間が省けるだけ、運がいい。

 

「さて」

 

 アリサは布団の端を掴み、何の躊躇いもなく引っ剥がした。

 山の正体……高町なのはを暴き、彼女は満足顔。

 

「おっす、なのは。遊びに来たわよ」

 

 アリサはしてやったり、といった満面の笑みだ。

 

「アリサ、ちゃん……?」

 

 暗闇から光に満ちた外の世界へと身をさらされる。

 闇に慣れた目が外の光が突き刺さって眩い。聞きなれた声で、なんとか誰なのかと判別がつけることができた。

 今日、皆がここへと来る。昨日そう、連絡が来たのを覚えている。

 なのはが時計を見ると、思っていたより時間が過ぎていたことを知る。

 そして、ここに来る皆の中にはあの少年も……。

 

「ああ、十四は急に仕事が入っちゃってね。なのはにはちょっと残念だったかしら?」

「……べ、別に残念なんかじゃないもん」

 

 ようやく、光に目が慣れてくる。見渡しても、確かに十四はいない。

 残念ではない、とは口で言っても。なのはの顔や声色はそう言っていない。

 林檎のように真っ赤になって、声も震えている。意地を張っていないと言うのが嘘くさい。

 見舞いに来た彼女たちは持ってきたお土産を、ベッド近くの戸棚に置く。

 パイプ椅子は数が限られており、アリサはベッドに腰掛けて、彼女たちは椅子に座ってなのはの近くに寄る。

 

「聞いたわよ、なのは。アンタ、十四を避けてるんだって?」

「……!」

 

 容赦なく、アリサは話を切り出してくる。この遠慮のなさは、長い付き合いであるなのはが相手だからこそ出来る。

 十四が悩んでいた。なのはが、顔を見せてくれない。ずっと隠れてしまっている。

 口が軽い、とは十四がこの海鳴に来て思ったことだ。今では彼も、伝染してしまったのだろう。

 

「……うん。今の私じゃ、面と向かって十四くんと会えない」

「そっか」

 

 なのはは肯定する。今の自分に、十四と顔を合わせる資格がないと認めた。

 今の自分は汚れている。こんな気持ちを持ったままで、十四に会うことなんて許したくない。

 誰が許そうとも、自分が許したくない。このまま自分が壊れようとも構わない。

 なのはの覚悟は、固かった。

 

「……好き、なんだよね……なのはは。十四のこと」

「……」

 

 無言で、頷く。

 なのはは、十四が好きだ。十四が欲しい。十四を自分のものにしたい。

 ……本能がそう叫んでいる。面を合わせてしまったら、すぐさま実行しようとする自分がいる。

 

「十四もね、なのはのこと好きなんだよ。これも知ってるよね」

 

 知っている。知らないはずがない。ここにいる全員の共通認識である。

 加添十四は高町なのはが好き。しかし、その好きのベクトルが違ってくる。

 彼が向けているのは、親愛と敬愛の情。なのはの異性へと向ける愛とは、食い違ってしまっている。

 

「……違うの。十四くんは、そういう見方で私を見てないよ」

 

 彼女たちは、なのはと十四は同じ思いで相思相愛。そう思ってしまっている。

 だが違う。そうではない。十四の抱いている思いはそうではないと、なのはは知ってしまった。

 

 ……あの雨の日。十四がなのはの体を案じた夜。

 なのはへと叫んだあの思いは、なのはが壊れてしまって欲しくないという願いが詰まっている。

 女神の像へと語りかけるように。祈りを捧げるように。女の子としてのなのはに、何一つとして訴えていないのだ。

 そこで気づいてしまった。責任を取ってくれ──あの事件のプロポーズは、女としてのなのはへ向けたものではない。

 生きていてほしい──ただそれだけが込められた言葉だったのだと。

 

「私がいるだけで、十四くんは幸せになれるの。私が幸せになれば、十四くんも嬉しくなれるの。たったそれだけだったのに……」

 

 それ以上は、求めてはいけなかった。

 ただ、共にいるだけで幸せだった。隣に立っているだけでよかった。

 たったそれだけで、十四(アダム)にとってはそこは楽園(エデン)だったのだ。

 しかし、なのは(イヴ)は求めてしまった。禁忌の林檎(あい)の味を、知ってしまったのだ。

 十四へとしたあの口づけが……なのはが楽園を壊してしまったのだ。

 

「私はもう、十四くんの隣に居れない……!」

 

 心が、痛い。胸が、痛い。

 どうして、恋を知ってしまったのだろう。

 無知のままいれば、こんなに苦しむことはなかったのに。

 強い後悔に苛まれ続けている。なのははもう、一生このまま苦しみ続けてしまう。

 

「……ねぇ、なのはちゃん。本当に、相容れないのかな」

「……」

「好き合っているんでしょ?だったら、相思相愛じゃない。難しく考えなくてもいいと思うな」

 

 すずからしからぬ、大胆な言葉。複雑に考えてしまうから、がんじがらめになってしまうのだ。もっと単純(シンプル)で空っぽな頭になって挑めばいいのだ。

 彼がなのはをどう思っていようが、そんなことはどうでもいい。まず、自分の気持ちを通さなければ愛は愛ではない。

 なのはが得意とする“お話”とは違う。まず、伝える。そして、聞く。一方的に相手の言い分だけ聞いていてはいつまで経っても終わらない。

 “想い”をいつまでも“重く”引き摺ってしまっていては、想いは腐らせるだけになってしまう。

 愛の種類が違う?構うな、押し通して押し付けろ。行動してから考えろ。

 ──恋とは、そういうものだろう。

 

「……なのはちゃん。十四くんは、なのはちゃんのこと女の子として見てない……って言ってるようなもんやで。悔しくないん?」

 

 はやては焚き付ける。なのはの中の“女”を。幼いながらも、芽生えつつある女性としての心を奮わせる。

 悔しくないのか。腹が立たないのか。高町なのはとは、その程度の女なのか。母からもらったその顔は飾りにもなっていないのか。飾りなら飾りらしく、男を惹くために引き立てろ。

 あの男の子は。あの男は。あの野郎は。高町なのはを女として魅力が無い……そう言ったも同然なのだぞ。

 兄妹として、家族として。そんな言い訳に耳を傾けるな。私は高町なのはという女だ。あの野郎の頭にそう焼き付けろ。

 ──女だったら、男の一人くらい自分の色気で傅かせろ。

 

「……ねぇ、フェイト。私、あの二人が怖く見えるんだけど」

「……私もそう思う」

 

 アリサとフェイトは、喜々としてなのはに色々吹き込むすずかとはやてに若干引いた。

 はやてはわかる。十四の相談相手をして、耳年増なところもあるのは知っている。しかし、あのおとなしいすずかがこうもノリノリで恋愛相談をするところは、長い付き合いであるアリサも見たことがない。

 文系少女、恐るべし。この二人が初めて出会った場所も図書館である。多くの恋愛小説を読み込んだ彼女らには死角はなかった。

 

「……けど、もし十四くんに嫌われたら……」

『ない、絶対に』

 

 彼女たちは声を揃えた。それはない。ありえない。

 なのはは知らない。なのはのいなくなった学校で、どれだけ彼女たちが十四の惚気話を聞かされているのか。

 溺愛という言葉すら生温い、盲信という言葉が嘘くさく聞こえてしまう。聞いて砂糖を吐く、これが適当な表現である。

 特に同じクラスであるフェイト以外の三人、もっと言えば相談役のはやてが最大の被害者だ。最近、ケーキの甘味が感じられなくなった程である。

 

「ねぇ、なのは。アイツ馬鹿でガキで、好きだって気持ちも気付かないニブチンだけどさ……。信じてやって」

 

 十四という男の度量を、信じてみろ。

 それが、彼女たちが恋に悩む親友へと送る、最高のメッセージだった。

 

 ──愛とは、他者の心を壊すもの……そう解釈することもできる。

 ──ならば恋とは、意中の者から心を壊された、と言えるだろう。

 

 加添十四はあの事件で、高町なのはに責任を取れと言った。

 なら同じく。あの少年にも取ってもらおうではないか。

 

 

 

 

 

 ────私の心を(こわ)した責任、取ってください。

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