FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹   作:天狼レイン

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どうも、皆さん、おはようございます。前回投稿が遅すぎたので、今回は早めて見ました。

私立入試? 推薦入試? は? なにそれ? 私ソンナノシリマセンヨー。

まあ、そんなことはさておき。

今回もフィーリの外伝編ですねー。本編? あー、そんなのありましたねー。もちろん、

ちゃんとやりますよー。でも、最近本編の投稿枠を変更したくなってきました…。

以前変更しないことを決めたんですけど、評価させる方々の中に全部ご覧にならずに

途中で止めて評価してしまう方が多かったこともあり……、第一話からマシな文になって

いた方が良さそうな気がしてきました。つまり、今の枠の第一話などでは文下手のままだ

と判断されかねない気がしてきました。え? それなら文を編集し直せばって?

それなんですけどね……なんだかやる気が起きないんですよ……。不思議ですよね…。

――という話も置いておきまして……。

今回はついに外伝編の最終話です。大体前回の大魔闘演武後の話になります。

それではどうぞ。




満月は今宵の闇を照らす

「……はぁっ……はぁ……はぁ……っ……」

 

フィオーレ王国の街の一つ、ハーブ。その街に唯一存在する魔導士ギルド《帝王の宝剣(エンペラーブレイド)》。そのギルドにある一室にて一人の少女が床の上で大の字に倒れていた。天井に向かって荒い呼吸を繰り返し、ゆっくりと小ぶりな胸板を上下させる。

気がつけば、額から汗が噴き出していた。そっと瞳を閉じ、ゆっくりと開ける。

 

「……はぁ……はぁ………。…また失敗…したんだ……私…」

 

白い長髪から除かせる尖った人のものではない耳。尾てい骨辺りから生えているフサフサの尻尾。それがその少女フィーリ・ムーン――私の特徴だ。

数年前までの淡い藍色の髪は既に無く、たった一年近くのストレスで色は抜けてしまった。それでも別に構わない。

彼は――私を育ててくれた父のような人は生きているだけで喜んでくれるから。

 

「……………」

 

だが、私はきっと許して貰えないことをしてしまった。人を――沢山の人を……殺してしまった。いくら操られていたからと言っても、いくら自我が無かったからと言っても……。

その手で罪のない人の命まで奪ってしまった。その事実は決して消えない。忘れることなどしてはいけないものなのだ。

 

「……………」

 

自らの両手を天井に向け、それを眺める。綺麗な手だ。爪もちゃんと切ってあるため、衛生面でも問題はない。

――だが、その手には見えない何かがこびりついている。恐らくそれは血だろう。血の生温く、滑りのある気味の悪い感触。それが離れない。

いくら洗おうと、濯ごうと、取れる気配のしない感触。何処までもついてくる罪悪感の塊。忘れることを断固として許さないかのようにその感触と感覚は離れない。

今でもなんであんなことをしてしまったのかが分からない。狼の血が半分流れているから? それはきっと関係ないだろう。本能のままにしてきたとしても、それを抑えられなかった自分の責任だ。それはどう取り繕うと変えられない不変の真実。

 

 

そこへ自分を責めるだけとなりつつある私に、聞き覚えのある声が届いた。

 

 

「――修行の方は順調ですか?」

 

天井を見上げていた自分の視線をずらし、先程開いたドアから姿を現した者を見る。

自分と同じ白髪の長髪。複雑そうな髪飾り。白を中心とした着物。全体として和を重んじている服装に彩られる少女。《帝王の宝剣》が誇るS級魔導士の一人――サクヤ・エルドレイ。

儚げな印象がある彼女の手にはお盆があり、その上には湯飲みが置いてあった。恐らくは休憩でもしたらいかがですか?というやつなのだろう。

 

「………全然…進んでない」

 

「――それなら、少し休憩にしましょう、フィーリちゃん」

 

「……ちゃん付けは止めてほしい」

 

「ふふ。まあ、いいではないですか」

 

目の前に優しく置かれた湯飲み。起き上がり、それを眺め、少し匂いを嗅いでみる。とてもいい匂いだ。緑茶だが、かなり落ち着かせてくれそうな雰囲気もある。

今焦っても進まないだろう、そう判断すると私は大人しくそれに従い、湯飲みを持ち上げると、一口飲んでみた。

 

「……美味しい」

 

「それは良かったですわ。兄様もこれをお気に召していらっしゃるので」

 

「ラインハルトも? 少し意外。あの人はもっと東方とかの“和”よりこっちの方面の“洋”だと思ってた」

 

「ふふ、確かにそんな感じがしますね。私と兄様は生まれた大陸は違えど、好きなものには共通点が多いですから。最初は私も戸惑いましたから」

 

「……そういえば、ムラクモは?」

 

ふと脳裏に過った“お節介”のことを思い出す。彼のお陰で今も生きている私だが、あれからも彼はいつもお節介ばかりする。髪がボサボサだった場合は櫛を持ってくるし、朝食をたまたま食べていなかった場合は自分の寒い懐からお金をいくらか出そうとする。

そう言うところには感心するが、流石にしつこい時の方が多い。――それ以前に財布事情が厳しいなら自分のことを第一に考えるべきではないかと思うのだ。

 

「貴女の考えた通りですよ。今は仕事に出掛けてます。兄様にS級依頼へと連れて行って貰っている所です」

 

「…そっか」

 

聞く前から分かってはいたが、彼は金欠だ。まるでルーシィのように。彼女も月々の家賃にひぃひぃ言っていた。まあ、あれはナツがいることも含めて苦労人だろう。

 

――今思えば、このギルドと交流が出来てから一年が過ぎた。

 

魔導士の祭典と言うべき祭り、“大魔闘演武”。その祭りに置いて彼らが所属する《帝王の宝剣》は初出場ながら第二位――つまり準優勝という好成績過ぎる結果をおさめた。

それもあの《蛇姫の鱗(ラミアスケイル)》や《青い天馬(ブルーペガサス)》をも差し置いてだ。出場したのはムラクモ、シャナ、レーナ、アスフィリア、あと一人は……まあ、気にしなくてもいいか。

ラインハルトや目の前にいるサクヤは残念ながらSS級依頼に出掛けていたらしく、参加してはいなかったが、本当の主力抜きでこの成績とあらば、2年後には優勝しているだろう。

 

本当にこのギルドには個性的な人間が多い。ムラクモのようにお節介な者もいれば、シャナのように毒舌を平然と吐く者もいる。

レーナのように男の子っぽい少女も僅かにいれば、アスフィリアのように頼られると断れない不運な者もいる。

そんなギルドが暖かい。いつかの《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》を思い出す。もう戻れないあの生活。そう思うと胸が痛んだ時期があった。

 

――あの知らせを聞くまでは。

 

実際に現場に向かったというラインハルトが先月の下旬、こう告げた。

 

 

 

 

 

『エーテルナノ数値が元に戻りつつある。僅かだが、巨大な魔力の片鱗が見られる』、と。

 

 

 

 

 

その異常なまでの巨大な魔力の片鱗は私には分かっていた。彼だ。彼が生きているのならば……そう思うと自然と涙が溢れ、久しく忘れていた哀愁が込み上げた。

 

パパに抱き締めて貰いたい。ママに頭を撫でて貰いたい。お姉ちゃんと、シャルルと、一緒に出掛けてみたい。今なら大切に感じる仲間たちと話をちゃんとしてみたい。

 

その願いが胸のなかに渦巻いた。――それからだ。私があることを始めたのは。

 

「……そろそろ続きするね」

 

「一生懸命励んでください、私も影から応援していますから」

 

「…ん、ありがと」

 

湯飲みを片付け、部屋から退散するサクヤを見送り、私は部屋の中央で座禅を組むと、静かに瞳を伏せた。ゆっくりと息を吐き、静かに息を吸う。その繰り返し。

意識が少しずつ現実から離れていき、何処か別の世界に連れていかれるような感覚に身を任せる。まるで魂だけを引き抜かれるような感覚。何度も味わったこの感覚には馴れた。

最初は気持ち悪くなって何回か吐きそうになったのも今では懐かしい。ゆっくりと、ゆっくりと。吸い込まれていく。己の中で構築された精神の狭間(せかい)に。

 

 

 

「……………」

 

ゆっくりと瞳を開く。――と言ってもあちらでは瞳は伏せたままだろう。それでも私は瞳を開いている。言うなれば、心の瞳。感情などの全てが詰まった精神に置いての瞳だろうか。

やっと見えた光景。殺風景だ。何もなく、ただ真っ白な世界が広がっている。何処を見渡そうとも何もない。光が無いのに全てが見える。回りを幾度か見渡し、私は視界の中に入った存在に対して構えた。

苦笑する声が聞こえる。両手を上げ、またかとうんざりするような言いぐさの少女。

 

――何処からどう見えて私だ。だが、雰囲気も魔力の質も違う。あの時の……暴走しているときの私だ。

 

『また来たの……? いい加減諦めるか……身体を渡せばいいのに……楽になれるのに』

 

「……………」

 

答える義理はない。ただ私は構え、数秒後に迫り来る殺意の塊に立ち向かうべく、意識を集中させる。会話を成立させる気がないと悟ったのか、目の前の化け物は殺意を顕にし、駆け抜ける。

 

一瞬。たった一瞬で距離が埋まり、焦げ臭さを残すほどの速さで裏拳が鼻筋辺りを通過する。当たれば即敗北。今の私では攻撃を受けた後に反撃できる実力など皆無だ。力が足りない、魔力が足りない、経験も足りない。

まだ目指している自分に届く気配などない。()()()()()()()()()()()()()

目指している高すぎる存在には……届かない。絶対に倒さなければならない敵にはまだまだ遠すぎて背中すら見えない。

だからこそ――

 

「負けられない…っ……!!」

 

向かってくる鉄拳を紙一重で躱し、反撃とばかりに至近距離で雷球を叩き込む。感電する化け物。一旦距離を取り、呼吸を整えると更に追撃を加えるべく、加速(しっそう)を開始する。両足の裏から魔力の噴射をイメージし、速度を増した鉄拳を感電し続ける化け物の胴に叩き込み、隙を埋めるべく回し蹴りも叩き込んだ。

 

綺麗に宙に跳ね、見えないはずの地面に転がる化け物。だが、難なく立ち上がり、付けられた傷すら興味無さげにこちらを眺め、呟いた。

 

『……へぇ、前よりは…やるね…。――でもダメ……弱くて壊したくなる…』

 

呟かれた刹那、私の腹に衝撃が突き刺さる。耐えきれずに口から血が吹き出し、見事に吹き飛ばされる。さっきのお返しとばかりの鉄拳を受け、衝撃が全身に突き抜けた私は立ち上がろうにも力が入らなかった。

 

「……動け…ない……っ……」

 

『……なんでそんな無駄なこと…するの? …もしかして……本当に()()()()()()とでも…思ってるの…?』

 

「…うる…、さい…っ……!!」

 

麻痺の残る腕を振るい、近づいていた化け物に無理矢理回避行動を取らせるべく、大振りに動かす。それを哀れと思ったのか、少し油断していたのか。はてまた、ただ抗う姿を嘲笑おうとでも考えていたのか。

それは私には分からないが、化け物はニヤリと口角を上げ、さっきと同じ口調で続けた。

 

『……まだ認めないの……?』

 

「……………貴女にパパを語ってほしくない…」

 

心の底からの答えだ。化け物如きに大切な家族を語られたくない。況してや、大切な人が生きていないなどと語られる筋合いもないし、言われたくもない。

だが、化け物は平然と辛辣な言葉と現実を同時に叩きつけた。

 

『……彼の正体……貴女ならわかるはず…。…その人間にはない耳が…。…人間より発達した感覚が…。…何よりも告げているはずだと思うけど…? …()()()()()()()()ってことくらい。…言われるまでもなく…気がついてたんじゃないの…?』

 

知っていた。パパが人間じゃないってことくらいは。人間らしく振る舞っている――いや、本人は人間らしく過ごしているのだろうが、彼には以前から可笑しい点がいくつもあった。

 

とてつもない速さでの傷の治癒。人間では処理し切れないはずの膨大な不可がかかるはずの特殊な何か。本人が“魔導を見る眼”と称したそれ。

あれはただの人間じゃ処理など出来ずに精神が崩壊するほどの代物だ。私の本能がそれを考える度に叫んでいた。

根本的に分からなくてもあれがとてつもないものぐらいは分かる。それほどまでにあれは異常で人が持つには大きすぎるものだ。

それに加え、とてつもない速さの治癒力。人間なら数週間はかかるだろう傷すら彼は1日もかからずに塞がっているし、治ってしまっている。

その光景を私は何度も目にした。彼が寂しげな顔をしていた時も。彼が――パパがひっそりと涙を流している時も。

 

そして……時々“あること”を口にしていたことも。

 

 

 

――“コードETD”。その言葉の意味は私には分からない。ただパパは……――

 

 

 

「――それが…どうしたの…っ…、私はパパが居てくれるだけで……()()()()()()()()()()()()……。…私は皆を守りたいだけ……壊すのと守るのじゃ……全然…違うから…!!」

 

瞳を赤く染め、髪が逆立つ。急激に魔力の限界値が引き上げられ、急速な魔力回復が開始される。ゆっくりと身体から麻痺が分散され、感覚が戻る。

危険を感じたのか下がった化け物の表情には悔しさが微かに見られた。さっきので心に亀裂でも加えようとしていたのだろう。

 

ふざけるな。そんな簡単にもう折れたりなんかしない。簡単に折れるくらいに私は弱くない。弱くても諦めたりなんかしたくもない。ただ私は皆が守りたい。それだけで十分だ。

 

強く地面を蹴り、一気に間合いを詰める。閃光の如く疾走し、隙だらけの胴に揺さぶりをかけようとした時の利子を鉄拳として送り返す。

急速な加速を加えた鉄拳の威力に流石のあれも驚いたのか、防御に徹しようと構え――

 

「――させる訳がない…っ!!!」

 

完全ではない防御に向かって連続で鉄拳を叩き込む。微かに揺らぎ、隙間が作られていく。その隙間を糸が縫うように放電を放つ鉄拳が放たれる。

 

――雷球でダメなら直接叩く。

 

「……時には…馬鹿みたいに……やってみる…っ!!」

 

いつもうるさいとしか感じなかったナツのように、私は無我夢中に鉄拳を叩き込んでいく。肉弾戦なら彼のことを見習うことだって決して悪いことじゃない。

時には単純になってみるのも経験だと私が出会った暖かい人たち(ムラクモたち)から学んだ。難しいことなんて今考えていても分かる訳がない。

時間をかけて……ゆっくりと迷いが消え失せるまで、ずっと悩めばいい。人間はそういう生き物だと私は知っている。

 

「やぁっ!!」

 

鋭い掛け声と共に狙い違わず化け物の胴へと飛来する私の拳。だが、化け物はそれを受け止め、痺れすらも難なく流した。

再び口角を吊り上げ、不適に笑うと、瞬間的な殺意の塊をぶつけた。

 

「…かは…っ……!?」

 

ボールのように私は空白の狭間(せかい)を転がった。口元から血が垂れる。さっきのは蹴りだ。あれが蹴りなのか、疑いたくなるほどに衝撃はとてつもなかった。

まるで横から鉄筋で殴られたかのような……。ここが現実なら肋骨数本は持っていかれていただろう。それも左半身の辺りだ。最悪心臓が停止する可能性だってあり得た。

生憎この精神の狭間は身体が現実より速く動く。そのお陰でさっきは受け身と回避が咄嗟に出来た。でなければ、前述の如く最悪死んでいただろう。

それほど私の前にいる化け物(あれ)は規格外だ。あまり実感は無かったが、ムラクモやラインハルト、シャナと対等以上に競り合った時の私は自我のある私よりも強いだろう。

今の私ではラインハルトには届かない。しかし――だからこそだ。

 

「…私は私をコントロール出来るように…なるんだ……!!」

 

5年前は平然と狼としての人間より優れた力を使えていた。――いや、あれは言うなれば、端でしかない。力全体の約1%だ。紙屑なんかよりも小さく惨めなものだった。

目の前の敵は力そのものだ。私の持つ潜在的な何かだ。だからこそ、あれを自分で操れるようにならなければならない。あれが今の私を更に強くするために必要なピースなんだ。

 

「――っ!!」

 

再び見えない地面を蹴り、瞬時に距離を詰める。胸元に抉り込むように、そのイメージのまま拳を振るい、顎を狙う。頭の中でも顎は衝撃を伝えやすい。

上手く対人戦を行うものは隙あらばそこを狙う。それもパパから教わった。だからこそ、チャンスを掴むための布石作りを開始――

 

 

 

『……甘過ぎ…』

 

 

 

――しようとした刹那、感知出来ないほどの速さで殺意の槍が突き刺さった。空白の狭間であるはずのこの場所で地面から突然出現した鋭利な槍。

それが拳を構え、放とうとした私の左肩まで貫通する。正常に流れていたはずの血液が突如逆流――それどこか、肩の方まで押し戻される感覚が脳を強襲し、まるで滝の落差が生んだ激流のように口から血が大量に吹き出た。

 

「――――――!!!!!」

 

振り上げた拳の代わりに出たのは声も出ないほどの絶叫。激痛が脳を焼き尽くすかのような電撃となり、全身に駆け巡る。

あまりの痛みに、不快感に、私は左肩まで貫通された左手の拳以外の全身の力が急速に抜けるのを感じた。いくらここが精神の狭間だからと言って、これは予想外だった。

先程から時々口から吹いた血も可笑しいことではなかったのだと今ここに来て悟った。

 

「――…ぁ―…っ…――ぁ…――」

 

言葉が出ない。あまりの激痛に舌が縺れる。――否、元からこんな時に限って話せるものなどいないだろう。神経すらをも貫いた赤黒い槍。地面から生えた罪そのもの。

それが私に痛みをもたらす。痛みの変わらない者が強くなれないと言うのか…。その疑問が込み上げ――消える。考えようとしても激痛がそれをさせまいとする。

もがく。ただ痛みにもがく。痛みには慣れていない。だが、叫ばない。叫んで済むような痛みならすでに無いも同然だ。

額に玉のような汗が知らせる程に掠れそうな意識の最中、その槍を出現させたであろう敵は嘲笑の表情を浮かべ、淡々と告げた。

 

『……甘過ぎ…。…そんなんじゃ……私は殺れないよ…? …ううん、私…じゃないね…。…貴女が憎くて…仕方がない…敵…――そう、アクノロギアは……ね?』

 

「――ぁ――――れ」

 

少し言葉の欠片が口から掠れた声が漏れる。それは少しずつ強くなり、ハッキリと次の瞬間には痛みと共に吐き出した。

 

「――――黙れ!!!」

 

その言葉を吐いた刹那だけ、私は痛みを感じなくなっていた。――否、それを無意識に耐えていたのだろう。だが、それを知るより先に私は絶叫に乗せ、吼えた。

 

「貴女に…何が分かるの…!! …ただ…ただ私に引っ付いてるだけの…存在なのに……。力でしかない…貴女に何が…分かるの…!! …何も知らない…大切にしようとも…感じない貴女に……!!」

 

『……へぇ…。…大切に…しない…ね? …それなら私に呑まれた貴女が……殺した…命は…喰らった魂の…こと……考えたことがあるの……?』

 

「……っ!?」

 

その言葉は重く心にまで響く呪いの音だった。それがスイッチだったのか、突如私の耳に、眼に、認識の中に、おぞましい何かが写り込む。

小さな人の姿をした血の塊。血みどろで身体と思われる塊の全ては動く度に崩壊し、嘆きと痛みによる絶叫を叫ぶ。

呪われた禁忌に手を染めた者のような……醜い残滓だった。その残滓はこちらに気づくと口らしき穴を裂けんばかりに広げ、言葉を発した。

 

『……ねえ……なんで僕を殺したの……?』

 

その声音には何故か聞き覚えがあった。――否、聞き覚えがあるように仕込まれていたのだ。記憶の奥底に眠る小さな現実の欠片を、このために引き上げたのだ。

 

「……なに…これ……」

 

私は反射的に呟いていた。実際これが何なのか訳が分からなかった。ただおぞましくて……まるで暴走していた私のよう……――

 

「――…ぁ……」

 

気づくと同時に私はこれが何なのかを悟った。これは……暴走した私が殺した子供だ。ただ泣き叫び恐怖と絶望の色を浮かべ、死に絶えた子供の魂だと。

あの洞穴――洞窟の中で自我で暴走する寸前だった自らを押さえようとしていたあの時。この子供が運悪く来てしまった。

――周囲には飛び散った鮮血と、引き裂かれ内臓や脳、四肢がバラバラとなった闇ギルドの者たちが散乱していた現場に。

そして容易く私の自我と理性は吹っ飛んだ。暴走するままに子供の口を裂き、四肢を徐々に解体するような無惨で卑劣、人間のすることではないことを繰り返し――殺したのだ。

そこからは――覚えていない。ただ殺した。それだけだった。記憶が脳裏に再現(フラッシュバック)され、自我に亀裂が刻まれていく。

 

「……ぁ……ぁあ……ぁ………」

 

それと同時に一斉に地面から幾つもの槍の如き杭が私の身体を串刺しにしていく。口から再びき激流の如く吹き出す鮮血。本来なら出血多量であの世逝きだ。

それでも死ねない。死なない。何故ならここは現実じゃない。

けれども、ここは一つの現実でもある。自らの存在が定まる現実として――

 

『……ねえ……なんで僕を殺したの……? …ねえ……答えてよ……答えてよ……答えてよ……答えてよ……答えてよ……答えてよ!!! …なんで…僕が殺されなきゃなかったの…!?』

 

残滓は叫ぶ。怒りと絶望、恐怖、悲しみのままに。その咎を追及かの如く、その悲痛な叫びは数を増していく。串刺しにされた私の四肢から次々と心を侵食する亡者の嘆きが伝わってくる。

ダメだ、意識が持っていかれる。頭の中が真っ白になる。……もう放っておいて。

無責任だが、そう頭が悲鳴をあげる。理性も自我も追い付かない。もう楽になりたいと本心から思ってしまう。

ああ、もう楽になろう。楽になれば……それで終われるから……。

ゆっくり瞳から光を失せさせ、目蓋を閉じ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――現実から眼を背けるな、フィー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が覚醒した。四肢を包み込もうとした血の塊たちが動きを止め、霧のように霧散し、崩壊していく。驚愕する化け物の表情が見てとれる。

どうして? なんで驚いているの? なんで私は――眼を覚ましたの? 誰が呼び起こし――

 

「……パパ……?」

 

自然と私は口にしていた。頭に響いたあの声の発言者を。それでも疑問しか浮かばない。感じていた痛みすらどうでもいいの思えるほどに。

ゆっくりと意識が完全な状態へと戻る。停止していた脳が眼を覚まし、先程まで感じなかった何かの存在に気がついた。

目の前だ。そう、目の前だ。見えない。なにもない。それなのにこんなにも暖かい何かはあることを除いて感じたことがない。

そこに誰かがいるのだ。そこに大切な人がいるのだ。片時も忘れなかった大切な父のような人が。パパの――彼の魔力がそこに感じられた。

 

「……全く、世話をかけさせる娘だな、お前は。現実から眼を背けて何になるんだ?」

 

姿は見えない。だけど、感じる。彼はそこにいるのだと。

 

「……ぁ……」

 

言葉が出ない。それでも言葉の代わりに涙が溢れ出す。そこにいるのが彼本人ではないのがわかっているのに。そこにいるのが今の自分と同じ、ただの残滓でしかないのいうのに。

 

『…邪魔…すルな……、…お前ハ……何者ダ』

 

少しずつ私の姿見を持っていた化け物の輪郭がぶれ、よく分からない何かへと変わっていく。それと同時に話し方にラグが入ったかのように言葉が震え、片言のように聞こえるようになっていく。迫り来る化け物。それに対し、パパは――レイン・ヴァーミリオンは静かに左手を横一閃に払い、自らの残滓であるはずの魔力を使う。

 

『……ぐァっ…!?』

 

着弾する魔力の塊。魔法にすら儘ならないそれは微かに化け物を仰け反らせるが、すぐに態勢が元に戻ってしまうような弱々しいものだった。

それでも彼は残滓を構築している自らの魔力をためらいなく使い、時間稼ぎを始めた。

 

「……何者…か、確かにそうかもな。本当の俺はこの世にいるのか、いないのか。そんなもんは分からないし、まだ思い出せない。もしかしてたらこの残滓を生んだ俺でさえ、偽りだったとしても可笑しくない。フィーの前で笑っていた俺が本当の俺じゃないことだってあり得る」

 

「……ぇ………?」

 

私の前にいたパパは本物じゃない? それならパパは……?

 

疑問が浮かび上がる。だが、彼はそれを凪ぎ払い、消し飛ばすような鋭さで言い放つ。

 

「――だけどな。一つだけ確かに言えることがある。

それは俺が《妖精の尻尾》の魔導士で、フィーの保護者。親であるってことだ。それだけは俺が偽りだろうが、真実だろうが何一つ変わらない不変の現実だ」

 

ただ静かに彼はそれだけを確信して告げた。背後から伝わる覇気は本物だと理解できるほどに。頼りたくなる背中は色褪せることもなく、以前よりも強く覇気を放っていた。

 

『………保護者…? …笑ワせル。…邪魔ナお前は消エろ』

 

もはや私でもなくなった化け物は覇気による拘束すらをも駆け抜けた。迫り来る存在に臆することなく――否、自分が消えることを悟っていたのか、背中越しに私に彼は語りかけてきた。

 

「フィー、先に伝えておくからちゃんと聞いてくれ。……殺してしまった事実は変わらない。奪ってしまった命は戻らない。それは誰にだって分かってるもんだ。俺もそうだ。俺も沢山の人を殺した。忘れていた、その罪を。

ずっとお前を見守っている間に。やっと……思い出した。恥ずかしいことだが、俺も人のこと言えない。――だからこそ、だ。お前には……俺のようになってほしくない。誰にだって罪はある。それが大きいか、小さいか、その程度だ。あとは――分かるな?」

 

最後の言葉が伝わると同時に彼は綺麗に引き裂かれた。私には見えていないが、多分彼は引き裂かれてしまっただろう。恐らく狂気の鉄拳が残滓の胴を貫き、空いた風穴を化け物は抉じ開けたのだ。

まさしく消える姿は灯火。風前の灯火という言葉そのものを体現しているようなものだった。だが、消え行く中――彼は不適に笑い、優しげな表情で親らしく微笑みかけた。

 

「――別にフィーがどう変わってしまおうと俺は構わない。ただ帰った時に笑ってくれるだけでいい。ウェンディやメイビスと笑っているだけでいいから。

ただフィーはフィーらしく、無愛想でもいい。誰かに優しくしてあげられるようにいてくれ。

――約束を反故にしてごめんな、今度こそ守るから。2年後だ。2年後、皆で帰るから待っていてくれ、“帰るべき家(ギルド)”で」

 

 

 

そして彼の魔力はフッと消えた。――空白だった私の胸、その中に暖かい光だけを残して。何故か串刺しになっているはずの私の身体には痛みが無かった。

別に無責任に忘れてた訳じゃない。痛くない訳じゃない。ただ彼の――パパの暖かさがそれを癒してくれる。暖かさはゆっくりと私の身体に浸透する。

 

「………途中のは余計だよ…パパ」

 

『……余計ナ邪魔入ッタ、ソロソロ――堕チテ貰ウゾ、残滓』

 

吐き捨てるように告げ、再び化け物は私を取り囲むように血の塊を作り出し、呪いの如く吼えさせようとする。

再びあの子供の姿を取った塊が蠢き、こちらを見て憎悪と共に言葉を吐こうとした。

 

――その刹那

 

「……ん、決めた。私、もう迷わないから……」

 

迷いのない声と共に私は自らの全身に魔力を広く展開し、一瞬にして圧力を高めた波動で貫いていた槍のようなもの全てを粉砕する。

止まっていた流血が再び流れだし、口からも大量の血が溢れたが、それでも意識をしっかりと持たせ、瞬く間に駆け抜ける。

 

「セァァァァッ!!!」

 

さっきまでの加速をも上回る速さで私は距離を詰め、迎え打とうとした化け物の凶拳をも潜り抜け、自らの鉄拳を顔面に叩き込む。

衝撃波の如く顔面に響き、私と同じ顔がみるみるうちにバラバラになり、形すら止めていないものへと変わっていく。

 

『ガアァアァァ!?』

 

「ヤァッ!!」

 

続けて回し蹴りを放つ。思い描いたイメージはパパとお姉ちゃんの蹴り。あれを模倣するように鋭く、速く、容赦なく放った。

これも見事に命中し、再び化け物の身体に亀裂が入っていく。絶叫を上げ、攻撃された部位を押さえる。憎しみと怒りの混ざった形相をこちらに向ける。

 

『……ゼッタイゼッタイ、奪ッテヤル……!!! 二度ト目覚メナイヨウニシテヤル!!!』

 

急接近する化け物。咄嗟に避けようと思ったが、速すぎて間に合わない。咄嗟に両手で防御しようと構えた刹那――

 

 

 

「…………ぇ?」

 

 

 

――世界がぶれた。突然化け物の襲い来る速さが遅く見えた。何故か遅く見えた。逆に私の動きは普段より――いや、そんなものすら比較にならないほどに速かった。

遅いと分かった途端に反射的に避け、返り討ちにする。見事に吹き飛ぶ化け物が見せた驚愕と微かな畏怖の色は私にある実感を持たせるのに時間をかけなかった。

 

「――時が止まってる……? ううん、違う。()()()()んだ…」

 

私の身体に起こっていた現象。それは相手を圧倒するほどの速さ。それと同時に体感速度がまるで違っていたということ。

ずっと速く感じていたはずの敵の動きが遅く見えるほどの自分の体感速度。反撃として与えた拳が生んだ、とてつもない衝撃。

それが指し示した答えは――“自らの加速(アクセラレート)と敵の停滞(スタグネーション)”。

かつて願い、足りないとして崩壊した原初の渇望。私が――フィーリ・ムーンが望んだ“誰にも奪われないために欲した速さ”だった。

 

「…………そっか…。別に足りなかった訳じゃ…無かったんだ。…私が弱かったんだ……」

 

自らの弱さを噛み締め、私は自らの願いのまま、加速する。今度はいつもの5()0()()ほどに。

その最中、漸く起き上がった敵たる“それ”は顔をあげ、こちらを視認しようとして――宙を舞った。衝撃が全身を突き抜け、ただただ空を見上げる。空白で真っ白な空だけを。

 

『……馬鹿……ナ……。…何故…ダ……何故残滓に…敗れる……』

 

本人は気づいてないだろう。自らに50倍加速した分、私から押し付けられた5()0()()()()()を受けているなど。

閃光の如く疾走し、時の流れすら鼻で笑うように空間を――この世界を駆け回る少女の姿など、もう()()()()()()のだろう。

 

「――今度は1万倍に……!!!」

 

閃光の如く疾走していた少女はついに光ですら無くなった。視認できないほどに加速する。

もはや幻影のように残像を残すような手は抜かない。完全に殲滅する。二度と自分に負けないように。二度と甘い考えなどしないように。

 

――私は家族の敵を蹂躙し、仲間たちが迷わないように先導者(ミチ)になるんだ。

 

素早い、そんな言葉は何処に消えたのかと思うほど私は加速した。遅くなっていくもう一人の私を見つめながら。駆け抜けたい、もっと速く駆け抜けたい。

自らの欲望すら振り切るほどに私は駆け抜けたくなった。仲間たちが悲しまない未来を描きたくて。強く、激しく、残酷だった時の流れすら超越するぐらいに駆け抜けたい。

 

 

 

 

 

 

「――流星の如く疾走し、立ち塞がらんとする敵を斬り祓え。……奥義」

 

 

 

 

 

ゆっくりと地面に落下していく敵を見据え、魔力で鞘と刀を構築する。それを雷鳴の如く一瞬で抜刀し、私はその刹那を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

「――狼牙月光照・覇天」

 

 

 

 

 

狼の犬歯の如く鋭利な斬撃が、墜ちる前の命に真っ赤に彩られた血の華を咲かせた。

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

「………疲れた」

 

目を覚ました頃には日が暮れ、満月が出ている時間になっていた。胡座をかいていた態勢から大の字に寝転ぶと天井を見上げ、私はクスリと笑った。

 

「……綺麗」

 

私の目に映ったのは部屋の外に見える夜空の満月と星々。いつになく綺麗で――なんだか懐かしくて寂しくなるような……――

 

「あれ? フィーリ、何してるの?」

 

ボーッとしかけていた私の元へ灰色の長髪を持つ少女――ではなく少年がドアを開け、声をかけてきた。朝から仕事に出掛けていたムラクモ・アッシュベルだ。

どうやら無事だったようで微かに安心してから私はいつも通りにからかうことにした。

 

「おかえり。懐暖まった?」

 

「……うっ…。…まあ、…少しは」

 

なんだか答えずらそうな雰囲気を出すムラクモ。それを見て脳裏に微かに浮かべていたことを訊ねた。

 

「……ふ~ん? もしかしてだけど……――今日、晩御飯食べないつもりなの?」

 

「ギクッ……」

 

当たりだった。どうやら彼は晩御飯を食べないつもりだったらしい。いくら金欠とは言え、食べないのは身体に悪いだろう。

ため息を少しつくと、私は起き上がり立ち上がると彼の方に向き直り、率直に答えた。

 

「そっか。…じゃ、晩御飯作ってあげるね」

 

「………へ?」

 

「ん? 何か変なこと言った…?」

 

「……え、いや…その……さっき晩御飯作るって………」

 

「当然」

 

「それって僕の家に来るってことじゃ……」

 

「当然。もしかして野宿する気だったの? 家そこなのに?」

 

「…………」

 

このあと何度か言い争うような形になったのだが、結局私が言い伏せる結果となった。どう言い訳しようか考えていたのか先を歩くムラクモの背中はがら空きだったが、不思議と脅かす気にも、からかう気にもなれなかった。不思議と懐かしくて――

 

「…………」

 

「…あれ? フィーリ、どうかしたの?」

 

――彼が振り返り、こちらを見てきた。少々動揺したが、それを隠しつつ私は自然と答える。

 

「ううん、大したことじゃない。――ただムラクモって本当に男の子か考えてただけ」

 

「……き、君までそんなこと言うの……?」

 

「冗談だよ。さ、そろそろ寒くなるから急ご」

 

彼の手を取り、一緒に駆け出す。夜の帳に包まれた星空の下、私は微かに笑みを浮かべて彼に笑いかけた。彼もそれに応じる。

それを感じ、私は夜空を見上げ、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

「――パパ、ママ、お姉ちゃん、みんな。……ずっと待ってるよ。速く帰ってきてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かに、ただ静かに。狼の少女は満月を見上げ、未来(あした)を望む。

 

 

 






あ、それと投稿遅れてすみませんでした。まあ、今回は13000程度でしたが、やはり

どれくらいが読みやすいんでしょうか? それに関しても意見下さると嬉しいです。

今週の水曜日(2/10)は私立入試です。なのでこの日まで投稿が出来ないです。

英語を頑張らないと行けないみたいです(涙) まあ、なんとかします。

なのでこの作品と作者の応援をしてくださると嬉しいです。それでは次回。

今度はシャナメインの外伝編を少ししたいと思います。

P.S.
Dies iraeにかなり影響されてしまったかもしれない気がする……。
さ、流石最高の厨二病ゲーム……。十四歳神の洗脳には敵わないのか……。

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