FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹   作:天狼レイン

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前回いろいろとゲス過ぎるERAにウェンディを人質に取られたレイン。

今回はその続きです。途中でなにそれ、お前チートか(笑)ってなったらスミマセン。

まあ、主人公も悪魔ですから。あと実力的にも化け物ですからと思ってサラリと

流してください。トイレみたいにです、はい。



約束を果たすために 後編

どれほどの後悔が少年を襲ったのだろうか。

 

どれほどの憎しみが少年を襲ったのだろうか。

 

どれほどの絶望が少年を襲ったのだろうか。

 

それは全て、それを受けた少年にしか分からないだろう。

大切な妹を人質に取られ、その上にその妹に自分を襲わせている悪魔を見れば……。

怒り――純粋な怒り、憤怒の感情が少年の冷静さを欠けさせていく。

何百通りの呪詛が少年の中で繰り返されただろう。目の前で嘲笑うように高笑いをし、泣き叫ぶ妹を好き放題に操り、殺し合いをさせるその悪魔の姿に。

怒りが込み上げない訳がない。

そう言わんばかりのこの感情。憤怒の感情は少年に残った“七つの人としての大罪”の一つだ。すでに少年には記憶欠損の他にその大罪のうち、“色欲”、“強欲”、“嫉妬”、“怠惰”、“暴食”は失われた。何故だか、そんな感じがする。

いつも食事を取る量は一般的な量の半分に近く、何かをどうしても欲しいと思うようなことがない。睡眠を取りたいと思ったことも無くなっている。

何かを見逃すという人間らしい弱さも少年にはなく、作戦などもマトモに考えず、突撃することもたまにある。

服装に気を使うことも全くない。ギルドが出来た頃はもう少し気を付けていたのも覚えている。そんな感覚だ。少しずつ感情が奪われているのか、それとも消えてしまったのか。

それは少年には分からない。――だが、何故か今だけは憤怒の他に何かを感じている。

“傲慢”――プライドではない他のもの。けれど、それが分からない。とても不思議な感覚だ。昔はそれを感じて普通だったが、今となっては思い出せない。

そんな気持ちが少年――レインの中で現れては消えていく。そのことを気にするのも別に許されてもいいだろうが、彼はそんなことよりもただ……

 

 

 

 

 

大切な妹――ウェンディを助けることだけが、唯一の望みだった。

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

「ぐっ……!?」

 

彼の両手は浅い切り傷ばかりになっていた。幾度となく、強烈な風のブレスを受けたからだろう。そのブレスは大切な妹から放たれ、その後ろでは悪魔が嘲笑う。

ブレスを放つ妹――ウェンディの目から幾度となく涙が溢れ落ち、謝罪の声がレインにも届く。何度も何度も謝り、その旅に涙を流す彼女の姿が彼の目に入る。

その旅に彼は堪えきれないほどの怒りを感じ、全身から殺気を漏らして、ウェンディを操る悪魔へと殺到する。

 

「貴様ァァ!!!」

 

「苦しめ、苦しめェ!! 所詮人間であるうちは我には勝てんぞォ!!!」

 

嘲笑い、両手で何かを引っ張る仕草をし、自身に迫り来るレインの眼下に強制的に彼女を移動させる。――盾だ、あの悪魔は大切なレインの妹を盾にした。

ウェンディが視界に入ると、途端にレインは動きが鈍る。その隙を突いて、ERAは強烈な一撃を容赦なく、彼の鳩尾に叩き込む。

 

「ドラアッ!!!」

 

「かはっ……!?」

 

「お兄ちゃん!!」

 

ウェンディの悲痛な叫びがレインに届くと同時に、彼は後退り、口から血を吐いた。神聖なる天狼島の大地に紅い鮮血が落とされ、強打を受けた少年は膝から崩れ、荒い呼吸を繰り返す。

 

「…はぁ……はぁ……。…ウェンディを……返せ……妹を……返せぇ……!!」

 

「…お兄…ちゃん……」

 

「アハハッ!! 返すかよ、間抜けがァ! 我の大切な社だぜェ?」

 

「ふざ…けんな……、ふざけんなァ…!! 貴様に、ウェンディの未来を…奪わせない……絶対に殺す、オレが……オレが!!!」

 

ふらつく両足を叱咤し、フラフラと立ち上がるレイン。彼の身体からは無数の切り傷が見え、そこから血が流れている。正直、立っているのがやっとのはずだった。

彼の紅く変化した瞳はより一層紅く輝き、目尻から鮮血が溢れ始める。こめかみには青筋が走り、鬼形相同等に怒り狂いかけている。

 

「ウェンディ…を……返せ……」

 

「しつけェつってんだろうがァァァ!!!」

 

強靭な禍々しい両足から生まれた速さ。それは一瞬でレインとの間合いを詰め、鋭い凶爪が彼の胸元を目掛けて向かっていく。

ゆっくりと近づき……――彼の胸元を抉るように降り下ろされた。

 

「…ぁ………」

 

「死ねよ、出来損ない風情がァ」

 

「…お兄…ちゃん……?」

 

凶爪がレインの胸に紅き軌跡を描き、それからパッと血飛沫が上がる。花火の如く空中を紅で彩り、その血飛沫を見た悪魔の狂喜が映る。

ゆっくりと前へと傾き、倒れるレインの姿。あまりの衝撃にウェンディは声が出ない。動けない身体から一筋の涙が溢れ落ち――ようとした瞬間、突然倒れかかったレインが耐え、凶悪な悪魔の右腕を捕らえた。

 

「何だと……っ!?」

 

「…やっと……、…やっと…捕まえた……、これで…お前だけを殺れる…!!」

 

「お……、お兄ちゃん!!」

 

兄の無事に少しだけ明るくなるウェンディを視界に捉え、レインは空いた右腕を振りかぶり、今までの怒りを込めた一撃を悪魔の鳩尾へと倍返しと言わんばかりに見舞う。

 

「オレと…ウェンディ…、何処からか見てくれている…グランディーネ……の怒り…。存分にィ…味わいやがれェ!!!」

 

強烈な一撃がERAの鳩尾に強打され、衝撃が悪魔の全身を突き抜ける。メリメリと音が鳴り、手に悪魔の骨格を砕き割る感覚が伝わる。

 

「天竜王の崩拳!!!」

 

「グオァァ……!!??」

 

破砕されていく肋骨や背骨。遂には強靭な皮膚を破り、肉をも断つ。紫色の鮮血がレインに降りかかり、彼の拳がERAの身体を貫通する。

 

「オレたちの前から…消えろォ……!!!」

 

右腕を振り抜き、悪魔を吹き飛ばす。高く高く吹き飛ばされ、ERAは近くの崖目掛けて飛んでいき、砂煙を上げて衝突する。

その光景を他人事のように眺め、レインも膝から崩れ、倒れ伏す。漸く呪法の効力が解けたウェンディが側に駆け寄り、すぐに両手を翳す。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!!」

 

「…ハハ……、無事か…? ウェンディ……」

 

「…う、うんっ…。…早く…手当てするね……」

 

暖かい光が身体に浸透し、苦しそうだったレインの表情が少し柔らかくなる。それを見て、ウェンディはホッとする。赤くなった目元で傷だらけの兄を見て、お礼を伝えようと口を開こうとする。

――だが

 

「ウェンディ、避けろッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

瞬間的にウェンディを突き飛ばし、レインは身体を起こすと同時に何かを受け止めた。小さくウェンディが悲鳴をあげたが、幸い怪我もなく、ゆっくりと顔を見上げ、驚愕した。

 

「貴様……、まだ生きてやがったのか……!!」

 

「社を……、社を寄越せェェェ!!!」

 

胴体に風穴が空いたと言うのに、死なないERA。まだ生きている悪魔の空いていた風穴には何もないはずだったが、急におぞましい何かが姿を見せた。

 

『助ケテェ……、誰カァ……』

 

『オ母サン……、助ケテェ……』

 

『嫌ダァ、コンナノ嫌ダァ……』

 

『誰カァ……助ケテクレェ……』

 

空いた風穴から形を持たぬ何かが蠢き、涙のような黒い液体を溢し喚いていた。その中からは様々な人間らしき声が聞こえ、男の人や女の人、小さな子供の声から老いた人々の声が次々に聞こえる。そこから形を持たぬドロリとしたモノが動き、手のような何かが空を付かんでは風穴の中に呑み込まれていく。

 

「なんだよ…それ……」

 

「身体を奪われた人たちの…魂……? うっ……」

 

反射的に口を押さえ、ウェンディは気持ち悪そうにする。あんなものを見て平然としていられる方が異常だと言えるほどに、気分を害するものがそこにはあった。

 

「社を……、身体を寄越せェェェェェ!!! ニンゲンフゼイガァァァ!!!」

 

「ぐっ……!!!」

 

正気を失い、喚き散らすERA。彼の強靭な腕が強引に振るわれ、レインの防御を砕き割るように襲いかかる。

少しずつ両手に麻痺が生じ、腕の動きが鈍る。ゆっくりと腕が上がらなくなり、突き抜けた衝撃が両足にまで響き、動きをも鈍らせる。

 

「ぐっ………!!」

 

「ワレノマエカラ、キエウセロオオオォォォ!!!」

 

その一撃はレインの右肩に直撃した。ガコンと何かが外れ、視界が真っ赤に染まり、崖の下に向かって吹き飛ばされた。

何本かの木々を突き破り、最後に岩山に背中を打ち付け、レインの意識が霞み始める。

 

「(やべぇ……、意識が……霞む……。…ウェンディが…危ない……のに……)」

 

首を上げかけたが、そこで意識を失ったのか、レインは動かなくなる。その姿を見て、ウェンディが駆け寄るが、突然身体が動かなくなったのに気がつき、目を疑った。

ゆっくりと何故かレインの元に近づき、側に寄ると、彼に馬乗りし、勝手に伸びた両手が兄の首を捉え、絞め出した。

 

「ぐ……ぁ……ぁぐ……か……」

 

「いや、いやぁ……、止めて、止めてぇぇ!!!」

 

「ホロビロ、ムシケラァァ!! ガキノココロヲオルタメニ、ココデ、シネェ!!!」

 

格段に力が入り、さらにレインの首を絞めるウェンディの両手。本人がどれほど抗おうと、その手は言うことを聞かない。どんどん兄の声がか細くなり、気絶しているだろう意識が反射的にウェンディの手を退けようと伸ばした両手さえもプルプルと震え、力なく、地面に落ちる。

荒い呼吸の音が少しずつ消えていき……、遂には全く聞こえなくなった。

漸く身体の呪縛が解けたウェンディが急いで兄レインの口許に耳を寄せる。

 

「――――」

 

「…お兄…ちゃん……?」

 

聞こえない呼吸音。嘘だと信じ、次は彼の傷だらけだった胸元に頭を寄せ、心臓の鼓動を聞く。――しかし

 

「……聞こえ…ない……、…お兄ちゃんの…心臓の…音が……、聞こえ……ない……」

 

その事実はウェンディの優しく綺麗な心を粉砕した。ヒビが入り、花瓶がバラバラに砕け散るように。さっき以上の涙が目尻から流れ、絶叫する。

 

「いやぁ……そんな……わたしが……わたしが……お兄ちゃんを……殺し……ちゃった……。……そんな……そんな……うそ……いやぁ……いやぁあああぁぁ!!!!」

 

仰け反るほどに叫び、頭を押さえ、現実を受け入れまいとウェンディは泣き喚く。あれほど強くて、優しかった兄が死んだ。その事実は認めたくないだろう。

それも操られていたとはいえ、自分の手で絞め殺したのならば、尚更認めたくないだろう。

しかし、現実は残酷で理不尽極まりなかった。恐らく、兄レインの身体は冷たくなり始めている。暖かくて恋しいほどの懐かしさと暖かさは失われているのだ。

その事実と、自分が殺したと言うことがウェンディの精神を異常にさせる。頭を押さえていた両手はダランと垂れ下がり、涙が流れ続けるが、彼女の声はか細く、ひたすらに「嘘」と言い続けるだけ。優しげな瞳に宿っていた光は消え失せ、真っ暗な闇を映し出した。

 

「…そん…な……お兄ちゃん……が……」

 

「アハ…、アハハハハッ!!! ザマアネェヨ、ニンゲンフゼイガ!!! マサカ、ジブンノテデアニヲコロスナンテナァ!!!」

 

ERAの笑い声がウェンディの心に再度ヒビを入れ、彼女を壊していく。そんな彼女に再び呪法《操り人形(マリオネット)》の呪縛をかけ、自身へと引き寄せる。

フラフラとした足取りでERAの元に寄せられ、悪魔の前でウェンディは朦朧とする意識の中、棒立ちとなる。

 

「コレデヤシロがテニハイッタ。イマカラ、スグニウバッテヤル」

 

そう言うと、ERAはウェンディの着ていた服の首元に手をかけ、勢いよく縦に引き裂く。破れ行く自分の服すら、今のウェンディには関係なかった。

どれほどの羞恥を感じさせられようと、今の彼女には何も感じない。ただ、兄を殺したという絶望感が胸のうちに反芻されるだけだった。

小さな身体、その中でも小さな何かがヒラヒラと破れた服から見えかける。ゆっくりと悪魔は自身の右手を振りかぶり、彼女の身体を突き破ろうと前へと突き出した。

 

 

 

――その時、ERAの前からウェンディが消滅した。

 

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

「ここは……どこなんだ…?」

 

真っ白で何もない世界。自分の取り込んだ悪魔と出会う世界も似た感じだが、違っていた。本当に何もない世界。誰もいない世界だった。

 

「…オレ……どうなったんだ……」

 

そう呟くと同時に、目の前に幻影のような何かが見えた。ボヤけていたが、少しずつ鮮明になり、ハッキリと見えるようになった。

そこはギルドのあるマグノリアの街だった。しかし、何処か静かで、厳かな雰囲気に包まれていた。涙ぐむギルドのメンバー。それも天狼島に行けなかった居残りメンバーばかり。

そんな彼らが何か写真のようなものを持っていた。黒い額縁に納められたソレは……見間違える訳がない代物――遺影だった。

戦闘にいたマカオが持っていたのは三代目であるマカロフ。その横で泣いているロメオが持っているのは、ナツとハッピーの遺影。他のメンバーも同様に、エルザやミラ、グレイやジュビア、リサーナやエルフマン、フリードやビックスロー、エバーグリーン、ガジルやレビィ、ルーシィやカナなどといった遺影を持って参列していた。

唯一帰還したらしき、ギルダーツはまだ残っていたはずのもうひとつの腕ではなく、義手で顔を押さえ涙を流している。

その列の最後には涙をポロポロ流し、二つの遺影を持つ人外の少女――フィーリの姿があった。少女の手にはレインとウェンディの遺影。

それを見て……真っ白な世界にいたレインは理解してしまった。

 

――守れなかった。ウェンディも仲間たちも。

 

ただそれがツラいほどに心に響く。悔しいほどに守りきれなかった自分が憎くて仕方がないほどに。もっと何か出来ることはあったのではないかと思えるほどに。

 

「……畜生……、……畜生がぁぁぁ!!!」

 

ただそう叫ぶしかなかった。彼らにも自分にも未来がないと言うことに。恐らくウェンディは身体を奪われたままなのだろう。その事実が一番レインの胸に鎖のついた杭として刺さり混む。怒りが込み上げ、我慢できない。ただひとつ、苦しげに言うしかなかった。

 

「――力が欲しい……。守れるだけの…力が……。誰かを守れるだけの…力が……!!」

 

懇願するその姿。何故かそう懇願するのが、初めてではない気がした。前にもそう叫び、全てをリセットするように、自分ごと破滅させたような気がして仕方がない。

――だが、()()は違っていた。自分を閉じ込めていた殻のような何かにヒビが入る感覚がレインの中で突き抜ける。

ヒビという亀裂がピシッと走り、その割れ目から何か別のものが見えてくる。思い出せなかったことが少しだけ思い出せそうな気がする。

守れなかったという真実に亀裂が入り、守りきれるという自分勝手な自信が込み上げる。自分の中で何かが目を覚まし、咆哮をあげている感覚が全身に行き渡る。

次々と見えない“殻”に亀裂が入り、少しずつ壊れていく。力が込み上げ、まだ終われないと叫ぶ別の自分がいるのかと思うぐらいに。

自分の身体が変化を始めているというのに、レインはそれを知らないまま、ただ吼える。真っ白な世界を貫き、ヒビ割れた先にある大空(せかい)が見えると同時に、ただ……もう一度噛み締めるように呟いた。

 

「オレは……まだ終わっていない。――今度は全てを…守り切る……!!」

 

その言葉に答えたかのように、彼の身体で静まり返っていた心臓は強い鼓動を刻み始める。

失われていた大罪の一つ――求め続ける欲望たる“強欲”が再び眼を覚ましたとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

ERAは困惑した。一瞬のうちに目の前から消えた器という社に。絶対的な支配力を持つ自分の呪法を破って逃げられると思っていなかったからだ。

だが、悪魔は何かの気配を感じ、ゆっくりと振り返った。

 

「!?」

 

背後には死んだはずの少年が立っており、彼の両手には目の前から消えた少女が抱えられていた。殺気とは違う何かを発する彼。その彼の姿はさっきと違っていた。

淡い金髪の髪は白銀色に輝く銀髪へと変わり、血のように紅くなっていた瞳の色は、5つの大きさの円の模様が入り、中心は黒目だったが、その回りの円は交互に銀色と青紫色になっていた。それだけで止まらず、彼の両肩にはドラゴンを模した紋章が二つあり、その色は瞳の中にある銀色と青紫色だった。

 

「……ウェンディが無事で良かった」

 

「あ、れ…? …お兄ちゃん……?」

 

「――ああ、オレだ。安心してくれ」

 

ボロボロだったはずのレインの身体は傷ひとつなく、再びコートを羽織った原初の姿となっていた。さしものERAもあまりのことに驚愕したが、すぐさま攻撃を開始した。

 

「ワレノヤシロをヨコセェェェ!!!」

 

「――ウェンディはお前のものじゃない」

 

呟くと同時に、レインは回し蹴りをERAの脳天めがけて着弾させる。衝撃が悪魔の脳天に貫き、そのまま彼が気絶し、心臓を止めた崖の下の岩山に衝突する。

軽く息を吐き、レインは反論するようにERAに宣言して見せた。

 

「ウェンディはオレのものだ。お前なんかに渡さない」

 

「え………」

 

抱えられたウェンディは突然のことでよくわからなかったが、脳内でレインの言葉を何度も繰り返し、理解すると同時に顔を真っ赤に染め上げた。

湯気が上がりそうなぐらいに紅くなったウェンディ。そんな彼女を見たあと、レインはゆっくりと彼女を下ろし、自分の羽織っていたコートを被せ、彼女にだけ聞こえるように呟いた。

 

「すぐに片付ける。待っててくれ、ウェンディ」

 

その言葉を伝えると同時に、レインの身体は靄のように霞み、その場に小さな旋風だけを残し、自分たちを痛め付けたERAへと殺到する。

ほぼ零距離にまで接近し、すぐさま腰に手を当てると、それを抜き放つ。

 

「天魔零ノ刀剣!!」

 

抜刀された薄紫色の風で創り出された刀剣が空中に軌跡を描きながら、ERAを左腕を糸も容易く両断した。

紫色の鮮血が宙に飛び散るが、それがレインに降りかかるより先に彼は動き、悪魔を軽々と放り投げ、口を大きく開いた。

 

「天魔の激昂!!」

 

放たれたブレスはたちまちERAを呑み込み、大爆発を引き起こす。無惨に両足を吹き飛ばされ、鮮血を散らす最強最悪の悪魔の眼下――天竜の子(レイン)は迫っていた。

 

「キ、キサマァァァァ!!!」

 

強烈な反撃を加えようと身体を何とか捻り、ERAは禍々しい右腕を振りかぶり、それを迫るレインへと放つ。

しかし、その途中で驚かざるを得ないものを見た。関節が外れ、脱臼したはずの左肩を彼は無理やり力任せに戻し、その左手に滅悪魔法の加護を得させ、ERAの右腕と衝突させる。

当然特効効果を持つレインの左手が悪魔の右腕を粉砕し、声にもならない叫びが彼の耳に届く。それを聞き届け、彼は両手を腰に当て、静かに呟いた。

 

「旧き愚かな悪魔へと、悪魔を払いし、魔の法律。汝の叫びを無へと変え、我は罪に等しき天罰を授ける。――滅悪奥義」

 

その時のレインにはゆっくりと時間(とき)が流れていた。喚き叫ぶ悪魔を視界に捉え、ただ少年は無慈悲に、静かな怒りを込めて、その手を振り抜き、放った。

一瞬のうちに5回切り捨て、続いて4回。さらに加えて6回、最後に大きく三度切り裂き、静かに呟いた。

 

天羽々斬(アメノハバキリ) “終焉の息吹”」

 

その言霊が呟かれると同時に、最強最悪と恐れられた絶対なる悪魔、ERAは空中で全てを散らし、霧の如く、蒼穹に消え去った。

 

ただ地面に一人着地し、一人の少年は物寂しそうに小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

「――これでお前たちは自由だ、達者でな、魂たち」

 

 

 

 

 

そう呟くと、少年はユラユラと身体を揺らせ、バタンと倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼレフ書の悪魔、最強最悪の悪魔にして審判者ERA。ここに死す。

 

 

 

 

 

 

 




――ゲスキャラはロクなやられ方をしない。

まさにその通りの最後でした。まあ、レインの失われていた記憶の欠片が再び戻りました。

そんな訳でこんな色々と作者のぶっ飛んだ回でしたが、如何ですか?

こんな駄目な作者の拙作を見てくれる方がいるのなら、感謝感激雨あられです。

――まあ、それはさておきまして。

次回はちょいと戦闘シーンは無いかもです。多分ウェンディとの会話とかで終わりそう。

そんなのでも良かったら読んでくださいな。それでは次回お会いしましょう。

P.S.

レインはチートだって? HAHAHAHA~、何を今更です。半チートなのは何処の小説でも

似たようなものです。別にレインは完璧じゃないですよ? ウェンディが盾にされたら、

ほぼ反撃すら出来ない子ですし。
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