愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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生誕、祝福するものの二代目

「……ロッサ、ガランド中将の案件は進んでる?」

「問題ないよ、順調さ。あれだけの証拠物件(ネタ)を挙げられたら誤魔化しもきかないから。告発されたらもう今の地位に戻ることはあり得ないだろうさ」

 

 とある場所の談話室にて、紅茶の匂いを漂わせながらテーブルに書類を広げている少年と青年が二人。

 その書類内容は、加添十四抹殺論者の派閥の顔役の一人についてまとめられた資料だった。輝かしい経歴の裏でどれだけの悪どいことをしていたのか……二人の頭の中では忘れたくなる内容であった。

 少年は加添十四。そして青年の名前はヴェロッサ・アコース──管理局に所属する査察官であった。

 カップに入った紅茶を一口。茶葉の味がわかるほど上等な舌を十四は持っていなかったが、自販機で売っている物とは別次元の物だとくらいは判別がつく。ロッサが淹れてくれた物で、ミルクや砂糖を入れずとも美味いと思えてしまう。

 

「美味いな、コレ」

「そんなに良い茶葉じゃないんだよ。基本をおさえればこれくらいは誰でも淹れられる」

「だったら淹れたヤツの腕がいいんだろ」

「紅茶にうるさいのが身近に何人かいれば、自然とね」

 

 自分の義姉や教育係、思い当たる人物を頭に浮かんでロッサは微笑んだ。

 

 十四とヴェロッサ。この二人が出会ったきっかけはクロノの紹介からであった。

 十四と十四の周りを守るために──信用と信頼の出来る査察官を彼らは求めていた。実力が伴い、秘密は厳守し、信用と信頼が出来る査察官……クロノの交友関係の中で当てはまったのが、このヴェロッサだった。

 クロノによって、出会った二人は……たちまち意気投合。十四とクロノと同じくらい歳の離れた彼とロッサであったが、今ではため口で話し合う仲。クロノと十四が兄弟のようであるなら、彼らは悪友といった風である。

 実を言えば。この二人は似た点が多く存在する。

 術式は違えど、同じレアスキル保持者。天涯孤独で、家名を残したまま家族として迎え入れられた……これだけの共通項があれば、気が合うのは必然だっただろう。

 

「局内のクソ共はあとちょっとで粗方片付くな」

「主だった君を狙っていた上役が次々とスキャンダルが公開されれば、嫌でも僕たちの意図がわかるだろうね。下手なことすれば、次はお前だ……そう言っているようなものさ」

「一罰百戒ってヤツか。小物が高望みしてもしょーもないってことだな」

「小物が一番。危険がわかるっていうのはそれだけで財産だよ」

「下手に大物ぶられても困るのはこっちか」

 

 二件三件と局内の十四抹殺の過激派を別件で告発していき、次々と有罪にさせていくと、過激派はすっかりマイノリティとなっていた。

 明日は我が身、そうはなりたくはないと十四の事柄から離れようとする者が続出している。穏健派の中すらも、その数は多い。切実に、関わりたくないと感じているのだ。

 加添十四が、身を守るために敵対者を正当な手段で陥れている。誰もがそう気付いただろう。

 

「……だけど、クロノも君も綱渡りが過ぎるよ。無茶は過ぎないようにね」

「クロノは、な。俺はそうでもないぞ」

「君も大概だ。妖精女王(ティターニア)を架空の人物に成りすませてスパイにするならまだマシだ。よくないけど、まだ許容できる範囲だ」

 

 ティターニアをベースに様々な遺伝子情報を掛け合わせて架空の人間を作り上げ、管理局や在野に放出している。それらは全て十四の手駒であり、十四の目であり、十四の手であり、十四の知識である。

 さらに十四はブラウニーを大量に放出し、自律行動をさせて無差別に情報収集をさせている。ブラウニーの隠密性が非常に高いからこそ為せる方法であり、これがバレてしまったら十四が封印されているはずのブラウニーが使えるという情報が流れてしまう。ロッサの言う十四の綱渡りとはこのことを言っていた。

 クロノは十四に出会って変わった……ヴェロッサはそう思うようになった。

 法を重んじるクロノが、法を破ってまで弟子を守ろうとしている。多大なリスクを負ってまでも、自分の身近な者たちを守り通したい。その気迫が感じられた。

 彼ら師弟のやっていること、そしてやろうとしていることを聞いた時はロッサも大いに驚いたものだった。

 ロッサとしては、今のクロノの方が好ましい。大人になったというか、丸くなったというか……印象が柔らかくなった。

 

「……ま、内側のゴミは早め早めに片付けないとな。足場が不安定だと外のゴミは片付けにくい」

「表向きでもレアスキル以外の封印は解かないとね。君が堂々と動くには手狭だから」

 

 局内の掃除が終われば、本腰を入れて反管理局組織や犯罪組織を相手取って十四を狙う者たちを潰していく。

 本当に厄介なのは、こういうアウトローたち。法を犯すことに抵抗のない集団は、十四の大切を壊そうとも気にもしない。だからこそ早急に足場を固めて、叩き潰すことを迫られた。

 

「流石に非常時限定Cランクのままは戦力的にも立場的にも厳しいからな。ただでさえ前科者ってレッテルがあるし。結局のところ、魔法世界は才能主義、魔法主義か……」

 

 生まれ持った才能でつぶしが利く世界。必要のない、過ぎた玩具と思いながらも自分はこうして執着し続けている。魔法は自分を幸せにしない、と吐いた口がこの様である。

 自業自得、と十四は苦笑する。あの事件があったからこそ、今の自分はしがらみにとらわれ続けている。

 しかし、後悔の念は一切なかった。あのまま悩み続けていたのなら、こんな結果では終わらなかっただろうから。

 むしろ、あの事件があったからこそ今は幸せだと胸を張って言えるのだ。自分が、ここで生きていいと、誇ることが出来るのだ。

 

 ──故に。この居場所を壊すというのなら誰であろうとも容赦はしない。

 

 普通の少年、加添十四は死んだのだ。あの雨の日に、殺人鬼によって殺されたのだ。

 (ガラクタ)の心を備えたつもりになった魔法少年も、妖精事件が終結した瞬間に死を迎えた。ごめんなさいの言葉を言った時から、ガラクタの心は捨て去った。

 

 ──加添十四は二度死んだ。そして、二度生き返った。他でもない、高町なのはによって。

 

 彼女が作ってくれたこの居場所。自分はもう離れない。自分はもう、傷つけるためだけに力を振るわない。

 加添十四のこの命は……彼女と共にあるために存在しているのだと。

 

 ──この談話室の外……廊下側から聞こえる足音。十四とロッサは会話をしながらも外への意識を外すことはなかった。

 手早く二人は広げた資料を片付ける。これらの物は第三者に見られたくないものだ。……特に彼女たちには、見せたくないものばかりである。

 談話室の出入り口が開く。新たな入室者は、彼らはお茶を啜りながらつまらない話をしていたのだろうと見た。一人はいつものことながら仕事をサボり、もう一人は自分との約束を投げ出した馬鹿野郎のクセして。

 

「……おや、はやて。お捜しのモノはコイツかい?」

「…………ロッサ、今ならシスターシャッハに仕事サボってたの言わないといて上げるから……ソイツ捕まえて」

 

 新しく部屋に入ってきた少女、八神はやては冷たい目で十四を見る。

 十四にしてみれば、約束を破ったなどとは心外であった。目的場所は此処……ミッドチルダ北部のベルカ自治領の聖王教会なのだから。待ち合わせ場所に来なくとも現地集合でも大して変わらない。

 しかし、自分の都合を優先してここにいるわけで、約束を破ったのは間違いない。よって、十四は言い訳をしない。

 捕まえることに意味はない。十四はここにいる以上、逃げる意味はないのだから。強いて言うなら、少しでも溜飲を下げたいがためである。

 

「おいおい親友。まさか俺を売ったりしないよな?」

「…………」

「いや、そこで悩むなよ」

 

 割と、割と真剣にロッサは悩む。

 妹分であるはやての好感度アップと、自らの教育係のシスターシャッハの怒髪天を回避する絶好の機会。

 しかし、同時にそれは十四との友情を売る行為である。

 友情を取るか、妹分への信頼を取るか……深く、深く彼は悩む。

 

「悩む必要はありませんよ、ロッサ」

「げっ……!」

 

 はやてに続き、部屋に入ってきた修道服の女性。シスター、シャッハ・ヌエラ。

 彼女の姿を確認した瞬間、ロッサは談話室の別部屋へと繋がる扉へと走り出す。

 

「……私から逃げるなど……いつからそう思い上がっていました?」

「……逃げるなんて、誤解だよシャッハ」

 

 だが、一瞬でその扉の前にシャッハが立ち塞がる。

 十四の目から見ても、速い。見知った魔導師の中でも最速の位置にいるのがフェイトであるが、このシスターはそれに劣らず速い。下手をすれば、建造物内での戦闘においてはフェイトより速いのではないかすら思えてしまう。

 

「これが、教会騎士シャッハ・ヌエラか」

 

 十四は感嘆の声を漏らす。噂に違わない腕前を実際に目にし、強い興味を抱く。

 聖王教会の実力者の一人として、名前を耳にしたことはあった。

 身近にミッドチルダ式、古代ベルカ式の実力者は多数いても、近代ベルカ式の使い手はいなかった。現代の騎士の実力……興味が沸くなと言う方が無理である。

 

「……というわけや。とっとと着いてくるんやで、十四くん」

「ロッサ。あなたは別室でお説教です」

「「はい……」」

 

 男どもの密会は、女たちによって打ち壊される。

 こうなる結末はわかりきっていたことではあったが……もう少し続けたいと思ったのも、また事実。

 

「ロッサ。仕事サボるのもほどほどにな」

「十四こそ。約束をすっぽかすなんて最低だよ」

 

 そしてまた、減らず口を叩きあいながら……男どもは彼女たちに見られないように次の密会の日時と場所が書かれた紙を渡す。 

 自分らのやっていることは、決して彼女たちに見せない。そういう誓いを込めて、彼らは行動している。

 優しすぎる彼女たちだ。知られたら必ず自分たちへと協力を迫ってくるだろう。

 しかし、それは絶対に出来ない。汚いものを見せたくないという思いもあるが、同じくらいに。これは、男の戦いなのだとプライドを抱いて望んでいる。

 

 不器用で、不恰好で……それでも、譲れない一線を持っている。

 ――だから彼らは今でも……笑っていられるのだ。

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