愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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「おはよう」、「おはよう」5

 バスから校舎、そして教室へ。自分の席へとなだれ込むように座る十四は、朝からひどく疲れていた。

 体ではなく、心が。羞恥心をいっぱいにして、十四は地獄であったあのバス通学の時間を切り抜くことができた。

 ただでさえ、男女比一対四。この年頃の少年は、女の子との談笑より男子同士のふざけ合いの方が性に合っている。無論、十四もその例から外れない。

 それに加えて、女子の名前を呼ぶという行為は少年の心を確実に削っていた。

 

「おはよ、朝から随分とお疲れやけど大丈夫?」

 

 上から十四にとって聞き覚えのある声。京風のなまりのある口調の少女は、十四の記憶の中では一人しか存在しない。

 八神はやて。この少女も、なのはたちの親友であり、魔法使いである。同じように、十四とも付き合いがある。

 

「うーっす。大丈夫そうに見えるならその目は節穴だな、やが――」

 

 八神、と言い切る前に十四は自分を射抜く視線を感じ取った。はやてからではない。別方向からの……。

 その方向へと目を向けると、少し離れた席からアリサが十四を監視するように見ていた。

 十四のいるクラスには、アリサ、すずか、はやてが同じクラスメイトとして在籍している。

 そして、アリサとのテスト勝負に負けた十四には、特定の女子たちに名前で呼ばなければならない。

 

「とにかく、俺はお疲れなんだ。そっとしておいてくれ、はやて」

 

 そして、はやてもその一人に数えられる。アリサの監視下にあるこの教室で、十四は三人の女子に名前で呼ばなければならない。

 その中ではまだ、はやてを名前で呼ぶのは楽であった。十四にしてみれば、同い年で一家のまとめ役をしている少女のことを、とてもではないが同年代とは認めたくない。自分より歳を取っているのではないかとさえ思っている。

 

「あー、そういうこと。十四くんも律儀やな」

「負けたことには違いないからな。反故にしたくないだけだ」

 

 目を向けた方にアリサがいる。それだけで、十四が名前で言い直したのをはやては察した。学校に来る道中で名前呼びを強制されたせいでグロッキーになっている。

 別に苗字呼びでも気にしない。確かに名前で呼んでくれるのはとても嬉しいには違いないが、はやてにしてみれば十四が自分たちのことを大切な友人と思ってくれているのと変わりないのは知っている。言葉ではない、心なのだとわかっている。

 

「それが律儀やってことや」

 

 そういうところを含めて、十四のいい所である。それをはやては認めていた。

 約束に誠実であるのは美徳である。十四自身は嘘がつけない性格なだけとふてくされているが。

 

「なぁ……一応女子のはしくれのお前に聞きたいけどよ」

「一応とはしくれは余計や。……なんや、女の子のことならはやてさんにまかしとき」

 

 少年の少し真面目な表情で、はやては十四が真面目な話をしようとしているのがわかった。

 十四がはやてに相談を持ちかけたのは、彼女になら他の女子より気楽に話せるからだ。なのはよりも、フェイトよりも、アリサよりも、すずかよりも。はやては相談相手にはうってつけだった。

 同い年というより、少し歳上のお姉さん。身近な例でいうなら、なのはの姉である美由紀と話している気分になれる。

 相談というのは、耳を傾ける方にも聞く器量というものが必要になる。それは経験だったり、才能だったり色々あるが、聞かせるという器がなければ、話す方は相談など持ちかけたりしない。

 

 常日頃、男子より女子とつるむことが多くなっている十四にしてみれば、はやての存在は非常にありがたかった。

 彼女たちとは友好的な関係でいたい。それは十四の願う偽りなき思いだ。

 しかし、自分と彼女たちは異性同士。男と女では勝手が違う。十四が些細で大したことがないと思うことでも、彼女たちには受け入れがたいことがある。そして、その逆もあるのも確かである。

 それを知っておくのは何の恥ではない。むしろ、相談を受けるはやて自身が十四に知ってもらいたいと思っている。

 この友情がずっと続いて欲しいと思っているのは、はやても同じ。

 些細なことで、何もかもが壊れてしまう。そんなことは嫌だ。認めない。許さない。未然に防ぐことが出来るなら、全て実行する。

 ――――もう二度と、妖精事件(あんなこと)は繰り返さない。

 

「普通さ、『可愛い』って誉め言葉じゃんか」

「そやね、普通は言われて悪い気はせえへんよ」

 

 十四の意見に、はやても同意する。時と場合によるが、可愛いと言われれば、女の子の大半は悪い気分にならないはずだ。

 

「けど、それをなのはのやつに言ったら拗ねてよ。言っちゃ、悪かったのか?」

「……」

 

 さっぱりだ、という十四の様子にはやては頭を抱える。

 実行したこと、言ったことに何の疑念も後悔も存在していない。十四は己に素直になって、なのはへ言葉を送っただけなのだ。

 今朝、はやてはなのはに会った。今日の機嫌は、少しナナメの様子。

 ……原因は、間違いなく十四だ。

 

「なんや、それは。惚気か?」

 

 傍から聞けば、そうとしか聞こえない。

 十四がなのはのことを大好きなのだということは、周知の事実だ。はやても、フェイトも、アリサも、すずかも、なのは自身も知っている。

 しかし、十四にとってみればそれは、ラブではなくライク。恋愛感情ではなく、家族へと向けられた親愛によるものであった。十一歳の少年には、恋というものを知るには早すぎた。

 合わせてなのはたちは、難しい年頃に差し掛かっている。男子より女子の方が体も精神も成長が早く、異性を意識し出す。

 そしてなによりも、十四は純粋で素直過ぎた。自分の気持ちをストレートに伝えることに何の抵抗はない。

 

「オーケー。で、十四くんはいつ言ったん?」

「朝の練習の時と、朝食の時と、通学の途中に」

「その時は、周りに人はいたんやな?二人っきりやなくて」

「おう」

 

 十四から聞いた話をはやては頭のなかで整理する。

 これは、徹頭徹尾、どこからどう見ても――。

 

「あんたが悪い」

「マジで?」

「そりゃそうや。ええか、十四くん」

 

 女子代表として、はやてが十四が犯した失敗を指摘する。

 そんなことが出来る女子は、十四が知る限りはやてしかいない。

 アリサが相談相手であったなら、顔を真っ赤にして『察しなさい』と言うだけで終わるだろうし、フェイトとすずかなら、恥ずかしがって口をつぐんでしまうだろう。なのはに至っては論外である。

 

「女の子にとっての可愛いって言葉は、そう何度も言ってもええもんやないんよ」

「そうなのか」

「そうなんよ」

 

 ただ誉めればいいというわけではない、ということを十四は学ぶ。

 いかに聞こえの良い言葉で言い繕っても、どれだけ心が込められても、時と場合を見定めなければならない。

 女の子とは難しい。はやてから相談を持ちかける毎に、十四は毎回のように思うのだ。

 

「言うときは一回だけ。それと、二人っきりの時がええな」

「おう、わかった」

 

 ふと、時計を見れば朝のホームルームの時間まであと僅か。そろそろ席にいなければならないころである。

 

「じゃ、またな十四くん」

「おう、またなはやて」

 

 席から離れるはやてを十四は見送る。

 数十秒もすれば担任教師が教室にやってきて生徒を纏め上げるだろう。

 

 こうしてまた、朝を迎える。

 変わらない、変えたくない、いつもの。その一欠片。

 加添十四が大切にする、大切な宝石。その一面。

 

 

 

 

 

 ──これは、加添十四だけの物語に非ず。

 

 ──これは、戦いと血と嘆きだけの物語に非ず。

 

 

 

 

 ────これは加添十四と、彼に関わる者たちで奏でられる協奏曲で狂想曲。

 

 ────これは、喜怒哀楽……様々な表情で描き彩られる一枚の絵。

 

 

 

 

 

 偽悪を気取った『悪』党は、『愛』し愛されることを望み続ける。

 

 死ぬこと叶わなかった『再生者』は、『妖精王』として歩みを止めない。

 

 悪になりたがった再生者から、愛されたがりの妖精王へ。

 

 

 フェイタル、マジカル、頑張りますってね。

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