FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹   作:天狼レイン

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どうも、皆さん、おはようございます。今回は一応シャナ編ラストです。

バレンタインで色々と鬱憤が溜まったり、甘い話が大嫌いになった人が居れば、

ブラウザバックを推奨します。今回は前同様に甘いです。――つうか、ラストが一番

甘いです。吐き出したくなるぐらいに甘いです。故に嫌いな方や苦手な方は回れ右。

それでもOKならどうぞ。

P.S.
シャナってやっぱツンデレだな(灼眼のシャナ談)
なので、こちらも素直になりつつ、ツンデレキャラにしましょうかね。
その方が可愛かったりして?



恋情の業火

トントントントン……。

 

耳に届いたのは彼が包丁で野菜を切る音。焦らず慎重でありながら、それでいて遅すぎない速さ。それが耳に届く。何故だろうか、彼の野菜を切る音だけでヨダレが出そうになる。

別に依存ではない。ただ彼と過ごす日々が今まで過ごしてきた日々よりも濃密で記憶に残るのだ。それほど彼と過ごした日々が独特で特徴的、それでいて楽しかったのだ。

 

アラキタシアと呼ばれる大陸の隣、名前はよく覚えていないその大陸で私は彼と一時的な拠点としてアパートを借りていた。運良くその大陸では魔力というものが認められていて、私たち――魔法を扱える者たちに対する残虐な行いや刑罰は存在しなかった。

魔法を使える魔導士という存在は全ての人間のおよそ一割。だからこそ、私がいた村があった大陸には魔導士が一人もいなかったのだろう。

そう思えば、魔導士という存在は希少だ。たった一割。多いようで多くないその数は敬われるべきなのか、恐れられるべきなのか。それはその大陸の風習によって変わるのだろう。

 

そんなことを頭の片隅に置きつつ、私は彼がコネを使って用意してくれた魔導書を柔らかなソファーの上で読んでいる。初めてこのソファーを見た時は興奮が冷めなかったものだが、慣れてしまうとなんだか物足りなくもある。

だが、出掛けた後に座りたいと思うとどうしてかこれを思い出す。このアパートに帰ってくれば、言うまでもなく私はこれにだらしなく寝そべったり、横になったりする。寝転んでいる時は物足りなく感じるというのに不思議とこれが無いと違和感があるのはやはり慣れてしまった故にのことだろうか。

 

パラリと次のページに移ると、前と同じく冒頭からゆっくりと読み漁っていく。ローグ文字やレゾン文字によって書かれた文や説明書きがいくらかあったが、それでも私には読める。

読めるようになったのは大体彼と出会って半年を過ぎた頃だ。一から彼がゆっくりと、分かるまでちゃんと教えてくれたお陰だ。そのお陰で詰まることなく読み進めることが出来ている。

この魔導書も私の興味に合わせて前述通り、彼が自らのコネを使って用意してくれたものであり、内容の大半は火魔法に関するものだ。

一般的な火の魔法から少し強い火の魔法。強力な火の魔法や滅竜魔法と呼ばれる魔法についても彼が自分の頭にある知識で出来る限り教えてくれた。

――と言っても、専門的過ぎていたこともあり、途中でギブアップを何度もする羽目になったこともしばしば。

それでも満足であったことには代わりない。日数を重ねるごとに彼の言うことが理解できるようになった。それ故、難しい話も今では、ほとんど納得できる。

今もこうして魔導書を読み進めていく。気がつけば時間など一瞬だ。満たされた刹那(ひび)も気がつけば過ぎてしまい、終わってしまっている。

 

今も当然――

 

「ご飯出来たから早めに食べない?」

 

「うん。今行くから」

 

彼が料理をし始めてから読んでいた魔導書が半分にかかり始めた所で彼の行っていた調理が済み、こうやって食事にありつこうとしている訳だ。

集中すれば、人はその時を長く感じるらしい。それは今実際に起こっていたことでもある。私もこうやって魔導書を読むことに没頭していた訳だが、今みたいに読んでいる量はとてつもないのに時間はあまり過ぎていないということもある。

この逆も当然あり、私は普段そちらを体験することが多い。けれど、彼は時々寂しそうな顔をして言うのだ。

 

 

「僕にとっての満たされた刹那(じかん)は一瞬で過ぎてしまって――逆に満たされない、楽しくない時間は永遠に感じるんだ……」

 

 

――彼は私と違う時間を過ごしている。そう思えるその言葉に私は切なく、寂しく感じた。

どうして彼と同じ時を過ごせないのだろう。どうして彼と同じ苦しみを味わえないのだろう。どうして彼と同じ幸福に喜びを感じられないのだろう。

そう思う日々が幾度となく続いていた。今も強くは意識しなくなったとはいえ、その疑問はずっと堂々巡りだ。ずっと頭のなかで、疑問(わたし)答え(かれ)を追い掛ける。

“鼬ごっこ”と私のいた村があった大陸の方面では言うらしいが、正しくそれが合っていた。永劫続いてしまうのではないかと恐れるぐらいに答えは見つからないし、手が届かない。

そんなことをふと脳裏に浮かべながら食事を取る。すると――

 

「えいっ」

 

「あぅっ!?」

 

彼の指が私の額を弾いた。これもある地方でいう“デコピン”というものらしいが、それを私は綺麗に額へと貰った。少しヒリヒリする額を押さえ、油断していたせいで目尻からほんの少し溢れた涙を拭った。

 

「な、なにするのよ……」

 

「食事の時にもそんな顔して食べるの、君は? 作った側も食べる側もそれじゃ、楽しくないし、嬉しくない。違うの?」

 

核心を突かれた。彼はやっぱり気がついていたのだ。私が時々こうやって俯いているような顔をしていることに。多分彼のことだから内容にも気がついているのだろうと思う。

それでも彼はいつも通りの様子を装っている。ズルい。人がこんなに考えているのに……。それでも、彼が言ったことは正しい。だから――

 

「…うっ………うん、ごめん…」

 

私は謝った。まあ、当然のことだ。私だって彼のお陰で多少の調理が出来るようになったが、作ったご飯を元気のない状態で食べられても嬉しくないし、次も頑張ろうとは思えない。

故に私はいつも通りにすることにした。美味しそうに彼のご飯を食べる。ただそれだけをするために。

笑顔を取り戻した私を見て彼は嬉しそうに笑った。

 

「やっぱり君には笑顔が似合ってるよ。その方が可愛いから」

 

「…っ!?」

 

咳き込んだ。食べていたものが喉に詰まるかと思った。何をいきなり……。いやいや、それより前に彼はなんと言った? 笑顔が似合ってる? 可愛い? ……恐るべき朴念仁っぷり。

素直が一番なのは分かるけれど、流石にド直球過ぎるのではないのか…。

私が咳き込んだのを見て急に慌てる彼が視界に映った。「きゅ、急にどうかしたの…!? だ、大丈夫!?」だって? 原因は貴方にあるのに何を言っているんだろうか、この朴念仁は……。

 

漸く落ち着いた私と彼は速やかに食事を済ませると、互いの定置に戻った。私はソファーの上に。彼は皿を洗うべくキッチンに。

当然ソファーの上に戻った私は残り半分となった魔導書を読み進める。しかし……不思議と集中できない。近くに彼がいる訳でもなく、誰かに見られている訳でもない。

部屋の空気が悪い訳ではない。日光が入らない訳でもない。部屋が暗い訳でもない。気分が悪い訳でもない。――なのに集中が全くできない。

心臓が早鐘を打っている。別に不安な訳ではないし、怖い訳でもない。

ただ――

 

「…集中できないじゃない…バカぁ……」

 

久しく忘れていた彼に対しての恋心が疼いたのだ。別に恋心は普段から存在する。だが、強く意識した状態での恋心は久しく忘れていたのだ。

だが、彼のさっきの無意識で言ったのであろうあの言葉が導火線の消えていたはずの火を再び燃え上がらせた――いや、着火し直したのだ。

何処まで朴念仁は罪深いのだろう。最近知ったものである漫画?という絵と台詞ばかりの本に登場する主人公の如く、彼は本当に鈍い。

漫画を時折彼が買ってくれた際に読むのだが、朴念仁極まった主人公の行動に「早く気付いてあげればいいのに…」と思ったことがあったのだが――

 

「……まさか私が苦労する方なんだ………」

 

――私が漫画の主人公に恋心を抱くヒロイン――つまり苦労人のような羽目にあっていた。

 

 

「うぅ~……、本当に気づいてないのかな……レイン」

 

正しく朴念仁主人公に恋心を抱くヒロインだ。よくある展開過ぎて何も言えない。気になるのだが、聞きにいけない。聞いてしまったら変な風に誤解されたりしてしまうかも。

そんな考えが自分の行動を阻害する。――なんとも言えないぐらいに漫画と同じ状況である。

よくあるこの先の展開だが、こう言うときによくハプニングは起こるもの。

しかし――

 

「……起こらないよ…だってレインだし………」

 

ほとんど完璧である彼にそんなボロなど溢れる訳がなかった。ここ半年と数ヶ月、彼にできないことをいくつか探してみようと努力してみたが、悉く彼は容易くその幻想を粉砕した。

 

例えば、調理――と言ってもあのレベルだ。出会った日の夜に大した具材すらない状況で焼き魚ですら絶品クラスにしてみせた彼に調理面でボロが出るはずがなかった。

 

洗濯はどうだ?――と思った矢先、彼は何を考えたのか、主婦顔負けの知恵袋で汚れを見事に移し変えたり、真っ白に落としたり。

 

裁縫ならどうだ――という私の幻想も彼は打ち砕いた。実際私が今着ているシャツやパーカー?というものも彼が何度か自分のことを責めるぐらいになってまで私の身体に合うように測り直して、試行錯誤して作ったものだ。

お陰で着心地は最高である。文句の付け所がないせいで逆に怖いとしか言えないぐらいに。

 

これと同じように他も試したが、結局彼の弱点らしきものも見当たらなかったし、見つけられなかった。人間には絶対に弱点があると彼は言っていたが、彼にはその弱点が見当たらない。だが、彼は何処からどう見ても“()()”ではなかった。人以外に彼は分類できないだろう。などと今もこう思っている最中――

 

「クッキー焼けたから食べる?」

 

――私的に完璧人 兼 朴念仁の彼が襲来した。突然の彼の来訪に驚いて魔導書を投げ出しそうになり、必死に落とさないように悪戦苦闘していた私は見事にソファーから落ちる。

軽く打ち付けたお尻から走った鈍痛に再び目尻から涙が出たが、すぐさまそれを拭い、私は元気よく返した。

 

「うん、今行くから待ってて」

 

正しく既視感。正しくデジャヴというものだ。どう記憶を回帰させようと既知だ。果たしてさっきの問いかけと答え方に未知などあるのだろうかと考えざるを得なかった。

 

 

 

ゆっくりと茶を啜る。ほんの微妙に苦味がある。それでもこの程度の苦味はどちらかというと落ち着くし、気に入っている。彼曰く、もっと苦めの方が好みらしい。

一度それに挑戦して思わず吐き出した――というよりあまりの苦さに吹き出したのは言うまでもない。あれは今の私には遠いものだと実感した。

 

ほんのりと甘いクッキーにほんのり苦い茶。なんだかピッタリである組み合わせ。やはり、彼はこう言うところですら熟知しているのだろうか。

そんなことを考えていた私に彼はいつも通りの笑顔を振り撒きつつ、訊ねてきた。

 

「魔導書何処まで読んだ?」

 

「半分は済んだから…あともう半分くらい」

 

「そっか。次はなんの魔導書がいい?」

 

今月に入って魔導書の注文は40に突入した。それでも彼は余裕があるのか、注文することを躊躇わない。まあ、噂になるほどなのだからお金には困っていないのだろうと思う。

 

……ここは甘える方がいいのかな? 

 

ふと過った。確かに今のうちに彼から貰えるものは大切に、貰えるだけ貰っておく方がいいだろう。だが、流石に甘えすぎている気もした。

だから、これが最後――

 

「…だったら、“あれ”教えて欲しい」

 

「“あれ”って?」

 

首を傾げ、何のことかを教えて欲しいという顔をする彼に、私は言いづらそうにしつつも、本気でそれを願っているのだということを伝えるためにそれを口にした。

 

 

「――“忘れ去られし魔法(デリート・マジック)”、《灼刃煉獄(フレイムヘイズ)》」

 

 

「………」

 

呆気に取られた顔をする彼。それもそうだ。その魔法の名称は愚か、その魔法の分類すら知らぬだろう少女にそれを欲されてしまえば。

驚愕し、口を開けたままポカーンとしている彼の目の前に手を翳し、振ってみる。反応がない。少しやり過ぎたのだろうか。――いや、そうではない。

反応はしないものの、彼は微かに何かを考えているように見えた。瞳。彼の瞳に何かが映っている? 見たことのない紋章だ。羽根があり二匹の蛇が巻き付いた――なんだこれ?

 

「……………」

 

今度は私が開いた口のままポカーンとする番だった。こんなものは見たことがない。常日頃から彼の瞳にはこんな紋章が映っていたのだろうか? 今まで見た魔導書にすら載っていない。そんな摩訶不思議で謎の紋章。その紋章は不思議と私を惹き付け――

 

「――わぁっ!? ちょ、近い、近いってば!!」

 

「…ふぇ……?」

 

――ていたが、彼の声によって現実に引き返された。と同時に現実に引き返された私の目と鼻の先には彼の顔。変な紋章が消えた綺麗な瞳がこちらを見ていた。

近い。恐ろしく近い。その瞬間、顔が真っ赤に焼かれるほどに熱くなり――

 

「わひゃあああああ!?!?」

 

前回同様に驚愕と羞恥による謎の奇声を発した私は反射的に彼の顔にビンタを見舞った。

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

この大陸で住むために借りたアパートがある町から離れた場所にある平原に私たちはいた。

ため息をつき、何故こんなに痛い一撃を喰らう羽目になったのかと自問自答する彼と――素直になれないまま、彼の顔を見ようとも気遣おうともしない私。

なんとも気まずい空気が二人を包み込む。原因は私にあるのだが、中々言い出せない、切り出せない。故にこの様だ。文句を言われても反論できやしない。

 

私のバカ…。また反射的にレインの顔を叩いた……。そろそろ慣れないと迷惑かけるのに…。

 

ため息が出た。目の前を歩いていた彼の背がビクンと動き、足取りが重くなった。自分のせいだと思っているのだろうか? ならば、早く誤解を解かなければ――

 

でも言い出せない。言い出せないからこうなっているのである。全くといっていいほど、私は変なところだけ緊張する。――いや、これは緊張というより……

 

「(………恋心が邪魔してるのかな…)」

 

よくある例ではあるが、恋する乙女というものは中々素直になれず、言いたいことや謝りたいことを言い出せない――らしい。“らしい”というのは元より私は村にいた頃は女の子らしさが薄かった。基本的にまだ腕白な部分が残っていたと言える。

乙女や女の子らしさに気がついたのは彼と出会ってからである。それも恋心というものに気がついて以来だ。だから感覚のようなものが鈍い。

 

…これだったらもう少し女の子らしくしてれば良かった…。実際料理することすら最初は出来なかったし…。レインに手を握られただけで……うぅ…。

 

再びあの時の記憶が蘇りそうになり、沈めようと躍起になる。あれは本当に地獄かと思った。丁度1ヶ月ほど前に恋心に目覚めたせいで彼の顔を見られなくなっていた時に突如彼が料理の仕方を教えてきたのである。彼に触れないように、彼に顔を見られないように必死に頑張ってはいたが、手を俗にいう“猫の手”にしていないことで彼が大焦り。反射的にやり方を教えようと手を握った途端に私は火魔法に顔を炙られたかのように真っ赤になり、気絶した。

 

そう思えば、今はかなり成長したと思う。以前の触られただけ、顔を見られただけで真っ赤になり気絶していたあの頃とは思えないほどに進歩した。

気絶することは無くなったし、普段は彼の顔を見て話が出来るようになった。それまでの間に何度彼が落ち込んでいたかなど数えることすら無理である。

出会った頃に私が勘違いで吐き散らした変態決めつけ宣言3連続並みに彼は落ち込んでいたのだから。

 

――などと脳内で循環させていると、彼が決心したのかこちらを振り向いた。

 

「え、えーっと……本当にそんな魔法でいいの?」

 

彼が最終確認をしてきた。当然私は「はい」と頷かなければならない。あの魔法を選んだのにも理由があるから。

 

「…ぁ、うん…。あれを覚えたい…だから――」

 

最後まで言い切らなければ意味がない。

 

「――私に教えて、レイン」

 

その言葉は私の正直な気持ちだった。言ってしまえば、いつもよりも感情が籠っており、譲れないという言葉を孕んでいた。

その言葉を聞いた彼は少し俯いたが、すぐに笑顔を取り戻すと、私を引き寄せ、抱き締めた。

 

「――っ!?!?」

 

突然のことに頭が上手く働かない。湯気が出ていそうだ。真っ赤に、我慢できないぐらいの恥ずかしさと嬉しさが同時に押し寄せ、感情の整理が追い付かない。

それでもここで気絶したらダメだと自分に言い聞かせ、彼の方をちゃんと向き、訊ねた。

 

「……なにするの?」

 

「…え、えーっと、その……。……お(まじな)いかな? あの魔法の修得にはかなりのリスクがあるから。最悪精神崩壊じゃ済まない。彼も言ってしまえば、遺産。古代人たちが造り出した巨大な遺産の一角。だから――」

 

笑顔を私に向け、彼は告げた。

 

「――最悪の未来なんて望まないけどね。元気な君を今のうちに抱き締めておこうかなって」

 

「…ふぇ……!?」

 

過剰羞恥(オーバーヒート)。言うまでもなく限界をぶっち切ったと言えよう。さっきまでのでもかなり無理があったのに彼は容赦なく朴念仁っぷりを私に叩きつけた。

――当然、こうなる。

 

「…ぁ……ぁあ……あぁ……ぅ……ぅぁ……ば…ばばばば、バカァ!!! レインのバカ!! 飛びっきりの朴念仁ッ!!!」

 

大海の激流の如き恋情を押さえていた理性という堤防が轟音を立てて崩壊。我慢していた全てが一気に流れ出す。正しく激流。正しく業火。当然のように容赦なく彼を責めたてた。

キツイ罵倒を言われた彼は呆然とし、口を開けたままフリーズしている。真っ赤になった私は彼の胸をポカポカと叩く。しかし、彼には効いていないだろう。但し、肉体的にだ。

精神面ではとんでもない大打撃を受けているのではないかと思うが、その頃の私にそんなことを考える余裕などある訳がなく――

 

我慢の限界まで溜め込んでいた文句を吐き終えるまで繰り返し彼を罵倒し、叩いた。

 

 

 

数分後、落ち着いた私は息を吸って吐き、呼吸を整えた。ちゃんと彼を見て、謝る。

 

「…ごめんなさい……言い過ぎた…」

 

「……う、うん……結構…心に来るね、君の言葉って…あはは……」

 

放心状態とは正しくこれのことか。彼の顔から薄っぺらい笑顔以外のものが消えていた。さっきまでの緊張感も何処へやら……。

しかし、流石はS級魔導士。すぐに自分を取り戻すと今度こそ私に魔法を教えるべく――

 

 

――私の額に自分の額をくっつけた。

 

 

「……うぅ……これ…意味あるの…?」

 

「ごめん。これ以外に僕のじゃ、すぐに伝えられないから」

 

目を瞑り、意識を集中させる彼の顔を私を眺めながら、覚悟を決めると私も目を閉じた。魔力を感じられるようになったお陰か、空気の流れも微かに感じる。風の吹く方向も、空気中の湿り気も、彼の体温も。

ゆっくりと意識を集中させ、私はどんどん見知らぬ境地へと向かっていく。暗い、暗い暗黒の世界。何も感じられないその場所で私は何故か彼の温もりを感じていた。

彼と額をくっつけあっているからではない。もう外がどうなっているかすら分からないのだ。だからここで彼の体温も感じられる訳がなかった。それ以前にここは何処なのだろうか。

ゆっくりと思考がここが何処かということを考えていく。心の中でもないし、精神世界でもない。別の何処かでもないし、予想がつかない、考えが纏まらない。

 

 

何処だろう……、スゴく優しい感じがして……。レインの暖かさを感じる……。

 

 

その時だった。一気に視界が開けた。暗黒だけの世界が一気に消え去り、同時に青白い焔が灯る七つの柱に囲まれた場所に出る。

上には巨大な穴。下には数多くの本が見えた。焔が舞い、光が微かに揺れ動く。本が少しずつ上へと吸い込まれていく光景はなんとも非現実的だった。

図書館のようで図書館ではない。そう思えるその場所には彼の温もりが何故か充満していた。彼はここによく来ていたのだろうか?

 

すると、目の前に一冊の本が現れた。本の表紙には見覚えのない紋章――いや、見覚えがある。それも今日見たものだ。彼の瞳に浮かび上がっていた二匹の蛇が巻き付いた杖の紋章。

つまり、これは――

 

「……レインの中………?」

 

信じられない。ただ意識を集中させただけだ。だが、実際彼の温もりも感じ、それでいて彼の瞳に浮かび上がっていた紋章までもが関係しているとなると、外の世界にこんなものが存在する訳がない。そうなれば、自然と彼が関わることとなる。

同時に私がここにいる理由など単純明快であろう。彼の額を自らの額をくっつけ、そして意識を集中させた。故に彼は私の意識をこちらに呼んだ――のかもしれない。

流石に理屈が分からないものだ。今の私では到底理解すら出来やしない。だから、ここはどうするべきか、それを考えるのが先――

 

『Wollen Sie,was es zu schutzen?』

 

薄い輝きを放つ一冊の本が何かを訊ねてきた。当然私にその言葉が理解できる訳ではない。だが、何故かその言葉の意味がわかるような気がした。

 

――本は問いているのだ、“守りたいものは存在するか?”、と。

 

だから私は答える。

 

「…守りたいものならあるよ。今ならある」

 

その問いに私は答えた。それを聞いたのか、感じたのか。本は故に問う。

 

『Nichts fur zerstoren?』

 

――本は問う、“滅ぼすためではないな?”、と。

 

再び私は答えた。

 

「守る力だけで十分。私は人を殺すための力は要らない」

 

あの村で見たものは全て覚えている。故に私はあれを繰り返したくないし、あれを起こす側にもなりたくない。人を殺すための力も殺そうと思うこともうんざりだ。

殺されたくないし、殺したくもない。だから、私は答えた。

 

さらに本は私に問い掛ける。

 

『Oder Wert ist da?』

 

――本は問う、“それに価値はあるか?”、と。

 

確かにそんな持論は時には役にも立たない足枷となる。自らの動きを阻害し、その者の身を滅ぼすだけの邪魔物になる。故に古人の中にはそれを“理性”の一部だと語るものもいた。

だが、ただ滅ぼすだけの殺戮者になる気は毛頭ない。だから、私は再び答える。

 

「価値がないなら私が創る。意味を成さないなら私が意味を創る。無価値なものなんてない。私はそれを知ってるから」

 

より一層輝きを増させる本。まるで私のことを見定め、認めようか判断しているかのように。すると、本は最後の問いだというかのように強く光を放つと、最後に私に訊ねた。

それはその本の作成者――いや、その魔法の神髄たるものだったのだろう。今なら分かるし、あの時の私でも理解できた。元々、その魔法の根源は――

 

 

『Oder Gegner haben zu lieben?』

 

――愛なのだから。

 

最後の本の問い。それは“愛する者はいるか?”、ただそれだけだった。訊ねたときの声音が若干安らかで優しい音を紡いでいた。後に私が知ることとなる、この魔法の存在理由――建前。

それは究極の焔を求めたいが故に。だが、それは()()()()()

本当の理由はただ一つ。簡単で単純で、それでいて優しく素敵な理由。

 

 

 

 

 

――単純に愛したい。恋情の焔に焼かれ続けていたいほどに未来永劫、大切な者を愛したい。

 

 

 

 

 

ただそれだけだった。その気持ちは届かなかったのかもしれない。だから――いや、だからこそ、私は魔法そのものにも、作成者の想いと願いにも誓おう。

 

 

 

 

 

「いるよ。すっごく鈍くて、優しく強い人。ずっと側にいたいくらい――大好きな人が」

 

 

 

 

 

 

 

自分の存在全てを象徴する真実を口にし、私は恋情の業火に呑まれた。愛するが故の罪を背負い、それを誇りとするために。

 

 

 

 

 

 

「――紅蓮に染まる天空に、咲き誇りしは、我が想い。故に咲くは、愛の華。我は誓う。

愛したことを悔やまないと。愛したことを喜びとするために。“天穣の業火”よ、ここに来たれ。崩れ落ちよ、咎人共よ。汝らに一切の慈悲はない。我が愛に呑まれて消えよ」

 

 

 

 

 

無意識に私は詠唱という唄を口ずさんでいた。これが作成者の想いの言霊なのだろうか。

それと同時に自然と私の脳には魔法の記述全てが刻まれていく。これが魔法だとは思えない。入ってくる情報の大半は誰かの記憶だったから。優しく笑う者とその者と共に笑う女の人。

二人の側で笑っているのは――銀髪の少年の姿。見覚えのある少年の姿だった。

 

究極の焔はそんな記憶の残滓を乗せたまま、私の中に入り込んでいく。彼は言っていた。最悪の場合は“精神崩壊”だけでは済まないと。

確かにその通りだ。少し頭が痛い。苦しい。それでも魔法が委託されると同時に起きた、この流出は止めてはならないし、止めることすらできない。

身を投げ出す。差し出すではない。流れに呑まれるだけでもない。自分が流れとなる。ただそれを繰り返しだけ。私はそれを意識しながら記憶の残滓に触れていった。

 

 

 

 

 

 

――この魔法の誕生した理由を。強く愛を求めた理由を。そして、悲劇のあの日を。

 

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

 

目を開ければ、自然と空が見えた。仰向けになっているのだろうか。不思議と地面も冷たいし、なんだか身体が熱い気がする。

別に変な気持ちも感じていないし、対して違和感として感じるほどでもなく、ただ空が自棄に綺麗だと思えた。目尻を拭えば、何故か濡れていた。

涙が溢れていたのだ。さっきまで見ていた記憶の残滓のせいだろうか。後半あれほど酷いものは見たことがなかったと思う。紅く染まった空と今見ている青い空では恐らく違いがある。

色だけではなく、ただ――

 

「――ツラかったのかな」

 

苦しかったのだろう。ツラかったのだろう。絶望というものを私は知っている。だが、それもさっきのものよりは優しく感じられるのかもしれない。

ふと込み上げた哀愁のようなものが再び涙を流させようとした時、私は何かに頭を撫でられた。だが、変に警戒するようなものではなかった。

優しい手付きで、私を落ち着かせてくれる――それは彼にしかできないもの。

 

「ただいま、レイン」

 

「…おかえり」

 

優しげな表情を浮かべた彼が私の顔をしっかり見て言葉を返した。彼には疲れが見えた。私には大した時間に感じなかったが、こちらでは結構な時間が経っていたのだろうか?

それとも、私をあちらに繋ぐのに体力を消費したのだろうか? それでも彼には疲れと一緒に達成感が滲んでいた。故に彼は嬉しそうだった。

 

「ずっとこんなの背負ってたの?」

 

「まあ…ね。でも、これのお陰で救えたものも沢山あるし」

 

嬉しそうに笑う彼の姿は私にとって他のものより愛しく見えた。あの魔法のせいだろうか? 

いや、元から思っていたのだ。思っていたけど私が素直じゃなかっただけ。

だから想いを膨らませよう。ここできっちり決めておこう。

 

彼は優しくて、強くて。それでいて――変な人。

 

故にこんな人だから私は惹かれたのだろう。正直、私は普通な人に惹かれるような女ではなかったのかもしれない。彼だから――かもしれない。朴念仁で正直、強くて誰かに頼られる。

だからこそだろうか、ここで疑問が浮かび上がった。

私みたいな変な子が惹かれるということは他にもどうせ好かれているのではないかと。

だから、私は小悪魔みたいに彼に告げよう、縛ろう、貴方は私のものだと宣言するために。

 

 

 

 

 

「ちょ、わぁっ!?!?」

 

 

 

 

 

私は踵を返すかのように振り向くと、彼を勢いのままに押し倒した。ゴツンと頭をぶつける音が聞こえたが、今は無視して彼の顔を凝視する。

驚き、そして首を傾げる彼に、私は悪戯っぽく笑った。紅蓮に咲く華のような姿と化した私。その私の髪は彼の視界を私以外の他から外した。灼熱の如き髪と瞳で私は彼に告げる。

いくら鈍くても分かるように、いくら鈍くても伝わるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いつもありがと。前から想ってた。好きだよ…レイン。他の子になんか渡さないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一世一代の大勝負に私は挑んだ。いつか彼と道も想いも結ばれるように――

 

 

 

 




さてと、ちなみに最後のシャナの言葉に対して。レイン(僕の方)はお返事は返せてません。

多分決着は大魔闘後半以降か、冥府の門くらいじゃないですかね?

そこのところがまだ決まってないんですよ。オリキャラをこうほ考えなければウェンディ

だったんですけど……。なんか気がついたら迷走し始めてました。ヤバイな、シャナも

フィーリもヒロインしてるわ(笑) ………ウェンディどうしよ?

P.S.
今回の話は11000文字位です。まあ、改行多めだったしなぁ……。
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