FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹   作:天狼レイン

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前回、魔法舞踏会の話をかくかもしれませんと言いましたね? ――あれは嘘だ。

無礼を承知で別の茶番?回を用意しました。完全にネタ回か……となるでしょうが、心配

なさらずに。最後の最後でレインに纏わるものが一つ解禁されます。

まあ、少しずつ明かそうかなって感じにしてますので、今回だけです。少し大きめで

解禁するのは。それでは本編どうぞ。

P.S.
本日で今シーズンのアニメFAIRY TAILは終了。第三期に期待しようではないか、者共よ!!!





酒という物は恐ろしいことこの上ない

その日はいつも通り訪れた。

朝の光は眩しく寸法狂いなく、眠っていた俺の目辺りを照らし、無理矢理意識を覚醒させた。

お陰さまで不機嫌にはなるも、頭はわりとしっかりしていて起きやすくなっている。

まずは上半身だけを起こし、両手を天井に向ける。その勢いのまま背伸びをする。背伸びをする際にも容赦なく身体や意識から眠気という悪魔を追い出す。

 

もし、その眠気の悪魔が残っていたら? そんなものは気がつけば無かったことになる。いざというときは額を机に何度も何度もぶつけて無理矢理スッキリする方法だってある。

まあ、所詮は駆逐される存在。次の起床までは要らぬ役者であるため、ご退場願おう。

 

「ふぁぁぁ~……、大体寝てたのは3時間程度か。んで今が7時半。最低でも就寝したのは3時から4時半ぐらいか」

 

頭の寝起きトレーニング代わりに起床時間と就寝時間を計算する。勿論、可能性の幅もすぐさま導きだし、口にする。こうすることで自分が正常かつキチンと起床しているかを確かめている。今思えば、完全に悪魔なら睡眠時間は要らないような気がする。

そう思うと若干魅力的に感じるが、デメリットの方が多いし、面倒なので断固として遠慮する。それ以前にまず、これ以上悪魔になることすら御免被りたい。

 

「………さて。昨日は色々と大変だったなぁ。フィーと試合して、ギルドに戻れば女子共に捕獲されて家賃の話に強制加入。しまいに露骨なお金貸せ攻撃。

いや、お金が一気に飛ぶ苦しみは分かるぞ? それは俺も経験済みだし、一回それで死ぬかと思ったこともある。――けど、それはソイツが悪い。貯蓄しないのが悪いんだっての。

なんでお金を俺が出費するんだよ……。利子を十日一割(トイチ)にしてやろうか……」

 

とりあえず愚痴ろう。昨日ので軽く1億Jは持っていかれた。痛すぎる出費だ。一時的とは言え、あれはなんとも言えないほどにツラい。

だからと言って十日一割は鬼畜である。その言葉通り、十日に一割増えるペースだ。

 

例えば、1000万Jを借りたとして、十日後には1100万Jになっている訳だ。借りたお金が小さい時はまだ払えるが、この辺りになると払いづらいこと、この上ない。

そういうのが世界の何処かで平然と行われていると考えるとゾッとする。まあ、それはよく考えなかった返済者の落ち度と言うことにしておこう。

 

ちなみに本気で十日一割にする気はない。特にエルザの場合はもはや涙目になるほどだ。元々その魔法がスペースを取るのは分かっていたが、流石に部屋を借りすぎた。

文句しか言えんよ、全くもって。沢山あるといざという時に戦略立てやすいんだろうが、専用空間に入りきらないほどにあるものなど覚えていないだろうが、と言いたいほどだ。

 

「――なんて本人の前で言ったら、絶対喧嘩吹っ掛けてくるんだろうなぁ……。調べた所、エルザは誰かの喧嘩は止めるが、自分の喧嘩には有無言わせず続行するらしいし……」

 

情報の提供元はミラである。今の彼女とその頃の彼女は似ても似つかない。笑ってそれを教えることができる事態、もはや黒歴史を黒歴史と思っていない証拠だろう。

流石は元S級魔導士――いや、全く関係ないか。エルザは違うようだし、ギルダーツも変な所あるし、ラクサスも少々自分の過去や弱点とかは隠そうとするし。

 

当然俺だって、未だにウェンディにもメイビスにも、シャナにも言っていない秘密がある訳だ。全くもって自分に呆れてしまいそうだが、仕方ないことだ。

ただ()()()()()()()()。自分の重ねた災禍の如き原罪に。滅びる宿命にある自らに深く関わって欲しくなかったからだ。

 

「……ふぅ…。これ以上自分を蔑んでも何の意味もないか。別に憂鬱になっても差ほど調子は変わらないからな」

 

呆れたついでに溜め息を一つ。さてと。

そろそろベッドから出て朝食作ってフィーを起こすかね。まあ、フィーのことだ。どうせ既に起きているか、わざと寝たふりをして7年間分の悪戯か、突然抱きついてくるに違いない。

そういや二日前にもこんなことをされた気がする。いやはや。いつからそんな大胆で末恐ろしいことをするようになったんだか。将来が少し不安に――

 

「――ん? なんかさっき動いたような……」

 

むくり、むくりと動く何か。そんな感じのものを俺は探知した。空気の流れが変わった訳ではない。それに加え、部屋のなかで何かが動いた形跡もない。

ならば、何が動いた? カーテンだろうか? いや、それは違う。御生憎様、俺はカーテンをつけはするが、両サイドに縛って飾りとする派だ。

それに加え、いつも夜通しで作業する際にも基本は地下か、研究室紛いの場所でする。だから光が外に漏れることはない。

それにこの家の立地場所はマグノリアの街から少し離れた森の中だ。泥棒と仲間以外は来ない。当然泥棒に対しては無礼には無礼をと言わんばかりの大量の魔法の罠を仕掛けてある。

許可せず入ろうものなら死すら覚悟しろ。侵入など断じて認めん。

故に完全に要塞状態だが、それは許してほしい。

 

それはさておき、前述の理由を含め、蠢くものがいるはずがない。しかし、何かが引っ掛かる。そう言えば、昨日何かを忘れていたような気がする。

いつも俺はフィーが寝てから就寝する。まあ、念には念をと言うことだ。別にフィーが子供だから、ちゃんと睡眠を取らせたいという理由で監視しているつもりは――まあ、あるが監視と言う訳ではない。そこまで子供に自由を与えんというつもりなど毛頭ないからな。

そんな訳でいつもは最後に就寝する。しかし、確か昨日は――

 

「――先に寝てしまったな、俺」

 

ああ、思い出したぞ。イライラするぐらいの記憶を思い出したぞ、クソッタレ。

お金を巻き上げられた後、なんの理不尽かカナに酒比べに参加させられた。ウェンディのジト目が厳しく突き刺さる中、俺は我慢していたはずだが、無理矢理カナに飲まされた。

その後、飲んでしまったからには仕方がないと判断し、ガンガン飲んだのは覚えている。酒に対しての耐性は強くもなく弱くもない。だから酔い潰れることは当然ある。

あるのだが――何故か俺の記憶にはカナが目を回して倒れる所がハッキリ残っている。

はて……? なんでカナが酔いつぶれてるんだ? しかもカナが酔い潰れるってことは大量の酒を飲み比べたからに違いないはずだ。つまり俺もそれくらい飲んだということになる。

なのになんでこんなに頭が冴える? いつも通りの平常運転だ。可笑しい。いや、可笑しいぞ、これは。どうして酒を大量摂取したはずなのに元気なんだ?

普通は二日酔いコースにまっしぐら、朝からグロッキー間違いなしのはずだ。最悪トイレで嘔吐物をぶちまけることになるはずだ。――なのに何故?

 

「――……そういや、俺。いつから酒が強くないし、弱くないって言い出したんだ?」

 

思い返せば色々と不思議だった。確かに酒は好きでもないし嫌いでもない。当然どれくらい飲めるかなど理解した上で――理解した上で? 酒が飲める限界を俺は知っていただろうか?

いつも適当にその場のノリで飲んでいたのだぞ、俺は。だから完全に酔い潰れる前提で飲むことは中々――いや、ほぼ無かったはずだ。

よくメイビスが酔い潰れる所は見たが、メイビス曰く俺が酔い潰れる所は見たことがないと言っていた。おい、ちょっと待て。どういうことだ?

俺は限界まで飲んだことがないのか? いや、そんなはずは――

 

「――あったな。()()()()()()()()()()()()な、俺……」

 

それを悟ると同時に嫌な予感が一斉に押し寄せてきた。

おい、ちょっと待てよ。カナが酔い潰れた所は覚えている。しかし、その後だ。フィーより先に寝た前までの間は何をしていた?

そこだけ完全に記憶にない。可笑しい。可笑しいぞ。どういうことだ? そこまでガンガン飲んだのか、俺は? つまり、色々と理性なんぞ知らんと言った具合に飛んでいたことも考えられる程だ。つまり、俺はかなりヤバいかもしれない状況下にあった訳だ。

そもそも俺は酒を飲みすぎるとどういうことになるヤツなんだ? 泣き上戸? 笑い上戸? 甘え上戸? 怒り上戸? それとも完全なるヤバいヤツ?

全く持って予想がつかない。どうしてこうなった……。

 

「………ちょっと待て…、ならさっき動いたものって…」

 

ああ、本当に嫌な予感しかしない。酔いに酔って、仲間――それも女性陣に何かを変なことしてみろ、即刻俺は社会的に終わりだ。それこそ死よりもツラいものだ。

いやな? 確かに俺はどうせ死する運命にある訳だ。実際この肉体があと1年間持つかってぐらいだ。んでそんな俺が今ここで変なことをしてしまったとしよう。

意味がないんじゃないか? 折角残った一年間で出来ることをしておかないと行けないだろうはずなのに変なことで一気に全部水の泡。

そんな終わりなどあってはならんことだ。そんなことあったら血ヘド吐いてやる。

いやいや、それは今関係なくて、今重要なのは――

 

「――よし、動いた場所を確認するか」

 

落ち着け、俺。こう言うときは素数を数えるんだ。2、3、5、7、11、13、17、19……。

――いや、それこそ落ち着けよ、俺。今何時素数数えている暇があるなら、動いた場所を確認すべきだろう。

よし、とりあえずだ。とりあえず、まずはベッドから出よう。出たら部屋の中を捜索しよう。まずはこれでやることが決まった。この調子でドンドン進めていこう。

 

「よし、まずは掛け布団を退け――」

 

――た先に女の子。

 

「……………」

 

思わず絶句。あ……もう終わったわ。俺、人間として――いや、悪魔としてだろうか。とりあえず、なんでもいいからとりあえず終わった。

やってしまってはいけないことを――

 

「……ん~。……ん…? ……あ、パパ。…おは――」

 

 

 

 

「――うぎゃああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

「――んで、つまりあれか? なんか一人って感じがして寂しくなったからベッドの中に入り込んできた、と?」

 

「ん、そんな感じ。パパ、先に寝ちゃったから少し寂しかった」

 

目の前に正座で座っているとは先程の女の子。本人曰くストレスや精神的な外傷で色が抜けてしまったらしい白い長髪に、髪の毛から出ている尖った狼耳。尾てい骨辺りから出ているフサフサの毛並みのいい尻尾。

着ているパジャマの中心の絵柄にはトレードマークと言わんばかりの満月。色は薄い藍色。

何故に自分の狼耳があるのにパジャマに猫耳フード付きなのかが不明で仕方がない少女の名前はフィーリ・ムーン。俺の預かっている人間と狼のハーフである人外の獣少女。

昨日も色々あって試合をすることとなった少女である。年齢は確定とは言い切れないが12歳である。愛称はフィー。最近の趣味はウェンディに遊んでもらうことだそうだ。

 

さて、それは置いておくとして。俺は現在頭に包帯を巻いた状態でフィーの話を聞いている。

 

「――まあ、確かに寂しいのは分かる。だけど、頼むから誤解を招くような真似は止めてくれ。別に起こされても俺は起こらないから先に言ってくれ。じゃないとかなり焦るから」

 

「……ん、ごめんなさい」

 

「……。まあ、少々安心した。酒を飲み過ぎた後の記憶がないから結構怖かったんだよなぁ……。もし変なことをしてたらどうしようかと思っ――」

 

「――パパって酔うと親しい人を抱き締める癖があるの?」

 

「そうそう、抱き締める癖が――へ?」

 

血の気がサーっとまたもや引いた。いや、引いたと言うよりは凍りついたと言うべきか。今、物凄く不吉なものが聞こえた気がするぞ? ん? 抱き締める? 酔うと親しい人を抱き締める癖? いや、そんなものは断じて――

 

「――フィー、それどういうことか聞かせてくれるか?」

 

「パパは覚えてないの?」

 

「……まあ、恥ずかしいことに何にも、な…」

 

「そっか。えーっと……、カナが撃沈した後、パパは見事に大体の男性陣を巻き込んで酒比べ。結局ナツ、グレイ、エルフマン、ハッピーを除いて男性陣は酔い潰れ。

そのあと四人が逃走したから、私が追おうとしたらパパに抱き締められて、褒められて、頭撫でられて――結構嬉しかった」

 

「……………」

 

あ、もう何も言えねぇ。いや、娘を褒めるのはこっちとしても楽しいし、喜ぶ娘の姿を見れるのは嬉しいことだ。しかし、な? 

聞いてて気がついたが、俺は色々ととんでもねぇことをしたらしい。男性陣全員が酔い潰れた? ちょっと待て、それってまさかギルダーツやマカロフ、ラクサスも酔い潰れたってことか? ――それって今の財政状況厳しい状態のギルドには悪影響じゃ……。

 

「それと私がパパにベタ褒め?された後にみんな距離を開けたみたいだけど、お姉ちゃんが結局パパに捕まって――」

 

「――よおぉぉぉし、それ以上は言うな、もう理解した。とりあえずあれだ、ウェンディに謝りに行くから。とりあえず一応粗品だがお詫びの品も用意しておこう。

謝る時はお詫びの品無しで本気で謝りに行くから。それ以上は言わないでくれ。今からすぐにフェアリーヒルズに直行するから、な? だからそれ以上言わないでくれ、頼むから」

 

無様極まれり。娘に土下座する父親とかどこの世界にするのだろう。それも迷惑をかけたとかいうことではなくて、それ以上は言わないでくれという責められたからという理由でだ。

まさに悪事や不倫を働いた阿呆の如くだ。いや、もう、なんも言えねぇ。

 

ウェンディにどんな顔して謝れば良いのやら。義理の兄ではあるが、兄貴失格だ。なんてことをしてくれたんだ、俺ってヤツは。いや、本当に最悪だ。あり得ない。

何がS級魔導士だ、笑わせる。まずは人間をやり直してこい。

――いや、やり直せるならやり直したいんだが。ってそんなことはどうでもいい。

とりあえずだ。とりあえず、全身全霊、誠心誠意、キッチリ、ハッキリと謝ろう。無礼全てをお詫び申し上げないと生きていける気がしない。いや、生きている気が全くしないんだが。

実際人間としては死んでいる身なので本当に生きた心地はしてない。謂わば、悪魔という人工心臓的なもので生命を維持している、そう言っても過言ではない。

 

ということすらどうでもいい訳だ、今のこの状況は。

とりあえず先手必勝――いや、違うな。背水の陣――いや、それも何か違うな。

あー、もう!! 兎に角素早くかつ丁寧に謝罪することが優先だ。

 

「よし、フィー。今日仕事に出かける予定はあるか?」

 

「無いよ。多分暇かも」

 

「OK、把握した。とりあえず、少しの間留守頼めるか?」

 

「え、あ、うん」

 

「じゃ、留守番頼む!!」

 

即座にフィーに留守番を頼むと俺は吹き抜け、殺到し、駆け抜けた後の轍を見させるが如く、家のなかを準備のために駆け回ると、その後すぐさま家を出た。

 

「……パパ。最後まで話聞いて欲しかった。お姉ちゃん、全然()()()()()()のに」

 

その時のフィーには嬉しそうに顔を弛ませてニヤニヤとした笑顔を溢していた藍色の長髪の少女の姿が脳裏に焼き付き、それを思い返していた。

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

フェアリーヒルズ。ウェンディの借り部屋にて。

 

綺麗に整理整頓された部屋。年頃の女の子らしい飾り付けが成されたその場所は、少々ずれた視点――ではなく、独特な趣味趣向を持つ女性陣の中ではある意味でごく普通のもの。

 

ある人は武器や鎧を大量にしまいこむだけの倉庫として。

 

ある人は昔の拷問道具や物騒なものを大量に置いてある部屋?として。

 

ある人は小さな図書館なら既に涙目と言わんばかりの自分用の図書館兼部屋として。

 

ある人は呪いの如く一途に思い焦がれる人に関するもの一色の部屋として。

 

そんな様々な趣味趣向を持つ女性陣。思い返すだけで周囲がずれていることを実感できる環境でやはりウェンディ・マーベルの過ごす部屋は極々平凡かつ自然なものであった。

そんな彼女の部屋にいたのは一人の少女と一匹の白猫。

当然の如く、部屋の持ち主であるウェンディとパートナー兼親友のシャルル。今は二人でお茶を飲んでいる所だった。

 

「悪くないわね。このお茶」

 

「そうだね、シャルル。お兄ちゃんが少し前にくれたの」

 

「へぇ、レインが? 相変わらず妹思いなのね」

 

「えへへ…」

 

「あら? 昨日の()()が嬉しかったの?」

 

昨日のあれ、それは別に現在空回りを続けているレインの考えているような疚しいや恐ろしいことではなく、ただ単にフィーと同じように褒められたり頭を優しく撫でられたりされただけなのだ。それもいつもよりも気を使っているかのように。

事実、昨日の夜。寝ようとしてもあのことが思い返されて中々に寝付けないことがあった程だ。結局諦めて起きていようかと思った途端に意識がフッ…と抜け、ぐっすり寝ていた訳だ。

それをシャルルに思い出さされると急に顔が熱くなり、どもった様子で反論する。

 

「そ、そそういう訳じゃ…な、ないよ…」

 

「アンタ…、またどもってるわよ」

 

「うぅ……」

 

「…それにしてもやっぱりアンタはアイツのこと、信じてるの?」

 

アイツ、それは当然のようにレインのことを指していた。つまり、レインのことを信じているか、と言うことだ。

何故そんな風にシャルルが話題を振ったのかと言うと、それはギルドに帰還してから数時間が立ち、皆がそれぞれの家に帰ろうとする少し前に彼の口から話されたことが原因だ。

 

 

――「少々、俺も仲間を今以上に信じてもいい気がしてな。とりあえず、俺の過去の一部だけは話しておこうと思う」

 

 

そう言って語られたのは彼が昔、エルザのように1年間という期間ではあるが、奴隷にされていたことである。初代マスター、メイビスが生まれてから1年後のある日。

レインの住む家に別大陸からの魔導士が襲来し、レインは拉致され、両親はレインという子供がいたという記憶を抹消された。

その結果、メイビス自体も知らなかったことになったが、今ではそれは修繕されたようだ。

しかし、その際にレインは片道2年かかる程の遠方の大陸に連れ去られた。その先にあったのはエルザが造らされていたのと同じ楽園の塔。

この者たちもまたゼレフの復活を願う者であり、フィオーレやアラキタシアでは危険だからという理由で遠方にわざわざ造った物好きだった。

そこでレインは1年間奴隷としと働かされた。だが、1年で終了したのは、ある転機が訪れたからだ。その頃、ただただこのまま終わる人生を認めなかった者たちと密かに作戦を立てていたレインは作戦を決行。その最中、研究室らしき場所で魔導書に書かれた“ある魔法”を目にし、それ以来あの“謎の眼”が使えるようになったことを話していた。

 

本来ならば本人がツラいという理由で控えるはずの過去だが、彼はそれをちゃんと話した。だからこそ、信じる米なのだろうが、ゼレフ書の悪魔であることも話した彼をどう信用すればいいのかということで今、仲間たちが悩んでいる所だった。

――しかし、前日に酒で二日酔いのためにほとんどのメンバーは今は考えていないだろうが。

 

それを思い返しつつ、ウェンディもまたちゃんと自分の考えを纏めていた。彼は時折自分の過去を話してくれていた。特別であるが、ちゃんと知らせてくれていたのだ。

そう思うと信用できる。

 

しかし、時々怖いのだ。あんなに自分の身を省みずに自分や仲間を守ろうとする自己犠牲の面。自らを忌むべき存在、消えるべきもの、終焉に何れ至る愚者と蔑む彼の姿、行動理念が。

自分が死んでも誰も嘆かないとでも思っているのかと強く迫らないといけないぐらいに。

彼は自分を助けるべき存在――救済に値しない存在であると既に決めつけているのだ。

 

だからだろうか。今まで彼とは義兄妹(きょうだい)のように育ってきたはずなのに、自分の義兄(お兄ちゃん)という存在以上に気になってしまう。

まるで自分に嵌めたはずの現実という鎖、枷、それらが全て消えてしまうような――何かに目覚めてしまうような気もしてしまう。

それが今、私の中で渦巻く不思議。

 

けれどそれは私が抱いた何かであって、彼のことを信じるかなどには関係すらない。

そして私は――ウェンディ・マーベルは彼のことをずっと信じている。

だからその質問は愚問だった。

 

「うん、信じてるよ。私はお兄ちゃんのこと疑わない」

 

ウェンディは素直に、それでいて純粋に彼を信じることを選んだ。いつだって彼は皆を()()()()()。強く、正しく、誰よりも大切な仲間のことを疑うことなく、強く歩んでいる。

だから疑わなくていい。別に信じ安すぎるのではない。確かに時折それで怒られる。けれど、大切なギルドの仲間を――たった一人戻ってきてくれた肉親の彼を疑う必要はないのだから。

 

「……そ。なら私も信じてるしかないわね。アンタのことだから、私も信じてないと不安がると思うし」

 

「そ、そこまで私って頼りないかな…?」

 

「ま、そうね」

 

「うぅ……」

 

またもシャルルにからかわれ、微かに落ち込む。

 

でも、ああ言ってシャルルもまた彼のことをちゃんと信じてくれている。親友だから――ううん、違う。

自分自身でそこまでキチンと理解し、判断したから。私が訊ねる前に自分の考えを纏めていたから答えた。それだけであって、それだけでない。

私には分かる。ずっと一緒だったから。

 

 

 

 

 

それから数分後。窓の方からノックが聞こえ、そこに話題の彼(レイン)が空中で土下座していたのは言うまでもなく。

それがしばらくの間、ギルドの中で微かな噂となるには時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――◆――◇――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。静寂の戸張が今宵の闇に落とされた時間。街ですら光を失い、ただ静かに、寂しさの感じるほどの暗黒世界。

それほど闇に満ちている時刻で、一人の少年は月明かりが輝きを容赦なく照らす天空にいた。

静かに息を吐き、空気を吸い込む。ただそれの繰り返し。仙人にでもなりたいのかと思わざるを得ないほどに静かに、ただ同じことを延々と繰り返す。

 

正しく回帰。寸法狂いなく、全く同じ動作を繰り返しているのだ。角度、高さ、息遣い、脈拍、心拍数、回りに散らせる魔力。どれも狂いがない。間違い一つ起こさない状態。

 

そうやって同じことを繰り返し続ける少年。ふいに少年は月の光に照らされ、姿を現した。月明かりに照らされ、反射し、輝くのは銀色の髪。白銀色のコート。手の甲に刻まれた金色の紋章。それは紛うことなく、彼――レイン・ヴァーミリオンの姿。

天空で飛翔を続けたまま、彼はその場所でただ静けさに包まれていた。

 

だが、月明かりが降り注いだ刹那、そっと閉じていた瞳を開いた。小さく息を吐き、吸う。

 

そして、小さく魔力で満ち溢れた言霊を口にした。

 

 

 

「《天体魔法》、“超重力断層(グレート・アトラクター)”」

 

 

 

その刹那、見渡す限りに浮かび存在していた雲が、ある一点に()()()()()()()()。次々と吸い込まれては跡形もなく消滅していく。

 

残滓? そんなもの誰が残っていいと認めた? 我に従え、消えるべきと定められたならば、潔く消え去るがいい。

 

まるでそう言うかの如く、ある一点に生じた空間の狭間と言うべき裂け目は強烈な重力の断層を生み出し、あらゆる物質を吸い込まんと大口を開ける寸前まで引力を強めていく。

だが、その力強さは彼が小さく呟いた、もうひとつの言霊で呆気なく散り失せた。

 

消滅せよ(ラディーレン)……」

 

その音が奏でられると同時に、サッ、と散って無くなった重力断層。しかし、そこを中心としたかなりの距離にあったはずの雲は飲み込まれ、戻ることなく満天の星空を地上にいるだろう者共に晒した。――いや、晒してはいない。この時刻は誰も彼も寝静まっているのだから。

 

ゆっくりと、ゆっくりと瞳を伏せ、彼は自虐的に笑うと、もの寂しげに呟いた。

 

「………やっと…思い出せたんだな…俺。…全く……傑作にも程があるだろ……。何処まで…お前は…俺のことを……本当の兄妹のくせして…愛する気だよ……、なぁ…()()()…」

 

誰にも伺い知れぬ、閉じた瞳の奥に浮かび上がるのは“焔”に愛された少女の姿。

その少女とピタリと狂いなく重なり、全く似ていないはずなのに何処か似ているのは“炎”に包まれ死んだ少女の姿。

 

どちらもまた絶望を知り。どちらもまた死する人々の苦しみを知る。

また愛すべき人を想い、その人のためならその者の糧にすらなれると思い込んでしまう。

哀れで空しく、儚くあれど、強く輝き、咲き誇る一輪の向日葵。

そう――間違えようが無いほどに酷似していたのだ、レインの瞳に浮かんでいた少女達は。

否、それは必然だったのだろう。忘れてはいたが、今なら思い出せる。

 

 

俺は間違いなく、“炎”に包まれ死んだ少女と――かつての実の妹であった少女と相思相愛の関係にあったのだから。

実の兄妹でありながら、呪われ、忌み子とされ、心許せるのは妹の他に両親のみ。

だが、父はその頃から妄信的だった。愛こそが万物(なにもの)にも勝る最強の武具であり、魔法であると信じ続けて。

 

そして――400年経った今ですら、俺は呪われていた。実際にそんなに長い間生きていた訳ではないと言うのに。

いや、あの頃の俺は遠の昔に消え、今いるのは新しい自分であると言うのに。

俺は結局抜け出せなかった、断ち斬れなかった、逃れられなかった。

かつての呪縛から。かつての失望と絶望から。当然の如く、かつての運命からも。

 

妹も――クロナもまた、逃れられなかった。いや、逃れるのを拒んだのだ。

今度こそ、今度こそと願い、苦しみ、足掻き、その唯一無二の渇望(ゆめ)を叶えんとするために。

“誰にも邪魔されず、誰にでも認められ、大好きで、愛しくて仕方がない兄に己の全てを捧げたい”、そんな純粋で無垢、無知蒙昧なる渇望(おわり)を求めるが故に。

 

兄妹だから許されず、忌み子同士だから認められず、力が無いから滅ぼされて、遠くから少しずつ歩むことさえ禁じられた、妹が生み出した渇望を叶えるための亡霊たち。

その亡霊は今もまた、俺の近くにいた。ああ、思い出した今なら分かる。前に出会い、愛され、目的のために別れるまで共に旅をし、笑いあった少女。

 

ああ、成程。確かに分かるまい。いやはや、何処まで執念深いのだろうか。

いや、一途なのだろう。俺の最初の妹は。今もまた俺を愛し続けているとは。

確かに。ああ、確かにだよ。7年も前からいたのか。ハハッ、ある意味驚きだ。感嘆する。

その苦労を、その強さを、その気持ちすら称するべき価値に値する。

 

故に笑おう。今まで苦労をかけた分を労うために。

 

故に謳おう。今までずっと追い掛けてくれていたことの疲れを癒すために。

 

故に――心の底から称賛しよう。その小さかったはずの一途な想いを。

 

 

 

 

 

「――ああ、本当にお前は無垢で無知蒙昧。全く……俺以外のことは全て盲目なんだな、愚かな実妹(クロナ)よ…。――いや、今はこう言うべきか」

 

 

 

 

 

 

微かに笑い、そして可愛そうにという想いを込めて、静かに呟いた。

ああ、君も呪われていたのか。成程、そこまで俺しか見ていなかったのはそれが理由だったのか。可愛そうに、クロナの渇望(ゆめ)を叶えるための命として生まれなければ幸せだったのに。――なあ、そうだろう?

 

 

 

 

 

 

「――“過去から来たりし一途な想いに呪われし少女(シャナ・アラストール)”よ」

 

 

 

 

 

 




あとが――げふんげふん、本日の愚痴。

FGOの☆5倍率は予想通りです、分かってました。けれど、☆4くらいはお願いします。
出てください。昨日当たったエリザベートぐらいしないんです、ホントお願いします。
それが無理なら運営さん。お願いだからサーヴァントと概念を分けてください。
もう概念はお腹一杯です。概念の☆5はもう沢山あるから要らないよぉ……。

白猫はお願いだからフェス限の出現倍率をあげてくれぇぇぇぇぇ。ノアっちが欲しいんだよ。
俺の☆4、☆5がダブルセイバーとアーチャーしかいないんだよぉぉ。
お願いだからノアっち下さい。無理なら及第点でネモ君を下さい。お願いしますぅぅぅ……。
執筆遅れたのクエストとかグルグル周回してたっていうこと活動報告で謝罪するからぁ……。

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