愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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生誕、祝福するものの二代目2

 加添十四が聖王教会へとやって来た理由……。待ち合わせに来ず、ロッサとの密会を優先して直接来たこと以外に、もう一つあった。

 宗教というものは自分にとって縁遠いものと考えている十四にとって、ここへは来る機会はあまりないと思っていた。

 しかし案外身近に、彼には接点があった。

 一つはクロノからの紹介で交友を持ったヴェロッサ・アコース。彼の身内が聖王教会の重役であることから、教会関係からの自らを狙う者を知ることもできた。

 そして二つ目。これの用件で、十四はここへと来たと言っていい。

 

「なー、八神。もう逃げやしねぇからバインド解いて欲しいなー」

「逃げないのはわかっとるよ。けど、ケジメというものがあるの、わかるな?」

「おー、締め付けがさらに強く……お前にSMの趣味があったなんてごめんなさいそれ以上されたら中身が出ます勘弁して!」

 

 十四は今、白い魔力光のバインドで縛られ、その鎖の先は八神はやてが握り、彼女に連れられ歩かされている。

 傍から見れば奴隷とその主の関係。顛末を知らなければ異常性癖の持ち主の二人と見られること必至だ。

 しかし、ここは教会でも限られた者のみが歩くことができる場所。一般人が踏み込むことはない上、今は彼ら以外は誰も歩いていない。

 実を言えば、バインドで締め付けられているとはいってもそれほど痛いわけではない。ただ十四がはやてにからかっているだけである。

 フェイトが相手なら十四にとって面白い反応をするのだろうが、はやてが相手だと出来の悪い子を見守る母親スタンスを崩さないため非常につまらない。

 

 ぶーたれる十四を放っておき、はやての歩くペースは変わらない。

 しかし、十四にしてみれば無理矢理歩幅を整えようとしているようにしか見えない。急ぐ足を、なんとか落ち着けようとしている。

 ……顔には出ていないが、彼女は浮かれているのだ。

 

「新しい家族が増えるの、そんなに楽しみか?」

「……うん。今日をずっと、待ってたから」

「……そっか」

 

 今日という日は、はやてにとって……八神家にとって特別な日である。それは十四も重々知っていた。

 十四は知っていて、待ち合わせをすっぽかし、ロッサとの話を優先した。少し、悪いことをしたとは思っている。

 とはいえ、十四は謝らない。謝るくらいなら最初から約束をすっぽかさないし、自分にとって必要なことだった。必要なことをこなすことに、罪悪感も、後悔もない。

 

 無言で歩くうちに、目的の部屋の前までたどり着く。

 はやては鎖を手放し、十四を縛るバインドが消滅して消える。

 

「……十四くん」

「んだよ」

「ロッサとクロノくん……それにユーノくんも巻き込んで何やっとるんは聞かへんけど……無茶だけはしないといて」

「…………」

 

 部屋に入る前に、はやてがそんなことを言う。

 何をやっているかは聞かない。だが、彼女は彼らの身を本気で案じている。

 十四は頭を抱える。聞かない、と言っている時点ではやては十四たちのやっていることに感づいている。否、詳細を知っている可能性も考慮に入れる。

 曲がりなりにも、八神はやては管理局内では捜査局員の位置にいる。なら、ここのところ続く十四抹殺派の上層部の失脚騒ぎを知らない方がおかしい。

 ため息。疲労が体にどっとのしかかってくる。

 

「……他の誰かに、言ったか?」

「ううん」

「じゃあ、黙ってろ。誰にも言うな、聞かれてもとぼけろ」

「な、なんで!私たちでも、きっと力になれると──」

「黙ってろ。コレはな、魔法ぶっ放してれば解決するようなもんじゃねーんだ」

 

 はやても。フェイトも、なのはも……。管理局員という枠組みで、魔導師として将来有望とされる最高級の原石ではあるものの、それでも十年ちょっとしか生きていない少女である。

 ……大人同士の──他者を引きずり降ろし、足を引っ張る醜い欲望に満ちた戦いには一切の免疫はない。そんな汚れに満ちた世界を、見せる必要は全くない。

 ……彼女たちはまだまだ子供。大人の怖さを知るには、まだ早すぎる。

 

「男の戦いだ。邪魔すんな」

 

 十四ははやてに指を向ける。そして、内にある“鍵”を解いた。

 解いた瞬間、体の()が熱くなるのを十四は感じる。封印を解いた時はいつもそう……体温が体感で一度上がったような、そんな錯覚が起きる。

 指先から現れ、高速で射出されたのは赤錆色の妖精。それが、避ける間もなくはやての額へと吸い込まれる。

 

「な、なんで……」

「……チッ、やっぱ知ってやがったか。まだ誰もチクってねーようだけど」

 

 十四は、はやてへと向けたブラウニーと同調(リンク)し、彼女の記憶を閲覧している。下手をしなくとも犯罪そのものの魔法技術であるが、十四のブラウニーはその痕跡を残さない。

 調査途中なのだろうが、知っていることは表層的なことだらけで大した情報は握っていないとわかる。十四の本体や、計画の手順など核心に至る事は何一つとして彼女の記憶にない。

 高速処理を駆使し、該当箇所──十四たちが暗躍しているという記憶──を、他の記憶に影響がないように丁寧に消していく。

 『戻す』より『消す』方が面倒な手段。しかし、そうは言ってられない。手間を惜しんだだけ、危険に晒す可能性を増やすだけなのだと、十四は知っている。

 

「改変終了。バックアップを残して再封印」

 

 はやての額から、白いブラウニーが出てきて十四の体に吸い込まれる。同時に、今の状態の自分(・・・・・・・)の情報をブラウニーに記憶させ、再封印──自らのリンカーコアを消失していた状態に上書きする。

 ──十四が、封印されているにも関わらずブラウニーを使える理由がここにある。

 レアスキル封印、魔力封印が施される前日に……十四は最盛期と呼ばれた時期の自分のブラウニーを多数精製し、保存をしていた。もしもの時、無力に嘆くくらいならもう一度拳を握る力がある方がいい。そう考えた故である。

 レアスキルが封印されても、ブラウニーの行使能力は失わない。ブラウニーを全て知る十四だからこそ実行できた手段であった。

 

「……あれ?私、何しようとしてたんや」

「痴呆か?」

「失敬な!家族に会いに来た、ちゃんと覚えとる!行くよ!」

 

 綺麗に忘れ去った彼女に、十四は小さく、だがはっきりと心の中で謝罪する。

 ごめん──たった、三文字の言葉を吐けずにいる。そんな自分が、ひどく醜い。

 

(ああ、わかってたさ。俺の力が、こういうモノなんだって)

 

 人の心なんて、こんなに容易く捻じ曲げられる。そんなことが、可能になる。

 ああ、わかる。大人が、こんな力を欲しがるのがよーく、わかる。

 過ぎたおもちゃ……自分で言って、自分でその意味を実感する。

 

 ズシリと重く、心にかかる罪悪感。

 腹立たしい。こんな自分が、ムカついて仕方ない。握った拳が、開かない。

 ──こんな、こんなクソッタレなことをやっておいて……人の記憶を弄っておいて何が罪悪感だ。一丁前に善人ぶってんじゃない。くたばれよ加添十四。今ここで、潔く死んでしまえ。

 刃物の一つでも持っていたら、十四は躊躇わず心臓に突き立てていた。それほど、はやてに軽々しく力を使った自分が許せないでいる。

 

(ああ、わかってる。俺は、クソッたれだ。悪なんて上等なもんじゃない。ゴミだ。屑だ。外道だ。本来なら、あいつらと一緒にいるべきじゃない)

 

 そんなわかりきったことを、今更回顧する必要はない。

 だから、屑らしく──恥を恥とも思わず、罪を罪と思わず平然としろ。

 

(屑でいい。屑なりの邪道を歩いて、アイツ等には綺麗な道を見せてやればいい)

 

 ──だが、願わくば。あつかましく、恥知らずで、未練がましい、みっともない望みであるが。

 

 もし差し伸べられたなら……その手を俺は握っていいですか──。

 

 

 

 

 

 十四とはやては目的の部屋に入室する。

 その部屋には何もなかったが、中央部にカプセルのようなものが浮いていた。

 この場には先客がいた。彼ら……正確には、主賓の彼女を待っていた。

 

「うーっす」

 

 十四は先客たちに挨拶する。待ち合わせに来ないでおいて、遅れて来たにも関わらず悪びれもしていない。

 八神家……ヴォルケンリッターの面々は憮然とした目線を十四に向けている。

 彼らは先の事件で十四に決して良い感情を持っていない。十四がはやてに向けた仕打ちを考えれば当然だろう。敬愛する彼らの主を殺しかけたのだ。

 

「お前は……いや、何を言っても無駄だな」

「悪いね、待たせて」

「お前を待たせていたわけではない。主はやてを待っていたんだ」

 

 口だけで全く悪いと思っていない十四に、ヴォルケンリッターの将シグナムは呆れていた。

 先約があったのなら待ち合わせに来れなかったのはわかる。しかし、それを伝えることも出来たはずな上、さらには主であるはやてに足を運ばせるというふてぶてしさは、怒りを覚える以上に呆れていた。

 だというのに、十四にはそれを許してしまいそうになるカリスマがある。この年で、そこまでの大器を持ち合わせている。

 それは他のヴォルケンリッター三人も同じことを思っていた。この少年は将来とんでもない大悪党になるか、一国の指導者となるかのどちらかの未来しか見えなかった。

 過去、闇の書の守護者として様々な人間を見てきた彼らには、時代を代表する様々な英雄を見てきた。大半は忘れてしまったが、英雄の資質を見分ける眼は未だ衰えていない。

 

「どーも、騎士カリム」

 

 ヴォルケンリッターの他にこの部屋にいた、金髪の女性。彼女にも声をかけることを忘れない。

 聖王教会騎士、カリム・グラシア。ロッサの義理の姉であり、管理局でも理事の地位に就いている。

 結構な地位にいる者が相手ではあるのだが、十四にしてみれば友達の姉ちゃんを相手にする気安さだった。

 

「ごきげんよう、十四さん」

 

 挨拶は手短に。彼女もまた、十四と同じように賓客でしかない。

 この場の主役は、あくまで彼ら八神家。カリムは責任ある立場として見届けるために、十四は誘われてここへ居る。

 

「八神」

「うん」

 

 浮遊する部屋中央のカプセル。それに手を添えて、彼女は中にいるモノへと名前を授ける。

 はやてはこの日を待ち続けた。祝福の風の名を受け継ぐ者を……あの雪の日から、ずっと待ち続けた。

 だからこそ、この名を授けよう。

 

「登録名称……リインフォース(ツヴァイ)愛称(ベッドネーム)、リイン」

 

 カプセルから迸る光。贈られた名に歓喜するように、眩く輝く。

 

「おはよう、リインフォース」

 

 囲っていたものが消失し、中身が表れる。

 空色の髪をした、小さな妖精のような少女。

 

「これ、が……」

 

 これが、ユニゾンデバイス。これが、祝福の風(リインフォース)

 少女の手のひらに乗るほどの小さな少女。目測で十四のブラウニーと同じくらいの大きさ。

 本当に妖精のような……絵本の世界から現実の世界へと飛び出してきた童話の住人のように、非現実さが際立っている。

 

「ほえ」

 

 幼い子の声。誰もが和んでしまいそうになるほど、甘ったるい声。

 その声の源である、手のひらの上にある小さな彼女に視線が集中する。

 

「……正真正銘の、生まれたての赤ん坊か」

 

 何も知らない真っ新な状態。ユニゾンデバイスだろうと、人間と大差ないらしい。

 ユニゾンデバイス誕生の瞬間を見届ける……目的は果たした。なら、十四がここにいる理由は存在しない。

 

「十四、どこに行く?」

「帰る。ガキは苦手なんだ」

「テメーが言うなよ」

 

 同じガキに、見た目ガキのヴィータに言われる始末。どんな皮肉だと笑みを浮かべる。

 確かに十四は自分より幼い者には慕われる性質ではあるが、十四自身は年下を相手にすることは得意ではない。

 特に。純粋無垢な、赤ん坊や幼児といった、庇護の対象になるものといったか弱き者には、十四は非常に弱い。

 

「俺みたいな悪の塊がいたら悪影響だろうが。それに、よ……」

 

 十四は、はやてとリインフォースの方へと視線を向ける。

 それにつられて、十四を止めに入ったヴィータとザフィーラも同じように視線を向けた。

 

「……余所者には、ちっと眩しい」

 

 視線の先には、リインフォースを手のひらに乗せて、感極まって目尻に涙を浮かべているはやてがいた。

 新たな家族を迎える時くらい、水入らずでいるべきだ。諍いの原因になりそうなのはとっとと出ていくのが最良である。

 要約すれば、自分みたいな部外者は長居するべきじゃないと言っている。

 

 ――部屋から出ていき、十四は覚悟を新たにする。

 彼女たちを眩しいと感じてしまっているのは、彼自身が負い目を抱えているからだ。

 眩いほどの……焼かれるほどに輝く光を……十四は今も憧れている。

 彼女たちは先の事件のことはもう気にしてはいない。十四はもう、許されている。

 それでも……彼は彼自身を赦していない。光に生きることを赦していない。

 だからこそ、今も彼は闇に身を投じる。赦されるために。自分自身が納得できるために。

 彼女たちの目の届かない場所で、今も暗がりで戦い続ける。

 ────あの憧れた輝きを、名も姿も知らぬ下等な三下に汚されないために。

 

「戦うさ。どんな敵とだって」




はい、タイトル詐欺です。リインさんほっとんど出番ありません。
いや、なのはのキャラで五指に入るくらい好きですよ、二代目リイン。けど、生まれたての状態の時は赤ん坊ってヴィータの発言があったので、会話させようにも難しいし……。
思った以上に難儀しました。

バイトやらバイトやらバイトやらで更新がめっさ遅れました……。いや、ホントすみません。
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