高町家の中での加添十四の立場は居候である。
そうなった経緯は天涯孤独となった十四を、なのはが招き入れたというものだ。
無論、高町家全員と十四自身の同意もあってなったことだ。それは『妖精事件』の以前以後も変わらずのことである。
そんな十四は、高町家の家事手伝いに従事している。
居候という身分として率先して、そして加添の家にいたときも家事手伝いは当たり前のようにやっていたことから、手伝いをやっていなければ落ち着かない性分であった。
「……うん、こんなもんか」
味噌汁の味見をして、その出来に納得する。
「おふくろ、どうよ」
「……うん、OK!」
なのはの母、高町桃子も一口含むと十四の作った味噌汁の出来にマルを付ける。
訓練から家に戻り、シャワーを浴びて小学校の制服に着替えた後に、十四は朝食の準備を手伝っていた。
これが習慣付いており、桃子の相方として朝晩の食事の調理に携わっていた。すっかり今では高町家の味を身に着けており、パティシエであり、料理上手の桃子が納得できる出来栄えになっていた。
十四は、決して桃子のことを「母さん」とは呼ばない。同様に、なのはの父親である高町士郎にも「父さん」と呼ばず、兄の恭也にも「兄ちゃん」と絶対に呼ばない。
これは、加添の家があった頃に、十四が両親と兄に対して呼んでいた呼称である。
彼らはもう、この世にはいない。だが、絶対に混合視してはいけないのだと心に決めていた。
十四なりのけじめ。譲れぬ、一線だ。この世から別たれようとも十四の父も母も兄も、忘れることなく心に刻んでいる。高町の家が自分を家族として迎え入れても、それだけは譲らなかった。
「ほい、おまちどうさま」
「ああ、ありがとう十四」
十四はテーブルに料理を並べる。それぞれの席には高町家全員が揃っていた。
高町家の大黒柱、高町士郎。長男、高町恭也。長女、高町美由紀。
そして、次女高町なのは。
「……なんだよ、機嫌直せよなのは」
「ふんっ」
なのはの前へお椀が置かれても、十四の方を見ずにそっぽ向いてしまう。今朝方言われた「可愛い」の言葉に照れて意地を張っている。
なのはは、容姿を褒められたことは初めてでもなければ珍しくもない。美人の母譲りの美貌は美少女であると断言できるレベルであり、将来はかなりの美女になることは簡単に予想できた。
だが、十四のように。異性で、同年代の男子に言われるなどということは殆どない。一時同棲したあのユーノでさえ、面と向かって言ったことはない。
さらに、なのはは今現在十一歳。思春期の最中にあり、色々と性格に不安定さが出てくる。
このように意地を張るのは、仕方のないことである。
「どうしたなのは。十四と喧嘩でもしたのか?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
「兄貴、気にすんな。ちょっと言いたいことを言っただけ」
兄、恭也は朝からなのはが十四に機嫌が悪いことに不思議に思う。
朝の魔法の鍛練の時にこうなった。それだけは間違いないだろうと、高町家全員が内心頷いた。
「で、なんて言ったの十四は?」
そこに美由紀が突っ込んでいく。妹がこんな照れを隠すように怒る顔になるなんて、そうそうあるものじゃない。
余計なこと言わないで、というなのはの視線が美由紀に突き刺さるが当の本人は知らぬ顔。まるで堪えていない。
そして当然のように、十四へと視線が集中する。
こういうとき、魔法が使えなくて良かったとホッとする。もし使えていたら、なのはからの念話が大音量でかかってくるだろうから。
なのはの顔色が真っ赤になって、非常に面白い。もし事実を事実のまま言ったらどうなるんだろう。
「当たり前のことを当たり前のように言っただけだよ」
「……へぇ、どんな?」
「はい、もうこの話題は終わり!」
強引に話の流れを切る。絶対に言わせない。このままだと、十四が言ってしまう。
聞けば答える十四だ。喜々として言いふらすだろう。
「早くしないとご飯冷めちゃうよ。いいの?」
「……それはいけないな」
「そうだな。後にしよう」
「ちぇー」
折角用意された朝食を冷ましてしまうのはもったいない。暖かいうちに、美味しいうちに食べてしまおう。
なのはは内心ホッとする。自分の前だけならまだしも、家族の前でそんなことを言われたらどうなっていたことか。
皆がテーブルについて、手を合わせようとした瞬間の静けさに――。
「……なのはに『可愛い』って言ったらこうなった」
「っっ!!?」
ボソり、と十四はつぶやいた。注意深く聞いていなければ聞き逃してしまうほどの小声で、いきなり言えば何を口にしたのかわからないだろう。
だが不幸なことに、ここは食卓。皆が集まるここはちょっとした小声でも聞こえてしまう距離にある。
そして狙ったかのような、「いただきます」を言う直前の静まったタイミング。全員が、十四のつぶやきを耳にしてしまった。
「……ほう」
「まあまあ」
「へえ」
「だ、大胆……!」
それを聞いた彼らは、なのはが十四に対してつれない態度を取っていた意味を知った。
ようするに、意地を張っていたのだ。照れ隠しだったのだ。
可愛いやつめと、なのは以外の家族全員がニヤニヤと笑う。
それは生暖かくも、なのはにとっては棲みづらい空間。優しい視線に囲まれても、居心地は最悪であった。
「十四くんっ!」
「本当だろ。当たり前のことを当たり前のように言っただけだ」
自分は何も悪いことはしていない。何も嘘を言っていない。言葉に自信が満ちていた。
なのはの表情はこれ以上ないくらいに真っ赤になっていた。よくもこんな目に遭わせてくれたなと、強く十四を睨みつけていた。
そんな反応も十四は大好きであり、なのはの眼光に全く臆していない。それどころか、逆に微笑みを返す余裕を見せている。
この日、なのはは朝食に食べた物の味を覚えていない。