秋色の少年は裁定者の少女に恋をした   作:妖精絶対許さんマン

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なんか筆が乗る。


霊脈捜査 Ⅲ

「それで?どんな収穫があったんだ?」

 

秋と橙子のじゃれあいは春華の介入によって終了した。今は橙子が癒しのルーンを使い、秋の傷口を塞ぎ、その上から春華が包帯を巻いている。

 

「一つ目が更識の裏切りですね。冬木教会で更識の刺客達に教われました」

 

「ほぉ・・・・・・意外に早かったな。もう少し契約関係が続くと思っていたが?」

 

橙子は意外そうに言いながらも、何処か更識が裏切ることを予見していたようだ。

 

「それに、どうも冬木に潜伏している外来の魔術師と結託している節もありますね。結託している魔術師は黒魔術(ウィッチクラフト)の使い手でした」

 

「もう、接触したのか。ソイツの目的は?」

 

「ーーーーーー黒魔術(ウィッチクラフト)による根源の渦への到達」

 

「・・・・・・なに?黒魔術(ウィッチクラフト)だと?」

 

橙子は煙草を吸う手を止め、秋の方を見る。

 

「はい。冬木教会の地下室で魔術師の影とは遭遇したんですが、詳しいことまでは聞き出せませんでした」

 

「いや、それだけ聞き出せれば十分だろう。しかし・・・・・・黒魔術(ウィッチクラフト)か」

 

橙子は何かを考えるかのように顎に手を当てる。

 

「ねえ、秋。黒魔術(ウィッチクラフト)ってなに?」

 

「・・・・・・黒魔術(ウィッチクラフト)って言うのは生贄を使って行使する魔術体系の一つだよ。生贄は生きてるモノなら何でも良い。動物でも、それこそ人間でも」

 

秋が思い出したのは生贄され、挙げ句の果てにキメラにされた人たち。秋も魔術師の端くれ、黒魔術(ウィッチクラフト)も理解している。それでも、成熟しきっていない秋の精神には五人も生贄して行使する黒魔術(ウィッチクラフト)には嫌悪感を抱いている。

 

「秋。生贄は何だった?猫か?犬か?」

 

「・・・・・・人間でした。数は五人。死体は繋ぎ会わせられてキメラにされていました」

 

「五人・・・・・・それほどの人間を生贄して根源への到達だと?馬鹿馬鹿しい」

 

春華は秋と橙子の話を聞いて気分を悪くしたのかトイレに駆け込んで行った。

 

「先生。黒魔術(ウィッチクラフト)で根源への到達は出来るんですか?」

 

「分からん。そもそも、黒魔術(ウィッチクラフト)は私の専門外だ」

 

橙子は秋の質問を分からないと一蹴して煙草を吸う。

 

「・・・・・・少し昔の話をしてやろう。ある魔術師がいた。その魔術師も根源を目指していた。『人がどう生きたか』では無く、『人がどう死んだか』を克明にして記録しようとした。その結果、あるマンションを心象風景、人工的な固有結界にしたてあげた」

 

橙子は秋を引き取る前のことを思い出しながら語る。ある男の結末とーーーーーー目指した場所を。

 

「そのマンションでは崩壊寸前の家族を集め、家庭崩壊を後押しして全員が死ぬように仕向けた。そして、六四通りの死に方を人形に再現させ続けた」

 

螺旋のように繰り返される死。朝に生き、夜に死ぬ人形たち。

 

「その魔術師は式を狙っていた。何故だか分かるか?」

 

「・・・・・・直死の魔眼ですか?」

 

秋は顎に手を当てながら、式に関することから思い付くものを一つだけ言った。

 

「正解だ。式の体は根源ーーーーーー『  』と繋がっている。その魔術師はあろうことか自分の脳髄を式の体に移そうとしたんだ」

 

「・・・・・・その魔術師は女性になりたかったんですか?」

 

「あはははははっ!!確かにそうとも取れるな!」

 

橙子は喉を鳴らしながら笑う。愛弟子の思わぬ返しに大声で笑う。

 

「それだったらどれだけ面白いか・・・・・・ごほんっ。式の体は『  』と繋がっているからな、自分の脳髄を式の体に移して根源の渦に至ろうとしたんだ」

 

「式さんが生きてるってことは・・・・・・その魔術師は死んだんですね?」

 

「ああ、死んだよ」

 

最後に学友と交わした問答。それは橙子の脳裏に今も鮮明に焼き付いている。

 

ーーーーーー荒耶。何を求める。

 

ーーーーーー真の・・・・・・叡智を。

 

ーーーーーー荒耶。何処に求める。

 

ーーーーーーただ、己の内にのみ。

 

ーーーーーー荒耶。何処を目指す。

 

ーーーーーー知れたこと。この、矛盾した・・・・・・螺旋(セカイ)の果てを。

 

灰を灰皿に落とす。

 

「秋。お前には知っておいてほしい。根源を目指す魔術師は我欲に走る魔術師もいるが、何かを残そうとして根源を目指す魔術師もいる」

 

橙子は暗に偏見を持つなと言う。学友が我欲の為に五人も生贄して根源を目指す魔術師と一緒にされないために。

 

「そう・・・・・・ですね。いきなり変えるのは無理かも知れないですけど、頑張ってみます」

 

「ああ、ゆっくりで良い。その時はお前がどんな答えに至ったのか、私に教えてくれ」

 

橙子は微かに微笑みながら言う。秋も微かに笑う。それは『師と弟子』ではなく、『母親と息子』のような雰囲気が流れている。

 

「秋。今日は休め。後処理は私がしておく」

 

「えっ、でも、黒魔術(ウィッチクラフト)を使う魔術師を捕まえないと」

 

「すぐには動かんさ。影でお前の前に現れたってことはその魔術師はよっぽど用心深い。お前はその魔術師が動き出すまでに傷を癒しておけ」

 

橙子は椅子から立ち上がって、コートを羽織る。

 

「秋。お前にやった匣、少しのあいだ貸してくれないか?」

 

「良いですけど・・・・・・何処に行くんですか?」

 

秋は黄金の波紋から匣を取り出して橙子に渡す。

 

「なに、私の可愛い息子(愛弟子)を襲った不逞な輩を問い詰めに行くだけだよ」

 

橙子は口元を大きく歪めながら部屋から出ていった。

 

「あの笑い方は・・・・・・先生、本気で切れてる」

 

秋は冷や汗を流しながら橙子が出ていった扉を見続けていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

橙子は一つの屋敷の前で車を停めた。門の表札には『更識』と書かれている。橙子は匣を持って車から降りる。

 

「・・・・・・蒼崎さん?」

 

「ん・・・・・・?あら、簪ちゃんじゃない」

 

今の橙子は眼鏡をかけている。秋と話すときは基本的に眼鏡を外している。

 

「どうしたんですか、こんな時間に?」

 

「ちょっと、貴女のお姉さんにお話があってね。会えるかしら?」

 

「えっと・・・・・・はい、今の時間なら大丈夫だと思います」

 

簪は腕時計で時間を確認すると、門を開いた。

 

「お姉ちゃんの部屋まで案内します」

 

「ありがとう、簪ちゃん」

 

橙子は簪に続いて歩く。

 

(監視されてるわね・・・・・・それも露骨に)

 

橙子は門を通ると同時に視線を感じていた。使い魔越しではなく肉眼による監視だ。

 

(遮蔽物が多いわね。何処にいるかまでは確認できない・・・・・・か)

 

橙子は顔を動かさずに視線だけを動かして辺りを見る。屋敷は純和風の建築物だ。

 

(この子の感じからして、魔術師が入り込んでいることも、秋を襲ったことも知らないようね)

 

橙子は簪の背を見ながら内心で呟く。橙子は更識姉妹には少なからず感謝している。同年代の魔術師が居るということが秋に良い影響を与えたのか、姉妹と会わせてからよりいっそう秋の魔術師としてのレベルが上がっていった。

 

「ここがお姉ちゃんの部屋です。お姉ちゃん、入るね」

 

簪は主の許可が返ってくる前に襖を開けた。

 

「どーしたの簪ちゃん。もしかして、お姉ちゃんが恋しくなったの?」

 

部屋の主はベッドに横になって足をぶらぶらと動かしている。風呂上がりなのか、水色の髪が湿っている。

 

「もう・・・・・・お客さんが来てるんだよ。しっかりして」

 

「んぅ~、お客さ・・・・・・んっ!?」

 

部屋の主は頭を持ち上げて橙子を認識すると固まった。

 

「や、久しぶりね。君が当主に就任して以来かしら?」

 

「お、お久しぶり・・・・・・です、橙子さん」

 

部屋の主ーーーーーー更識楯無は冷や汗を流しながら起き上がった。

 

「ど、どういった御用件でしょう?」

 

「ちょっと君に確認したいことがあるのよ。良いかしら?」

 

「は、はい!」

 

楯無は居住いを正す。橙子は部屋に入り、襖を閉める。簪は楯無の隣に座る。

 

「さてーーーーーー秋の契約者、更識楯無。お前は今、この街に魔術師が入り込んでいることに気がついているか?」

 

橙子は眼鏡を外す。高圧的に、無機質に、無感情に問う。

 

「魔術師・・・・・・?いえ、そんな事は私は聞いていません。簪ちゃんは聞いてる?」

 

「ううん。今初めて聞いた」

 

「その魔術師はこの冬木で根源に至ろうとしている。黒魔術(ウィッチクラフト)で五人もの人間が犠牲になっている」

 

「五人!?簪ちゃん!今すぐ虚ちゃんに確認してきて!!」

 

「うん!」

 

簪は部屋から走って出ていった。

 

「そして、ここからが本題だ。更識楯無ーーーーーーお前は屋敷の人間に秋を殺すように命じたか?」

 

「ーーーーーーーーーー」

 

楯無は橙子の言葉に絶句した。秋を殺すように命じた?誰が?私が?楯無の頭の中を疑問が埋め尽くしていく。

 

「わ、私はそんなことを命じてなんかいません!!確かに更識家内部は一枚岩とは言えません!でも!秋君を暗殺するような事は絶対にしません!!」

 

「そう慌てるな。何もお前を疑っているとは言っていない。一応の確認をしただけだ。アイツ()の命を狙ったのは別にいる。そうだろーーーーーー更識刀夜」

 

橙子はコートのポケットから何かを掴み、襖に向かって投げる。橙子が投げたのは形は(・・)変哲もない小石だった。小石が襖に届くのと同時に、襖が開いた。小石は光だしーーーーーー爆発した。襖を開いた更識の刺客達は爆発の衝撃で庭に吹っ飛んだ。

 

「ちっ・・・・・・気づいていたか」

 

「あんな下手くそな監視に気づかないほど、私は日寄ってはいない。それより、その反応からして秋の命を狙ったのはお前のようだな」

 

「ああ、そうだ。本来ならあの餓鬼の首とお前の体を魔術協会に引き渡そうと思ったが・・・・・・暗殺に出した奴らが戻って来ないところを見ると、お前の弟子に殺られたようなだ」

 

楯無と簪と同じ水色の髪に黒目の浴衣姿の男が立っていた。現・更識楯無の父親にして前・更識楯無、更識刀夜が部下を引き連れていた。




・橙子が投げた小石

本当にただの小石。路上に落ちていた小石にルーン文字を書いただけ。威力は人を殺すことはできないが大怪我を負わせられるぐらい。

・橙子の学友

CVが中田⚪治のあの人。魔術師なのにあの肉体は反則だと思う。作者は矛盾螺旋の最後の橙子との問答のシーンが好き。

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