FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹   作:天狼レイン

70 / 80
どうも、皆さん。作者の天狼レインです。投稿遅れてすみません。

まあ?今回は駄文要素多いかもしれません。まあ、それは置いておきまして。(ポイッ

今回は前編になっています。まあ、サブタイトル見たら分かりますよね。

それと本編の最後の方に久々にレイン登場します。しかし、かなり暗いこと言ってます。

というよりも自分のことを自虐的に言ってます。愚痴ってます。結構凄い過去を吐露

してます。まあ、7年もあれば失っていた記憶の大半は取り戻すでしょう。

今回、レインの愚痴部分で結構伏線を回収します。呼んでいたら、恐らく気がつく人は

気がつくでしょう。レインが何者か、どういう過去を辿ったか。これからどういう運命

を選ぶかとかね。まあ、そこを含めてお楽しみください。

フィーリ登場は次回です。それでは本編どうぞ。

P.S.
今回なんか文章がDies iraeっぽいです。なんでこうなった……。
あと今回出てくる異名はゾロアスター教って奴にあるザラシュストラ項目に出てくるもの
の一部です。確か裁きやらなんちゃらかんちゃらのやつです。属性も焔だったと思います。
興味のある人は調べてくださいな。結構面白いので。




第五章 滅竜演舞 渇望流出
おかえり、みんな… 前編


「ふぁぁ……、うぅ…。…もう朝なんだ……」

 

眠気が取れないまま起床した少女は大きな欠伸をしていた。黒い長髪に茶色混じりの瞳。寝癖があったらしく綺麗な長髪はボサボサであり、目尻からたま粒の涙が溜まっていた。

指先で目元を何度か擦り、眠気を欠伸と共に追い出すと少女はトテトテと歩いていき、真っ先に洗面所で顔をしっかり洗う。冷たい水に何回か跳び跳ねそうになったが、それに耐え、綺麗に顔を洗い終わるとタオルで拭いた。

 

「…よし。そろそろご飯食べなきゃ」

 

目が覚めた少女はすぐにキッチンに向かい、適当なものを選ぶとそれで朝食を作り始めた。彼に習ったお陰で大概の料理はできる。だから朝っぱらから焦げたものを食べる心配など皆無だ。その分安心も出来るし、朝から調子良くいける。

慣れた手付きで薄く広がった卵を巻いていき、卵焼きを。ご飯も同時進行で炊き上げ、野菜も切り揃え、サラダに。その他のことも抜かりなく済ませてパジャマ姿のまま、テーブルに食事を置くと早速食べ始めた。

 

「……もぐもぐ……」

 

しっかりと噛む。噛まないと飲み込めないやよく噛んで食べることで消化が良くなるなどと何度も教え――もとい頭に叩き込まれたために無意識に噛むことにしている。

これも彼のお陰なのだろう。だが、色々と厳しかったのも言うまでもない。そんなことを頭の片隅で考えているとあることに気がつき、大慌てで寝室に戻った。

 

「あ、“あれ”何処に置いたんだっけ!?」

 

リビングから廊下に飛び出し、大慌てで駆け回る。駆け回った末に寝室に戻ると、掛け布団の中に置き忘れていた、鞘に納まった飾り気の少ない紅蓮に燃え盛るような姿の太刀を見つける。

 

「…あ、あったぁ……良かった~……」

 

そう呟くと安心したのか、息を吐くとそれを握り締めた。

何故それがベッドの中にあったのかなど、理由は至極単純。ただ一緒に寝ていた――いや、言うなれば、抱き枕代わりにして眠っていたのだ、()()()

左手に太刀を握ったまま、リビングに戻り、少女は再び食事を取り始めた。食べている速さはさっきと変わらない。ただ太刀があると言うだけで何かが変わって感じる。

独りじゃない、ずっと彼が見守ってくれている。その安心感がとても心地よく感じる。ヒヤリとした鞘の冷たさが少女の身体には馴染んでいた。

いつも身体が熱く中心から燃え上がっているような感覚に囚われている少女にとっては。

 

「ごちそうさま」

 

そうこうしているうちに食事を食べ終えると皿を急いで洗う。その最中、少女は鼻唄混じりだった。これも彼から教えてもらった曲だ。好きな曲一位といっても過言ではない。

 

「フンフンフフ~ン♪ フンフンフン~♪」

 

なんだかこれを鼻唄として歌うときが一番朝が来たと感じる。何故か“朝にはこれ”と言う感じに決まってしまっている。当然選ぶきっかけになった理由など無い。ただこれが安心する。

 

皿を洗い終えると少女はまた寝室に向かう。今度は着替えるためだ。すぐさまパジャマを脱ぎ捨て――ようとして急いで畳み直した。少し背筋に寒いものを感じたからだ。

別に大した理由はないし、咄嗟に脳裏で少し怖い顔をした彼の姿が浮かんだ訳ではない。

朝は少し寒い。そのため少女は急いで服を選ぶとそれを着る。短めのスカートによくギルドのみんなからセンス悪いのどうのと言われる一文字のTシャツ。いつも通りの服装だ。

それに加え、少女は手から焔をボッと出しつつ、それを横に広げるように動かす。すると焔は次第に温度が下がっていくかのように真っ黒な――常闇の如きマントに姿を変えた。

それを羽織るとスカートについているベルトに鞘に納まった大切な太刀を差し、着替えを済ませた。一見少女には少し似合わないような服装に見えるが、何故か雰囲気も合っていて、それらしいと感じさせられる何かがあった。

 

「よし、そろそろ行こっと」

 

最後に微かに残っていた眠気を小さな欠伸で押し流すと、寝室のベッドの隣に置いた小さな机の引き出しからメモを取り出すと、それを確認した。

 

「えーっと…マグノリアの街、魔導士ギルド《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》…。うん、これであってる」

 

読み上げ、メモを黒羽織のマントのポケットに突っ込む。ゆっくりと玄関を目指しつつ、少女は嬉しそうに微かに頬を染めたまま、呟いた。

 

「……レイン、帰って来てるかな……」

 

そして少女は家を出た途端に背中から焔の翼を展開し、空へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

ハーブの街でシャナがマグノリアを目指し、飛翔した数分後。

 

マグノリアの街の中心から離れた場所にある廃れた酒場に炎髪の少女が目指すギルドがあった。かつてマグノリア――いや、フィオーレに名を轟かせたギルド、《妖精の尻尾》。

そのギルドがそこに存在していた。しかし、以前の貫禄も威厳もそこにはなく――ただ押し込められていたという言葉が似つかわしい存在に変わってしまっていた。

丁度シャナが飛翔した頃、高利貸しの借金を取り立てにきた新しいマグノリアの代表ギルド、《黄昏の鬼(トワイライトオーガ)》のティーボ等が彼らのギルドを襲撃、思うがままに暴れ続け、中は滅茶苦茶にされていた。

彼らが去った後、何処から落ちてきたのかリーダスのスケッチブックがバサリと床に落ち、中からなにものより変えがたかったはずの彼らの絵があった。

 

 

「あれから7年か………」

 

葉巻を吸う男、ワカバがかつての懐かしい光景を思い出しながら呟いた。事実あれから7年が経過している。今ではすっかり歳を取ったと言えるだろう。

 

「懐かしいな」

 

顎に髭が生えた男。マックスもワカバに続いてその言葉を口にした。

 

「グス…。あれ以来、何もかも変わっちまった」

 

「天狼島が消滅したって話を聞いて、必死にみんなを探したよな」

 

あの日、ギルドの最強メンバーだったみんなが天狼島諸とも消滅したという知らせを聞いて彼らは一人の少女の後を追うようにハルジオン港から天狼島近海を捜索した。

だが、そこには島の残骸や停泊していた船の残骸も見当たらず、仲間たちの誰も見つからなかった。ただ見つかったのは泣き叫び、精神に異常を来した状態だった少女フィーリだけ。

あの後彼女が投獄された時は背筋に戦慄が走るほどに焦ったが、無事に出された。

しかし――

 

「……レインやウェンディがいなくなってからあの子も追うように行方が分からなくなったよな……」

 

「ああ…、今では生きてるのかさえ…分からねぇんだ……」

 

丁度3、4年前になるだろうか。フィーリの活躍がフィオーレ中に轟くほどになり始めた頃に評議院事態もそれを認識し、彼女を新しい“聖十大魔道”として認めようと召集したのだ。

聞いた話ではその際に受けとることになっていたのは第十位。7年前にジュラがその地位についていた所だった。その際にどの議員が漏らしたのかは分からないが、レインやマカロフの十位を破棄しようとしていたらしく――

 

「――丁度その時が最後の目撃情報だったよな……」

 

それがフィーリの最後の目撃情報だった。当然こちらも彼らは必死に探したが、見つからず、結果断念することとなってしまった。

唯一情報として提供されていなかったのが、ワース樹海の一角だったが、そこはギルド自体も立ち入りが禁止されていたために入れず、その上そこに入るための許可証もまたS級魔導士のみだったのだ。

 

「……もしレインやウェンディがいたら、俺たちのこと、なんて言ったろうな…」

 

「確実に怒鳴られるのは当然だろうな……」

 

7年前に幾度か見たが、ウェンディはともかく、彼の怒った時の形相は修羅や夜叉を思わせるようなとてつもなく怖いものだったのを覚えている。

それに加え、彼は微かに親バカを匂わせるような雰囲気を纏っていた。つまり、大切な娘的存在たるフィーリが行方不明など聞けば、怒鳴った後、血眼で探すだろう。

だが――

 

「…あのレインでさえ……もう……」

 

結局のところ、その者ですらここにはいないし、見つからなかった。あれほどの絶対的な実力と、あらゆる者から称賛を受けていた彼ですら。

正しく化け物。正しく、容赦ない世界にあらんとする天空からの裁きたる彼が。少年の容姿を除けば彼はとてつもない貫禄もあっただろう。あれから7年だ。その7年で容姿は変わっていたかもしれない。真実を知らぬ者共ならば、そう思うだろう。いや、そう思わざるを得ない。

当然だ。こんなにも近くに人外の存在がいるなどと。誰が予想できようか。否、出来まい。

故に――

 

「評議院の話が本当なら、“アクノロギア”ってのに島ごと消されたんだ」

 

彼らは知らない。今もなお、彼らが――いや、彼を除いた仲間たちがいつ覚めるかという眠りに身を任せ続け、絶対なる結界の中にいようなど。

その結界を解くべく、彼と彼の実妹が()()()()()()などと。

 

「実際、いろいろな機関が捜査に協力してくれたけど、何も手がかりは見つからなかった」

 

当然だろう。壊れる前に絶対なる結界がそれを防いだのだから。

それもこのギルドの者ですら僅かしか一切を知らぬ法。妖精三大魔法が一つ。《妖精の球(フェアリースフィア)》の発する効力、絶対である法。

ギルドメンバーをあらゆる悪から守る。それがその法であり、我がギルドの誇り。故に絶対。当たり前だ。手がかり? そんなものは壊されてもいないというのに残す訳がない。

誰も見つからない? そんなものも流されてもないし、吹き飛ばされてもない。誰かが見捨てられる訳がないだろう。これは守護なのだぞ? 守ることにおいて右に出るものなどいない。出られるものなら出てみせよ。試してやる。如何なる頑丈さ、強固さ、絶対さ。それ総てを試してやろう。――と、彼ならそう言うだろう、今も眠らぬレイン・ヴァーミリオンならば。

 

ふとしている間に時は進む。当然彼らの嘆き混ざりの会話も進む。

 

「そりゃそうだよ。あの日……天狼島近海のエーテルナノ濃度は異常値を記録してる。あれは生物が形をとどめておけないレベルの……」

 

「なんて威力なんだ!! アクノロギアの咆哮ってのは……!!!」

 

「だって……大昔にたった一頭で国を滅ぼしたっていう竜なんだろう!!? ()()が……そんなの相手に生きていられる訳が……!!!」

 

ウォーレンが悲痛な叫びを上げた。気持ちは分かる。くどいと一刀両断されてしまうだろうが、彼は人間じゃない。故にそう易々と死ぬような塵芥ではない。

当然彼は守りたいと願い続ける。それが彼だ。彼は守れるものを守りたいがために力を欲し、そこまで駆け上がった魔導士(もの)だ。悪魔に堕ちようが、堕ちまいが。彼にとって守ることは特別。自らの身を捨ててまで彼は守りたい誰かのために危険を承知で守ろうとする。

そして彼は《妖精の球》を発動させた。不安定ながらもそれは見事に“危険な存在(レイン)”を視認したアクノロギアが放った、威力を更に増させた咆哮すら防いだ。

一体それにどれ程の巨大な魔力を消費しただろう。それは彼にしか理解できず、知ることがない。急激に魔力が減った魔導士の苦痛などその者にしか分からんのだから――

 

「何で俺たちの仲間を……」

 

ふとドロイが悔しげに呟いた。実際そうだ。何故彼らが襲われることになったのかなど、襲った当の本人――いや、竜であるアクノロギアしか知らぬことだ。

 

ドロイのそれに続くように……

 

「あいつらがいなくなってから、俺たちのギルドは弱体化する一方。マグノリアには新しいギルドが建っちまうし」

 

それがあの“黄昏の鬼(柄の悪い高利貸し)”だ。

 

「“たたむ”時が来たのかもな……」

 

「そんな話は止めて!!!」

 

ワカバの言葉に怒鳴るラキ。流石にあれは怒られるだろう。不吉極まりない。そういうものは本当に最後という時にこそ使うべきであろう。まあ、当然のことながら彼がそれを認める訳がない。彼は初期から存在し、一度消えては戻ってきたのだから。

つまり、知っている。秘密も理由も由来も総て。

故に紡いできた何十年間を――メイビスの悩み過ごした日々そのものが体現した結晶(ギルド)を無駄にすることは許さんだろう。

 

その傍らで一人の男が項垂れたまま、何も呟かない。だが、うめき声だけを溢す。その様子に驚いたワカバは男を訊ねた。

 

「!! どうした、マカオ?」

 

暗い表情のマカオ。すると、彼は漸く口を開き、吐露した。

 

「………俺はもう、心が折れそうだ」

 

あれから7年間、ずっとこのギルドを支えてきたのは一重に彼のお陰だ。その彼はここまで疲弊している。それほどまでにこの7年間が厳しくツラいものだったのだろう。

 

「お前はよくやってるよ、マスター」

 

ただの気を紛らせるだけの言葉ではあるが、今のマカオには言われないよりは幾分かマシな言葉であった。

それに本心を刺激されたのか、マカオは更に悩みの種たるものを吐いた。

 

「あれ以来………ロメオは一度も笑わねぇんだ………」

 

そうして彼は泣き顔を晒した。それに引き摺られるように仲間たちも返す言葉を失い、その場を肌に刺さるような静寂が包み込んだ。

 

――そんな最中だった。外から大きな騒音を撒き散らしながら何かがこちらに向かってくる。

それに気がついた彼らは急いでギルドの外に出ていく。すると、そこには――

 

「お…おお……!!!」

 

「あれは!?」

 

空に浮かんでいたのは巨大な船。船体の側面には翼。巨大なラクリマが見えるそれは風の噂でよく耳に届く代物。

かつて妖精と天馬、蛇姫と化猫が連合軍として六魔を討つこととなった作戦で姿を見せた、《青い天馬(ブルーペガサス)》が誇る魔導爆撃挺、クリスティーナ。その改良型だった。

 

開いた口が中々塞がらない彼らに、聞き覚えのある声が届いた。

 

「くん、くん、くんくん、くんくん」

 

何故か挨拶代わりに匂いを嗅ぐイケメン(変なやつ)。それが船首に立っていた。もしここにエルザがいるならば、すぐさま嫌な顔をし、近づいたら問答無用で殴り飛ばしただろう。

それほどまでにキモ――変なやつだ、その男は。

そしてその男は匂いを嗅ぎ終えると同時に口を開く。

 

「辛気臭い香り(パルファム)はよくないな。とぅ!!」

 

もはや口癖と言うべきその言葉を告げ、男は船首から何の躊躇いなく飛び降りた。何度か回転しつつ、着地をバシッと決める――

 

「メェーン!!?」

 

「「墜ちんのかよ!!!」」

 

――はずだった。着地寸前に態勢を変え、そういう分野のプロビックリの着地を決めるかと思いきや、その男はそのまま頭を下に墜落した。更にギルド前の石畳を粉砕する。

あとで直す時には修理費を出してもらえるのだろうか。いや、逆に出してもらわないと可笑しい――ことにしておこう。

とにかく、その男は地面に突き刺さっている。どういう原理だろうか。

そんなことはさておき、この男こそが――

 

「あなたの為の一夜でぇす」

 

7年前より髪が長くなった《青い天馬》の主だった魔導士の一人。一夜・ヴァンダレイ・寿。その人である。変なところは相変わらず変わることなくこれである。

 

「おまえ……」

 

懐かしの戦友。それに出会えたせいか、彼らの気の持ちようが少しだけ変わっていた。すると、一夜に続き後続と言わんばかりに彼らも降り立つ。

 

「一夜様、気持ちは分かるけど、落ちついたら?」

 

「俺……空気の魔法使えるし」

 

「みんな久しぶり」

 

そう、彼らだ。

 

「やあ」「ヒビキ!」

 

「フン」「レン!」

 

「マカオさん、また老けた?」「イヴ!」

 

トライメンズの三人。彼らもあの時ではそれぞれで活躍を見せ――ていたと思う。

理由など単純。レインがニルヴァーナの魔法を相殺するという馬鹿げたことをしてしまったためにクリスティーナはただのお飾りになってしまった。

あれを考慮してたのか、していないのか、クリスティーナは改良型である。

 

そんな中、彼らの登場にドロイが口を開いた。

 

「か……かっけー………!!」

 

まあ、端から見たらカッコいいだろう。“ある部分”を除けば立派なイケメンであることは間違いない。ある部分というのも――

 

「ラキさん、相変わらずお美しい」

 

「お……お前眼鏡似合いすぎだろ」

 

「“お姉ちゃん”って呼んでいいかな?」

 

「あの……」

 

――正しくこれだ。何故か彼らは女性を手当たり次第に褒める。それも美しい人ほど褒めるのだ。どうしてこうなったのだろう。いや、それ以前にレンに関しては恋人(シェリー)がいるだろうが、と叱責されても仕方のない状況にある。もしエルザがいれば説教間違いなしだったと見える。

 

それに対し、マックスが叫ぶと続いて今度はキナナにナンパを仕掛ける。これまたどうしてこうなるのか、よく分からない。もしやあれだろうか。

青い天馬は四六時中ナンパの特訓をさせられるような場所なのだろうか。それって魔導士ギルドなのかと不思議に思ってしまう一同に、漸く態勢が整った一夜が彼らに叱責する。

 

「これ!! お前たち、遊びに来たんじゃないんだぞ!!」

 

「「「失礼しやした!!」」」

 

一夜の叱責から約一秒も立たずにすぐさま頭を彼女らに下げた三人に思わず謝罪を受けた当の二人は肩をビクリと震わせた。

 

「おい、一夜」

 

「一体、何が……」

 

漸く調子を取り戻したマカオとワカバは四人が何故訊ねてきたのかということを訊ねようとする。だが、その刹那――

 

「な、なんか暑くねぇか?」

 

「ホントだ、なんか暑ぃ……」

 

「可笑しいな、さっきまでこんなに暑くは……」

 

急激な気温上昇が彼らを包んだ。可笑しい。正しくそう言える。先程まで丁度いい気温だった周囲の温度が急激に上昇している。まるで近くに熱源が現れたような……。

ふとそう思った彼らが咄嗟に上を向いた時、()()()()()をはためかせ、降り立ってくる何かに気がついた。

 

巨大な焔。全てを呑み込んでしまうような強大な何か。圧倒的な圧力を感じさせるそれに彼らは本能的に畏怖を感じた。()()()()()()?

魔力の質が違う。高純度と言うべき、一切の無駄がない。純粋な魔力の塊だ。それなのに何だろう、この恐怖心を微かに芽生えさせる存在は。何かだ。何かがここに来る。別に敵対やこちらに対しての戦意、殺意は一切ない。だが、何かが分からないから怖い。

震えを微かに感じた。身体が震えてくる。何だよこれ。あり得ない。知らない何かがこちらに近づいてくるだけでなんでこんなに恐ろしいと感じるのかと彼らは思った。

それに加え、ここはマグノリアだ。いくら離れていようともこの辺りに闇ギルドなどの勢力が来るならば、評議院だって反応する。だから恐怖を感じさせるものは来ることができないはずだ。なのに――なんだ、これは。やはり分からない。なんだ、なんだよ、これ。

 

そう本能が叫び出す彼らはそのまま降りてくる何かに怯えていた。そして、ゆっくりと、ゆっくりと、それは近づいていき、降り立った。降り立った途端に紅蓮の大翼は姿を消し、それを発生させていた本人が姿を現した。少女だ。見たところ、ウェンディと年齢は変わらないようだった。それなのになんだろう、これは。

見たことのない魔力の大きさだ。――いや、ある。しかし、これよりも更に巨大だった。

彼だ、レインだ。彼と似ている。魔力の規模は違うが、似ている。

根本的な魔力の質が似ている。他の――普通の魔導士とは違う高純度と言える魔力。それが少女の身体から感じられた。

 

すると、漸く肩の力を抜いたのか、少女は軽くため息を溢すと、こちらを見て口を開いた。

 

「レイン……帰ってきてる?」

 

炎髪灼眼の少女はただそれだけを口にし、訊ねてきた。見た目ではそれほど怖いとは何も感じなかった。だが、内包する魔力の質が何故か恐怖心を抱かせる。

呆然としたままのこちらに怪訝そうな顔をすると、少女は再び訊ねてきた。

 

「レイン……帰ってきてる?」

 

「……いや、その……帰ってきてない」

 

声が震えていたが自然と口にできた。だが、それを伝えた途端、言い方に気を付ければ良かったとマカオはすぐに後悔した。何せ、レインは仲間たちと一緒に行方不明だからだ。

彼女も魔導士ならば知っているはすだが、傷口を開かせてしまったのではないかと思った。すると、予想だにしないことを少女は口にした。

 

「ふ~ん? まだ…なんだ。迎えにいく人いないからかな…。多分全員目が覚めてると思うけど……」

 

「目が……覚めてる……?」

 

なんのことだが理解できない。だが、何度も口にするうちに意味合いが段々と取れてきて――

 

「どういうことだよ、お嬢ちゃん…」

 

ワカバが驚いたまま訊ねた。意味が分かってきても呑み込めない。どういうことだと訊ねるしか答えがないのだ。

漸く感づいたこちらに少女は呆れ半分な表情でこちらを見ると、簡単に答えた。

 

「………なにって、()()()()()()()()ってことだよ」

 

「「「なっ!?!?」」」

 

マカオたちは驚愕した。もういないと思っていた仲間の一人が生きていると言われれば、当然驚く。それもこの少女はレインのことは愚か生きていることすら知っている。

それはつまり――

 

「あんた……レインの知り合いか…? それとも……評議院か何かの…?」

 

「……評議院の狗になったつもりない。あんなのただ上司(うえ)に尻尾振ってるだけの忠犬だし、私でも価値が見出だせない。なんてことは置いといて……まあ、そうだね。レインの知り合いというのは合ってるよ…?」

 

少女は前半評議院について軽く蔑むと自分がレインの知り合いであることを肯定した。驚いた。やはりレインは色んな所に知り合いがいるのだということが理解できた。

すると、先程まで空気だったトライメンズが命知らずに少女に近づき、ナンパを仕掛けようと動いた。――刹那

 

「……()()()()?」

 

殺意の籠った言霊が少女の口から放たれ、高純度な魔力が滾滾と溢れ出す。その魔力に圧倒され、彼らはそのまま動くことさえ出来ずに固まった。別に魔法による呪縛ではない。

ただ身体が硬直したのだ。近づいては行けない。そう叫んでいるのだ。本能的に危険だと察知したのだ。三人が動かなくなったのを確認すると、少女は再び口を開く。

 

「……そろそろ自己紹介した方が良さそうだね。……私はシャナ。シャナ・アラストール。魔導士ギルド《帝王の宝剣(エンペラーブレイド)》に所属する二年前にS級に昇格した魔導士」

 

「……シャナ? あれ…シャナって確か……」

 

「思い出した!! 《帝王の宝剣》のシャナって言えば、新進気鋭でありながら、すでにS級資格持ちの実力者。前回のあの大会にも出てた子じゃないか!?」

 

「それに確か異名は……《火焔天(アシャ・ワヒシュタ)》」

 

驚きを隠せない一同。先程まで殺意を向けられ固まった三人も漸く思いだし、今度は警戒態勢を取った。取った理由など前回のあの大会で彼らは彼女と相対している。

それと同時に順位で負けたことも思い出したからだ。

 

「まさか来るなんて……」

 

「お前…何のようだ……?」

 

「…君は何故ここに……?」

 

警戒しつつトライメンズの三人はシャナに訊ねた。すると、炎髪灼眼の少女は素っ気なく答える。

 

「……大した理由はないよ? ただレインが帰ってきてるかなって思っただけ…。それとあんまりその異名は好きじゃないから言わないでほしい…」

 

軽く要件を喋ると、シャナは《火焔天》というあまり喜ばしくない異名を言われたことに対して不服そうにし、それを口にしたマックスを軽く睨んだ。

インパクト的なものはないが、鋭い殺気のようなものを感じ、マックスは後ずさる。これを他の誰かが見ていたら腹を抱えて笑い、侮辱しただろう。しかし、恐ろしさを知らないものには分かるまい、この威圧感を。

 

「……………。ふぅ……そろそろ本題に戻ってもいいよ。私帰るから」

 

シャナは素っ気なく言うと、背中から先程の紅蓮の大翼を生やすと、そのまま飛翔しようと腰を屈めた。地面を強く蹴り、空へと舞おうとした刹那――

 

「一つ聞かせてくれるかい?」

 

ヒビキが止めた。シャナに恐れることなく見る。他のものは動くことすら叶わず、ただ過ぎ去るのを待つばかりなのに。彼らが見守る中、ヒビキは考えていたことをシャナに訊ねた。

 

「君とレイン君はどういう関係なんだい?」

 

その質問に虚を突かれたか、シャナも驚いた顔を見せた。腰を屈めたまま、指先を唇に添え、答えを纏め上げると、指先を退け、素直に答えた。

 

 

 

「私を救ってくれた命の恩人。……それと――私の好きな人」

 

 

 

それだけを答えると少女は今度こそ地面を蹴りあげ、空へと飛翔。続いてそのまま向こうの方へと消えていった。

それから2分ばかりの時間が経ち、彼らは地面に座り込んだ。威圧感だ。あの威圧感に疲れたのだ。呼吸を止めていたのかと思うほどに荒い呼吸を繰り返すと、マカオが漸く口に開いた。

 

「……な、なんだったんだ…さっきのお嬢ちゃんは……」

 

「分からねぇ、だけどとんでもねぇな……」

 

「あんな少女がS級なのかよ……」

 

「素晴らしい香り(パルファム)だった」

 

「一夜、今それは言わない方がいいんじゃないか?」

 

「だな…」

 

一人を除いてぐったりとした全員。それぞれで色々と口にする。そんな中、空を見上げたまま、少女に質問をしたヒビキは小さく呟いた。

 

「……好きな人…か。レイン君は本当に罪な人だね……。今度、青い天馬(うち)に来ないかと勧誘してみようかな…」

 

静かに、ただ静かにヒビキは感想を抱いた。飛び去る前に見せた少女の笑顔。うっすらと染まった頬。あれはやっぱり恋をしている少女の顔だ。

そんなことを微かに考えながら、ヒビキもまたかつて好きだった女性のことを頭の片隅で浮かべた。

 

 

 

 

 

 

――◆――◇――

 

 

 

 

 

丁度その頃、天狼島では……

 

結界を眺めたまま一人の少年が大きな欠伸をしていた。元気そうだ。ただ先程まで寝ていたのか、髪がボサボサである。ボサボサであろうと少年の髪は綺麗な銀髪だ。

それに加え、茶色混ざりの瞳が輝いている。何処にも不安を感じさせる要素はない。よもや外では自分達の安否を心底心配している者たちや怪我してないかと思う者たちがいるだろうに、彼はそれを容易く捨て去せるほどに健康そのものだ。

再び大きな欠伸すると、背伸びをする。悪魔であるためにこれ以上は身体が大きくなることもなく、当然成長することはない。まあ、言ってしまえば“器”に過ぎない。

レイン・ヴァーミリオン、レイン・アルバーストという人間の魂の器だ。どちらも自分。どちらも一つの魂だ。二つも名があるのは痒いことこの上ないが、それでも捨てるには勿体ない。どちらの名にも妹が存在するし、慕ってくれた人がいる。

それを片方邪魔だから捨てようなとど言ってみろ。その日にはどっちかの慕ってくれた人が呆れるか、嫌悪するか、それとも怒りの形相で襲ってくるかしかない。

つまり、要約すれば、大切な名前を捨てるなと言うことだ。それもどちらも大切な()()がつけてくれた名前だ。捨てるなど親不孝者でしかない。

 

だが、名前云々以前に悪魔に成り果てた奴である以上はどちらにせよ、親不孝者だ。生きるため、強くなるため、約束を守るため――いいや、違うね。

俺はただ死に絶えるという運命に嫌悪し、虫酸が走るような想いで毒薬を掴んだに過ぎない。

それがどんなものかも完全に理解せずに、薬だ、やった助かるなどと馬鹿げたことを考えて躊躇いなく毒薬を口にしたに過ぎない大馬鹿野郎だ。

 

生まれた頃はどれほど穢れていなかったのだろうかと思うほどに、今の俺はどうしようもない塵芥(ゴミ)だ。最初に訪れた残酷な運命から今までに何度も分岐点があり、結末が変わっていただろうに俺は自らのことだけを考えずに誰かのことばかり優先して――自分が救われない結末を選び続けた。

 

その結果、()()()大切な妹を失うわ、ある少女を庇って自らの存在自体が可笑しくなるわ、メイビスという二人目の妹を死なせてしまうわ、行く先々で大切に感じた人々が死んでいくわ、大切な妹に似た自らを禁忌に触れただの穢れているだの言った《死人使い(ネクロマンサー)》のような魔法を持ってしまった少女ですら腕のなかで死んでいくわ、純粋を体現した村の少女も自らの命を自分で奪う羽目になるわ――何度奪われたか分からなくなってくるほどだ。

他人の人生を狂わせることがお好きなのかね、俺は。そう自らに愚痴った。印象に残ったものだけを数えただけで全部で8つだ。共通点も全く一緒。呆れてしまうよ、本当に。

それら全部俺がこんな風に想ってしまったからいけなったんだ。

 

ただ――守ってあげたい。守り切りたい。

 

それだけを想った結果がこれだ。疫病神そのものだよ、俺は。

全くもってそれしか言葉にできない。これはあれか? “アンクセラムの呪い(タチの悪いあれ)”の別バージョンか? 守りたいと思うほどに奪われる? ふざけんな。俺はあと何回奪われればいいんだ? 運命(おまえ)の言いたいことはあれか? 俺は一生奪われ続けるのか? それこそふざけんな。

神がいるなら一刀両断にしてやりたいほどだ。

 

「……人を愛してはいけないか。まだそれの方が少しマシかもな」

 

今は眠っている“矛盾の呪い”に俺は小さく呟いた。愛さなければ大丈夫なものなら幾分かマシだ。何処かの穴蔵でずっと閉じ籠っていればいいだけだからだ。

だが、これは違う。閉じ籠っていれば確かに大丈夫だ。しかし、俺は悪魔。不老不死者ではない。悪魔の身体にも寿命はある。ざっと100年程度。俺の身体も実際後一年持つかってレベルだ。故にあと半年ぐらいで崩壊が始まる。回避するにはあの場所で再誕でもしなければならない。そうなれば、今度こそ歴とした悪魔だ。どっちにしてもクズでしかない。

かといって閉じ籠る以外に何処かをただ歩いていれば、自然と人には出会う。そして気がつけば守りたいと思う。そうなれば、また悪夢が始まる。一瞬で奪われる恐怖に苛まれ続ける。

ならば、いっそ死んでしまえばいいんじゃないかと思う。だが、死ねない。別に死ぬくらいはできる。怖いから死ねないんじゃない。生きたいという訳でもない。

 

ただ――もう想ってしまったのだ、二人も。今この結界で包まれた島の中に眠る藍色の長髪の少女と、外の世界で今も懸命に生きている焔に愛された少女。守りたいと想ってしまった。

だから死ねない。放っておけないのだ。二人には幸せになってほしい。未来を掴み続けて欲しいのだ。後悔しない人生を送ってほしい。それだけが俺の心残り。

俺に関わった時点で彼らの運命には常に絶望の未来が付き纏っている。いつ何処で絶望しかない未来が来るか分からない。7年前にもそんなことがあった。

 

ハデス――いや、プレヒトが最初にウェンディを消そうとした時のことだ。あの時も俺が関わっていなければ彼女はそこまで危ない結果にならなかっただろう。

俺と関わったから――ルーシィの星霊が助けに行く時に少し遅れた。あそこで俺がウェンディに結界を纏わせていなければ今頃ウェンディはこの世には居なかった。

俺と関わったが故に理不尽な終焉を迎える所まで行きかけたのだ。

 

それがこれからも続くと考えよう。そうなれば、俺はこんなところで死んではいけない。こんなところで死ねば、ウェンディやシャナだってそのうち死んでしまうだろう。それも望まぬ終わりを迎えるという結末で。そんなものは認めない。ああ、認めるものか。断じて認めん。

いくら俺のせいでも認められない。運命? 終焉? 絶望? ハッ、笑わせんな。お前らは纏めて俺と同じ塵芥だ。故に滅べよ。俺と共に消え失せろ。

 

自虐的に俺は胸のうちで叫んだ。だから想うのだ。強く、強く想うのだ。

 

別にもう守りたいと想わないから、誰かを見捨てたくないなんて想わないから――

 

 

 

 

 

――だから代わりに想わせてくれ。願わせてくれ。叶えさせてくれ。

 

 

 

二度と守りたいと願ってしまった相手を苦しませないために。

 

 

 

二度と残酷な結末、終焉、運命に彼らが翻弄されないために。

 

 

 

強く強く想うのだ。静かに冷静に、但し激情を秘めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――時よ止まれ。この瞬間、この刹那、他愛もなく平和でいつもの通りの日常こそが美しいから。だからお願いだ。叶えてくれ。俺みたいなクズでもこの願いだけは聞き届けてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼は静かに強く願った。満たされた日々だけを彼らに過ごさせてあげてくれ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが彼の願い。具現化してほしい渇望だから――

 

 

 

 

 

 




それにしてもシャナは一人かレインの時しか、ちゃんと喋らないんだなぁ~。

これが差べ――ゲフンゲフン、いや区別か。まあ、この方が可愛らしさがあるでしょうし。

などと考えているバカな作者もこれまで通りによろしくです。

――それにしても水銀ニート、今頃何してるかな……。あちらの牢獄にいるかな……。

あ、でも……脱走してそうだな…。またストーカーしてそうで怖い。

もうあれですね、言えることはただ一つ!! 黄金殿、いつもお疲れ様です(^^ゞビシッ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。