愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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けじめ、一つの決着2

「大丈夫、なのはちゃん?」

「……うん」

 

 高町なのはと八神はやて、そしてヴォルケンリッターの面々はアースラのブリッジで、待機命令が下されていた。 

 理由はアリサ・バニングス誘拐事件の警戒の継続。

 これに乗じて新たに混乱を招こうとする者たちを抑える役目である。

 松葉杖でやっと歩いているなのはに関しては、彼女を守るためという名目もある。

 誘拐事件の一因となった十四の存在。そして彼に最も親い最愛(ひと)はなのはであると、誰であろうと疑わない。

 彼女に危機が襲うとなったら、彼の動揺はアリサが誘拐された時とは比較にならないだろう。そんな最悪を危惧している。

 なのはの表情は決してよいものではない。明らかに陰りが見えており、誘拐事件のショックは非常に大きいものだった。

 無論、この場にいる全員はそうだった。知人が狙われた、しかも魔導師でない彼女が、加添十四という存在を欲するための人質として。

 これにははやても、ヴィータも、シグナムも、シャマルも、ザフィーラも憤る。卑劣で、卑怯で、残忍な方法をとった連中に、殺意すら沸いた。

 無関係なアリサを狙う。それがどれだけ十四を傷つける行為なのかを知っている。十四もまた、魔法を知らぬ身から肉親を喪っている経験を経ている故に、絶対に許せなかった。

 

「嘘。ひどい顔しとる」

 

 大丈夫、と言われても絶対に信用ならないのが高町なのはという少女である。

 だが、今回ははやてですら……この場の全員が察する程、苦しそうな顔をしていた。こんな表情で大丈夫と言われても誰も信じない。

 身を引き裂きたいくらい、辛い。こんなときに何もできない自分が殺したい程憎い。

 できるのなら、今すぐ彼ら二人の元へと駆けていきたい。二人に会って、安心したいのだ。二人の肌の温度を感じて、確かにいるのだと触れていたいのだ。

 

「……これが、加添が踏み込んでいた世界か。我々を巻き込みたくなかったのは、こういうことを想定していたからか」

「でも、だからって男共だけで秘密にすることはなかっただろうが。あたしらを頼ったって良かったのによ」

 

 十四だけでなく、クロノ、ユーノ、ヴェロッサが危険な世界に身を置いていた。今更ながら知ったヴィータとシグナムは、自分らへ頼って来なかったことに情けなく思う。

 十四たちが彼女たちに知られないように入り込んでいた、闇の世界。人の欲望がぶつかり合い、自分の意を通すために権謀渦巻く暗黒の世界。

 それに巻き込みたくなかった。汚いところを見せたくなかった。その心は、痛い程理解できる。

 しかし、自分たちはそこまで信用ならないのか。信頼できないのか。力がないように見えるのか。

 

「……たぶん、私たちは最初から頼るつもりはなかったはずよ。どうしても、私たちは立場が弱いところがあるから」

 

 治癒術師だけでなく、参謀としての面を持つシャマルは、彼らの行動を辿り、その推測をした。否、推測などせずとも皆薄々気付いていた理由だった。

 彼女たちは大切な者たちであると同時にアキレス腱。決して露見してはならなかった。

 元犯罪者という肩書は、権力者にしてみればいくらでも好きにできる。

 弱所があるならそこを容赦なく突かれる。情というものが一切存在しない世界である。

 もし、彼らが謂われもない理由で脅されたら。もし、過去の罪をだしにされて、十四を差し出せと言われたら。多分、屈することはなかっただろうが、彼らは大きく傷ついていたに違いない。

 十四たちにしてみれば、下手に動いてくれない方がよかった。協力を申し出てしまえば、そこで弱みが露出してしまう。かつて十四がはやての記憶を消したのは、そういう理由だった。

 中途半端な結束は、危険を招く。それを彼らは重々知っていたのだ。

 

「悔しいよ。私たちがいつも通りに生活している時に、十四くんたちは見たくないものを見ていた。それに気付けなかった自分が悔しいし、気付いても足を引っ張るだけの自分が嫌や」

 

 強くなりたい。もう、こんな思いをしないように。

 強くなりたい。こんな自分から離別できるように。

 強くなりたい。知らず自分らを守ってくれた彼らに頼られるように。

 はやては強く願う。誰かが辛い思いをしているときに何もできない力など、いらない。

 偉くなる。強くなる。今よりずっと、今までの自分が思ってきた明日よりずっと。

 

「……恐れながら主はやて。それは十四たちには余計な気遣いという物ですよ」

「んだと、ザフィーラ!」

 

 ……ただ一人、ザフィーラだけが十四たちがやってきたことに嘆息していた。

 ヴィータはそれにくってかかり、他の女性陣も剣呑な目で彼を見る。

 

「あの者らが、私たちを信頼していないはずがない。ただ、頼るべき時が今ではない。それだけです」

 

 それがわからないはずがないだろう、とザフィーラは皆に言う。

 十四だけならまだしも、クロノもユーノもヴェロッサも、引き際というものを弁えている。十四が彼らを最初に頼ったのは、自分にない潮を見極める力を持っていたからだ。そして、自分を止めてくれる力を持っている。

 そもそも、信頼していないと思うのならば最初から十四は誰も頼らない。事の発端が十四なのだから、十四自身がその責任を取るのが筋だ。

 しかし、自分だけでは何もできないとわかったからこそ、クロノたちを頼ったのだ。

 ただ、早いか遅いかの違い。順番の違い。タイミングの問題だったのだ。

 

「それに同じ男だからわかるのですが……あの者たちは恰好つけたがりなのです」

「……は?」

「男という人種は、時として恰好つけるのに命をかけるものなのですよ」

 

 いつになく饒舌なザフィーラは、呆れるように、羨むようにそう語った。

 同じ男として共感できるところがあるのか、野郎のどうしようもない習性も理解していた。

 女たちは、そこがわからない。

 恰好つけたがりというのはわかる。いい所を見せつける目立ちたがり屋だ。

 しかし、今回の件に関しては、彼らは徹底して露見しようとしなかった。それでは恰好つけたがりとは言わないのではないか。

 

「自分が頑張ったから、こうして大切なものが手元にあるというのを実感したいだけなのです。……言ってしまえば、自己満足とちっぽけな意地です」

「み、身も蓋もないな」

 

 人間の行動の大半が、自己満足で説明できる。

 十四たちにしてみれば、この暖かみある生活を失いたくないから戦い続けてきた。戦っていることを知られれば大切な人たちの笑顔に陰りが見えてしまう。そんなことを彼らは許せないという、自己満足で行動している。

 それを支えてきたのがちっぽけな意地。これは男についてまわる病気みたいなもの。下らなくも、小さくも、理解されなくとも……それを踏みにじられることは死に勝る苦痛だ。

 これがある限り男という生き物は、正念場と判断したところで命を張ることができる。

 女には決して理解されないだろう生態、生き方。

 

「あまり、自分を追い詰めないように。彼らは、そんな顔にさせるためにやってきたのではないのですから」

 

 ザフィーラは、はやてが自分を追い詰めてしまうことを恐れた。

 責任感の強い彼女だ。勝手にやっていたことであろうとも、心を痛めてしまう。何もできない自分を憎んでしまう。

 ……所詮、彼らがやってきたことは自己満足。好きでやっていたことだ。

 自己満足で誰かを守れるのなら、そんな幸せなことはない。だからこそ彼らは弱音を吐かずに、誰にも悟られずに今までやってきたのだった。

 求めるのは笑顔。払拭したいのは涙。

 落ち込むことは安易で簡単。暗い顔で帰ってきた彼らを迎えたら、十四たちはどう思うのだろうか。心配をかけてしまったと、罪悪感を感じてしまうのではないか。

 何事もなかったように、笑顔で帰りを待つ。ああ、こんな難しいことは他にないだろう。知ってしまった彼女に、笑顔で迎えろというのは無理な話だ。

 だが、「ごめんなさい」より「ありがとう」と言われた方が嬉しいに決まっている。

 「気づかなくてごめんなさい」、ではなく。「わたしたちのためにありがとう」と言ってあげた方が、彼らも報われるに違いない。

 

「……そう、かな。男の子って、ようわからんわ」

「単純なだけです」

 

 ──ただ、単純過ぎるだけなのだ。

 繊細な女子の心を男が理解できないように、大雑把過ぎて女も男子の心が読めないのだ。

 

「……ありがとう、ザフィーラ」

「さて、何のことかわかりません」

 

 この場でわからない女は誰もいない。

 寡黙な彼にらしくないほど言葉が多かった。はやて、そしてなのはを励ますために、いつも一歩引いた位置にいるザフィーラが、ここまで語った。

 野郎のことは野郎同士で通じ合うところがあるのだろう。

 ニヒルに笑う彼には、背中で語る男の哀愁があった。

 

 

 

 

 

 

「……本当に、これでいいのか?」

「後悔は、しないのね」

 

 ハラオウン親子は、十四に問う。否、己に問うた。これが本当に最善なのか。もっと別の答えはなかったのか。

 こんなものを、この少年に背負わせおうとしている自分たちは……正しいのか。

 

「楽勝だろ」

 

 少年は不敵に笑う。こんなこと、なんてことないとふてぶてしく。

 課せられたものは非常に重いというのに。

 

「要は、最強であればいいんだろ?手の付けようのない脅威であればいい」

 

 封印処置が効かないと暴かれた十四のこれからの身の振り方。完全な封印を施したところで、降りかかる火の粉は絶えない彼の選んだのは、正しく修羅の道だった。

 強大な暴力であれ。飼いならされない、狂獣であれ。鉄火を振りまく兵器であれ。触れたもの全てを鏖殺する鬼であれ。

 最強の暴力装置。それを課され、化け物と化す覚悟はあった。

 人でなくてもいい。大切な人たちと共にあれるなら、喜んでその名の通り怪物(ようせいおう)と成り果てよう。

 管理局だろうと、世界だろうと社会だろうと屈しない最強。男なら、どこか惹かれるところがある。

 思い返すのは、十四の信じる最強の代名詞。彼のようになればいい。必死に手を伸ばした、あの頂きにいた彼のように。

 ──それは高町なのはでも、フェイト・T・ハラオウンでも、八神はやてでも、ヴォルケンリッターの面々でもない。土をつけたクロノ・ハラオウンでも、ユーノ・スクライアでもなかった。

 

「俺は幸いに、最強を知ってる。なり方だって、知ってる」

 

 十四の憧れ。目指すべき手本。そして、唯一信じる最強──兄、加添百一。

 勝つことのできなかった頂点。知る限り、敗北というものを知らない宿敵で、頂点で、届くことが出来なかった遥かな憧憬。

 彼のようになればいい。彼のように強くなればいい。

 

「……味方は、少ないぞ」

「クロノ、お前がいりゃ百万の凡夫よりずっと頼もしいよ」

「……頼りないぞ。僕は」

「誰を負かしたと思ってんだよ、お前は。誇れよユーノ、お前は強い」

「……きっと、死ぬほど苦しいよ」

「ロッサ、俺ほど死に触れてるやつはいねぇよ」

 

 数少ない親友たちに、最後に覚悟を問われる。これで後悔はないのか。

 十四は、限られた手札……否、これだけしかない札を選ばされたに過ぎない。暴力の権化となる、そうなることを強制されたも同然だった。

 最低最悪の悪手。誰だって気付いている。十四はもう、詰んでいる。

 しかし、十四は微塵も臆さない。詰んでいる?そんなこと、誰が勝手に決めた。それを覆してこれからを生き続ける。無理を通し続ければ、道理が引っ込み続けると信じたのだ。

 たとえ最強へと至っても、十四に居場所があると保障されているわけじゃない。

 最強の意味。頂点の意味。知らぬわけじゃない。それはすなわち、孤独と同じだということを。

 強さの終着点は、人型の災禍。在るだけで滅ぼす、壊す、決して触れ合うことのできない災害だ。

 

「人であることを、捨てるのですか」

「本望だ」

 

 カリムへの返答は、それこそが大望だと断言する。

 そうなることで。そうなれることで。なのはたちを守ることが出来るのなら、なんの悔いはない。それこそが十四の望みなのだから。

 暴力であればいい。鉄火であればいい。災禍であればいい。修羅であればいい。それこそが、加添十四の在るべき姿だと信じている。

 

「修羅道──それこそ我が道と見たり」

 

 この日この瞬間から……加添十四は人から妖精王(しゅら)となる。

 その決意、その覚悟を止められる者はなく……彼は地獄に堕ちていった。

 

 

 

 

 

 テスト結果が発表され、順位が廊下に貼り出された日。

 もはや定位置となっていた一位と二位は、別の名前が割り込んでいた。

 

「なんか、複雑な気分だ」

「うん」

 

 座を明け渡した元一位と元二位は、結果を見上げて微笑んでいた。

 アリサはテストを受けられずに0点。再試験はなく、このまま成績に反映された。

 惜しい気持ちはなかった。テストで最下位という経験も、これっきりなら悪くないと思える。

 

「で。今回も俺の勝ちになったんだが」

 

 十四がアリサに見せつけたのは、テスト答案用紙。四教科が0点の中、一教科のみ2点とある。

 途中で抜け出しても、一つ問題を解いておりそれが点数に反映されていた。

 2点とはいえブービー。最下位のアリサを上回っている数字だ。

 

「どうする?無効試合にするか」

「負けは負けよ」

「ああ、そう」

 

 十四は指さす。その先はなのはたちがいた。

 覚えているだろう、と無言で示していた。

 このテストによる賭けの内容は忘れていない。かつて病気に追い込むほどに悩ませたものだ。

 ──そしてアリサも、覚悟していた。

 

「わかってるわよ」

 

 余裕さえ感じられる笑みを浮かべて、二人はなのはたちの方へと歩く。

 

「どうだった?」

「割と新鮮だったよ、俺らの名前がない順位は」

「なんかそれ嫌味に聞こえるなー」

「精々勝ち誇れ。次は勝つから」

「全然悔しそうにしてないよね」

「そりゃ、俺は俺で勝ったからな」

「それは、どっちの意味で?」

「どっちもだよ」

 

 内容は散々であったがアリサに勝った。そしてテストの結果より、ずっと大切なものを勝ち取った。

 十四にはそれが、成績なんかよりずっと誇らしい。

 

「十四」

「おう」

 

 ──アリサと十四が向き合う。

 これは、宣戦布告。

 アリサ・バニングスから高町なのはへの。加添十四の略奪宣言。

 

 

 

 

 

「好きよ。私と付き合って」

 

 

 

 

 

 唐突に。あまりにも唐突に言われた告白。

 なのはを始め、皆が静止した状態になった。告白を聞いた他の生徒も、端的に告げられた言葉で硬直させられた。

 ただ、唯一。十四だけは動じず。

 

 

 

 

 

「悪い。俺、なのはが好きだ」

 

 

 

 

 

 それが当たり前のことのように、言い返した。

 

「……やっぱり、か」

「ああ。親友としてお前は大好きだけど、そういう対象じゃないよ」

 

 十四には、アリサの告白を受け入れることができない。もう既に、自分の心はなのはに壊さ(うばわ)れているのだから。

 アリサには大いに感謝している。以前、告白してくれなかったら自分の心を知ることができなかったから。彼女が気付かせた切っ掛けをくれたのだ。

 アリサも、この結果は最初からわかっていた。あくまで賭けの内容を実行する。その約束を果たした。

 予想通り。ああ、何もかもが予定通り。

 

「だけど、私がこのまま、はいそうですかおめでとうって……諦めると思ってる?」

「微塵も」

 

 アリサは十四となのはとの仲を祝福しない、認めない。降参など、絶対にしない。

 一度振られた程度で諦めるほど、諦めが良くない。欲しいものは勝ち取る。勝つまで戦う。負かすまで勝つ。アリサも十四もその思想は同じだった。

 同じだからこそ、理解できる。恋焦がれている者同士、わかってしまう。

 

「必ず、振り向かせるわ」

「難易度高いぞ、俺は」

「上等、逆に燃えるわ」

 

 BANGと、指で銃を作って十四に撃ちこんだ。

 ──これは、なのはへの宣戦布告と同時に。加添十四への挑戦状だった。

 好きな人が別の人を好きになっていました…………その問いに対するアリサが得た答えが、惚れさせて奪うというものだった。

 この挑戦を、十四は快く受け入れる。

 自分を信じている。なのはを、誰よりも深く想っている。それだけは何よりも自信がある。

 

 十四がなのはを想い続けるか、もしくはアリサが十四を魅了してしまうかの勝負である。

 

 共に、不敵な笑顔。自分が負けるなど、まるで考えていない自信と自負に満ちた顔。

 

「勝負よ、十四」

「かかって来い、アリサ」

 

 ──ここに一つの決着。

 そしてまたすぐに、新たな戦いの火蓋が切られた。

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