愛されたがりの妖精王   作:Soul Pride

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凍結、封印された妖精王2

 無人世界フゲルヴェルミル。まったくの手付かずの自然がそのまま残っているその世界は、世界そのものに一個の意思が宿っているという説がある。

 これまでに何度か土地開発に派遣されたが、全て失敗に終わっている。

 原因は狙ったかのように襲い来る数多くの自然災害。開発チームへ向かって何度も何度も襲いかかってきた災害の種類は千種以上。毎朝毎晩、毎日のように見舞われては肝心の開発が予定されていた日程を大きく遅れ、ついには開発計画も頓挫。そのままの状態となっており、ここに訪れる人間はそれほど多くは存在しない。

 

 加添十四は、この世界が好きであった。

 魔法の練習に、ここによく訪れた。師とともに、魔法の研鑽を積んで自分の内にある力を自覚していった。

 そしてまた、日に二度も敗北した場所としても思い入れが強い。一度はクロノに。二度目は今ある数少ない男の友人によって、己の敗北を受け入れた。

 

 世界全域に流れる大河、そして下流の最果てにある世界の断崖と呼ばれる大瀑布。

 そして大河の上流には、この世界で最も美しいとされている湖がある。

 その湖の水面に、クロノ・ハラオウンは立っていた。バリアジャケットに、手には氷結の杖デュランダルを携えて。

 十四がなのはの病室から消えて、唯一十四の居場所を知っているのは彼だけである。十中八九、ここにいるという確信が彼にはあった。

 なぜ十四が使えないはずのブラウニーが使えているのか。なぜ緊急時以外に魔法を封じられた十四に魔力を感じられたにか。

 その全ての謎を知っているのもまた、クロノだけであった。

 

「十四、入るぞ」

 

 湖面に向けて声をかけると、クロノの足元に渦が起きる。渦の大きさは、人が丁度よく入ってしまえるくらいのものである。

 クロノは何もしていない。これは招いた者が開いたドアである。

 その渦は湖の底を見せており、ゆっくりと彼は湖底へ降り立った。

 

「相変わらず、凄まじいなここは」

 

 足の裏から、轟くように感じている魔力。全身がビリビリと痺れすら感じ、鼻にツンとくる爽やかさがある。

 たまらない。心が浮つく。濃い魔力素が口から肺に取り込むと、アルコールを摂取したように酔ってしまいそうになる。

 

 無人世界フゲルヴェルミルに流れる大河は全て、この湖──大洋湖フゲルヴェルミルから流れ出たものである。

 世界の名称の由来となったこの湖は、地球の太平洋とほぼ同等の広さの湖。淡水であるため、大洋の如き広さを持つ湖である。

 

「世界全域に流れる魔力がここで発生される魔力溜り。龍脈とはよく言ったものだ」

 

 この世界は、地球よりずっと魔力素の濃度が非常に濃い。その原因は、この湖と、湖から流れ出ている大河にある。

 この湖は、第一管理世界ミッドチルダにある二つの月と同じく莫大な魔力を放出する魔力溜りでもある。そこから魔力を多く含んだ水が大河に流れ出て運ばれ、世界中に渡っていっている。

 言うならここは、世界で一番魔力が濃い場所。ここで砲撃の一つでも撃とうものなら、確実に暴発して発動した者は無事に済むことはありえない。

 

 湖の底を強く踏むと、湖底にミッドチルダ式の魔法陣が描かれる。

 起動した魔法は物質透過の移動系魔法。クロノは魔力を出しただけで、術式そのものは用意されていた出入口に刻まれている。この場所で迂闊に魔法を使えばとのような惨事になることくらい、クロノもよくわかっている。

 魔法により、クロノは地面の中を潜る。潜るというより、ゆっくりと落下していると言った方が正しい。

 地中を潜航する感覚は水の中を泳ぐのと変わらない。だが場所が場所なだけに、体に触れる膨大な魔力が全身を痺れさせる。

 

 地中を抜けた先にあるのは、湖から漏れ出した水が流れ出る天然の地下水道。

 ここが、クロノの目的の場所。誰にも見つからない……物を隠すにはうってつけの場所。

 

 ──"よう、遅かったな"

 

 頭に響く念話による十四の声。

 クロノは『十四』のいる方へと振り向いた。

 

「忘れ物を届けに来た。服を置いてこなければここまで出向くことはなかったんだがな」

 

 転送魔法で、病室で置いてきてしまった十四の制服を取り出した。

 

 ──"悪い悪い、ついうっかりしてた。久々に使ったからなまってたらしい"

 

 クロノの視線の先には、会話相手の十四がいる。なら、別に念話ではなく直接声で話し合えばいい。

 たとえ技術難易度の非常に低い念話とはいえ、魔法の一端。口で喋った方が楽である。

 しかし、念話で話さなければいけない理由も、ここにはある。

 

 ──"思ったほど悪くはない。たとえ生身の体じゃなくてもな"

 

 

 

 

 

 地下水道に鎮座されていたのは、まぎれもなく加添十四。

 

 その姿は眠るように。永遠の、良き夢を見続けているように安らかな寝顔で。

 

 ────溶けない氷の棺で固められた、十四の肉体がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 ──"妖精女王(ティターニア)──遺伝子情報(DNA)外見情報(ドレス)精神情報(メンタル)入力"

 

 十四の肉体が固められた氷の彫像から、赤錆色の妖精(ブラウニー)が多数出ていく。

 それが一つに固まっていき、一体の人型を象っていく。

 完成されたソレは、ドレスを着こなす無貌の女性、妖精女王(ティターニア)

 ティターニアを素体とし、加添十四の分身(アバター)として完璧にするべく……遺伝子情報、外見、そして氷の彫像に宿っていた精神をティターニアへと入力する。

 

「十四くん三分クッキング──リンカーコア抜き素体一丁上がりってね」

 

 まるでカップラーメンを作るような手軽さで、十四は自分の体を作り上げた。

 その姿はほぼ全裸であるため、水場のここはひどく寒い。クロノから衣服を受け取ってすぐに着る。

 寒くてこんなところには居たくない。なんでこの場所に自分の肉体を置いたのだろうと自分で疑問に思ってしまう。

 

「……ああもう帰ろ。クロノ、転送頼む」

「格好つけて後始末する身になれ、この馬鹿弟子。みんな心配していたぞ、また事件を起こされたらかなわないとさ」

 

 ずいぶんと信用のないものである、と心の中で苦笑する。

 だが、こんな自分も心配されている。帰る場所も存在している。

 人として、肉の器はここに置き去りにしても……心だけは捨てる気はさらさらない。

 ああ、自分はかなりの幸せ者なんだと自覚する。

 

「わりーわりー。埋め合わせは今度する」

 

 ──心の底から信頼しているからこそ、共有する秘密。

 男同士だからこそ、言えることがある。打ち明けられる、秘密がある。

 師弟のようで、兄のようで、弟のようで、親友のようで……加添十四とクロノ・ハラオウンは、変わらぬ友情を紡いでいる。

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