愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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戦場、蹂躙闊歩する魔導師2

 場所、管理世界のとある地域の、とある賭博場。

 ──の、地下。広域次元犯罪組織の拠点の一つのここで、質量兵器の取引が行われようとしていた。

 上の階層は、公的に許可された賭博場。民間人も多くいるこの建物内は、ある意味ではうってつけの取引場所であった。

 賭博を楽しんでいる民間人はいわば人質。この場所で大規模な戦闘は管理局側にとっては封じられたも同然だった。

 ここを拠点としている犯罪組織と、取引相手である反管理局組織は直接面を合わせるわけではない。通信越しに、転送によって物品を交換し合う方法をとることになっている。

 

 作戦内容は非常に単純である。両組織が金銭と物品の交換を、アースラにいるエイミィがジャミングして妨害。それらをアースラに転送。そして反管理局組織の拠点を割り出す。

 直後、十四が犯罪組織側へと急襲をかけて制圧。上階層の民間人に被害が及ばなければ、手段は問わないとクロノから許可が下りている。

 制圧が完了したあと、待機していたクロノが犯罪組織人員を逮捕……という流れになる。

 

「……さて、やるか」

 

 加添十四は、余りにも堂々とこの地下拠点に乗り込んでいた。

 逃げも隠れもせず、ここにいて当然のように。立ち塞がった組織の者を叩きのめし、正面から入り、奇策も使わず実力のみで、このうす暗い場所に不釣り合いな十一歳の姿で闊歩していた。

 格好もバリアジャケットではなく、彼の運動用の普段着とも言えるジャージ姿。魔力防御も物理防御も心もとない装備でここに来ているのは、一切被弾をしないという自信があらわれている。

 十四の歩いてきた後ろには、彼によって戦闘不能に追いやられた犯罪組織の人員が倒れ伏している。その内の何名かは魔導師であったのにも関わらず、十四には何の外傷は見当たらない。

 魔法を使わせず、武器を使わせず、他者への連絡もさせず……迅速に、手早く、音を立てず、一方的に、自分以外の人間が確認次第で見敵必殺(サーチアンドデストロイ)。これほどの手際は、同じミッドチルダ式の魔法を扱うなのはやフェイトも同じことが出来るかどうかすら首をかしげる。

 同じ空戦戦闘を可能にする、なのは、フェイト、十四の三人であるが。近接戦闘、特にこういった閉所での地上戦の適正は十四がずば抜けて高い。空手を魔法戦技に組み込んだ魔法格闘戦術は、こういった地下や建物内では抜群の威力を誇る。もし、先に挙げた三人でこの場所でバトルロイヤルを繰り広げたのなら。十回やって半分以上の回数は十四が最後まで勝ち残ることになるだろう。

 

「あと、三分」

 

 時計を確認し、十四はこの拠点のボスの部屋までたどり着いた。

 見取り図は事前に入手してある。そうでなければ、単身でここに突入することもままならないだろう。

 この仕事は自分向き。アースラで十四が言っていたことだが、改めて思う。これほどやりやすい仕事はない。

 

(確か武装隊にもこういう急襲型の部隊もあったはずだよな)

 

 空を飛ぶのも悪くない。魔法を撃ち合い、高速で飛びあい、華々しい魔法戦技も嫌いではない。

 しかし十四には、こういう地上戦闘の方が確かな手ごたえというものがあった。飛行魔法が使えようと、射撃・砲撃魔法が使えようとも、やはり自分は空手家なのだと実感する。

 かつては道場に通う空手少年として。本気で地上最強の男になると目指したこともある。格上の相手にやられようとも、年上の先輩に倒されようとも、負けを認めずに果敢に挑み続けた。

 ……なら、目指してみるのも一興なのかもしれない。地上最強という男というのもまた、全男子が一度は抱く夢なのだから。

 

(目指してみるか、最強)

 

 こんな力を持っている。なら、目指さないのは男じゃない。夢破れようとも、目指すのはタダなのだ。どこまで行けるのか、試したくもなる。

 自分の空手が、どこまで通用するのか。自分の魔法が、どの程度なのか。

 知りたいと思うのは、強さにこだわるのは、男の子の性である。

 

(……さて、時間だ)

 

 時計から目を離し、十四は躊躇いもなく扉を蹴り破った。

 

「挨拶代わりだ、もってけクソッタレども」

 

 地下施設の中で広い部類に入るこの部屋の中で、目視で確認できた敵の数は三十人以上。やはり、情報は漏れていたと舌打ちをする。

 魔導師戦力はここに集結していた。ほぼ全員がデバイスを突入した十四へと向けていた。

 質量兵器取引はカモフラージュで、実際は十四抹殺の作戦。つまりはこういうことだと、予想はついていた。

 事実、十四の首にはかなりの額の懸賞金が裏の世界でかけられている。生け捕りで捕まえれば、むこう十年は遊んで暮らせる金額である。

 目的は言わずもがな、十四の持つ能力であるブラウニー。それで力を得るのか、金を得るのか、命を得るのか、まるで興味が沸かないのが本人の感情だった。

 

 ――乖離型牢獄結界(デタッチメントプリズンエリア)

 

 十四の初手はこの部屋に捕縛用結界を展開した。誰一人として逃がさないために、敵の退路を断った。乖離型の牢獄結界……かつてこの魔法を活用し、なのは、フェイト、はやてを同時に相手取り、勝利した経験がある。

 広く展開できない結界で、決して使いやすい魔法ではない。維持や展開にかかる魔力消費量も十四の半分程度を持っていくほどののものである。しかし、その強固さはなのはの砲撃を受け付けないレベルにあり、名前の通りの効果が約束された結界魔法である。

 

 すぐさま結界の外へと離脱。発動者、もしくは発動者の認可が得た者のみがこの結界は出入りが可能になる。いわば、牢獄の管理者……看守の役目だ。

 十四を狙った魔力弾は当たることはなく、結界の壁にむなしく弾かれて消える。

 結界に囚われた中の魔導師の数は三十三人。しかしその中で一番の実力者は魔導師ランクで換算して推定陸戦A+程度。武装隊では十分にエースを張れる実力ではあるが、この結界を破れる力はない。全員が一点に砲火を集中すれば可能性はある。が、彼らのようなゴロツキにそのような統率力はない。

 そして何より、十四がそれをさせない。

 

 ──拷問監獄(トゥーチャールーム)(キューブ)

 

 部屋を覆った結界が縮小する。決して狭いとは言えない大き目の部屋程度まで展開された結界が、小さくなっていく。

 この牢獄結界は、高い魔力消費と引き換えに、術式に遊び(・・)が存在する。つまり、応用が利くことがこの魔法の最大の長所である。

 その一つが今見せた『トゥーチャールーム・キューブ』という牢獄結界から繋がる派生魔法である。

 結界が小さくなり続け、三センチ四方の立方体になってやっと止まる。床に転がった魔力で構成されたサイコロ。魔力で出来ている以外は一の目から六の目まである何の変哲もないサイコロであるが……この中に、変わらず犯罪組織の人員が入っているのだ。

 もちろん、中にいる者は結界が小さくなったことに気付いていない。結界の中は変わらない広さを保ち続けているのだ。

 十四はそれを拾い上げ、サイコロの用途を果たすように振る。投げられた賽は硬い床を跳ね、転がり、止まる。

 出た目は一。目の数字そのものは大して意味はない。サイコロを振ったことに意味があった。

 サイコロを持って魔力を目に集中すると、結界内で起きている惨状を俯瞰する。

 ……結界内に囚われた犯罪組織の人員全てがダウン。原因は結界の壁に叩き付けられ、人同士がぶつかり合った結果である。

 拷問監獄の名に恥じぬ威力。『(キューブ)』とは、閉じ込めた者をサイコロに封じ、用途に沿って転がして拷問する。壁にぶつかり、人にぶつかり、地に足がつかないまま責められる苦痛は計り知れない。

 この魔法を十四は割と気に入っていた。何せ、サイコロを投げるだけでダメージに繋がる。魔力消費量を抜きにすれば、これほど楽なものはない。

 しかし、彼の周りでは非常に評判は悪い。妖精事件前に、仲間内の模擬戦で披露したことがあるのだが、『もう二度と使わないで』と念押しされたほどのものであった。

 魔力で出来たサイコロをポケットに入れて、念話を繋げる。

 

 ──"クロノ、制圧は完了。そっちは?"

 ──"滞りなく終わったよ。作戦終了だ。倒れているヤツらを残らず回収してから合流だ"

 ──"りょーかい"

 

 任務は完全には終わってはいないが、ひと段落。大きくため息を吐いて、少し緊張を解く。

 終わってみればこんなもの。呆気ないと、心のどこかで物足りなさを感じていた。

 こんなことのために駆り出された。そう思うと十四は怒りが込み上げてくる。

 やはり、自分を狙う者たちとは決着をつけなければならないと考える。自分だけ狙われるならいい。だが、もし他の者たちを巻き込んだりしたら……。

 …………なのはを、傷つけようとするものなら……!

 

 ──その時は、自分が自分でいられる気がまるでしない。

 

 また、ため息。最近、ため息の回数が増えてきたと彼の中で自覚がある。このままだと本当に幸せが逃げていきそうな思いにさせられる。

 怒ってばかりで、体が持たない。怒りの感情は多大なるエネルギーを使う。疲れてばかりで、良いことなんてなにもない。

 どうして自分ばかりがこんな目に合う?そう嘆いても世界は何も変わらない。

 思うようにいかない……この世の中。

 

 ──"十四"

 ──"んだよ"

 ──"事後処理は僕に任せろ。今からなら面会時間もギリギリ間に合うだろう"

 

 ここから出て行った後の十四の分の書類仕事を、クロノが肩代わりしてくれる。そう、言ってくれたのだ。

 現場での制圧より、書類仕事の方が時間がかかる。そう思っていたからこそ、今日病院に行くことが絶望視されていたのだ。

 

 ──"僕なりの詫びだ。これで許してくれ"

 ──"悪いヤツだな、クロノ"

 ──"知ってる。悪い弟子を取ると師も悪くなってしまった"

 

 そう言いながらも、クロノの声に嘆いている様子はない。

 弟を見守るような、穏やかな兄の声であった。

 

 ──"大好きだぜ、師匠"

 ──"知ってるよ、弟子"

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