愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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「おはよう」、「おはよう」2

 早朝。海鳴市の桜台の林道は空間、場所が切り離された異界となっている。

 その原因はミッドチルダ式魔導師、高町なのはが結界を張って魔法の練習をしているからである。

 毎日、毎日。任務で日を大きく開けなければならない日を除けば、毎日。天賦の天才魔導師、新進気鋭のホープとして期待されているなのはであるが、その名声を足らしめているのはこういう日々の鍛錬の賜物である。

 

 管理外世界での魔法の行使は許可が下りなければ不可能であるが、許可さえ下りればこうやって魔法の練習を可能としている。

 無論、派手な砲撃などの大規模な魔法は使えないが。誘導弾の制御、飛行の練習、演算の短縮といったものならこういったもので事足りる。

 

「…………!」

 

 シュートコントロールの訓練。誘導弾を制御し、対象である空き缶やペットボトルを弾き飛ばして回数を重ねる内容だ。

 誘導弾のパワー、スピード、そして直撃したときの箇所と角度。それらを全て計算する必要がある緻密な動作を要求される。

 なのはは既にもう、回数を500回重ねている。

 

 ──平行して同時に、それぞれ十発の誘導弾を操作して、十個の対象物を打ちあげた上で。

 

 同時並行処理(マルチタスク)はなのはたち魔導師にとっては必須技能である。飛行魔法を使いながらの別の魔法の行使は当たり前であり、基礎中の基礎。誘導弾の多重操作もその一つである。

 なのはに必要なのは、地力。これから魔力も充実してくるこの時期に、最も伸び代が高いものである。

 短所を補うより、長所をさらに伸ばす。それをなのはは徹底している。鉄壁の防御に、一撃必殺の砲撃の威力を持ち合わせた移動砲台。ミッドチルダ式の一つの極点へと至りつつある。

 並行処理能力の同時に処理できる数、そして術式の処理速度のスピードを高め続ければ、そのまま実力に直結する。鍛えただけ、強くなれる。基礎能力こそ、実戦にそのまま影響する能力値である。

 

「……今っ!」

 

 十セット全ての回数が同時に千に至った瞬間、なのはは仕上げをする。

 打ち上げられていた空き缶とペットボトルがそのまま誘導弾に強打を叩き込まれ、それぞれが一直線に鎮座されていたゴミ箱の中へと放物線を描いて向かっていく。

 一つ、二つ……ゴミ箱に入ったのは八個。なのはの評価としては、まあまあといったところである。

 

「レイジングハート、どう?」

『75点です』

 

 首にネックレスとして掛けてある紅い宝玉に、なのはは聞いた。

 なのはの相棒、インテリジェンスデバイスのレイジングハートの評価は辛口である。常に最善を求めるのは、主も杖も似たような傾向にあった。

 可もなく、不可もないといった点数。もう少しやっていたかったが、日の高さを見ればもう時間はない。

 今日も学校がある。家に帰って、制服に着替えて、朝食を食べて。そして学校に行って勉学に努める。それが小学生の仕事である。

 

「十四くん」

「……ああ」

 

 結界内の、なのはの訓練に邪魔にならないところで、十四も鍛錬をしていた。

 今の十四は、魔法を使うことができない。空を飛ぶことも、魔法の弾丸を撃つことも、口を使わずに話すこともできない。

 十四の訓練はごく単純。片手、拳による腕立て伏せ(プッシュアップ)。腕力、握力を鍛えるにはこれ以上適したとレーニングは存在しないというのが十四の持論である。

 魔法が鍛えられないなら、肉体面(フィジカル)で補う。魔法のみに頼る魔導師というのは今時流行らない。魔導師もまた、体が資本。身体強化の魔法も存在するが、それは元々の運動能力に上乗せをする程度でしかない。基礎が鍛え上げれば、能力上昇の魔法を使わずにすみ、その分を別の魔法へと充てることができる。

 

 右手、左手、それぞれ三百回。成人男性でもこなすのが難しい量を十四はこなした。

 十四はこれからが成長期。鍛えれば鍛えるほど、その身に返ってくる。オーバーワークギリギリの量を見計らって、十四の成長は加速度を増していく。

 

「はい、タオル。あんまり無茶したらダメだよ」

「ありがと。それと、お前に無茶とか言われたらオシマイだっての」

「むっ、それどういう意味!」

 

 タオルを受け取って汗を拭く十四は、なのはへ皮肉を返す。

 ムキになって迫るなのはにタオルを投げて視界を遮る。

 顔面にかかったタオルは汗で少し湿っており、十四の汗の臭いが鼻孔をくすぐった。

 男の子のにおい。十四の、におい。

 一瞬、なのはは呆けていた。そのにおいが十四のものであるとわかっていながら、無自覚にタオルを自分で顔に手で押し付けていた。

 

「ふー」

「ひゃんっ!?」

 

 可愛い悲鳴を上げて驚くなのは。その様子をニヤニヤと笑う十四は、この少女が可愛くて可愛くてたまらなかった。

 不意に耳へ息を吹きかけただけで、こんな可愛らしいリアクションをする。

 こんな姿を見れた。見ることができた。それだけで、今日を明日を生きる力となれる。

 十四の気分は最高に幸せだ。許せるものなら、愛おし過ぎて抱きしめたくなるくらいに。

 

「なっ、なにするの、もうっ!」

「ククッ、いやほんともうな……ハハハッ」

「~~~!笑わないでよー!」

 

 そんななのはの怒った反応も、十四にしてみれば火に油を注ぐ行為と変わらない。

 真っ赤にむくれてリンゴのようになった頬が。

 キラキラと輝いて、自分を見るその目が。

 怒っているのだぞと、全身を表現して躍動する体が。

 

「……可愛いぞ、なのは」

 

 十四が唯一、同じ年代の女子へと名前を呼ぶことができた少女。その彼女に、自分の内にある素直な感情を送った。

 

 ────早起きは三文の得と言うが、十四は三文以上の価値のあるものを得ていた。

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