FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹   作:天狼レイン

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どうも皆さん、おはようございます。作者の天狼レインです。

ホント久しぶりですね。一週間と半分でしょうか? 最近忙しかったというのも

ありますが、なんだか書く気力が起きなかったというダメダメっぷりがあったのは言う

までも有りませんでした。ホント謝罪しかないです、なので作者はこのあと夜刀殿に

斬首されてきます。←夜刀殿=『神咒神威神楽』の敵の一人であり、真の主人公天魔・夜刀。

こと切れた私の屍を踏み越えてでも、皆さんは明日を迎えてくださいね。

――などという茶番はさておき。今回は前回の続きです。

と言っても今回。実は作者の私が調子に乗りまして、総計20012文字です(笑)

いや、ホント、これマジな話です。読んでて「うわー長ぇ」ってなります、きっと(笑)

て途中で前編と後編に分けようと思ったんですが、作者のパッシブスキル、『前後編に

分けると絶対に駄文』ってクソスキルが出てたので諦めました。なので、今回は

エンジンフルスロットルってな訳です。まあ、駄文だって思う方もいらっしゃると

思いますが、それでも言い方は読んでくださると嬉しいです。途中で疲れた場合は

栞機能などで途中までセーブして休憩終了後にお読みになってください。

注意はここまでです。それでは小説本編の方をどうぞ!!

P.S.
なんかオリキャラのフィーリが意外と可愛く思えてきてしまうシーンを書いた気がする。

多分私の勘違いだろうと思われるが……。



守りたいと願ったこと

「ただいま~」

 

「ただいま……」

 

「ただいまだ」

 

フィオーレ王国に存在する小さな街、ハーブ。その街に唯一立つ魔導士ギルド《帝王の宝剣(エンペラーブレイド)》。未だ、ギルドとしては中規模に劣るものではあるが、実力ではすでに大規模ギルドと負けず劣らずと言えるほどに強者が集い、互いに腕を磨く。

それが彼らのギルド。設立されたのは1年前だが、それでも彼らはすでに王国の各地方で有名なギルドとして名を馳せている。

その例で言えば、同様に一年前、フィーリが達成して見せた高難易度であるS級クエストをも超える強さを誇った“あの依頼”。

あれと同じ難易度のものを幾度となく達成していることが理由だ。当然それを受けたのはS級魔導士であるが、ここ――《帝王の宝剣》に所属するその位に辿り着きし者は他のS級の者を圧倒するほどであった。

その一人である青年、ラインハルト・エルドレイが率いる一行が先ほどギルドに帰還した。

 

「お帰りッス、ラインハルトさん」

 

「お帰りなさい、ラインハルトさん」

 

「またまた達成して見せたんですよね、ラインハルトさん!!」

 

ギルドがここまで有名となった立役者たる彼の帰還。それを祝福するものはギルドに数多く存在する。先ほど、街中でも彼の帰還を祝福する住人たちの声は彼がギルドの中に入っていくまで止むことはなかった。それほどまでに彼は強く、そして――慕われるのだ。

 

「お、ムラクモ、お帰り~。相変わらず、女の子みたいだよなぁ、お前」

 

「だからそれを言わないでくれ、傷つくから……」

 

「今度女装して潜入系の依頼受けてみる?」

 

「……もうそれ以上は止めてください…ホント……お願いしますから……」

 

同じように帰還を喜んでくれる者たちもいる。ラインハルトと共に依頼に向かい、微力ではあったが、活躍した彼――ムラクモもこのギルドでも人気だ。

未だ、彼の容姿でからかう者もいない訳ではないが、別にそこまで強く気にする必要もない。そんなこのギルドを彼もまた好いている。念のために言うが、彼は男だ。

しかし、コンプレックスである容姿を弄られる度に涙目と弱々しい声になってしまうが……。

 

「シャナちゃん、お帰り」

 

「また容赦なく焼いてきたのか? 相変わらずクールだよなぁ、魔法は情熱的だけど」

 

「……ま、そんなところ。許可なく近づく人が悪い」

 

「辛辣だなぁ、そこが流石だぜ、シャナっち」

 

彼女もギルドの中でも街でも有名で、ここでは隠し事をしない。誰もいない所で彼女はいつもこの暖かさを嬉しげにしているのは内緒である。

かつて迫害を受けた過去を持つシャナにとってここは自らの羽休めの出来る場所の一つだ。本音と建前を使ってきた過去もある彼女にとって自然と身体の力を抜きやすくある。

しかし、本音を隠さないためにほとんどの確率で辛辣な言葉や毒舌を漏らすことがあるのは言うまでもなく、それで何人かは精神的にダメージを負っていたりする。

それでも彼女らしいと言えば、彼女らしいと言えよう。

今帰ってきた三人はこのギルドが誇る宝の一つであり、それぞれが上位の実力者である。

 

そして、この三人が帰ってくる度に元気よく彼らを迎える実物もまた、とてつない実力を持つ人物だ。ラインハルトと同じ白髪にややこしそうな髪飾り。白を中心とした着物に儚げな印象をもたらす少女。

 

 

 

このギルドに二人しかいないS級魔導士の一人。サクヤ・エルドレイ。

 

ラインハルトの義兄妹であり、彼の恋人だ。

 

 

 

奥のカウンターで注文をいくらか受け付けていた彼女は彼らを見つけるや否や、少し急ぎつつ、彼らを出迎えた。

 

「お帰りなさい。兄様(あにさま)、ムラクモ、シャナちゃん」

 

「ああ、ただいま帰った」

 

「ただいま、師匠」

 

「……ただいま、サクヤ」

 

笑顔を隠さず見せたシャナをすかさず抱き締め、嬉しそうに微笑む。そんな彼女に仲間たちは苦笑いと「いつも通りだな」と笑い声を漏らす。抱き締められたシャナは最初は喜んでいたのだが、気がつけば、強く締められているのと変わらなくなってきたために苦しげに声を漏らす。

 

「……サクヤ、苦しい」

 

「ふふ、ごめんなさい、シャナちゃん。ムラクモ、兄様に迷惑はかけてませんね?」

 

「あ、はい、大丈夫です………多分」

 

「分かりました、とりあえず後程で稽古をつけましょう。今度は兄様の足を引っ張らないようにみっちりと」

 

「ちょ…、そ、そういう意味じゃなくてですね、師匠……」

 

「サクヤ、別にムラクモは迷惑などかけてはおらぬ、心配せずともよいのだ」

 

「それなら構いませんわ。――でも(わたくし)は兄様に迷惑かける者は断じて許さない心得なので、そこは肝に銘じておくようにお願いしますね」

 

「……あ、はい…、気を付けます…(危機一髪……あとでラインハルトさんに感謝しておこないと……)」

 

「――ところで、ムラクモ。貴方が背負っているその()はどうしたのですか?」

 

喜ばしそうな顔をしていたサクヤが視線を移し、ムラクモが背負っていた白い長髪の少女を見て訊ねた。漸く気がついた仲間たちが次々と彼の回りに集まり、その少女を見つめる。

綺麗な肌とボロボロになった衣服。何処と無く奴隷や待遇の悪い環境にいた者を思わせる姿に痛々しさを感じつつも、何故か少女の放つ不思議な気配に目を離せない。

それに加えて頭部の長髪に埋もれるようにして飛び出ている尖った狼の耳。尾てい骨の辺りから出ているフサフサの尻尾。何れも汚れていたが、それでも美しさは変わらない。

 

「なんか可愛いな、その娘」

 

「確かに……」

 

「とりあえず、男性陣は一定距離を取りなさいよ。ラインハルトさんと背負ってるムラクモ以外」

 

「そーだ、そーだー。こんな可愛い娘、男性陣が近づいちゃダメでしょ」

 

「なんだよ、それェ!! ラインハルトさんはともかく……ムラクモずりィぞ」

 

「……いや、待てよ……。ああ見えてアイツは女子だろ……」

 

「ああ、成程……。確かに言われてみれば、アイツ本当に男か?」

 

「なんか酷くないかな、みんな!!!」

 

余りの言われようにやけくそ気味に声をあげるムラクモ。その隣では笑うのを我慢もせず、隠そうともしないシャナの姿があり、大笑い寸前といった所で憐れな目を向けてきていた。

 

「………シャナ、君って子は……」

 

「…別に憐れんでないよ? ……ただ、面白いだけ。それもいつも通りで」

 

「………やっぱりこの子容赦ない……」

 

先程まで帰路を共にした彼女に散々な言われ、流石のムラクモも――いや、それ以前に帰ってすぐに散々にからかわれた彼のメンタルはどれほど傷ついていただろうか?――すでに泣きそうになる。もう一度言うが、彼は一応男である。

 

「まあ、とりあえずサクヤ。この者を共に医務室に運んではくれぬか? もちろん、運び終えた後のことは任せたいのだが」

 

「はい、喜んで。私に出来ることでしたら、何でも致す所存ですわ」

 

「ああ。――ところでだが、あのマスター(ロリコン)は何処に消えたのだ?」

 

「マスターのことならお気になさらず。先程私が成敗致しました」

 

「フッ、流石だな、サクヤ。それでこそ我が妹、そして我が愛する人だ」

 

「はい♪」

 

すでに何処か別の世界に飛び立とうとしている二人はさておき。

 

ムラクモと女子メンバーは謎の少女を医務室に運んでいた。若干……否、かなり男性陣からの痛々しい視線を背に受けながら、ムラクモは黙々と自分ができることを進めていく。

外傷らしい外傷もなく、見た限りでは何も異常はない少女。ただ身体は極端に冷えており、手首に何かで締め付けたような跡がうっすらと残っている。

洞窟内部に転がっていたバラバラの骨などに関係あるかは不明だが、身体が冷えるほどに放置されていたのならば、今頃この少女はこの世にいないといえよう。

祿に食事も受けていないはずだ、というのは帰路についている最中にムラクモたちが纏めた結論だ。だからこそ、少し()()()()のである。

 

「(………君は…何者なんだ……? それに…親はいるの……?)」

 

心中で思わず呟いてしまう。何故か憐れみも感じてしまうほどに少女は儚げであった。ラインハルトやサクヤも白髪ではあるが、それでも活気や精気を感じるほどに元気だ。

しかし、この少女からは“生きている”という感じが伝わってこない。“生きた屍”、“壊れた人形”、“動かぬ傀儡”。脳内にそのような言葉の羅列が浮かぶが、すぐさま頭を軽く振って忘れようとした。目を覚ました時にいきなり憐れみの目を向けると刺激してしまうことも当然ある。だからこその配慮でもあるが、それ以上にそんな目で自らも見られたくないからだ。

すると、ムラクモと同じタイミングで医務室に入った仲間の一人――女の者がこちらを眺めた後にからかうようにわざとらしい笑い方をしつつ話しかけてきた。

 

「あれれ~? もしかして……ムラクモ。その子に興味湧いちゃった?」

 

「ち、違うからね!! 僕はただこの子がどうしてあんな所にいたかと考え……」

 

「はいはい、大丈夫、大丈夫~。みんなそうやって言い訳するから隠さなくていいよ~。私から見てもその子、綺麗で可愛いもんね~。容姿は女の子だけどちゃんとムラクモも男の子だし、興味湧いたりするのは分かるから~」

 

「……いや、ホント…そういう(やま)しいことは何にも無いんだけど……」

 

「ホント~? 怪しいなぁ~」

 

「……うん、ホント。何にも変なこと考えてない」

 

「……ホントかなぁ~? 突然この子が飛び起きて、その時にラッキーなこと起きても?」

 

「…なにその未知数……。どんなことしたらそんなラッキーなこと起こるの…? 逆に訊ねるけど……、あっちで「嫉妬してます全開で」って顔の彼らがわざとらしくそれを狙って挑戦してたけど、全部見事に失敗してたよね?」

 

「……あれはただ欲望丸出しのアホばっかだからじゃない?」

 

「なるほど理解……。確かにわざとらし過ぎてバレてたもんね…」

 

などと要らぬ話に花を咲かせる。他の者も当然部屋にいる訳だが、気がつけば全員作業を止め、ムラクモがしている話に食い付いている。

まるで釣り餌にかかった魚だ。何故これほど興味津々なのかが全くと言っていいほど僕にはさっぱりだ。近頃の彼女らはよく分からないと某恋人持ちのS級魔導士が言っていた気がする。それに嫉妬する彼らの姿も見たことがあるような……。

 

「それにしてもムラクモって純粋だよね~。なんだかラインハルトさんを除く男連中のアホたちと違ってなんだかまだ(けが)れてないって感じがするよ」

 

「……そう…かな?」

 

「うんうん。だってこの間、男連中のアホが見てたグラビア雑誌のワードが出た瞬間に顔真っ赤だったもん」

 

「……あれ、見られてたのか…………」

 

治りかけの傷口に再び刃物を突き刺されるような感覚に思わず僕はため息が出た。確かに僕はそういうことには奥手だ。全くもって知らなかったし、年頃の少年らしく気にはなる。

しかし、それ以前に聞いただけでも恥ずかしくなるのはどうしてだろうかと考える日々が続く。滅法弱いというのは自覚しているが何故か克服したいとも思えないし、思いたくない。

不思議と彼らに便乗――否、同類になってはいけないと思うのだ。目指すとならば、やはりラインハルトのような頼れる上司的な雰囲気の者や圧倒的な実力と誰もが認めてくれるような覇気を持っていた銀髪にコートを羽織る英雄になりたい。

 

――などと思うのだが、何故か目の前にいる彼女らは本人がいる前で何やら怪しげなワードが飛び出す会話をしているらしい。「攻め」がどうとか、「受け」がどうとかと僕には分からない領域を何度も巡っているらしく、見ている側とすれば、ラインハルトを除く男連中のアホと変わらぬ位の会話にしか見えない。

途中、何処かで聞いた“どんぐりの背比べ”という言葉や“五十歩百歩”という言葉が脳内に浮かび上がる。恐らくシャナが暇な時間に常時読んでいる東方のことが記された本に書かれている言葉の分類だと思うが、多分間違いないだろうと踏んでおこう。

 

「(………はぁ……どうして僕の回りにはマトモな人がこんなにも少ないのかな……。…ラインハルトさんも仕事中はスゴくカッコいいのに……)」

 

視線をずらし、医務室の外を見てみれば、何故か未だにイチャイチャしている彼らの姿が見えた。彼も何故かギルドに帰った時や僕の師匠である彼女といる時だけはあんな風になってしまう――否、不完全だからこそ人間なのだろう。

だからこそ、輝く。そう思えるこの頃。しかし、流石にギルドの常識人の割合が酷い有り様についてはどうにかしてほしい限りだ。変人が9割を占める所か、マトモだった者も変人に変えている気がする。事実、僕の目の前にいて、会話を持ちかけてきた人物も二週間前までは普通だった人の一人だ。今ではすっかり染まってしまっている。無論、そちらの色にだ。

などと諦めるしかないことをグチグチと脳内で思っているとベッドに寝かせた“あの少女”の口から音が漏れた。

 

「…………ゃ………」

 

「っ!?」

 

思わず振り返る。か細く弱々しい声。それでも音が漏れた。つまり、目が覚めようとしている。目が覚めたのなら聞きたいことが聞けるはずだ。耳をすまし、少女の声を捕らえようと意識を集中させる。

 

「……なきゃ………」

 

「……なきゃ…? …なんのことだろう……?」

 

「さ、さぁ…?」

 

聞こえた言葉に関連性のあることがないか彼女たちにも訊ねる。しかし、返答に期待は出来ない。まだそれだけでは分からないからだ。

すると、声が強くなり、ハッキリと少女は口にした。()()()()()()を。

 

()()()()()……()()()()()()

 

「っ!? みんな、伏せてッ!!!」

 

突然感じた狂気の魔力に我知らず叫んでいた。近くにいた彼女たちは速やかにそれに従った。その刹那、ベッドがグシャリとひしゃげ、同時に医務室の天井が吹っ飛んだ。

瓦礫が落ちてくるが、すぐに自らの魔法で切り刻み破壊する。生憎ギルドの構想上、医務室はギルドの中ではなく、玄関のように少し建物の外に出ていたために対して崩れていない。

しかし、それでも瓦礫はかなりのものだった。

 

漸く天井の崩落が終わり、顔をあげるとひしゃげたベッドの上に少女は立っていた。光が全く無かった瞳の中心には血のように真っ赤な輝きが放たれており、白い長髪は怒髪天のように翻され、逆立っていた。

男であるムラクモが入る前に着替えさせていたのか、少女の服装は患者などが着るものだったが、それの一部は先程の瓦礫で切り込みが入り、破れていた。

破れた箇所から見えた柔肌には微かに切り傷が見えたが、それも一瞬のうちに消滅する。血は流れていたが、何ともないと言わんばかりだ。

すると、少女はこちらを向いて小さく呟いた。

 

「……知らない人……、…それでも…奪われる前に……壊して…私が見守らなきゃ……」

 

それを呟くや否やムラクモの胴に鋭い鉄拳が突き刺さる。肺の中の空気が無理矢理吐き出さされるような感覚と視界が真っ赤に染まる感覚に吐き気が込み上げた。

 

「がはっ……」

 

「………生きた証…魂…記憶……。…私が見守るから…頂戴…? ……大人しくしてたら…楽になれるから………」

 

狂っている。反射的に感じた。背後にいる彼女たちもあまりのことに血の気が引き、真っ青だ。恐らく足腰がしっかりしなくなっているだろう。動こうにも動けないと後で口にするはずだ。そうなったら、どうしようもない。

口から垂れる血を他人事のように無視し、胴に突き刺さった鉄拳をゆっくりと引き抜く。かなりの力だが、それでもまだなんとか押し返せる程度だ。

 

「なに…するんだ……。…僕たちは君に敵意はないから……」

 

「……? …敵意? …私は知らない…、ただ奪われないように先に壊すだけ……」

 

鋭く突き刺さった鉄拳とは違う、もう一方の手が今度はムラクモの顔面を狙っていた。何とか間一髪避け、反射的に手加減した蹴りを少女に見舞う。

 

「……大人しく…したらいいのに……またぐちゃぐちゃにしなきゃ…いけなくなる」

 

「…まさか……あれは闇ギルドがしたんじゃなくて………――っ!?」

 

鋭い鉄拳が再び襲来する。

 

「……抵抗するのに……余所見って……余裕だね…? …そんなに私を簡単に殺せるの……?」

 

「(……この子に何があったんだ………)」

 

なんとか鉄拳を受け止める。肉薄する状況下、背後にいる仲間がどうしても気になってしまうが、致し方ないことだと自分に言い聞かせ、脳裏から外す。

 

まずは目の前のこの子をどうにかしないと……。

 

そう思った矢先、少女の口元から微かに炎が見えた。それが脳裏で警告音となり、一瞬の判断で少女から飛び退く。

飛び退いたと同時に少女の口からは真っ赤な炎が焼き放たれた。まるで獄炎。そう思わせるような勢いで業火が放たれている。床として使用していた木々はすでに炭化し、面影すらない。「へぇ」と言わんばかりの顔を見せ、続いて少女は手を軽く振り、雷球をいくつも作り出した。それ一つ一つがとてつもない魔力。恐らく当たれば気絶は避けられない。

 

「震え(おのの)灰塵(かいじん)と化せ……“雷狼の雷閃(スパーク)”」

 

目の前すれすれを雷球がいくつも通り抜けた。連なって動く雷球にムラクモも魔法で反撃せざるを得なかった。咄嗟に目の前に作り出した刃でその雷球一つを切り刻んだ。

しかし、切り刻んだ刃自体も恐ろしいことに一瞬で炭化し、灰に成り果てる。とんでもない火力だ。恐らく人が触れれば一瞬で消し炭だろう。

消し炭という言葉が出た途端に脳裏に毒舌少女であるシャナが浮かんだが、すぐに追い出す。今それを考えるほどの余力はない。

 

「…仕方ない。一度気絶させて捕縛してからにしないとっ!!」

 

目の前に大量の刃を作り出し、それを同時に放つ。流石に大怪我を負う気がしたが、それぐらいじゃないと大暴れされそうな気がしてしまった。

しかし、少女は大きく息を吸うと少しの間を置いてから叫んだ。

 

「我が前にて万物は冷静にあらず、ただ躍り狂え……“月狼の咆哮(ハウル)”……!!!」

 

まるで高音質の金属音を響かせたような耳をつーんとさせる絶叫にムラクモは反射的に耳を押さえた。背後でバタバタと倒れる音が聞こえ、瞬時にこの魔法が何なのかを悟った。

 

「(……精神に異常を来させて気絶などを起こす状態異常系の魔法っ……)」

 

耳を押さえている内に目の前の少女は軽々と飛来した刃たちを一蹴する。意図も容易く粉砕された刃。まるで傲慢(プライド)を砕かれたような気分になったが、それを気にするより先に少女が両手をこちらに向けて何かを呟いていた。――しかし、先程の絶叫で耳が上手く機能しない。視界が微かに歪んだ瞬時に少女の手から暴風が放たれる。

 

「埋め尽くさんと疾風は哭く、ただ犠牲(にえ)を喰らえ……“天狼の暴風(テンペスト)”」

 

視界が一瞬で暴風によって埋め尽くされる。避けようがないそれにムラクモは走馬灯を見始めた。ゆっくりと、ゆっくりと強烈な風の猛攻が迫り狂う。

 

「……間にあわないっ……!!」

 

自らの実力不足と判断力のなさで悔しさが込み上げた刹那――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ、まだ間に合うぞ、卿」

 

――聞き覚えのある声が暴風を意図も容易く葬り去った。と同時に少女の足元目掛けて焔の柱が聳え立つ。すぐに回避されたが、連続での攻撃を防ぐことに成功する。

 

「……やっぱりめんどくさそう…」

 

「そう言うな、卿。これも一興、良き催しというものだ」

 

ムラクモの前に現れたのは白髪の青年であるラインハルト。灼眼に灼髪の少女シャナだ。何故かシャナは髪が少し乱れているが、眠っていたのだろうか。

 

「…ムラクモ……相変わらずだね」

 

「……ごめん」

 

「まあよい。被害が出たのは天井程度。まだ幾分かマシというものだ。この程度ならロリコンの懐から出させれば済む」

 

「――いやいや、辛辣じゃないですか、ラインハルトさん。なんだかギルドに帰ってきてからそればっかりじゃないですか…?」

 

「……気にしない方が良い。――それはともかく、何故こうなったのか説明を求める」

 

「……分かりません、ただ何か……“奪われたくないから壊す”と言ってました」

 

ゆっくりと息を整え、再び構える。それを聞き、ラインハルトは微かに笑うと、補助的に使用する“換装”で自らの愛槍たる“神殺し 運命の神槍(ロンギヌス・ミストルテイン)”を目の前に出し、握ると同時に構えた。

同時にシャナも腰に差した鞘から同種の“神殺し 煉獄の神刀(ムスペルヘイム・ミストルテイン)”を抜刀し、自らの使用する魔法である《灼刃煉獄(フレイムヘイズ)》の焔を纏わせ、構える。

 

「まあ、とにかく捕縛すれば良かろう。あとで抗おうともサクヤの前で無礼な態度など取れまい。取ればすぐに愛でられるのがオチというものだ」

 

「…あれは酷い……私も結構心にきた……怒らせたくない相手の一人……」

 

「……それ初耳だけどシャナ……そんなに師匠のって……」

 

「…うん、酷い……。…正直放ってほしいと思うくらいに…ベッタリ…。…私は結構遊ばれた……」

 

「フッ、光栄ではないか? 我が愛しきサクヤに愛されるなど」

 

「…嬉しい時期もあるけど、正直鬱陶しい時もある」

 

「…ならば、戦争だ。あとで卿には一片の慈悲もなく鉄槌を下そう」

 

「…上等。…あとでラインハルトの長い鼻を折るから」

 

「とりあえず……二人とも。前見てください…ホント」

 

敵と交える前に臨戦状態もとい宣戦布告を告げる二人に呆れつつ、ムラクモは接近してくる少女のことを知らせた。

大きく口を開け、少女からは鋭く尖った犬歯が見える。喉の奥の方が再び真っ赤に染まるのを確認してムラクモは叫び知らせた。

 

「炎のブレス、来ます!!」

 

「散開!!」

 

ラインハルトの号令と共に左右に飛び散る。先程までいた場所が業火に焼かれ、焦げ臭さを鼻に届かせた。やはりどう見ても火力が可笑しい。

 

「(どれくらいの実力者かは分からないけど、魔力が全然減ってない上にこの火力……。…あれ? 何処かで似た現象を見たような……)」

 

「“白神の法律(ロウ)”!!」

 

神槍を地面に突き立て、そこを中心に一気にラインハルトの魔力による波動を拡散させる。広がっていく光の高周波はたちまち触れるものにダメージを与えていく。

それを先に予想していたムラクモとシャナはすぐさま回避し、難を逃れる。だが、しょうもまた自らの両手を合わせ、一気に魔力を放つ。

 

「永劫の輝きに呑まれ焼かれよ……“白狼の栄光(グローリー)”」

 

同じ光の魔法。白き光と黒き光が衝突し、相殺される。流石のラインハルトも予想していなかったのか、驚くがすぐに立て直す。続いて神槍を降り下ろすが、少女は難なく避け、彼の胴に見た目からは予想できない重い蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐっ……!!」

 

「……強い人……魂……輝いてる……守らなきゃ……壊して……守らなきゃ…」

 

「――……壊れてるの貴方だと思う」

 

ラインハルトの背後からシャナは黒い焔を立ち上げさせ、それを少女に襲来させる。いつにも険しく、冷酷な顔で告げるシャナの形相は記憶にある限りでは見たことがない。

だが、少女はその黒い焔さえも容易に躱し、さらに自分の足元を一瞬で氷結させる。

 

「……永久不変に壊せ凍え、“氷狼の冥氷(ブリザード)”」

 

パキパキという不規則な音を鳴らしながら氷結していく地面。触れれば即座に凍らされると思われる“それ(冥氷)”にシャナは真正面から焔を叩き込む。

 

絶対に凍り付かせようとする冥氷と――

 

――絶対に消えず滅びず呑み込むことすら許さぬ獄炎が衝突する。

 

互いに相殺されつつも、互いに譲らない。獄炎は冥氷を呑み込み――冥氷もまた獄炎を焔など届かぬ極寒に閉じ込めようと猛威を奮う。

しかし、シャナが次第に押さえれていく。流石のシャナと言えど、魔力に限りはある。だが、あの少女は時間が立とうがお構い無く魔力が格段に上昇し続ける。

さらに魔法単体に注ぎ込む魔力量さえ、異常な範囲へと移っていく。本来なら人体に危険が及ぶだろうほどに。

 

「……っ!!!」

 

「シャナっ!!!」

 

彼女の身を心配しながら即座にムラクモは刃を少女へと殺到させる。飛来する刃に気がついたのか、少女は一旦下がると同時に刃を先程同様に意図も容易く破砕させる。

 

「……ありがと。――でも、さっきのは牽制するんじゃなくて攻めるべき」

 

「はは、ごめん。でも目の前で失う方が嫌だから」

 

態勢を立て直したシャナが立ち上がり、少し呼吸を落ち着かせつつ、少女を警戒する。先程の確認――手合わせの感覚で挑んでみたが、やはり油断は出来ない。

かなりの強者、そうラインハルトですら判断していると思われる横顔を見せた。あの華奢な身体の何処からあんな魔力が漏れだしているのかが不思議だが、それを意識する前に少女が畳み掛けてきた。

 

「……パパ…返して………」

 

「っ!?」

 

虚ろな眼で少女はその言葉を呟きながらムラクモに襲来した。その言葉のせいか、圧倒的な少女の速さのせいか。ムラクモは咄嗟に回避しようとするが、少女の蹴りが脇腹を見事に打ち据えた。衝撃が突き抜け、口の中に微かに血の味が滲む。

 

「がっ……!!」

 

「……弱い……けど…愛しい……壊して……あげなきゃ……奪われないように……壊して…」

 

「――そうはさせん!! ハァッ!!」

 

神槍で少女を突き刺さんとするかのような勢いで突く。しかし、その神槍が少女に当たることはなく、ただがら空きになった胴が少女の思う存分に叩き込める状態と化す。

だが、それをラインハルトは狙っていた。迫り来る拳を咄嗟に神槍を手放し、すぐさま左手でその拳を受け止める。

 

「っ!?」

 

「漸く捕らえたぞ。卿には返さねばなるまい利子があるからな」

 

金色の瞳が開き、軌跡を描くかのように鋭く少女を睨み付けると共に掴んだ左手で投げ飛ばした。見事に宙に浮かぶ少女。その隙を見逃さず、シャナがすかさず焔を襲来させた。

 

回避不可能、迎撃不可能。そう思われた一撃。だが、少女は予想だにしていない行動を取った。空気の層でしかない宙を()()()

ただそれだけでありながら何とも予想しづらい行動で一気に態勢を立て直すと同時に口から獄炎を吐いた。

衝突する業火。互いに衝突し合うが、流石にシャナの焔が押し切る。しかし、少女に殺到するが、その前で魔法自体が弱り、消滅する。

 

「……足りなかった…」

 

「いや、先程のは有効と見た。もう一度あれで攻めこむぞ、卿ら」

 

「はい!!」

 

「……了解」

 

今度こそ当てる。その勢いで再び攻めこむ。先程と違い、ムラクモが先制攻撃を仕掛けるのではなく、次は威力、多彩さで優れるシャナの焔が少女へに先陣を切る。

 

「……舞え、焔たち」

 

鞭のようにしなりながら焔が少女へと向かっていく。これも同様に少女は難なく獄炎で相殺させながら、自らに迫ろうとしていたラインハルトを視界に入れると共に彼に攻撃を仕掛ける。

 

「……そろそろ…壊れて……!!」

 

「それには頷けぬ…なッ!!!」

 

少女の拳をラインハルトは自らの神槍で受け止める。しかし、衝撃が身体に突き抜け、少し手元に僅かな揺らぎが生じた。

その隙を見逃さず、攻め入ろうとする少女。それを待っていたかのようにラインハルトは神槍を再び手放し、換装で消滅させる。そして――

 

「今だ、卿!!」

 

「――“超重力加速砲(レールガン)”!!!」

 

かなりの至近距離で刃を続いて精製し、それを容赦なく叩き込もうと照準を定めた。だが、その刹那、ムラクモの視界に驚くべきものが目に入った。

 

「っ!?」

 

大きく照準が狂い、少女の真横に圧縮された刃の弾丸が放たれる。絶対に狂わないはずの攻撃に驚愕するラインハルトとシャナ。二人はすぐにムラクモと共に距離を取ると、彼に訊ねる。

 

「……なんで外れたの…?」

 

「卿、何を見たのだ?」

 

警戒しつつ、訊ねる彼にムラクモはあり得ないものを見たような声で告げた。

 

「――涙が……見えました。あの子は泣いてました……」

 

「…っ!?」

 

「…なんだと…?」

 

あり得ない。そう言わんばかりの表情を浮かべ、向こうで動きを止めた少女に目を凝らす。すると、確かに少女の目尻からは一筋の滴が溢れていた。

虚ろで光が宿っていなかったその瞳には微かに光が戻っているのが伺えた。

 

「………私は…何を…してたの……? …涙……なんで……私…泣いてる…の…? ……私……私……なんで……あんな…こと……しちゃったの……?」

 

震えた両手をあり得なさそうに見つめる少女。距離を開けていたムラクモたちから見ても分かるほどに少女の雰囲気も魔力の昂りも全く似てもいない姿。

まるで人が変わってしまったかのように。それがしっくり来るほどに少女は何かが違っていた。すると、突然両手を大きく震わせ、少女はこちらにもはっきりと伝わる声で叫んだ。

 

「…ぁ……ぁぁ……ぁぁ……私…人を……たくさん……殺し……ぁあ……ああ……あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”……!!!」

 

両手で顔を覆い、泣き叫びながら少女は天に向かって咆哮する。両手を顔から外す頃には潤ませた瞳がそこにはあり、逆立っていた白い長髪も元通りになり、血のように赤かった瞳も元の優しげな瞳へと変わっていた。

――だが

 

「……ぁ…あがっ……いやぁ……もう……殺したく…ないよぉ……いやぁ…そんなこと…ないっ……やめて……私は……もう……殺したくなんか…ないのに……頭が……割れる……ぁぁ……あ”あ”あ”あ”あ”あ”……ぁ………? ……………壊さなきゃ、ダメだよね……。……あはは……はは……っ!? …いや……壊さない…壊したくなんか……ないもん……私は…私……今の私が…ホントの私なんだ……パパや…ママ…お姉ちゃんが大好きな私が……ホントの……」

 

突如と意味深長なことを叫び、何かに必死で抗うような姿を見せる少女。しかし、すぐに先程と同じ黒い魔力と殺人衝動にでも駆られた口調に変わる。

フラフラと覚束ない足元がしっかりすると共に再び血のように真っ赤な瞳をこちらに向けた。それと同時にフワリと逆立つ長髪は怪しげな雰囲気を醸し出した。

それでもなお、少女は何かに抗っている。片方の瞳が血のように赤く輝き続ける中で、もう一人の自分が抗う。ただ自分を失いたくないために。

みすぼらしいほどの自分を見捨てず、暖かく見守ってくれた彼らを裏切らないために。

 

「…殺したくない……? さっきまでと何かが…違っていたあの子は……誰なんだ………」

 

疑問が渦巻き、頭が混乱する。どちらが本当の彼女なのかと追考が途絶えない。だが、混乱するムラクモの背後で彼らはハッキリと告げた。

 

「……ラインハルト、私決めた」

 

「……ああ、私も同じ考えだ。――あの者をここで()()する」

 

――え? なんて言ったんですか、ラインハルトさん?

 

ムラクモはその言葉が耳に届くと共に驚愕と疑念が浮かんだ。だが、彼はハッキリとそう告げていた。どう聞き間違えても彼はハッキリと言った。

処理する。それはつまり――殺す。彼はそうハッキリと告げたのだ。それに加え、シャナも同じ意見だと言った。――どうして?

 

「なんで殺すんですか、ラインハルトさん!!」

 

「……………」

 

咄嗟に頭に血が昇った。そう言っても過言ではないかもしれないが、ムラクモはラインハルトの胸ぐらを掴んでいた。何故そこまでしたのかは分からない。だが、無意識に掴んでいた。

 

「なんでそこまでするんですか!! 捕縛するという手段があるじゃないですか!!」

 

「……諦めよ、卿。あれでは正気を取り戻せはしない。取り戻したとしても罪悪感で心が病むだろう。そうなれば、何れ自らを滅ぼす。あの少女には終わりしか残ってはおらぬのだ」

 

「……なんで……そう…言い切ってしまうんですか……」

 

震える手でムラクモは彼の胸ぐらを掴み続ける。確かに彼の言う通りだ。もし助けれられたとしてもあの子は罪悪感で自らを責め続け、何れ死を選んでしまうかもしれない。

その確率がかなりの割合を占めているだろう。少女自らが先程何かを呟いていたように自らが起こした罪の重さで立ち直れはしないだろう。

――だが、ムラクモにはどうしてもあの少女を殺したくなかった。何処か自分の境遇と似ていたものを感じたのかもしれない。

しかし、それは自己投影による罪滅ぼしのようなものと然程の変わりはない。ただ、ただムラクモは思った。

 

――ここで失わせていいほど軽い命でも重い命でもないと。まだ終わる必要のない命だと。

 

だから、彼はラインハルトたちの前に立ち塞がった。

 

「っ!?」

 

「……卿、何の冗談だ?」

 

「……冗談のつもりはないです。ただ僕は貴方に従えない、ただそれだけです」

 

自らの回りに刃を展開し、それを仲間であるはずのラインハルトたちに向ける。どうしても納得できない――なら、それを訴え、想いを知ってもらうことだって必要だ。

大切なものを未だ失ったことがない彼に分からないことを。失ったことがあるムラクモ()が伝える。それの何が悪い、守りたいなら守ればいい。

守りたいと願うことになんの罪がある。何の咎がある。

 

「ラインハルトさん、貴方だってそういったはずです。守りたいと願うことに罪はない。始めた会ったあの日、そう言ったのを僕は覚えています。――だから、僕は僕の責任として、僕が守りたいと思ったこの気持ちを守らせていただきます。あの子をここで終わらせるなら、僕ごと殺してもらって構いません。仲間を守るためなら、どんなことでもする。それも貴方の言葉だから……」

 

展開された刃を一斉に彼へと放つ。それぞれの属性を帯びた“それ”は彼を違わず狙い降り落ちる。――九重桜。“雨”であり、“桜”。それが今の僕の気持ちの結晶、塊だと証明するために。

飛来した刃を見て、彼は呆れたが、次の瞬間には笑っていた。神槍を振り払い、飛来した刃の3割を消滅させると同時に自らの魔法を伝わせ、それの威力を余さず叩き込む。

粉砕される刃たち。それを幻想的に眺めながら彼は笑いたくなった衝動を押さえず、笑いながら彼の気持ちに対して答えた。

 

「フフ……ハハハハハハハッ!!! 良い、良いぞ、ああ、良かろう!! ならば卿ごと私は破壊(あい)するまでだ。我が愛は単純に愛することだけにあらず。我が愛は破壊をも愛する。我が愛は破壊と表裏一体にあり。卿を(ころ)すことすら愛である!!」

 

黒き閃光を神槍に伝わせ、彼は高々に笑う。狂喜のように。それも彼だ。人は皆、光があれば、影もある。光があるから影があり、影があるから光もある。

それでこそ、人。それだからこそ、人である。両者あっての拮抗であり、存続である。強すぎる光の前に影は無いのと同じで、暗すぎる影に光はない。

表裏一体、一心同体、それでこその光陰だ。陰陽もそれと同じ、陰ることと輝くことは原型として変わらぬ。人の中に渦巻く光が大きく出るか、影が大きく出るか。

それで人の性格も性分も決まる。誰が闇が悪いと定めた? 誰が光が良いと定めた?

そんなもの――

 

「ああ、糞喰らえだよ。そんなものは端から存在せぬ。否、存在するなら消えてしまえ。ハッキリ言えば、私もあの者と同じものを抱いていた時期がある。――それでこそ否だ。今も昔も私は変わらぬ。破壊することへの愛は消えてはおらぬ。ならば、だ。久しく忘れていたこの感情――破壊への愛を思い出させてくれた卿に感謝として伝えようではないか。

我が愛は愛することと破壊、それ即ち、殺すことも愛である!! その身にしかと焼き付けよ。我が愛を!!」

 

もはや誰と戦っていたのかを忘れるほどに彼は自らの中で湧き上がる狂喜に贄を与えようとする。いつになく彼は本気だ。しっかりと開かれた金色の瞳が物語っている。

冷や汗が頬を伝う。しかし、本気だったのはシャナも同様だった。

ゆっくりと焔を自身の回りに立ち上げ、自らが感じたことを素直に吐露する。

 

「……別に私は殺さなくてもいいよ。後片付けが面倒だから。――でも素直な気持ちとして言えば、このギルド、意外に気に入ってる。だから壊されたくない。……だからね、私も貴方が言うように守りたいよ…。裏切りなんてどうでもいい。――ただ貴方が敵なら消化不良にもならないし、……楽しくなれる。敵なら敵。私も貴方の敵、単純で明快……簡単な答え。

……だから私も貴方ごと焼き滅ぼすね。――私の背負うギルドの形と共に貴方を討つために」

 

鋭く輝く灼眼をムラクモに晒し、狂喜ではない別の感情を胸にする。ただ守りたい形が少し違うから。それだけの理由、でもそれだけじゃない理由。それを胸に少年と彼らは対立する。

どう考えても勝ち目は少年にない。それでもいい。伝えたい何かが伝えられるなら――

 

 

 

だが、その瞬間に少年の視界が歪み、一気に暗闇に沈んだ。突然味わった血の味に驚愕して。

 

「……そ…んな…………」

 

倒れ伏す少年の視界には驚愕する彼らが映っていた。誰やったのかは大体検討がついてしまった気がする。それでも何故か不思議な感覚だった。

この程度の怪我で死ねるような気がしなかったからだ。ただ後ろで自らと戦っていたような少女の気配が自らに近づいていた。

優しい自らに戻れた少女が「自分のために命を張らなくていい」と言っているような……そんな痛みと共にムラクモの意識は闇夜のような暗闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

 

「……………ぁ……」

 

空気に匂いがある。そんな感想を抱きながら少年は目を覚ました。瞳に届いた光が眩しくて驚き、咄嗟に目を瞑った。それでも慣れてくると自然と目蓋が動き、視界がハッキリとする。

ギルドを囲うように植えられている木々に住む鳥の鳴き声が聞こえる。しかし、変な感じだ。やけに身体は重い。指を動かそうにも上手く動かない。意識がハッキリとすると共にそれを強く意識する。別に指先がない訳じゃない。それに加え、大きな怪我を負った訳じゃない。

ならば、どうして身体が動かないのだろう。指先が動かないのだろう。――などと考えていると、視界の中にある少女が映った。白い着物に複雑な髪飾り。白い長髪に儚げな雰囲気を放つその姿は――

 

「……やっと起きましたか、ムラクモ」

 

――師匠だった。

 

「………あ…れ? …師匠…?」

 

「……どうやらあんまり頭は打っていないようですね…。兄様が少し心配そうにいうものでしたから、てっきり洗脳でも受けていたのかと思いましたわ」

 

「………?」

 

首を傾げてみる。これは動いた。すると、指先を動かせなかったことを感じたのか、サクヤは簡単には答えた。

 

「少しの間、動きを完全に止めさせてもらいました。……まだ軽い罰だと思ってください、本当なら私が完全に許すまで何も出来ないように縛るつもりだったのですから……」

 

――何それ怖い。

 

反射的に自分ではなく脳が思った。確かに師匠である彼女は様々な魔法を使える。その中で呪縛のような魔法があるのも知っている。それの威力も。

それを彼女は行使しようとも考えていたのだ。怖いと思って当然だろう。聞く所によると彼女の呪縛の類いの魔法は中級階級らしく、酷い魔法――つまり、上級の呪縛のような魔法には呪い殺すものもあるらしい。何ともえげつない魔法である。

――などと考えていると指先が動くようになっていた。サクヤがため息をつきながら解除したのだろう。視界の外で呆れる声が聞こえた。

 

「……まったく、兄様の変な癖を呼び覚ましてしまったようですね、ムラクモ」

 

――変な癖?

 

なんのことだがわからない。だが、すぐにその答えが脳裏に浮かんだ。

 

――我が愛は愛することと破壊、それ即ち、破壊することも愛である!!

 

彼は破壊――殺すことさえも愛だと告げた。それが彼の中で眠っていた癖。シャナの言い方で言えば、強い渇望の類い。これを呼び覚ました、そう師匠である彼女は言ったのだ。

 

「……本当に…すみません……」

 

「……反省しているようなら構いません。でも一つほど忠告をさせてもらいます。兄様からもう一つの破壊(あい)を受けた場合、生き残れる可能性はゼロに等しい。それだけは理解していてください。貴方は私の弟子、それもお忘れずにお願いしますわ」

 

スタスタという足音を立て、サクヤは消えた。よく見渡せば、ここはハーブの街にある自分の家だ。ギルドからかなりの近い場所にある実家だ。

記憶通りなら医務室は壊れた。だからここなのだろう。ふとそう考えながら、漸く自由になった身体を起き上がらせる。起き上がったと同時に見えたカレンダーは記憶にある日にちとは一週間ほど離れていた。

つまり、一週間も眠っていたことになる。そんな大怪我を負っていたのだろうかと考え込むが、あまりそこまでの怪我を負ったような気はしない。寧ろ、普通に朝起きたような感覚だ。

――などと考えていた最中、両足に感じた重みと仄かな暖かさ、それとなんだか柔らかな弾力のような何かにも気がついた。視線を下にずらし、その正体を見る。

 

そこにいたのは現在10歳の自分と然程変わらない少女。咄嗟にその少女を見て首を傾げた。ギルドにこんな可愛い子がいただろうか……。

別に今所属している彼女らが可愛くないとは言わない。しかし、今までそういうのに鈍いと自らでも実感している自分が可愛いと反射的に思ったこの少女に見覚えはなかった。

――いや、見覚えはある。だが、一週間経っている現在で記憶通りならもういないはずの存在だ。あのあと、わざと攻撃し、自分を眠らせた少女ならば、今頃はもうラインハルトたちによって……。

 

「……ん~………」

 

さらに深く考え込もうとしたムラクモ思考を掻き乱すような可愛らしい寝言が耳に届いた。まるで小さな動物――強いていうならば、犬や猫、リスのような謎生物辺りの動物のようなそんな生き物が出す寝言だ。そんな可愛らしい寝言を出した発信源を探してみると、やはりこの少女だ。綺麗な白い長髪から除く尖った耳がピクピクと動いている。少女の腰辺りからだろうか――その辺りから出ているフサフサの毛並みの尻尾がブンブンと千切れんばかりに振られている。もはや振りすぎだろうと思うほどに。

 

「……~♪ ……バパ……いっぱい…遊んで……いっぱい…遊んで………。…ママも……一緒……お姉ちゃんも……いっぱい…遊んで………」

 

嬉しそうな表情を浮かべ、少女は満足げに微笑む。夢を見ているのだろう。楽しかった夢、嬉しかった夢、暖かい日々の夢。そんな夢を見ているのだろうと思われた。

だからこそ、こんなに嬉しそうに尻尾が振られているのだろう。

――などと思考がさらにずれていく。少しの間、微笑ましく思える少女の寝顔を堪能してしまった後、漸く我に返り、ムラクモはまた思考を巡らせて現状を整理しようとした最中、両足の上で眠っていた少女は「…んん~……」という声と共に起きた。

 

――やはり、あの時の少女だ。ラインハルトたちと正面切る原因、理由となった少女。洞窟の中で倒れていた少女。暴走した少女。我に返り、泣いていた少女だ。

 

その少女は軽く人の両足の上で伸びをすると、大きな欠伸を溢し、目元を拭った。ふるふると頭を左右に振る。何度か頭を振り続け、漸く意識がハッキリしたのか、自分を見ている存在に気がつくと、そちらに顔を向けたのだが、ムラクモは不思議と視界に入ったフサフサの尻尾の方に目が行ってしまった。

 

すると、それに気がつくや否や、少女はガシッと両手でムラクモの顔を押さえると、無理矢理自分の方を向かせようと強引に動かす。途中で抗ってはいけないと判断し、素直にそっちに向くと、漸く少女が待っていたかのように口を開いた。

 

「……起きたんだ、おはよ」

 

「……あ、うん、おはよ……って違うから!!」

 

「……あ、“こんにちは”の間違いだったね」

 

「そうそう、こんにち……ってそれも違うから!!」

 

「………?」

 

首をかしげ、「はてなんのこと?」と言わんばかりにする少女に呆れそうになる寸前でなんとか踏み止まるとムラクモは少女に聞きたかったことを聞こうと口を開いた。

 

「君は誰な……」

 

「……お腹空いてないの…? 今なら作るよ…?」

 

意図も容易く攻撃を弾くかのようにムラクモの言葉は遮られた。それもかなりどうでも良さげなことで。だが、それを言われると同時に腹が鳴る。

 

「……………」

 

「……あと3秒で締め切るよ? 3……2……1…」

 

「…お願いします……お腹空きました」

 

謎のカウントダウンで急かす少女にお腹が鳴り、そろそろ何か食べたいと感じてしまったムラクモは懇願するような気持ちで素直にお願いした。

 

何故聞く側だったはずの自分がこの少女の手のひらの上で簡単に踊らされていたのかは分からなかった。ただ思ったのは反論や反抗をしようにも自らの身体の方がずっと素直で冷静だったということだった。

 

 

 

 

 

 

軽い昼食を済ませ、ムラクモはもう一度ベッドで休息を取っていた。正直先程の料理が軽い昼食だということにはかなりビックリした。普通の人が腕にのりをかけて作ったと言わんばかりの料理の数々。それも全て怪我などに効果があるものばかり。

今更ながら、驚愕せざるを得なかった。どういう料理の教わり方をすれば、ああなるのだろうか? などと考えていると、がちゃりというドアが開く音と共にその少女が現れる。

その姿は先ほどまで着ていた街の住人と同じ簡易なもの。それにエプロンが付け加わっただけの格好だった。その姿のまま、少女はこちらによると、口を開いた。

 

「……ありがと」

 

「……え?」

 

なんで感謝されたのか、分からなかった。しかし、すぐに理解する。もしかして、庇ったことと酷似したあれのことだろうか……。

 

「……うん、そのこと」

 

ムラクモが考えていたことが見透かされていたかのように少女はそう告げると、言葉を続けた。

 

「……少し不思議だった。…人間はみんな酷い人……そう思ってたのに貴方は少し違ってた。不思議と懐かしい気もした。…初対面だけど」

 

微かに少女の表情には笑みが宿っていた。まるであの暴走っぷりが嘘のように。すると、がちゃんという音が近くから聞こえ、その音の正体に目を向けた。

少女の手首には鎖はついていなかったものの、魔封石で出来た手錠がついていた。それが音の正体。それに気がついたのが分かったのか、少女はそれについても答えた。

 

「…一応暴れてもいいように…だって。…正直な所、暴れるつもりないよ? …まあ、つけられても仕方のないことしたんだと思う…」

 

「それって……あの…ワース樹海でのあのこと…?」

 

思わず出た言葉。出してからすぐに謝ろうと口を開こうとした途端、少女は首を左右に振り、「間違ってないよ」と言い表すかのように示した。

 

「…覚えてるよ、沢山の人…殺した時のこと。…今も目に見えない血の滑りが手についてる気がする…。洗っても…洗っても…無くならない感触。…殺したくてしたんじゃないの…分かってるけど…殺したことに代わりないもん…」

 

「……………」

 

思わず俯いてしまった。もっと早くこの少女の元に行けたら、罪をさらに背負う前で済んだかもしれないと。それを感じ取ったのか、少女はまた口を開き、それを否定する。

 

「……どっちにしても変わらないよ。…人を殺したら…もう手からこの感触は無くならないから。……それと……どうしても貴方に謝らないといけないことがあったから……。えっと…その……ごめんなさい」

 

少女はゆっくりと深めに頭を下げた。なんのことだが、分からなかったムラクモを見て、「あれ?」と首を傾げると、思い出させるために言葉を続けた。

 

「……その…最後の一撃はやり過ぎた……。…実際自我はなんとか戻ることが出来たから口で言えば良かったかもしれない…。…つい、突っ込んじゃう前だった貴方の右肩の関節、外しちゃったから……」

 

「……………」

 

流石になにも言えない。つい…で右肩の関節を意図も容易く、あと一瞬で外させることが出来るものなのか? まずその疑問が浮上する。確かにこの少女は強い。

しかし、強いの限度を越している気がするのだ。えーっと、君は何処かの拳法家ですか? それとも体術系統に詳しい人なの?

 

「…パパに教わった……いざという時、すさかず相手の背後に回ってこんな感じでガコン…って」

 

簡単に表現しようとして手で表そうとする少女。なんとも健気で可愛らしい……と思う時期もあったが、見ているだけでおぞましい気がしてきた。途中でそれを教えるパパ――おそらく父親だろう人物――にドン引きしそうになるほどに。

しかし、その教え方は何故か何処かで見たことがあったような気がするのだ。不思議な既視感に苛まれ、ムラクモは少女に訊ねた。

 

「……えっと……その……パパっていう人はどんな人なの……?」

 

「パパは強い人。優しくてカッコ良くて……大好きな人」

 

「……そうなんだ」

 

「…うん、()()でいつも()()()()()()()()()けど」

 

その言葉を聞いて驚愕した。思い浮かべた人物と全くもって同じだからだ。特徴すら重なる。コートをいつも羽織っていて銀髪。それでいて強い人物。

その人物にムラクモも出会っているからだ。それを聞いた途端、懐かしいていう哀愁以外にその人とどういう関係なのかを訪ねたいという衝動に刈られた。

 

「そ、その人の名前は……!?」

 

「……パパのこと? …名前は…レイン」

 

一度区切り、それから少女はさらに言葉を続けた。

 

「…()()()()()()()()()()。でも最近は…レイン・ヴァーミリオンって名前だった…。天狼島と一緒にいなくなっちゃった……」

 

 

 

 

 

その瞬間、外れていた運命の歯車が噛み合い、止めていた回転を再び再開した。急速に回転し、今までの遅れを取り戻すかのように。

 

運命は次第に巡っていく。あの日に向かって――

 

 

 

 

 




軽いネタバレ

フィーリが大暴走していた理由は簡単に言えば、ムラクモたち前回の話で襲撃した
闇ギルドのせい。彼らの筆頭っぽい人物がフィーリの心の傷を抉り、暴走させた
からである。つまり、一種の洗脳を施した。だからフィーリは虐殺に加え、大暴走を
した訳である。最後の部分でムラクモと話している時の状態と「壊す」と言っている
時では明らかに雰囲気が違うのがご理解頂けると思います。

P.S.
FAIRY TAIL ZEROをもう一度今度は一冊ではなく、何冊かにしてほしいと思うのだが…。
アニメ3話の内容とか漫画でも読みたかった……(涙)
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