愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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始動、再臨の妖精王

「よーう、親友」

「……どうしたの、十四」

 

 時空管理局本局……次元世界の海に漂う時空管理局の本拠。なのはもフェイトも、はやても。そして十四も本局所属である。管理局からの仕事を受ける際には本局を通すことが必要になる。

 その中の施設、無限書庫は管理局設立以前から集められた数多くの次元世界の膨大な資料がおさめられている。

 その司書の一人、ユーノ・スクライアはほぼ放置同然だった無限書庫をシステムとして成立させた立役者。今では数多くの事件に、彼が影で活躍している。

 加添十四がここへと笑顔でやって来た。瞬間、ユーノは悟る。絶対ロクでもない話題を土産にやって来た。

 ──この師弟は自分に厄介事しか運ばない。

 クロノはまだいい。良くはないがまだいい。莫大な資料を求められるくらいで、削られるのは体力と精神力と魔力、それと正気が若干失うだけである。

 しかし十四は違う。無茶な資料請求をされることはないが、その代わりに面倒なことに巻き込まれるのは必至となっている。

 

「……なーに、ユーノにしかできないことを頼みに来ただけだ」

「言っておくけど、僕に出来て君に出来ないことってあると思う?あっても数えるほどしかないと思うけど」

 

 十四は自分を過大に評価しているとユーノは考えている。それはかつて、あの事件で戦ったことが原因なのは明らかだった。

 何をどう間違えたのか、十四の中ではユーノに本気でやって負けたと思い込んでいる。かつての妖精事件当時の、十四本人が全盛期と断言できる力で、ユーノに敵わなかったと考えている。

 大変な負けず嫌いの十四が一度でも敗北を認めた。当時精神が不安定であったことを差し引いても、負けたと認めたことを覆すことは十四の矜持が許さない。

 本来であれば、十四とユーノの戦力差は隔絶している。レアスキルを抜きにしても、なのは張りの潜在魔力とクロノの後継とも言うべき技術力(テクニック)万能性(ユーティリティー)を併せ持っている。

 ユーノが勝る、もしくは十四に迫っている長所と言えば結界と防御魔法、そして治癒魔法。処理能力に関して言えば、並行処理ではユーノ、高速処理では十四に軍配が上がる。

 なんでも出来るスーパーマン。ユーノにとっての十四の印象は、正にそれであった。

 

「バカ言うな。お前がいなきゃ、俺はここで調べ事出来ねえじゃんか」

「君も司書資格持ってたよね。一夜漬けで資格試験を合格したのはちょっと腹立ったけど」

「お前がいるのといないのじゃ作業効率が全然違うんだよ」

 

 図書検索魔法は十四も出来る。が、熟練度で言えばユーノに比肩する者はそうはいない。

 が、二人でやった方が一人でやるよりずっと作業効率が高いのは確か。

 急ぎの仕事も存在しない今、ユーノは少しは手伝ってやろうとする。

 

「わかった。何を調べるんだい?」

「管理局設立以前の前身組織時代から今に至るまでの会計帳簿」

「新暦前から今までの帳簿?見つけるには苦労しないけど、量が多いな」

「実際は三十年くらいまででいいかなー、って思ったんだが念には念をでね。クロノが」

「アイツも噛んでいるのか……」

 

 この師弟は一体何を考えているんだと非常に気になるが、聞いてしまったら後戻りができないとユーノの中の危機感知本能が警報を鳴らしている。 

 

「……聞かないの?なんでそんなもん調べてんのーって」

「聞いてほしいのかい?僕は嫌だよ、底なし沼に足を突っ込むような行為は」

 

 別の言い方として、藪蛇とも言う。

 好奇心が猫を殺すようなことに、巻き込まれるわけにはいかない。自分は弱いのだ。無茶をやって生き残れる力を持っているわけではない。

 

「参ったな。俺としてはお前を巻き込むつもりだったんだが」

「怒るよ」

 

 冗談ではない。修羅場に放り込まれるのは先の事件でこりごりだった。集束砲撃をまともに受け止める無茶は、これからの人生でもこれっきりにしたい。

 

「バカ言うなって。お前があの時一番イイ顔してたじゃねぇか」

「そうさせた元凶が言うセリフ?」

「どうだか。ユーノ・スクライアが今までの人生で一番必死だった時はなんだった?」

「ジュエルシードをばらまいてしまった時」

「セメントだなー」

 

 十四としては、自分と戦っていた時といって欲しかった。

 あの敗北は、十四にとっても気持ちのよいものであった。負けず嫌いの十四が敗けを認めて、後悔のない戦いだった。

 ユーノ自身も突っぱねているが、本音は十四との戦いがこれまでで一番命の危険を感じた。

 圧倒的過ぎた戦力差。あの時十四が敗けをを認めなければ、今頃墓に入っていたのは自分だった。自分は今、十四の気まぐれで生かされている。

 

「困ったなー、お前がいねーと手詰まりなんだが」

「僕なんかがいなくても回るだろう。君がいれば困ることなんてないさ」

「その俺が原因で、なのはを傷つけることになってもか?」

 

 その十四の言葉に、ユーノは睨む。

 先の事件の首謀者へ警戒の目を向けるが、十四は勘弁してくれという風に両手を上げた。

 

「待てって。そりゃ俺には前科があるけどよ。もっかいアイツらを泣かしたいなんて思ってねーよ」

「そこは信用してるよ」

「顔と言葉が一致してねーよ」

 

 十四の中にはもう、歪みきった衝動はない。あの事件を繰り返すことはない。

 しかし、未だに全面的に信頼されているわけではない。ユーノ、そしてヴォルケンリッターの面々はどこか不信の部分が残っている。少しずつ、時間が解決していくことを待つしかないだろう。

 

「どういうこと?君のせいでなのはが傷つくって……」

「俺が色々と面倒臭い立場なのは知ってんだろ。なりふり構わないクソみたいな連中が巻き込む可能性もある……いや、むしろ高いな」

 

 そうしない方がおかしいとまで、十四は断言する。それほどまでに、十四の力は魅力的に見えてしまうのだ。

 ユーノもその辺りは熟知している。『機械仕掛けの妖精(メタリカ・ブラウニー)』に最も翻弄されてきたのは自分たちなのだから。その恐ろしさは十二分に知っている。

 その気になれば一時代の覇者になることも不可能ではない破格の力だ。王になるべくして得た力、そう言われても不思議ではない。

 

 故に、十四を狙う者たちは手段を選ばないだろう。彼が、そして彼の周りがどうなろうとどうでもいい。彼の力さえ手に入ることのみを念頭に入れている。

 脅迫や人質、真っ先に考えられる手段である。無論、そうはさせないための対策も立ててある。

 

「元を絶たなきゃ意味はない」

「……おい、まさかとは思うけど、この帳簿を調べる目的って」

「んなもん、裏帳簿作ってるヤツを割り出すに決まってんだろ」

 

 正式に提出された帳簿から、個人が作り上げている本当の会計帳簿……正確な数字がある裏帳簿を作っている者を割り出す。賄賂、横領など、大きな声で言えないような金のルートがあるはずだ。

 

「……そういうことは査察官に」

「査察官も抱き込んである」

「……都合よく君を狙っている人が後ろめたいことをやってるとは……」

「目星は最初からついてる。あとは証拠をそろえるだけ」

「……ああ、つまり捕まえるだけの材料を揃えに来たのね」

 

 十四にしてみれば、もう狙っている対象は決まっていた。やっていた、という記憶さえ掴めれば後は物的証拠を揃えてしまえばいい。推理小説を逆から読んでいき、最初から結末を知っていくように。

 犯人は最初は決まっていて、後は証拠を揃えるだけ。十四という少年は医者以外にも探偵にも向いているに違いない。

 そんなことを可能にしている力……十四と結びつけるには安易すぎるほどだ。

 

「話に聞いていたけど、ブラウニーを解禁したんだ」

()は使えないがな」

「つまり、君じゃない君(・・・・・・)が大手を振って使っているわけね」

 

 ユーノは大体察しがついた。十四という少年の性格とブラウニーの能力を知っていれば、そこまでに至るまでは難しくはない。

 ブラウニーの能力の一端、妖精女王(ティターニア)。現在の十四の肉体はこの技法の魔力体によって構成されている。

 このティターニア。ブラウニー以上に応用性が抜群に高い。その要因として、生体情報入力がある。

 ティターニアを素体とし、ブラウニーから回収した生体情報を入力してその人物を作り上げることができる。魔力体であることと、精神(こころ)がないことを除けば、同一人物を作り上げることができる。何せ、同一人物の肉体をそのままコピーする所業なのだ。

 

「……今、()を含めて端末(ティターニア)はいくつ動いている?」

「それ、俺らと手を組むって言ってるようなもんだぜ」

「答えろ」

一個大隊(1000人)フル稼働中」

「ないだろ、ソレ」

 

 その数は妖精事件当時で十四が同時にコントロールすることができたティターニアの最大数。AAAランク級の魔導師一個大隊を、思いのまま動かすことができる。

 しかし、それは十四の中の魔力を空にしてまでの最大動員数。長時間の維持をするまでの魔力も持ち合わせていない。

 ユーノはそれはないと断言した。辻褄が合わない。理に適っていない。そうなるはずがないのだ。

 

「生憎、魔力には困ってないんだ」

 

 だと言うのに、十四には嘘を言っているようには見えない。真実味のある言葉だと、素直に受け止めることが出来る。

 十四は嘘をつくことが苦手である。素直な少年であるため、そのまま物を言ってしまう。

 これが嘘であるなら、詐欺師の才能もあることを認めなければならない。

 

「なのはたちのリンカーコアを移植した方法……他の人のも移植したのか?」

「違うな。魔力を増やすには手っ取り早いが、死ぬほどキツいんだぜ。半日以上はブラウニー総動員で再生に集中しなきゃいけねぇし、バカみたいに痛いからな」

「それって普通は死ぬほど(・・)じゃなくて確実に死ぬから。そんなことできるの君だけだから」

 

 ティターニアの応用技術である、リンカーコア移植法。ティターニアで再現された擬似的なものではあるが、他者のリンカーコアを埋め込んで自らの物にする外法。新暦以前……ベルカの時代でも同じようなことが繰り返されてきたが、成功例は一つとして確認されていない。

 リンカーコアは移植できない、それが定説とされていた。

 それを覆したのが、加添十四。彼の本体の肉体には今も、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてから得たリンカーコアが同調運転されている。

 それによって得られた、常識を超えた魔力量。ティターニアの運用は、なのはに迫る十四自身の潜在魔力量であっても数体が限度であったのだが、リンカーコア四基の同調運転は魔力が乗算され、一個大隊の最大展開を可能にしている。

 機械仕掛けの妖精というレアスキルを最大限に活用するには、多数のリンカーコアの同調運転が前提になっている……己を十全に知ることが出来た十四は、そうなって初めて自覚することが出来た。

 

 ユーノは思考を巡らせる。魔力の拡張方法として単純で画期的な方法ではあるが、十四が違うと言っている。

 ──そもそも、魔力を増やしているなど十四の口から一言でも言っていたか?

 

「どういう方法かわからないが、君の本体はほぼ無限に魔力をティターニアに供給できる……違うか?」

「否だ。ティターニアへの魔力供給は出力の関係もあって有限だ」

「貯蔵量は?」

「ミッドの月の魔力が尽きない程度には」

「……お前、ホントどうかしてるよ……」

 

 ミッドの月の魔力という答えそのもののヒントを聞いて、ユーノは驚くより呆れた。

 言葉通りに受け取るのではなく、ミッドの二つの月の魔力と同等規模の供給源……それを十四は確保済みで、本体である肉体はそこにあるのだと言っているのだと察した。

 蛇口の口の大きさもあって出力は限られているものの、貯蔵量は一個の惑星の魔力と同等にある。その規格外さは狂気すら感じられた。

 外部からの供給源さえあれば、なるほど。十四の言うティターニアの一個大隊規模の同時連続稼働も不可能ではない。精製、維持にかかる魔力の供給も、人の身に過ぎる過剰な惑星からの外部供給で賄えてしまう。

 

「発想が色々と狂ってるよ、お前。手段は選ばないつもり?」

「出来たからやったんだが。それに俺だって方法は選ぶ」

 

 十四はユーノへと手を伸ばす。

 ここまで言わせて、乗らないなどとは言わせない。ユーノ・スクライアは加添十四と手を組む、その証を見せてほしい。

 

「……いいさ、乗ってやる」

 

 ユーノは十四の手を握り返す。

 強く、強く。十四に比べれば非力なユーノの握力ではあるが、十四には力強く感じられた。

 

「僕が協力すれば、なのはを……みんなを守れるんだな」

「テスタロッサも、八神も、バニングスも、月村も……クロノもお前自身もだ」

「協力はする。だけど、その力を暴走させるようなことがあったなら……」

「──その時は、俺を後ろから刺せ」

 

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