秋色の少年は裁定者の少女に恋をした   作:妖精絶対許さんマン

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お久しぶりです。新宿のアーチャー、プロトセイバー、無事に当たりました!沖田さんは来週のメンテ明けまで様子見です。


集積学園 Ⅰ

「はぁ・・・・・・!はぁ・・・・・・!」

 

薄暗い何処かの廊下を制服を着た少女が何かから逃げるように走っている。顔は青く、走っている足は今にも縺れて転けそうになっている。

 

「赦サナイ・・・・・・!赦サナイ・・・・・・!!オ前タチヲ赦サナイ!!!!!」

 

少女の跡を追うのは白い人形の『ナニカ』。人形の『ナニカ』は一つではない。二つ、三つ、四つ、五つ。人形の『ナニカ』の数はどんどん増えていく。少女が廊下を抜ける頃には『ナニカ』の数は百を越えていた。

 

「きゃっ・・・・・・!?」

 

少女は廊下を抜け出した先の歩道で何かに引っ張られる形で転んだ。少女は自分の足首が掴まれているような感覚を感じ、足首を見る。そこにはーーーーーー

 

「ひっ・・・・・・!?」

 

ーーーーーー眼球があるべき場所が空洞になっている半透明な幼児(・・)が嗤っていた。

 

「いやっ、離して!離しなさいよぉ!?」

 

少女は捕まれていない左足で幼児の頭部を蹴る。蹴られた幼児の頭部は弾けた。だが、幼児の手は今だ少女の足首を掴んでいる。

 

「殺シタ・・・・・・!」

 

「殺シタ・・・・・・!」

 

「殺シタ・・・・・・!」

 

『ナニカ』達は一斉に怨嗟を孕んだ叫びを上げる。

 

「「「「「殺シタ!殺シタ!殺シタ!殺シタ!殺シタ!殺シタ!殺シタ!殺シタ!殺シタ!殺シタ!!殺シタ!!殺シタ!!!!!」」」」」

 

『ナニカ』達は怨嗟の叫びをあげながら倒れこんでいる少女に群がる。

 

「ーーーーーーいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

ーーーーーー真夜中の空に少女の絶叫が響いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お久しぶりです、蒼崎さん」

 

「ええ、久しぶりね虚ちゃん。今日はどう言った用件かしら?」

 

伽藍の堂。そこには二人の眼鏡をかけた女性がいる。伽藍の堂の主、蒼崎橙子。もう一人は元更織家筆頭家臣、布仏虚だ。

 

「今日は折り入ってお願いがあります」

 

「お願い・・・・・・ね。なにかしら?」

 

「はい。私は今、布仏の分家の意向でIS学園に通っています」

 

橙子は眼鏡をはずし、ソファーに座っている虚を睨むように見る。

 

「ほぉ?魔術師の家系のお前がIS学園に身を置いたか。・・・・・・魔術を捨てたか?」

 

「・・・・・・はい。元々、両親とは魔術刻印の譲渡で揉めていましたから。これを期に魔術師としての布仏家を終わらせようと思います」

 

橙子は煙草を取り出して火をつける。紫煙を吐き出し、虚に話を進めるように視線を向ける。

 

「IS学園では今、奇妙な事件が多発しています」

 

虚はIS学園で起きている怪事件を話始める。

 

「始まりは半年前です。学園内で幽霊の噂が流れ始めました。私も初めはよくある学校の怪談か何かだと思っていました・・・・・・」

 

「・・・・・・噂の内容は?」

 

「夜に外を出歩いていると、白い人影を見た・・・・・・なんて言うよくある話です」

 

「ああ、確かによくある話だな。巡回の警備員か何かと見間違えたんじゃないのか?」

 

「警備員が巡回するのは夜の八時までです。幽霊が表れたのは九時以降。噂が流れ始めて二週間程は生徒も、教師も時期外れな怪談話ですませていました。噂が流れ始めて三週目、その日から事件が起こりました。一人の女子生徒が行方不明になったんです」

 

IS学園は人工島の上に作られた教育機関。移動手段はモノレールだけだ。

 

「行方不明になった生徒はすぐに見つかりました。・・・・・・寮と校舎を繋ぐ歩道で、変死体として、ですが」

 

「変死体?外界と遮断されているIS学園でか?いや、そもそもIS学園で行方不明者が出ること事態が異常だ。その生徒は神隠しにでもあったのか?」

 

「分かりません。ただ、変死体で発見された生徒には微かに呪いをかけられたような跡がありました」

 

「・・・・・・ああ、そうか。布仏は代々呪術を生業にしていた家系だったな。その魔術刻印の元譲渡予定だったお前が言うんだ、あながち間違いないだろう。そうなると、IS学園にはお前と同じ魔術師が紛れ混んでる可能性もあるな」

 

橙子は窓から見える外を見る。世にISが出回ってから、伽藍の堂近辺の工場は悉く倒産していった。鉄やアルミといった物は、IS技術の流用により、鉄より頑丈に、アルミより軽い物質が出回り、鉄産業とアルミ産業

、その他諸々大打撃を受けた。

 

「それで?その話と私への依頼、どう繋がるわけだい?」

 

「ーーーーーー幽霊の正体を突き止めるために、秋さんをIS学園に派遣してください」

 

クシャッ、という乾いた音が伽藍の堂に響いた。

 

「ーーーーーーそれは、私への宣戦布告と受け取れば良いのか?」

 

元来、蒼崎橙子という魔術師は戦闘能力は高くない。戦闘となれば人形任せ。だが、腕が衰えようが当代最高の人形師にして『冠位(グランド)』の称号を持つ魔術師。虚に向ける殺意を孕んだ怒気に、虚は身を竦める。

 

「・・・・・・っ!無理を承知でお願いします!魔術師として未熟な私には、今回の異変に対抗できません!秋さんの身を危険に晒すことも重々理解しています!秋さんのサポートは必ず私が成し遂げます!ですから!!どうか秋さんをIS学園に派遣してください!!」

 

虚は立ち上がって橙子に向かって頭を下げる。橙子は握り潰した煙草を灰皿に捨て、新しい煙草を取り出す。

 

「・・・・・・お前のその依頼は秋に決めさせる。ただし、報酬は前払いだ。アイツが受けると言ったのなら、この場ですぐに報酬を払って貰う。良いな?」

 

「構いません」

 

虚はソファーに座り直し、姿勢を正す。橙子は煙草に火を着け、窓の外を見る。風化し、建物が錆び付いた元工場が伽藍の堂の周りを囲んでいる。伽藍の堂の周囲は何年か前から自然に出来上がった結界に変わった。工場は潰れ、人は去り、人通りの多い道から逸れた伽藍の堂の立地は、人を寄せ付けないある種の異界となった。

 

「ただいま戻りましたー」

 

しばらくすると、手にコンビニのビニール袋を持った秋が帰ってきた。

 

「先生に頼まれてた物も買ってきましたよ」

 

「ああ、すまんな。釣りはやるよ」

 

「ありがとうございます。それより、先生がファッション雑誌を頼むなんて珍しいですね。明日は槍でも降りますか?」

 

「一言多いぞバカ弟子。私とて流行の服装には興味がある」

 

「なら、春華か更識先輩から借りてくださいよ。店員に不審者を見る目で見られたんですよ?」

 

「小娘共の着る服の雑誌なんて読んでられるか。それより、お前に客だ」

 

「客?・・・・・・あっ、お久しぶりです」

 

秋は虚の存在に気がついたのか、軽く会釈する。

 

「お久しぶりです、秋さん。少々よろしいですか?」

 

秋は橙子の方を見るが、橙子は我関せずといったように雑誌を読んでいる。秋は小さく息を吐き、虚の対面に座る。

 

「今日は依頼があって来させてもらいました」

 

虚は橙子に話したことを秋に話す。虚の話を聞くにつれて、秋の表情が険しくなっていく。

 

「・・・・・・なるほど。IS学園は立地の関係である種のクローズドサークルに近いからね。孤島で起きた犯人不明、殺人方法がオカルト、そして被害者は増え続ける可能性がある・・・・・・三文推理小説でありそうな内容だね」

 

秋はソファーから立ち上がって給湯室に入っていく。五分もしない内に手にカップを持って戻ってきた。

 

「ーーーーーー良いよ。その依頼、受けるよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

虚は断られると思っていたのか、秋の答えに驚きで立ち上がった。

 

「うん。最近はこれといった依頼が無いからね。それに、少しその『幽霊』に興味が出た」

 

秋はカップに口をつけて喉を潤す。橙子はバタンッ!と音を立てて雑誌を閉じる。

 

「決まりだな、布仏虚。約束通り、報酬は前払いで払ってもらう」

 

「はい。これは分家の蔵に保管されていた物を、当主から譲り受けた物です」

 

虚は足下に置いていた長方形の包みを机の上に置く。虚が包みをほどくと、中から桐の箱が出てきた。桐の箱の蓋を開けると、中には日本刀が納まっていた。秋は日本刀を手に取り、鞘から刀を抜く。

 

「叔父の話だとその刀が打たれたのは安土・桃山時代だと聞いています」

 

秋はすぐに刀を鞘に戻した。橙子も安堵したように息を吐く。歳月を重ねた古刀は古ければ古いだけ、神秘を増していく。橙子が伽藍の堂に張っている結界なのど紙切れの如く切り裂いてしまう。

 

「その・・・・・・報酬はその刀で構いませんか?」

 

秋は橙子の方を見る。橙子は小さく頷く。

 

「うん、契約成立。五百年近い古刀なんて中々お目にかかれないからね。報酬はしっかりと貰ったし、報酬分の働きは約束するよ」

 

秋は刀を桐の箱に戻す。

 

「そうなると問題はIS学園への潜入手段だね・・・・・・」

 

秋が所有している魔術礼装は夜天の書一冊と『魔』のみ。IS学園に潜入するのには些か心許ない。

 

「秋。今回は本を使うことを許す(・・・・・・・・・)。魔術協会、聖堂教会の連中に気付かれない程度に使え」

 

「・・・・・・良いんですか?」

 

「ああ。だが、多用はするな。入る時と出る時、本当に危険な状態だと判断したのなら、本を使え。それ以外で使うことは許さん」

 

「・・・・・・何の話をされてるんですか?」

 

秋と橙子の話に虚はついていけていない。それはそうだろう。秋と橙子が話している内容は滅びを迎える家系だと言え、聞いているのは魔術師。易々と手の内を晒すわけにはいかない。

 

「まあ、僕の切り札を一枚切る許可が出たんだよ」

 

ーーーーーー秋はそう言って、微かに口元を釣り上げた。




・女子生徒の変死体

眼球が抉り取られ、手足の関節全てが逆方向に曲がっていた。尚、第一発見者は世界最強。

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