FAIRY TAIL 天空に煌めく魔導の息吹   作:天狼レイン

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三ヶ月の投稿ですね、ホントすみません。
相も変わらずFGO没頭してました。てかなんで皆さんノッブ派なんだろうか……いや多分再臨素材云々なんだろうけど。

さて、そんなことは今は置いておき。
前回精霊云々の話をしたなーーあれは嘘だ。
テンプレの如く、実際はその後の放置された面子の話ですね。ただし、あの二人のことを完全に忘れて書いてました。あと名前すら思い出せなくなってしまいました。親切な方、感想と一緒に教えてください。そこ、wiki見ろとか言わない!

とまぁ、前書きはこの辺りで。それでは小説の方をどうぞ。


Re:Zero

魔導士たちの祭典、『大魔闘演武』。

あと三ヶ月となった開幕までの日数の中、数多くの魔導士たちが一致団結し、己を磨き上げる。

優勝にあるのは栄光。最強のギルドという称号、あと多額の報奨金。前者を狙う者たちもあれば、後者を狙う者もある中、年月は問答無用で過ぎていく。

勤勉に過ごそうと、怠惰に過ごそうと、ほぼ平等に時間が過ぎて行く。若年の者なら然程気にならないだろうが、老年であるならば話は別だ。残り少ない命を何に使おうかと考える。

盆栽や散歩も良い。だが、孫の顔を見るのも良い。同年代の仲間たちと呑気に世間話をするのも良い。

他にもたくさんあるからこそ悩むものだが、後悔しない終わりが欲しいとは思う。

ゆえに、ある男は真剣に悩んでいた。

 

ーー寿命の概念を失い、戦死すること以外に終わることが許されない自分は他にやることがあっただろうか、と。

 

はあ、と溜息をつく。しかし、手元の動きは止めない。今も彼の手の中ではスポンジが油汚れと戦っている。

少量の洗剤と先人の知恵を駆使し、どんなしつこい脂も一網打尽!というショッピングみたいな説明をするかのように、あっという間に油汚れを退治してみせる自分の腕を見にやってくる客人の相手をすること三十分。

寿命が皆無と化した悪魔、ケイは来るべき日までを騒がしいものにし過ぎないように平穏の中で暮らしていた。

 

ざぁーと並み立つ眩しげな海面が広がるビーチの砂浜。そこに立つ何軒かの海の家ーーだった彼の職場は殺風景になりつつあった。

原因は分かっている。彼らだ。

七年前、フィオーレーーいや、イシュガル最強のギルド《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》。その中の最強チームなんて呼ばれていた問題児たちだった。

事件が起こったのは昨日だ。

彼らがビーチに到着し、大人しく遊ぶのかと思えば、突然太陽を思わせる熱球が落とされるわ、巨大な怪獣が海から出現し、それを撃破するために魔法を行使すれば、弾かれた炎や氷が降り注いだり、砂嵐が巻き起こったりと、逆に被害が広がったのだ。

その結果、多くの出店が被害を受け、或いは恐れて退場。観光客もまた、怪我や事件に巻き込まれたくないためか、このビーチから去ってしまったのだ。

最早、営業者殺しの最悪な状況下なのだが、この海の家の店主は何を思ったか、「むしろ彼奴らから稼げばモーマンタイじゃろうに」などと言い切った。職場を間違えたかもしれない。

だが、流石に雇用期間を終えるまでに辞めるのは彼としても遠慮したかったのか、今もこうして職場でせっせと働いていた。

 

……のだが。

 

突如として砂塵が吹き荒れた。せっせと用意していたケイや店主をも巻き込み、洗面所の一部にすら入り込んだのだ。

口に入った砂を水道で洗い流し、どうしてこうなったのかと考える。原因は明白だが、未だ叫び声が聞こえていない。

不思議なものだ。よく気配を探れば、人数が減っている。まるで突然()()()()()()()()のようだ。

流石にこれは気になる。魔導士が突然消失……なんて事件は天狼島の一件で十分だ。近くにいて巻き込まれるのはもっと遠慮願いたい。

 

ならば、如何するか?

 

溜息をつき、面倒だと呟く。それから店主に聞こえるように一言、「外の様子を見に行ってきます」とだけ告げて、ケイは外へと飛び出した。

砂塵の飛んできた方向。その方向にきっと答えがあると思い、砂浜をビーチサンダルで駆けた。

手加減……なのかはさておくが、砂浜を抉りすぎないように駆けていく。むしろ今駆けた後ろが砂塵塗れなのではないかという考えが過るが、それでも歩みは止めない。

全てはあの日が訪れるまでの平穏のため。

駆けて、駆けて、駆けた。

 

そして、漸く辿り着く。

 

そこにあったのは全方向に飛び散ったような円を描く砂浜。その周りに佇む人影が3名。それも身長が子供のようだ。さては迷子にでもなったのか。或いは変なことをしていたのか。

そう思い、そこへと足を運んでーー気がついた。

 

「……………」

 

唖然。声が出ない。

まさか、と思うケイと裏腹にその相手は呑気に手を挙げ、声をかけてきた。

 

「よお、ケイ。仕事捗ってるか?」

 

銀髪の少年だった。

その姿は何度も見ていたし、その背中に追随したことだってあった。

何処かの人間と吸血鬼のハーフの小娘同様に信頼し、忠誠を誓った相手。

その魔力に紛うことはない。

その真実はたった一つ。

彼が我らが王であるということ。

つまりそれはーー

 

我が王(マジェスティ)、何故ここに!?」

 

仕えている王が目の前にいたということだった。

本来なら名高い王族に使う敬称を使い呼んだケイに対し、彼は苦笑しながら言葉を返す。

 

「忠誠心は嬉しいんだが、俺は王族なんかじゃないって。そもそも、アイツといい、お前といい……なんでそうも顔を見合わせるんだろうな」

 

「いやまぁ此度は偶然でして」

 

「まぁそれは俺も重々承知なんだが」

 

互いに苦笑しつつ、ケイは自らの王の御身に目を通す。

以前会った頃より変わっていたのは当然だ。銀髪は少し伸び、纏った魔力には別物のように感じる。

身長は変わっていないが、やはり覇気のようなものが強くなっている。それから察した彼は一つ言葉をかけた。

 

「例の計画は順次進行中です。各地に配備完了まであと一年と半分といったところです」

 

「ご苦労。あとも頼む」

 

御意、我が王(イエス・ユア・マジェスティ)

 

軽くお辞儀をし、ケイはゆっくりと王たる少年の元を去る。まずは職場の仕事を済ませることが先決だ。

期間内にやるべきことを終わらせればいいのだから、そう思ながら戻ろうと歩みを進めた。

 

その時ーー

 

ドクンッと心臓が跳ねた。

本能的にその場から退避する。退避完了と同時につい先ほどまでいた砂浜に業火が蹂躙する。

本来なら燃えようとも恐れるに足りないはずが、本能的に躱すことを優先したのに驚きながら、それをしてみせた者に目を向けた。

 

「……小娘、いったい何のつもりだ」

 

「やっぱりか」

 

そこにいたのは紅蓮の如き炎髪を揺らす水着姿の少女。齢十二と思わせる容貌でありながら、纏う覇気と魔力はただならぬものを感じさせた。表すならば、それは太陽。原初的な恐怖を感じさせるほどのものであった。

そこへゆっくりと別れたはずの王、レインがもう一人の少女と共に姿を見せる。

 

「まったく……。シャナ、気になるのは分かるが、いきなり即死級の一撃をぶつけるな。ケイじゃなきゃ死んでたぞ、フツーは」

 

「シャナ、どうかしたの?」

 

これまた驚くべきことだった。

レインと共にやってきた少女は人外の類い。人間と狼のハーフという存在だった。頭頂部の綺麗な髪から顔を出す尖った獣耳に、尾骶骨の辺りからはフサフサとした尻尾が出ていたのだ。

それをみ、呆れたような口ぶりでケイはレインに訊ねた。

 

「何故貴方は特殊な者たちをこうも拾うのですか……」

 

「別にいいだろ? 俺が育てると決めたんだからな。あとそれを言うならお前も似たようなものだろうに。生きてるのは悪いことじゃねぇんだからさ」

 

ニッ、と笑う少年に配下であるケイは諦めざるを得なかった。食い下がろうというかつての気持ちは遠に失せ、呆れてしまう。

前に同じことをしたのは誰の時だったか。指折り数えて、大方数十年前だったと思う。

確かあの時は“色欲”の奴を拾った時だろう。かつての彼女はかなり落ち着いた性格だったが、今は愚かしいほどでしかない。

 

原因は予想がつく。ーー我らが王だ。

彼はああ見えて、かつては人間だった悪魔を内面から狂わせるような才気を持つ。カリスマとでもいうのだろうか、何かと悪魔すら魅せてしまうのだ。だが、彼はほぼ無自覚。

そのため、役立とうとすると多少の無茶を通り越してしまい、少しずつ壊れてしまうのだ。

その点に関しては、ケイやシノアは壊れる素振りを見せない。元より、自分自身の戦果を誇るつもりが更々ないからだ。

一応、彼は自らの配下に加えるに当たり、条件の一つとして、絶対者などはいないと心に刻め、と告げたはずだったのだ。

だが、その一方で残りの四人は残念なことに()()なった。

今では絶対の存在のように思えているのだろう。彼以外の命令を聞かないかもしれない。いや、きっとそうだろう。それほどまでに彼に心酔したのだとも言えなくはないが、それはある意味、本末転倒に思えた。

 

ゆえに目の前の少女二人もまた、そうなってしまったのかと思いたくはなかったのだ。

 

「さて……小娘、何か用か?」

 

「ちょっとした興味。レインのことを特殊な呼び方する人を私は昨日会ったことがあるから貴方もそうなのかな、って」

 

「……成程な、シノアの奴か。どうしてああも奴は余計な事を……」

 

額に手を置き、溜息をつく。またかまたか、と何度も呻くように。

その一方で、シャナは確信を得た上で、ケイへと訊ねた。

 

「貴方も()()立場なの?」

 

含みをもった言葉に、真実を知ったのだなとケイは理解する。

本来なら、近い奴がーーこの場合なら、主たるレインの方から手を打つだろうはずが打っていないのだ。

ならば、何か重要な役を担うのかもしれない。そう判断し、致し方無しと分かる者にのみ伝わるように告げた。

 

「ああ、()()立場だ」

 

「分かった」

 

軽く頷き、シャナは構えた得物を下ろす。

煌々と輝く刀身。それが如何なる物かがケイには理解できていたのもあって、安堵が込み上げた。

いくらこの身がそうであろうとも、“神殺しの武具(その手)”の物に斬られる訳にはいかなかった。

例えそれが自分たちに特別弱点であるかどうかは関係なく。

一応視線をそちらへと向け確認する。得物を下ろしたとはいえ、臨戦状態なら不意打ちがまだ残っている。

しかし、彼女の炎髪がゆっくりと冷えるように黒へと戻る。

 

漸く、厄介事が片付いた。そう感じ、その場を今度こそ離れようと背を向けようとする。

だが、直後に

 

「お願いがある」

 

声がかけられた。またあの少女だ。

多少煩わしさを感じながら、振り向いた。

そして訊ねる。

 

「まだ何か用か?」

 

微かに声音を震わせて。苛立ちを感じているのだ、と教えるように。

けれど、シャナは悪びれることなく、真っ直ぐな思いで頼む。

 

「私と、一度でいいから戦って」

 

黒へと戻っていたはずの長髪が一瞬で炎髪へと変貌。薄れていた高濃度の殺気と魔力が高まり、臨戦状態へと移行する。

断ろうが逃す気はない、そう物語るかのように。

 

「シャナ、本気?」

 

「うん。大丈夫、胸を借りるだけだから」

 

心配げに声をかけた狼少女に心配ないと告げ、得物を再度構えた。それを見、肩を竦めた後、レインは口を開いた。

 

「ケイーー本当に一度でいい。戦ってやってくれ。

前にも似たようなことあっただろ?」

 

「それを言われると断りようが無いから困るのですが……」

 

「諦めてくれ。断ることすら多分シャナは許さないから」

 

「シノアの奴と気が合うでしょうね、私からすれば良い迷惑ですが」

 

皮肉を漏らし、仕方ないかと自分に言い聞かせる。それから右腕をゆっくりと上げ、そっと指をパチンと鳴らす。

 

瞬間、魔法陣が辺り一帯を埋め尽くした。

黒色のそれらが四人の足元へと展開され、怪しげな光をパッと放つ。自らが何者かに吸い込まれていくような感覚を味わいながら、景色はすぐさま変化していった。

 

 

 

 

 

ーーー*ーーー*ーーー

 

 

 

 

 

怪しげな光に目が眩んだ直後、眼下の景色は変わっていた。

無色。色という色の存在しない。この世のものとは思えない場所。地獄を思わせるような、残酷で吐き気を催すような世界とは裏腹に、何もなさすぎる。それが逆に怖い。そう思わせる世界。

視界に広がったのはそういう場所だった。

 

「久しぶりだな、ここも」

 

「えぇ、そうでしょう。何せ()()()も前ですからね。前より寂しくなってしまいましたが」

 

空白の世界。そう呼ぶに相応しい、“何もない”世界。

その場所で、少し離れた地点にレインとケイは立っていた。

もの寂しげな眼差しで自分が見せた空白の世界を見渡し、寂しいと遠慮もなく口にして。

それに同調するようにレインもまた、首肯する。

 

「本当に、お前は変わらない」

 

「もはや変わることすら諦めてしまいましたから」

 

残念そうに告げたレインの言葉に、自嘲気味にケイは答えた。それがどういう意味かを全て理解することができないシャナは、それでも、意志を変えることなく

 

「一戦、戦おう。偽りの名を語る者(コードネーム)

 

「ーーあぁ、そうしよう、小娘」

 

焔に彩られた炎髪が火の粉を散らす。瞳もまた、睨むだけで焼いてしまいそうなほどの灼眼へと変わり、其れ相応の覇気を放つ。

 

「《灼刃煉獄(フレイムヘイズ)》、よもやそれを操れる者がいようとは……。我が王よ(マジェスティ)、貴方は罪深すぎませんか?」

 

「望まれたなら与える。オレはいつだってそうしてきた。本音を言えば、後悔だってしたさ。こんなものを本当に与えてよかったのか、って。でも」

 

言葉を一度切って、レインは優しく微笑む。

 

「ーーシャナは運命なんか焼き切ってみせたから」

 

ただ過去からの祝福(のろい)に従わされるだけの傀儡ではなく、自分の意志でそれすらも乗り越えて。

シャナ・アラストールは、彼女以外の誰でもない存在になったのだと。それが彼の出した答えだった。

 

「……成程。貴方がそう言うのなら私も認めましょう。ーーならば」

 

「あぁ、遠慮はいらない。シャナに『“渇望”とは何か』、その本当の意味を教えてやってくれ」

 

御意、我が王(イエス・ユア・マジェスティ)!」

 

応答と同時に、二人は駆け出した。

直後に何処からともなく取り出した黒羽織を纏い、そこから愛刀『神殺し・煉獄の神刀(ムスペルヘイム・ミストルテイン)』を抜刀。刀身に元々備わっている漆黒の焔と自らの紅蓮の焔を纏わせる。

一方のケイは武具一つ出さず、徒手空拳だった。だが、ただの素手ではないことは、レインには劣るものの、数々の経験から理解できていた。あれが悪魔なのは分かっているからこそーーあの両手には何かがあるのだと。

 

「ハァァァッ!」

 

「ハッ!」

 

太刀と素手が交錯する。本来ならば一瞬で断ち斬れるはずのそれは断ち斬れるどころか、太刀と鍔迫り合いをすることさえ可能なほどに硬化し切っていた。血一滴どころか皮膚一つ斬り裂くことすら出来ないほどの硬度に、予想していながらも驚かずにはいられない。

 

「ーーッ!!」

 

「フンッ!」

 

鬩ぎ合っていた太刀と素手は両者が振り抜こうとしたことで一度衝突を止め、互いに一度距離を取らざるを得ないほどとなる。

 

「硬い……」

 

「太刀筋は悪くないーーいや、むしろ真っ直ぐか。成程、信念に見合うほどの代物ということか」

 

「それはーーどうもッ!」

 

軽く腰を落としてから、利き足で力強く地面を蹴る。斜めに身体を捻った回転を加えたことで、不可思議な動きを見せながらシャナは太刀をこれまでラインハルトにしか向けたことのないほどの速度で振り抜く。

 

「回転を加えた動き、珍しいものだがーー見えているぞ!」

 

ずっしりと重く、無駄な力を加えていない洗練された正拳突きがシャナの胴を狙って放たれる。当たれば確実に意識を刈り取るだろう一撃。シャナのような実力者であろうと、あのような回転を加えて突撃すれば、それを躱すのは中々に困難だった。例え躱したとして、その後の態勢は間違いなく崩れる。

だが、シャナにそんな常識は()()()()

 

「ーーいや、お前は見えてないッ!」

 

宣言するシャナは正拳突きが胴へと迫る直前に地面に自らの愛刀を突き立て、自身にかかっていた加速を無理矢理殺し、身体を太刀へと引き、鍔に足をかけて宙へと躍り出た。

正拳突きをギリギリで躱され、加えて見たこともないアクロバティックな動きを見せられたケイに微かな隙が出来た瞬間。

空中に躍り出た彼女は、《灼刃煉獄(フレイムヘイズ)》の魔力から極熱の焔を生成。そこから一振りの太刀を創り出して、ケイへと振り下ろす。

熱の余波で確実に損傷を負うだろう一撃。振り下ろされた一撃を身体に触れる直前でケイは回避する。

が、当然のように肩の辺りの皮膚は焦げ、黒煙を多少とも吐いた。

 

「硬くて重いのにーー速い」

 

「常軌を逸する動きとそれを支える魔法。恐ろしい逸材を見つけたものだ、我が王は。だがーー」

 

着地し、敵を多少なりとも睨むシャナ。それに対してケイは冷静に判断を下し、自らにかけていた枷の一つを破棄。

直後に呪力を再度全身へと回し直し、徒手空拳から八極拳へと切り替え、縮地というべき距離詰めで一瞬でシャナとの距離を詰め切る。

 

「なーー!?」

 

「遅いぞーー小娘」

 

直後にシャナの全身を途轍もない衝撃が襲う。胴へと当たる前に焔で創り出した盾で防いだにも関わらず、シャナはボールの如く吹っ飛び、地面を無様に転がった。

 

「かはっーー」

 

何度か地面を転がって、漸く動けるようになった直後、口が血を吐き出した。喀血に似た量が出たことで、シャナは警戒を強め、ケイを目で追おうとしてーー

 

「ーー何処を見ている」

 

「ーーッ!?」

 

背後に回った殺気の塊に、半ば賭けで左へと緊急回避。直後、自分が転がっていた部分がクレーターが出来るほどに凹み、衝撃波が空間を揺らした。

 

「躱したか、見事だ。時に襲撃してきた奴らはあれで終わっていた」

 

「それは……どうも。でもーーあれは確実に殺す気だった」

 

「あの程度で死ぬなら、その程度だと判断する気だったからな。我が王はこう告げた。『“渇望”とは何か』を教えてやれと。本来、“渇望”は強く願うことだ。語源は砂漠で彷徨い続けた者がオアシスを求めたことからだからな。死に触れてこそ理解できるだろう」

 

「そっかーーなら、私もおまえを殺す気で行っていいんだよね?」

 

「構わん。それぐらいで無ければ私は倒せん。この身は我が王以外に敗したことのない身だ。未知を見せるならば、歓迎しよう」

 

「ーー上等ッ!!」

 

急激な魔力の放出と共に、体内にある全魔力のうちで高濃度の魔力が凝縮。それらが一斉に握る太刀に纏わせる。

それらは最早、煌々と燃え盛る極焔。触れるどころか本来近づくだけでも焼却されるほどの代物だった。

されど、シャナのその身は既にそれそのもの。どのような焔も彼女自身に他ならない。ゆえにーー焔を操りし者では勝つことは不可能。

 

「Der antichristo stet pi demo altfiant , stet pi demo Satanase , der inan uarsenkan scal : pidiu scal er in deru uuicsteti uunt Piuallan enti in demo sinde sigalos uuerden . 」

 

叛逆せし汝ら、悪を以て悪為す諸悪と共にありき。

 

「Doh uuanit des uilo … gotmanno , daz Elias in demo uuige aruuarfit uuerde . 」

 

諸悪に連なりし根源を、我が焔は微塵残さず焼き滅ぼさん。

 

「so daz Eliases pluot in erda kitriufit , so inprinnant die perga , poum ni kistentit enihc in erdu , 」

 

例え、その果てにこの身、この命が死に絶えようとも。

 

「aha artruknent , 」

 

それでもーー

 

「suilizot lougiu der himel」

 

我が焔は彼のために、地も海も天も、そして万象すらも焼き尽くす。

 

未完成で未熟で灯り切らない、シャナの渇望。

愛しき彼のために、どんなことでもしてみせるという願いであり、その本質は覇道になりきれぬ求道。

中途半端であるがゆえに弱点の多いものであり、フィーリのような完成度は一つもない。

それでも、この願いを変えることなどするつもりはないと豪語するように、高らかに紡ぎ上げーー

 

「Briah , Mein Verlangen!!」

 

創造せよ、我が渇望!!

 

ーー今持てる総てを全力で、自らを再構築するかのように、万物万象を焼き尽くすかの如く、未完成な神焔として顕現させた。

 

「Lassen Sie dienen brennen alle , Firmament Flamme der ewigen Wiederkehr !」

 

万物万象を焼き尽くせ、永劫回帰の天焔!

 

触れれば決して逃すことはない、永劫纏わりつく滅殺の天焔。

それが未完成でありながらも、希ったシャナと融合した。

纏ったその身は御身と呼ぶに相応しき神々しさーー神性を会得した。その神気は、声音は、御身は、一切合切、拝謁する者を畏怖させた。

 

それは以前フィーが見せた完成された渇望の具現化、それに匹敵するほどでありながら、未だ未完成という将来性すら残している。

求道であるからこそ不完全で、求道であるからこそ臨界点には辿り着いていない。

 

「覚悟はーーいい? 私は出来ているッ!」

 

先に駆けたのはシャナ。地面がひしゃげるほどの脚力が渇望の強さを証明し、同時に今まで通りの対応では押し潰されるという警笛を吹き鳴らす。

 

「未完成でそこまで至るか、面白い。私を滅ぼせるものならーーやってみろ、小娘」

 

「言われるまでもーーッ!!」

 

一瞬で距離を詰め切ったシャナの太刀が心臓を突き穿つが如く突き出される。対して僅かに遅れたケイはそれでも致命傷を受けるつもりなど更々なく、硬化させた拳で太刀の切っ先を弾く。

僅かにずれ、太刀の切っ先はケイの脇腹を微かに抉り、隙だらけの彼女の身に勢いのある拳が迫る。

 

「ーー遅いッ!」

 

拳がシャナの脳天を打ち据えたーーその直後、シャナが一瞬で自らの発した天焔と姿を変え、触れた拳が白銀色の焔に焼かれた。

ただの焔であれば、気にすることはなかった。しかし、それは渇望の具現化、同時に魔法の原典に迫るもの。その身が人ならざるものであろうとも、浄化さんと輝き照らす滅殺の天焔。

そして、それは永劫にて回帰するーー不死殺しの焔に他ならない。

 

「ーーガァッ!?」

 

殴ったはずの拳が白銀色の焔に焼かれ続ける。どれだけ氣を操り、体内の水分や機能を抑えようとも焔の勢いは弱まらない。

対する敵を完全に燃やし尽くすか、或いは発顕者が渇望の具現化を止めるまで決してそれは消えることはない。

 

「滅ぼせるものならやってみろ、そう言ったよね。ならーー」

 

確かな確信と勝利の光景を浮かべて、神焔に揺れる太刀の切っ先をケイへと向けて、堂々と宣言する。

 

「ーー私は総てを燃やしてみせる。この想いは決して揺れないし、燃え尽きない。例え、どんなことになろうとも」

 

その瞳に一切の曇り無し。睨む総てが発火するほどの熱視線。

紛うことなく、其れは灼眼。その果てには未来すら見えていた。

そして、その御身を前にしてケイは微かな歓びと共に不敵に笑った。

 

「我が王よ、これは私も全力を出して宜しいかな?」

 

静かに、ただ静かに、そっと訊ねるように洩らした許可を求める声を、レインは決して聞き逃さない。隣に立つ愛娘フィーを安心させるように頭を撫でた後に、ハッキリした声で答える。

 

「構わん。五十年ぶりにお前の渇望を“許可”する。存分に輝かせるがいい、その願いを!」

 

篤と御覧在れ(イエス・ユア・マジェスティ)!」

 

“許可”、解除にも等しき真言を受け、瞬間、ケイの中に渦巻く魔力と呪力、その両方が流転する。混じり混じって巡り巡る。万物流転(パンタ・レイ)の名の下に。

 

「さぁいざ征かん、万物の原点へ! 総てを零へと還り給おうぞ!」

 

「させないーーッ!」

 

堂々と宣言するケイに対し、シャナはそれを防ぐべく駆け抜ける。不安になったからではない。危険を感じた訳ではない。ただただ真っ直ぐに、愚直なほどに敵の切り札を封じんがため。

だが、その愚直さがここにて不幸を呼ぶ。それが詰みだと気がつく訳もない。そもそもその願いはーー

 

「Atziluth , Mein Verlangen !!」

 

流出せよ、我が渇望!!

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるがゆえ。

 

「Zurück zum Ursprung , Nichts ändern !」

 

総ては原点へと還り、総ては変わらぬ時を征く!

 

『巻き戻し』にして『停止』。複合する渇望が『覇』を唱える。その渇望の元になった願いは、唯一つ。“変わらない日々こそ愛おしい”。

変化することよりも現状維持を望んだ、永久不変の願いは『渇望の具現化』を経て、あらゆるものの反能力(アンチ・アビリティ)として起動した。

 

「革命する万物よ」

 

『渇望の具現化』より願いへ。

 

「革新する万象よ」

 

『魔法』・『呪法』より祈りへ。

 

「今こそ再び原点(ゼロ)へと還らん!」

 

青年の祈りはこれにて再び成就する。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーRe:Zero(リ・ゼロ)!」

 

 

 

 

 

 

 

その時ーー万物万象の歩みは後退す(巻き戻)る。

 

 

 

 

 

ーーー*ーーー*ーーー

 

 

 

 

 

目が覚めた時、シャナの視界に入ったのはレインの顔だった。

突然のことで急激に顔が真っ赤に染まり、反射的に鉄拳が彼の顔へと直撃した。顎の下から急激な衝撃を受け、流石の彼も顔だけ仰け反らせるが、暫くもしないうちに顎の辺りを摩る程度で復帰する。

 

「起きたと同時に鉄拳は酷いな、シャナ」

 

「……ごめん」

 

「まぁ殴られるのは慣れたから別に気にしないが……」

 

許してもらえた、そう思った直後、先程の決闘が脳裏に思い出された。同時にあの後、どうなったのだろうという好奇心も出る。

ゆっくりと起き上がり、レインの顔をしっかりと見て訊ねる。

 

「勝負は……どうなったの?」

 

シャナの質問に対し、レインは躊躇うことなく告げる。

 

「お前の負けだ、シャナ」

 

それを受け、やっぱり届かなかったか、と呟くシャナ。だが、この程度で歩みを止める彼女ではない。

すぐさま気を取り直し、彼に問う。

 

「私はどう負けたの? 敗因を教えて、レイン」

 

「敗因について、か。簡単に言えば、お前の『渇望の具現化(切り札)』を無効化されて徒手空拳で鳩尾に一発入れられて負けた、ってところだ」

 

「無効化……? どうして?」

 

「本来なら長くなるんだが……掻い摘んで言えば、単純にアイツのーーケイの渇望は“変わらない日々こそ愛おしい”っていう『巻き戻し』と『停止』の複合した願いだ。例えば、フィーの願いが『先導』と『速度』の複合みたいな感じでな」

 

「二つの副属性……私のは?」

 

「現時点では全部判別できてないんだけど、大方一つは『神罰』だ」

 

「『神罰』……?」

 

「お前の魔法、《灼刃煉獄(フレイムヘイズ)》と同じ副属性。元より『悪』と判断した相手に特効作用するもので、使用者が『善』に近いほど効果が上昇しやすいっていうものだ」

 

「……つまり、私は『善』?」

 

「ま、そうなるな。元々お前の行動は間違ってない。俺の知る限りじゃお前は一度も間違いを犯していない。だから途轍もなく其方に近い。その分、魔法の方も全力でお前を助けている。それが証明だ。実際、その魔法の使用者は今まで通りなら何年も持たないからな」

 

そう言われてシャナは嬉しそうに頰を朱に染める。こうやって正面を向いて褒められたのはいつぶりだろう。最近は褒められるよりも怒られることの方が多かった。フィーにイタズラしたりしたのがその例だ……と脳裏に怒られた例を出した際に疑問が湧いた。

 

「『悪』の判断基準って存在するの?」

 

「ん? それは個人差があるから一概には言えないな。でもお前がすぐに『悪』だって思えた奴は大抵がそうだろう」

 

「そうなんだ」

 

納得できる解答を受けてポンっと手を叩く。また知識が増えたと喜ぶ姿はレインの目からすれば以前と何ら変わらない。

子供っぽいのか、子供のままなのか。恐らく前者であることは確定だろう。でなければ恋愛云々の感情が堂々と出るはずもない。鈍すぎるとまで言われたレインであったが、この間の一件以来、そういうのにも気がつくようになったせいか、少し恥ずかしくもあった。

 

「ところで、フィーは何処に行ったの?」

 

喜んでいたのも束の間、シャナは我に返ったように近くにいないフィーが何処に行っているのかを訊ねた。

 

「フィーか? フィーならあそこだ」

 

大きめのパラソルで日陰の出来た砂浜にいたシャナ達とは裏腹に、指を指されたのは海辺の方。確かフィーはまだ海が苦手だったはずだが、と思い少しばかり不安になるが、レインが慌てていない所を見れば、その心配は杞憂であった。

 

「……ぷはっ」

 

息継ぎと共に海面から顔を出したのは白髪に狼耳の少女ーーフィー。遠目からでも間違いなく彼女であると判断できたのは他に理由があったが、確信したのはこの後だ。

 

「カニ捕まえたよ、パパ」

 

堂々と海面から姿を見せたのは大きく成長したカニ。背中の甲羅をガッシリと鷲掴みに、ギリギリハサミが届かない範囲を保ちながら、こっちに空いている手を振っていた。

 

「あとで旅館の方に提供しておくか」

 

「えっと……レイン? フィーって海苦手じゃ……」

 

あの勝負の前まで一人で海に入るのも嫌がっていたはずのフィーが堂々と海に入っているーーどころかカニを採った辺り潜水すらしているだろうという光景に単純な疑問を抱く。

 

「慣れたってさ。交代でお前の看病してたんだが、途中で一人で入って少ししたらあの様子だな。曰く『環境に適応するのは早めにしないと殺られるから』らしい」

 

「野生児根性……」

 

「元々そうだからなぁ……。かなり変わったけど根幹は中々変わらないのが現実ってことだな」

 

「《帝王の宝剣(エンペラーブレイド)》で仕事受けてた時もたまに四足歩行で崖とか戻ってたの思い出した……」

 

「そんなことまでしてたのか、うちの娘……」

 

「娘って言ってる辺り、父親が板についてるよ、レイン」

 

「知ってる」

 

互いに顔を見合わせ、クスリと笑う。

 

「ねえレイン」

 

「ん?」

 

「三ヶ月間修行手伝ってくれないかな?」

 

「別に構わないけど、ギルドの奴らと一緒にはしなくていいのか?」

 

「うん。一人は恋人連れて何処かに消えてるし、一人は雪山にいるし、一人は純粋に腕磨こうと頑張ってるから、私は私でやらなくちゃ」

 

その瞳に映っているのは確かな覚悟と、今回の敗北をこれからの自分の糧としたいという好奇心と貪欲なまでの勝利。

余程勝ちたいのだろうか、などという考えは無粋だと思えるほどのそれに成長したんだなという実の親のような気持ちでシャナの頭を優しく撫でる。

 

「そっか、なら手伝う。実際、うちのバカ(シノア)に見初められた以上、こちらに巻き込まれたのは言わずもがなだしな。ちゃんと手伝っておかないと護身もできるか分からないし」

 

「うん……っ、ありがとう、レイン」

 

「なんで泣いてるんだよ、お前は」

 

「分からない……でも嬉しくて。修行手伝ってくれるの久しぶりだから」

 

「そういやそうだったな。ざっと七年くらい前か。あの頃は何度もシャナに追い出されたり殴られたりしたなぁー……結構ツラかった」

 

「そ、それは……その……仕方ない、じゃない」

 

反論出来ずに下を向くシャナ。以前から反省していることを知っているレインは意地悪く肩を(つつ)いた後、笑って慰める。

 

「冗談だ。たまには意地悪するのも悪くないからな」

 

「むぅ……、そういう時のレインはいつにも増して生き生きしてるように見える」

 

「そうか? ま、それはそれで悪くないだろ?」

 

「はぁ……、うん悪くない」

 

ただただ自己を犠牲にするような態度の多かったレインにそういう面もあるのだ、という小さな発見。それを今日知ることができただけなのに、シャナの心は優しい熱に満たされた。

照れ臭そうに、それでいて嬉しそうに、彼女はそっと胸に手をあて、眼を伏せて、そっとまた眼を開ける。

今日、惚気るのはこれぐらいにしておこう。これから、或いは明日からか。楽しく厳しい修行が待っている。

褒美も歓喜も達成感も、全てが終わってからしっかりと噛み締める。そう誓って、シャナは元気よく日陰から飛び出した。

 

 

 

 

 

「ーーそれじゃあ、早速やろう? 私、あんな奴に二度と負けないから!」

 

 

 

 

 

一度の敗北では諦めない、屈しない、潰えない。

そうしてシャナ・アラストールは『希望』の光を誰より抱いた。




次回は一応ジェラール達との邂逅ーーの予定です。
まぁ、気分を変えて三ヶ月間での出来事を一部書いたりするかもしれないので未定ではありますが。
あ、念のために言っておきますが、魔法何処行ったし、という方に忠告しますと、『渇望の具現化』は一なる魔法に近い位置にあるけど、王道か邪道かといえば後者です。
こうならなければならないという覇道の祈りや、こうなってほしいという求道の祈り。本来信仰であるはずの一部が感情の大きな高ぶりによって形を得ている、というものなので。
この辺りはいつか勢力図とかをこちらで書いた際に補足説明します。

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