マジですいません。
モチベに関して言えば感想をどんどん書いてもらえればガンガン上がりますので!
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加添十四が病院に着いたのは、面会受付が終了する三十分前だった。
任務後の書類仕事を十四の分も、クロノが請け負ったために今日の内にここへと来ることが出来た。彼には肉体の凍結といい、大きい借りがいくつもできてしまっている。
いつか、いつかはこの借りを全て返したい。そう思っていてもそう容易いことではなかった。そのような機会はそうそう訪れることはなく、こちらは借りが積もり積もっていく。
いつか。いつか必ず、借りは返す。借りの作りっぱなしはキャラではない。
「……間に合った」
息を切らして受付を済ませ、病院内を歩いていく。ここへ、来たかった。
病室へと着くまで、心は躍る。いつ来ても、何度来ても、毎日来ても変わらない。誕生日を待つ少年のように、彼の心は落ち着きというものがなかった。
やっと。やっとここへと来ることができた。毎日来ているというのに、まるでずっと来ていなかった懐かしさすら感じた。
十四は病室の前までたどり着くと、乱れた呼吸を整えた。脈拍は未だ落ち着く気はないようで、血液のビートを鳴らし続けている。
数回のノックをしてから、返事を待つ。「どうぞ」と言葉が返ってきて十四は扉に手をかけた。
「あ……」
扉を開けると、十四が待ち焦がれた彼女がいた。
少女は隠れずに、真っ直ぐ十四を見ていた。
「悪いな。遅くなった」
「ううん、そんなことないよ」
病室の中を見渡せば、見覚えのないものは彼女たちが置いて行ったお土産のみ。彼女たちはもう帰っていったのだと十四は知った。
十四には、そしてなのはにはその方が都合が良かったのかもしれない。
彼女は彼に伝えたい言葉があった。高町なのはの、一世一代の大舞台。それを、加添十四に聞いて欲しかった。
「ごめんね、十四くん。今まで、ずっと隠れてて。ずっと、逃げてて……」
「おう。すっげーさびしかった」
なのははまず、十四に謝った。ずっと隠れてて向き合わなかったこと。十四を避けて、逃げていたことを。
事実、十四にとっては堪ったものではなかった。拷問より、なのはに会えないことがかれには苦痛だ。十四をなぶり殺しにさせたければ、なのはから距離を置かせればいい。
「十四くん」
「ん?」
「もっと近くに来て」
十四は病室の出入口近くに立ったまま。言われるように彼女のいるベッドの近くのパイプ椅子に腰を下ろす。
「もっと」
「……おう」
今度は、ベッドに座る。もう、彼女の手の届く距離だ。
「もっと」
「……いや、これ以上はどうすりゃいいんだよ」
これ以上はどうやっても近づきようがない。この距離でも、十四はなのはの匂いを感じることができるほどだ。
花の匂い、お菓子の匂い、そう表現されることがある女子特有の匂い。
十四の脳髄を溶かし、壊し、魅了する劇薬である。
呑まれてはいけない。この匂いに酔ってしまったら、自分が自分でなくなってしまう。なのはを、傷つけてしまう。十四はそう直感的に悟っていた。
もっと近づいてしまったら、危険域になる。自分で自分を、押し止められなくなってしまう。
「こうするの」
「……!」
……十四は、なのはに抱きしめられる。
お互いの匂いがわかる。お互いの体の感触がわかる。お互いの心音が、聞こえている。
……世界で一番愛しい人が、世界で一番近くにいる。
その事実が、なのはが一番嬉しかった。
「だめ?」
「ダメ……じゃないけど……」
十四が断れない。断れるはずがない。
なのはを抱きしめたい。そう思ったことは一度や二度ではない。
そうしなかったのは、なのはを悲しませると思っていたから。我慢をすることが、なのはの幸せに繋がっていたから。自分の幸せに、繋がっていたから。
しかし、そのなのはが抱き締めてきている。彼女から、自分を求めてきている。それが何を意味することなのか、鈍い十四といえど、気づかないはずがない。
もう、抑えが、きかない。
「……なぁ、なのは」
「なあに?」
「俺も、抱き締めていいか?」
「うん!」
十四の手が、なのはの腰にまわされる。
抱き寄せられてさらに二人は密着する。
抱きしめると、思ったより華奢だと初めて十四は知った。今は背は同じくらいでも、女の子はこの時期が伸び盛りですぐに越されてしまうだろう。それでも女の子の腰がこんなにも細いとわかったのは今初めてであった。
密着して触れているからこそ、わかる。こんな弱弱しい体で……あんな傷だらけになっていた。十四はそう考えただけで、涙が出そうであった。
「なのは。これは勝手な独り言だから聞き流してくれ」
「……わかった」
「本当は、俺はなのはに魔法を使ってほしくない。危険なところに、いてほしくない」
なのはへ送る、十四からの本当の気持ち。そうなってほしいという、心からの願い。
危険な、痛い目には遭ってほしくない。もっと、女の子らしい幸せを知ってほしい。
大切だから。失いたくないから。彼女こそが、彼に残された最後の宝石なのだ。
「魔法が使えなかろうが俺は絶対に見捨てない。絶対に退屈はさせない。危ない目には俺がさせない、必ず守る。だから……」
――もう、これ以上……俺の手のひらからこぼれ落ちないでくれ。
十四の言葉はなのはの意思を完全に無視した勝手なわがまま。最終的な意思決定はなのは自身にある。考慮に入れるかどうかは彼女が決めることだ。
無論、彼女がどの道を選ぼうとも十四は彼女の決定を尊重する。決して、十四が望まぬ道を選ぼうとも咎めたりはしない。
俺は見捨てない、だからあなたも消えていかないでほしい、という少年の願い。
さらに強く抱き締める。この温もりが、この心音が、この匂いが消えてしまうのは絶対にさせない。
高町なのはこそが、加添十四の唯一の支えであるのだから。
「十四くん……」
なのはは、感極まっていた。
ここまで、ここまで自分を思ってくれる人。自分がいなければ、消えてしまうくらいに儚い人。
そしてまた自分も、彼がいなくなってしまったら壊れてしまう。そこまで彼に弱く、脆くさせられてしまった。
その弱さが、たまらく……なのはには嬉しく感じられた。
「……私ね、決めたよ」
だからこそ、今。決めたいと思った。自分のこれからを。
十四は言った。魔法が自分の幸せに繋がらないと。誰かを幸せにすることはできても、自分を幸せにするわけではないと。
「私、もう一度魔法を使いたい。十四くんと一緒に、空を飛びたい」
「……いいのか」
それは、十四のブラウニーによって治すのではなく。地獄のようなリハビリを経て自力で治すことを目指すということである。
その道は必ず治るという保証はない。魔法が使えるどころか、普通に歩くことすら不可能なのかもしれない。リスクが高い、賭けのような選択だった。
「十四くんは、私にまだいっぱい……言えないことあるよね」
「……」
「知ってるんだよ。クロノくんと色々企んで……」
「ま、こんな要らん力持ってるからな。しょーもないが」
なのはには、明かしていない。クロノと十四だけの、男同士の約束。大切だからこそ、巻き込みたくない。
十四が身を投じているのは、大人の世界の権謀渦巻く汚いところだ。そんなものを彼女に見せるわけにはいかない。ドブ掬いの役目は野郎に任せればいい。
彼女の空を、守るのが十四の役目だ。
「だから、十四くんを助ける」
「それは……」
「十四くんがいれば、私は幸せだよ。魔法が私の幸せに繋がってるよ……ダメ?」
なのはの魔法が十四の幸せにし、十四がいることでなのはは幸せになれる。
幸せの循環だ。結果的に、なのはの幸せになっている。
「魔法が使えるようになるとは限らないぞ」
「知ってる」
「今まで通りに歩けるとは限らないぞ」
「知ってる」
「……地獄を見るぞ」
「一緒についてくれるんでしょ?」
「ああ、もちろん」
なのはは、自分の道を決めた。自分の幸せを見つけた。
魔法をまた、この手に。幸せのために、魔法を使う。
そのためなら地獄を見てもいい。大切な人となら、どんな地獄でも笑っていける。
「私は、あの時は十四くんのこれからに責任を取ったから」
──十四くんも、これからの私に責任を取って?