FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹 作:天狼レイン
いやー、自由っていいですね。ああ、素晴らしきかな、自由!!!
I'm freedom!!! 私は自由だー!!! イヤッフゥー!!!
――という訳でこんなテンションです。どうやら副首領閣下共々狂しているようです、私も。
Twitterでもテンション可笑しいですし、お寿司。まあ、気になさらず、自由なんだなーって
ことで見てください。さて、遅れましたが、“おかえり、みんな…”はこれで終わりです。
次回は魔法舞踏会のヤツでもしましょうかね。まあ、実質悩んでますが。
まあ、気にせず待ってください。駄文でお答えする気は毛頭ないので。
ちなみに今回は11958文字ぐらいです、確か。あれ? 12000だっけ? 忘れました。
まあ、そんなことはいらないので、どうぞ本編へお進みください。
P.S.
ヤバい、シャナも可愛いが、フィーも可愛い。フィーは別に嫁がせ……ゲフンゲフン。
どうしようか、ウェンディとシャナ。どっちも可愛くて仕方ないんだが。
よし、あのパターンのENDにするか。
「…ん~……」
小さくも可愛らしさのある寝起きの声を漏らしながら少女は目を覚ました。
癖なのか、お気に入りなのか。目覚めた少女の身体に巻き付いているのは掛け布団ではなく、フカフカの毛布。ここ一年ほどからだろうか。春夏秋冬、どの季節だろうか同じ毛布を寝るときに使用している。詳しく言えば、同じ毛布を何枚も持っていてそれを順々に使っている訳だ。不思議とこの柔らかい触り心地が癖になった。やはり自分の尻尾と似ているのだろうか。
それとも――
「………お姉ちゃんのお布団かな…?」
目元をゴシゴシと擦り、眠気を少しずつ飛ばしながら呟く。思い出してみると確かに似ている。初めてお姉ちゃんの部屋で眠った時に一緒に寝た、あのお布団に似ていた気がする。
やはり一度使って気に入ってしまうと癖になるのだろうか。それとも狼の本能的にフカフカしたものを好んだのか。どちらでも文句はない。ただ言えることは一つ。
これが俗に言う病み付きだということだ。
「………あったかい…」
寝坊助丸出しの顔を毛布に擦り付け、感触を感じる。フワフワ、フカフカ。ああ、ダメ。癖になる。病み付きになって離したくなくなる。
パパから貰った満月模様のコートの次に大切に感じる。それを感じたい、そう思うと何度も何度も顔を擦り付けた。
寝起きから数分。漸く顔を上げる頃には蕩けたような顔になっていた。
「…わふぅ……」
もはや言葉になっていない。ただ幸せそうな顔を晒す。惚けーとした顔で覚束ない足取りのまま洗面所にまで歩いていく。
辿り着くとチラリと鏡を眺め、すぐさま顔を洗う。バシャバシャと水を優しくかけ、水を止め、一息をつく。
「………つめたい…」
寝坊助には冷水を。そう言わんばかりの冷たさに少々驚く。あまりの冷たさに耳は垂れ下がり、尻尾も小さく丸まっていた。
いつも通りながらも、やはりこれの冷たさには馴れない。いや、馴れている者など稀ではないだろうか。特に寝惚けている時ほど、これの冷たさは計り知れない。
「……ふぁぁ~………」
身体の奥底に残っていた眠気を最後に大きな欠伸で追い出す。欠伸をしても少々頭はボケーとしていたが、首を横に振ってみると自然と眠気は抹消され、頭が冴え始めた。
「ん、よし…。そろそろご飯食べよ…」
普段と何も変わらぬ口調でフィーリはのんびりとした足取りのまま、キッチンに向かった。
嬉しいことに今日は寒くもなく暖かくもない、バランスの取れた気温。故に朝から寒さに震えることも、暑さにイライラすることもなかった。
特に暑い日は嫌いだ。あれはじっとりして首もとが主に気持ち悪い。身体だってベタベタする。パパたちに拾われる前なら気にせず池にでも飛び込めたが、今では飛び込める気がしない。理由は単純。羞恥心――恥じらいを知ったからだ。
一重に女の子になれたと言っても過言ではない。流石に今では服も着ずに生活するなどということは出来そうにない。実際あの頃も体毛があったために汗はかくし、暑かった。
どちらにせよ、私は暑い日が嫌いなのだ。
「……ご飯どうしようかな…」
冷蔵庫を開ける。勿論魔法で動いている。やっぱり思うのだ。7年前――もっと言えば、パパたちに拾われる前はこんなに便利なものは知らなかった。
首根っこを噛み切り、仕留めた獲物はあの頃ならすぐに食べなければならなかった。けれど、今なら違う。手に入れた食べ物はここに保存できるし、いざというときに残しておくこともできる。自然の世界ではそれはほぼ不可能。
そう思うと便利で仕方がない。けれど、中毒のようにも感じる訳だ。ここはやはり賛否両論と言うところだろう。
「フーフン~♪ フフーン~♪ フフン、フフン~♪」
鼻唄。何処と無く気に入っているもの。リズムはちゃんと取れているし、音程も取れている。全てはお姉ちゃんのお陰だ。パパも歌は上手いのは知っている。
いや、それ以前にあの人に苦手なものがあるということ事態知らなかった。それほどまでに完璧人に見えたのだ。料理、裁縫、洗濯、仕事全てに置いて弱点がないと思っていた。
けれど、彼にも弱点があったことを最近知った。彼が帰ってくると約束したこの年。少しでも喜んで貰えるようにと私は部屋の掃除をした。その際だ。日記のようなものが床に落ちた。
首を傾げてそれを拝借。中身を確認した。そこに書かれていたのは自分の想い。
仲間たちに対するメッセージも書かれていた。いつか話すつもりだったのかもしれない。
その中には私やお姉ちゃん、シャナのこともあった。
だからこそ知り得たのだ。彼の弱点が
「…頑張らなきゃ。パパが困らないように…私が強くならなきゃ。みんなを導くために…」
強ばった表情。それを感じると咄嗟に笑顔に戻す。お姉ちゃん曰く怒った顔をすると幸せが逃げる…らしい。別に鵜呑みにしている訳ではない。けれど一理ある気がするのだ。
特に私のために一生懸命に怒ってくれたことのある――
「――ムラクモ…」
彼などが一番分かりやすい。実際彼は私のためにキチンと怒ってくれたことがあるのだが、その日に限って運が悪い。転ぶ、切り傷が出来るは当たり前。
一番危なかったときは崖から転落というものだ。どれも彼は生存しているが、本当に危なかったときは時もあるため、怒ろうとしても途中で止めてしまうときがある。
それでも他人のために怒るところ、お人好し、自分など大丈夫と言った他人のために心配できる人なのだろう。だから…だろうか。
「…熱い……」
額や頬が熱を帯びる。少しだけいつもより熱く感じる。
「…ここが苦しい……」
小さな手で自らの胸を押さえた。心臓が早鐘を鳴らしている。息苦しい気もする。なんだか彼のことを考えると胸の奥が苦しくて、身体が熱くて。
「……むぅ………」
鏡を見なくても分かるぐらいに顔は赤い。恥ずかしさや嬉しさ混ざりと言った所だ。となれば、この感情、この感覚は一つのことを現している。
だが、フィーリはそれを知らない。分からない。感じたことが初めてだし。理由も分からないのだ。これが何なのかさえ、分からないのだ。
不思議と苦しい。不思議と熱い。なのに嬉しい。なのに幸せ――幸福感を感じてしまう。
ああ何故? 何故こんな気持ちになるのだろう。それがフィーリの中で渦巻く。
「…ん……モヤモヤする」
モヤモヤが治らない。むしろ、それが強くなっていく。身体が熱くなり、胸が苦しくなるほど彼のことを考えてしまう。
それに加え、この間見たものも刺激的で、よくわからなくて怖いものだった。
原因は勿論、ラインハルトとサクヤだ。彼らはすでに同居している。だからギルドから帰宅する際も同じ帰り道で同じ時間に同じタイミングで帰る。
その時にたまたま彼らの姿が見えたために私は後を付けた。その時に見たのだ。
彼らが人目を隠れて、互いの唇を重ねている所を。思わず驚き、唖然としたが何だったのだろう。分からないから怖い。なのに互いに嬉しそう。あれは何なのだろう。
気になるけれど、怖い。だから何なのかが聞けないし、口にできない。朝食を食べながらも思考の片隅どころか大半がそれで埋め尽くされてしまった。
分からないから怖い。知りたいけど聞けない。不思議と気になるのに――何なのかが突き止められない。
それを知るべく――いや、それを含めて私は今日、あの男に挑むのだ。
「…確かめる。私が何処まで強くなったかを…」
――◆――◇――
疾風迅雷。紫電一閃。正しく一瞬を駆け抜けるのは一人の白髪の長髪を持つ少女。
本来ならば存在しない器官、頭部から生える尖った耳と腰骨辺りから生える尻尾を微かに揺らしながら、空間をその動きで引き裂くように駆け巡る。
これを見ている者の目には恐らく光などの亜音速染みたモノが走り去ったようにしか見えないだろう。それほどまでに少女は速く、ただ速く。世界を駆け抜ける。
その少女と相対するのは同じく白髪の長髪を揺らしながら、神々しい神槍を構える一人の男性。見開かれた瞳は金色に輝き、総てを視認せんと周囲を視界に収めている。
黒く遠方の国で扱われているような軍服を身に纏い、彼は周囲から黒い光を撒き散らし、自らに迫らんと世界を駆け抜ける少女を迎え撃つ。
両者ともに並みのS級魔導士を封殺できるほどの実力を持つが故に、乱入できるほどの隙は無く、者共はただその光景を見守るしかない。
もはや両者共に人外。人ではないと思わせる程の無茶苦茶を見る者全てに見せつける。
全方位から迫らんとする黒い光の束を容赦無く放つ男性。
それを一瞬で掻い潜り、男性の胸もとを狙って抉り混むような蹴りを叩き込む少女。
なんだこれは。そう言わせることが目的のような
元より男性の方の異次元染みた強さは見ている者たちは知っている。あれは昔からそうだった。ギルド創設からあの強さは目の当たりにしている。
だが、少女の方は違う。
初めてここに来たのは3年前。未だギルドは違う者ではあるが、それでも彼女は既にギルドの者と大差なく、既にここにいる者のように馴染んでいる。
あれから3年。その3年間が彼女を出会い始めよりも成長させていた。正気を失っていたあの時とは違い、今の彼女には自分の限界や理性は当然存在する。
故に枷のようなものが存在し、その身が人間である以上は枷を破れないように大体は出来ている。いくら彼女が人間と狼のハーフとは言え、基本は人間だ。
だからこそ、彼女の今の強さには説明がつかない。たった3年で彼女はギルドで随一の実力を誇る者に相対している。勝つことは出来ては居なくとも、渡り合うことは出来ている。
それ事態が異常。それ事態が変なのだ。
彼女が戦っているのは、あの“ラインハルト・エルドレイ”なのだ。
最も“聖十大魔道”に近き者。それも――人類最強かもしれないと噂される者なのだから。
故にいくら彼が本気であろうと無かろうと、ただの魔導士に――ただのS級魔導士では太刀打ち出来ないのだ。かつて名を馳せた、あのS級魔導士以外は。
「――やぁッ!!!」
「――ハァッ!!!」
亜音速をも超える速度で迫る鉄拳をラインハルトは見事に神槍の腹で受けた。衝撃が走るが、それを容易く地面に往なす。
大した攻撃になっていないことを悟ると、フィーリは両足で神槍を蹴り、再び世界を駆け抜ける。別に総てを駆け巡っている訳ではない。
だが、彼女の疾走する姿はただ空間を走っているとは言えないほどに激しく、力強く駆けているのだ。それこそ極限を目指すかのように。
「――ッ!!!」
駆け抜ける。駆け抜ける。駆け抜ける駆け抜ける駆け抜ける駆け抜ける駆け抜ける。ただ総てを圧倒し、追い抜かせ。私より速い者など認めない。
私は先導者。私が未来を感じて、大切な仲間たちを導く。だから私は加速し続けたい。邪魔する者など永劫追い付けなくていい。
ずっとそこで、もがいていたらいい。ずっとそこで漂っていればいいのだから。
故に私は――フィーリは疾走する。
「ほう…。やはり卿は面白い。流石は“彼の者の遺産”。そうだ、そうでなければ心が踊らぬ、昂らぬ。故に私をもっと楽しませてくれ!!!」
彼女の加速による反動――停滞を押し付けられてなお、ラインハルトは高らかに笑い飛ばし、まるで子供のようにこの刹那を更に満足しようと自らを高める。
少しずつ白髪の長髪は金色に染まり、彼の魔力が更に膨大に極限を突き詰めようかと言わんばかりに巨大化する。
正しく覇道。彼が目指す道に邪魔などするべからず。彼の前に他者は立ち上がれない。
故にそこを引くがいい。私こそが覇者。我が覇道に耐えられる者こそ願い続けた好敵手に他ならんのだ。私はこの刹那に胸が踊っているのだ。
「――ならッ!! 私がッ、満足させてあげるッ!!!」
三連続に渡って叩き込まれる鉄拳に踵落とし。衝撃でラインハルトの足元に亀裂が入り、放射状に広がっていく。歯を噛み締め、伝わる衝撃を下へ下へと押し流す。
「――ッ!! ふ、ふは、ハハハハハハハッ!!! 素晴らしい、ああ、素晴らしいぞ!!! この感動は何時振りだ。血が騒ぐ。もっとだ、もっと私を楽しませてくれッ!!!」
歓喜。ただそれだけが彼を包む。久しぶりだ、こんな感動は。素晴らしい、素晴らしきかな。ああ、胸が踊る。ああ、血が騒ぐ。楽しい。楽しいのだ。
何度も言わないでくれと叫びたいほどに私の中で渦巻くのだ。これほどの戦いこそが我が望み。私はこんな戦いを求めているのだ。
――だが、
「――ああ、何故だ。何故
完全に金色に染まった長髪を靡かせ、覇気を放ち、王者の如き獅子の咆哮と共に天へと向け奮い立つ。彼の今の極限。それがそこまで迫っていた。
触れるだけで――いや、気配を感じてしまうだけで身体に麻痺が生じる。身体が震え始める。これがあの男の実力。今まで見せなかった本性のカケラ。
「ああ、もっと。もっと私を昂らせてくれ!! まだ足りんのだ、まだ私は物足りん。故にもっと強く!! 激しく!! 狂気乱舞するがの如くに踊ってくれッ!!!」
彼の渇望の一端が覇道として放たれる。“全力で総てを愛したい”。故に全力で戦う相手が欲しい。もっと私を昂らせろ。それが今の彼から放たれる
強すぎる。その輝きは万象を破壊せんと神々しく、それでいて禍々しく鼓動を刻み、激しさを増す。
先程まで避けられていたはずの黒い光がフィーリの脇を掠める。速い。それでいて強い。最初とは全く違う。手加減していたのかと思えるほどに激化している。
これが――ラインハルト・エルドレイの真骨頂。彼だけで行う最高の舞踏。鉄風雷火の三千世界。ああ、なるほど理解出来る。だからこそ、私も駆けよう、走り抜けよう。
そうだ、私だってこんな所で終わるほど弱くはない。もっとだ、もっと。駆け抜けることに有限など要らない。世界は無限に広がる。未知はまだ尽きてはいない。
世界で感じなくなっても宇宙があろう。故にもっと駆けよ。私はまだまだ走れる、駆け抜けれる。疾風迅雷? 紫電一閃? ハッ、笑わせないで。
私はもっと速い。視認できないほどの激走、視認できないほどの絶走だって出来るんだ。
だから駆け巡れ、私の渇望、私の犯した原罪よ。永劫の円環を飽きるまで駆け抜けさせて。
「standig standig Kurs durch diese Welt」
絶えず絶えず私はこの世を駆け巡る。
「Schneller als das Licht! Alle Dinge in der Natur , durch alle laufen」
光よりも速く! 森羅万象、私は総てを駆け抜ける。
「Oh , lieber . In diesam Moment ist alles zu ubertreffen」
ああ、愛しきかな。あの刹那は何者にも勝るものなのだ。
「Regain So . erneut , Um den Tag zu Tag zu fuhlen gefullt」
だから私は取り戻す。もう一度、満たされた刹那を感じるために――
身体を巡る血。それはフィーリをフィーリ足らしめるモノ。その渇望は美しく、それでいて寂しく、強きモノ。原罪を背負い、それでもなお、生きようとする彼女の決意。
奪った命の数だけ、私は誰かを助けよう。それが私の宿命、決められた未来に相違ないのだ。
心に誓うのは
駆け抜けよう、終わりなど認めない。死が迫り、私を喰らうまで――駆け抜け続けるために。
未来はある。絶望など認めない。終焉など持っての他だ。そんなものは断じて認めないし、存在などしなくていい。私はあの刹那だけを感じたいのだから。
「Briah , Mein Verlangen!!」
創造せよ――我が渇望!!
故に――絶対に負けない。私は極限など知らないし、認めない。願うことは未来を創る。
パパは、ママは、みんなが教えてくれていたから。
「
――“孤独刹那 独奏”。
蒼き流星の如く、自らよりも遅れる光の残滓を撒き散らしながら、フィーリ・ムーンは限界を突き破った。魔力は急激に失われる。だが、同時に魔力はそれ以上の速度で回復し、器自体の大きさを更に拡張していく。
ただの小皿が大盛り用の大皿。飾りとして掲げられるようなあの大きさにまで変わるかのように。それに加えた視界を狂わす、遅れた光の残滓。
視界に頼る者では決して彼女は止められないし、追い付けない。もはやその光の残滓は通り過ぎた後に来る光。故に彼女は更に遠い場所を駆けているに過ぎない。
そしてその加速は対象者にそれと同じ停滞を押し付ける。追い付けないのではなく、追い付けさせない。私は独り駆け抜ける。未来を感じて、仲間の道を輝きのある方へと導くために。
下らない? 確かに、そうかもしれない。だって危険を迎えることがないのだから。
共に乗り越える強さを失ってしまうことに相違ないのだから、確かにそうだろう。
別に仲間が弱いとは言っていないし、私もそうだとは思わない。
けれど、最悪の結末だけは逃れられる。絶対に奪われないようにすることが出来る。この速さを、渇望を、願いを無駄とは言わせない。駄目だとは言わせない。
言うことを聞かせたいのなら――止めてみたらいいんだから。
「遅いッ!!!」
迎撃せんとするラインハルトの黒い光を総て躱し、胸元にまで迫る。瞬間見えたのは、驚愕する彼の顔。ああ、確かにそうだろう。本能的に察したのか分からないけれど、私は確かにここにいる。蹴りあげる、そんな手段は私には通じないし、通じさせない。
「がはっ……」
鉄拳が突き刺さる。手加減はしている。本気でやれば風穴を開けてしまうことなど容易だ。それでも骨の何本かは持っていてしまったかもしれない。
それほどまでに強大かつ私は極限まで高められている。それこそ暗殺者の如き素早く確実なものかもしれない。
だが――
「……はぁ…はぁ…げほっ……ああ、素晴らしい。これならば…全力で
あり得ない。私から漏れたのはその言葉のみ。過ぎ去ったはずの時間が巻き戻されたかのように、私は彼によって捕まえられていた。右手を握られ、加速が出来ない。
いや、加速はしているが、彼に捕まえられているために停滞も受けてしまっている。
だから加速は打ち消されている。ただ走っているようにしか動けていない。
勝つために、彼を倒すために何とか離れようとして、やっと気がついた。
なんだ、この魔力は。彼からとてつもない極大の魔力が溢れていた。それこそ私を優に超えるほどの魔力が。今の私でなければ、すでに気絶していただろう程に。
「ああ、素晴らしい。ああ、心地よいぞ。卿は3年前とは比べられぬ程に変わった。それも予期せぬほどにな。ならば、私も魅せようではないか。卿がこうも魅せつけてくれたのだ、私もせねば後味が悪い。故に魅せよう、我が愛を!!!」
魔力が溢れ出した。彼の器が抑え切れぬ程に。美しく、繊細でありながら、強大で、神々しく、禍々しい。そんな極大の魔力。
それを見て私は――怯えた。怖くなった。身体の震えが止まらない。こんなの反則だ。勝てる気がしない。戦慄が背筋を走り、硬直する。戦くな? 戦慄くな? そんなものは無理だ。
怯えない方が可笑しい。目を開けているのがツラいほどに、これは異次元染みている。
久々に感じるのは絶望。失望。勝てないことを本能的に察した。ああ、駄目だ。
これは勝てない。それに彼は一度暴れだすと止まらないらしい。
故に――ここで死ぬかもしれない。反射的に悟った。身体から力が抜けた。ヘロヘロと膝を崩し、尻餅をつき、ただ恐怖に晒された。
「…………ぁ……」
もう動けない。動けなくなった私を見下ろし、ラインハルトは首を傾げながら告げた。
「どうした卿? まだ終わりではなかろう。戦いはこれからだが、何を臆している。まだまだ終幕には早いぞ。私を楽しませてくれるのでは無かったのか?」
どうして、こんなに怖いのだろう。本能的? いや、違う。似ているのだ。感じたことがあるのだ。何処かで、何処かでこれと
呆然とする私にラインハルトは溜め息をつくと、口を開いた。
「なんだ、終わりか? …仕方がない。ならば、卿も我が
「――
暴走する獣を落ち着かせるかのようにスパコン!とお盆で頭を叩く少女。驚愕し、地面にドタと倒れ伏すラインハルト。その瞬間、膨大な魔力は彼へと戻り、いつも通りと化す。
目を丸くする私に白髪の長髪に着物を着た少女は笑いかけた。
「全く貴女も無茶は行けませんわ。やはり貴女もムラクモと同じで無茶をしますね。あれほど注意したではありませんか。兄様を楽しませ過ぎては行けない、と」
サクヤ・エルドレイ。S級魔導士にして、ラインハルトの恋人。唯一彼の手綱を握る者。その彼女が見かねたのか、止めてくれたのだ。
怯える私の手を優しく握り、立ち上がらせると、溜め息を小さくついてから頭に手を置いた。
「……折角、強くなったのですから、こんな無茶し過ぎて大切な命を落とすのは勿体無いですよ。貴女にはまだ帰る家があるでしょう? それに帰ってくるのではないですか? 貴女の求めていた日々が。ですから――笑っていないとダメですよ」
「……ぁ………」
怯えた私から恐怖を取り除くように優しく、丁寧に励ましつつ叱る。頭に置かれた手が私を撫でる度に身体から余計な強ばりが抜けていく。
不思議だ。なんだかお姉ちゃんやママを思わせる雰囲気だ。それに後天的とは言え、同じ白髪なのだ。なんだか親近感が湧いてしまう。今そこで頭を押さえているラインハルトですら今まで感じていた怯えが消え、親近感を感じてしまいそうになる。
母性。それを象徴するかのように彼女は優しく、綺麗に見えてきた。あれ? 可笑しいな。なんだか不思議と甘えたくなってきてしまう。
「ふふ…、別に甘えて貰っても構いませんよ。シャナちゃんも時々甘えてくれますので。だから貴女も――安心してください」
気がつけば、私は抱きついていた。もうひとつの家族。そんな気分に浸った。不思議で、それでいてなんだか当たり前のようで。言葉では言い表せない感覚を味わっていた。
――◆――◇――
あれから数時間。気がつけば、夕方だった。朝起きてから、家には戻っていない。当然ではあるけれど、何故か一週間いなかったような気がする。
それほどまでに向こうでの時間が濃密で、記憶に残り易く、時間が長く感じられたのだ。
夕日に照らされながら、私はマグノリアの街に戻ってきた。周囲から聞こえるのはコソコソと話している者たちの声。
おおよそ、私が何故かつては最強、今は最弱ギルドの《妖精の尻尾》にいるままなのだろうとかだろう。事実今の彼らは弱い。仕事を満足に渡されないほどに。
それに比べ、私は《狼姫》と呼ばれた。今思えば何とも皮肉混ざりの酷い異名だ。無理矢理、孤独であることを思い出さされてしまう。うんざりと言えば、うんざりだ。
それでもなんだか心には響く。痛い。それでも耐えなければならない。
やっとだ、やっと。パパたちは今年中に戻ると言った。だから待とう。待って、彼らを笑顔で迎えるために。
その後、マグノリアから離れ、家のある森の中へと歩んでいく。夕方のために鳥の鳴き声は最小限。動物たちも我が家に帰っているだろう時刻だ。
帰る家がある。それはとても羨ましいことだった。別に帰る家はあるのだ。ただ中身が伴わないだけであって。しかし、動物たちには帰る家もあり、中身も伴う。
それが羨ましくて仕方がない。嫉妬しそうにもなる。それでもあとほんの少し我慢すればいい。だから嫉妬なんかしている暇はないのだ。そう自分に言い聞かせ、私は帰る家を目指す。
漸く辿り着くと、不思議と感慨深いものがあった。やっぱり久しぶりに帰ってきたような気がしてしまう。悔しいけれど、そう思ってしまう。
溜め息をつき、いつも通りにドアノブに手をかけ――
「…あれ?」
――中から声が聞こえた。誰かが家のなかにいる? そんなはずはない。この家の合鍵を持っているのはパパとお姉ちゃんだけだ。ママは幽霊だから気がつけば勝手にいるという話だったから持っていない。シャルルはお姉ちゃんといつも一緒にいる。
他に合鍵を持っている人などいない。――なら誰が?
そう思い、耳を澄ませた。少しずつ、声が鮮明に聞こえるようになってくる。
『さて、と。飾り付けってこんな感じでいいのか? 俺は女の子の喜ぶ飾り付けって分からないんだが……』
『大丈夫ですよ。お兄ちゃん、飾り付け上手です』
『ふふ、兄さんはこう見えてもギルドの創設した頃は求愛されること多かったんですから』
『そ、そうなんですか!?』
『ええ。でも全部断ってましたから♪』
『ま、何て言うか…その…、面倒って言うよりもなぁ……。釣り合う釣り合わない以前の問題だったんだよなぁ…。俺の好みじゃないっていうか…その……まあ、なんだろうな』
『えーっと、ちなみに好みってどんな方なんですか?』
『純粋』
『じゅ、純粋?』
『んで健気』
『け、健気?』
『最後に素直』
『す、素直? あれ? それって小さい子ってこと――』
『俺はロリコンじゃねぇから。ウォーレンとかあの辺りと一緒にしないでくれ。どっちかというと俺はシスコンだ。7年前にジュラが言ってたと思うぞ』
『へぇ、アンタ、そういうのが好みなの?』
『ま、そんなとこだと思う。可愛ければOKってほど単純じゃないからな。それで判断したら半分以上後悔するだろ、絶対に。料理出来ないとか掃除できないとか、そんなのはご遠慮願うわ、俺は』
聞こえた。聞こえた聞こえた聞こえた聞こえた聞こえた。聞き覚えのある声がこんなにも聞こえた。忘れたくない人たちの声がこんなにも聞こえた。
「……ぁ………」
声が漏れる。涙が目尻から溢れると、次からは川のように止まらなく流れ続ける。拭いても拭いても止まらない。治まらない。嬉しいのに、悲しい。
なんだろう、この気持ち。胸の奥が熱い。心臓に血が巡り始めたかのように、痛い。それでも嬉しくて嬉しくて仕方がない。
「……ぁ…んぐっ……ぁ……ぅぅ……」
進みたい。中に入ってみんなの顔を見たい。元気でいることを伝えたい。だけど、足が進まない。震えてしまう。沢山の人を殺めた私が幸せになっていいのかと思ってしまう。
待ち望んだのに。待ち望み続けた
どうしたら……私はどうしたらいいの。幸福を手にして……いいの?
葛藤。それが込み上げ、私の行く手を阻む。苦しい。苦しいよ。分からないから……苦しい。
動けず仕舞いの私。だが――何かが私の背中を押した。
「……え?」
急に動き出す私の身体。視線だけで振り返る。何もない。けれど、何かを感じた。沢山の人の想いのような何かを。行っていいよ。行きなさい。後悔したダメだよ。
そんな声がこんな罪を背負っている私には恥ずかしながら聞こえた気がする。けれど、勝手な思い込みではないような気もしてしまった。
うん、分かった。今だけは甘えていいんだ。そう納得し、私は幸福へと歩み出す。玄関で靴を乱雑に脱げ捨て、ドタドタと廊下を駆け、リビングのドアを開けた。
パンッパンッ!!
クラッカーが割られる。中からリボンなどの飾りが飛び出し、私の身体に少し巻き付く。真っ白だった視界から見える大切な家族の笑顔。
「今まで待たせてごめんな、フィー!!」
『フィーちゃん、待たせちゃいましたね』
「お兄ちゃんと私で今日はご馳走作りました。一緒に食べようね」
「…フン、待たせた分のお返しぐらいしないとね」
パパ、ママ、お姉ちゃん、シャルル。待ち望んだ刹那。取り戻せないかもしれない、そう思った絶望の日々。苦しかった。ツラかった。壊れてしまいそうだった。
一度は死にたいとも思った。それでも、それでも。この時間が、この日々が取り戻せると、いつか戻ってくると信じていた。今なら本当に思える。ずっと隠していた想いに気がつけた今なら。大切な仲間も家族もいるこの刹那だから素直に言えることを。
「パ、パパぁ……ママぁ……お姉ちゃん……シャルルぅ……おか…おかえ……」
言葉が詰まる。涙で何も言えない。だけど、想いだけは伝えたい。涙で何も言えなくたって。苦しくたって、ツラかったとしても。
「……ぅぐっ…んぐっ………お帰り…なさい…!!」
彼らに抱き付くように、私は彼らの胸に飛び込んだ。
久々に感じた暖かさを、ずっと忘れないように。この刹那を守り続けるために。私は強くなった。だから認めてほしい。私もみんなを守れるということを。
でも、今だけは甘えさせてください。今だけは幼いままでいさせて。関が切れた堤防のように流れ出す感情をぶつけさせて。
「ぅぅ……うわああああああああああああん!!!!!」
ああ、今まで生きてて――生きていて良かった。帰ってこれたんだ、この日々に。
――大好きだよ、みんな……。そして、お帰りなさい…!!!
“孤独刹那・独奏”(アインファウスト・カデンツァー)
フィーリの渇望が具現化。人体に影響を及ぼした一種の魔法。純粋に区別すれば、魔法
とは違うものだが、限りなく原初の魔法。つまり“一なる魔法”に近い。
実際“一なる魔法”は“■”から生まれたものであるという説が有力で、渇望もまた強い想い、
“■”に近い場所にあるからである。
故にただの魔法では対立不可能。フィーリの渇望は単純に纏めれば、“加速”と“停滞”。
故に視認不可。それに範囲は少し広いために破る、または対立するには同系統か、
あれよりも強い渇望が必須である。実際ラインハルトのは渇望を創造するだけである
フィーリとは違い、回りにも影響をもたらすものである。
この理論を考え、構築していた魔導士が7年ほど前に存在している。今は行方不明。
※一応解説。これもプロフィールなどに記す予定。
元ネタは“Dies irae”の主人公藤井蓮。彼の創造、“涅槃寂静・終曲”(アインファウスト・フィナーレ)。
発動時の詠唱は僭越ながら作者のオリジナル。
理由:元にしたいヤツが見つからなかったから。