鉄製のピッケルを振りながら、一人の男は掘り進んでいく。毛むくじゃらの、引き締まった腕でずっとずっと、ひたすら無心にピッケルを振る。
前の方を四つ掘り、目印に掘り当てたレッドストーンパウダーを置く。この世界では、基本石や砂といったものはブロック状になる。ブロック状にならないのはダイヤやレッドストーンパウダー、そしてケーキ以外の食べ物くらいだ。
左側を掘り進め、ブロック状の、小さくなった丸石を謎の収納ケースが吸い込む。このままいけば目印の場所に向かう筈なので、そこでまた四つ掘り進め目印を置く。ただこれの繰り返し。気が滅入る作業だ。
ここは水の代わりに溶岩に満ちてる世界。借金の重なった男は突然拉致され、ここに放り込まれた。借金の返済には金千ラージチェスト、ダイヤ一万ラージチェスト、鉄十万ラージチェスト必要となる。更にスポーンブロックなるものを見つけ松明で制圧したと報告すれば、待遇は良くなるのだという。男はこれまで見つけた事は無いが、いつか見つけて待遇を良くしてやると日々夢想している。
しかし、この世界に連れてこられた際に何かされたのか。男は日々疑問に思う。男はあまり空腹を感じず、病気にもならない。更に鉱山の中、酸素も無い筈だというのに身体に何もなく、溶岩に少々焼かれたりゾンビに襲われたりするのも、少々空腹感を覚えるだけで完治してしまう。代わりに腹を空かせたら一日で死んでしまうのだという。訳の分からない世界だが、そういうものだと納得するしかない。
適当な場所に階段ブロックを設置し、そこに腰掛け、支給されたステーキ肉とパンをかじりながら、先の見えない未来に思わずため息を吐く。
飯に困らず、ふかふかのベッドがあり、何されたのかは解らないが病気にならない身体。それに、最高の採掘用具。月に一度パンプキンパイも食べられるし、年に一度ケーキも食べられる。恵まれてるといえば恵まれてるのだが、ぶつける相手が居ないというのは、風俗通いで借金を繰り返した男にとっては少々キツいものがあった。
昔の恵まれた過去を思い出しながら、懐から煙草を取り出す。安物の不味い煙草、マントル200。不味く、臭く、短いの三連悪だが、ニコチン中毒になっている身体に染み渡る感覚は、その程度のデメリットを打ち消してくれる。それにもう、この銘柄を吸いはじめて数年は経っただろうか。まだどの鉱石も、二十ラージチェスト程度しか溜まっていない。まだまだ先は長くなりそうだ、とピッケルを持ち直し、振るう。
右手側にダイヤモンドが見えたので、掘るのとはまた別の、ダイヤモンド製の、紫色に光るピッケルに持ち直し、それを掘る。普通に掘るより数個ほど多く出る事があるのだ。最初は一つ見つかる毎に歓喜の声をあげていたが、今となっては何も感じない。ただ事務的に掘る。だが上からじゅうっ、という音が鳴り、ダイヤモンドを燃やした。
「チッ!」
咄嗟にこちらへ流れてこないように、石で塞ぐ。溶岩でも溶けない石というのは変な話だが、それがこの世界理であり、素直に受け入れるのがこの世界で生きていく術なのだ。
いくら経験を積み繰り返し遭遇しても、やはり折角見つけたダイヤモンドを燃やされるのは、いくら経っても慣れるものではなく、やはりげんなりするものだ。
またしても解放から遠退いた。ついさっき掘ったダイヤモンド鉱石からは、五つほどのダイヤモンドが出ていた。これを逃したのはかなり大きい。大きいがらいつまでもそれを引きずっている訳にはいかない。またピッケルを鉄製に持ち直し、先程と同じように掘り進めていく。
過ぎ去ったものをいつまでも未練がましく嘆いていても、時間は待ってくれない。寿命という概念自体この世界にあるのかどうかは定かではないが、どちらにせよやる事が無いので掘るしかない。このまま周回していけばまた溶岩にぶち当たるのだろうと思うと気がめいるが、しばらくの間は大丈夫なはずだと自分に言い聞かせる。
そしてしばらく掘り進んでいると、ふとその手を止め、石に耳を当てる。
「う゛あ゛」
もはや聞きなれてしまったゾンビの声、三つほど掘り進んでみると、少々不思議な現象に見舞われた。
ブロックが、丸石なのだ。
丸石は本来、普通の石(釜戸で丸石を焼く事で出来る事から通称焼き石とも呼ばれているらしい、男は知らんが)をとあるエンチャントを施していないピッケルで採掘出来る石ブロックだ。最初から丸石というのは、男は見た事が無い。
果てしなく嫌な予感がする。だが、男はこれまで真っ直ぐに(溶岩は避けてだが)突き進んできた。だというのに、溶岩でもないのにルートを外れるのは癪だ。
一段下を掘り、その前を二マス掘る。そしてからジャンプと同時に足元にブロックを起き、上昇。
待遇がどう良くなるのかは取らぬ狸の皮算用だが、今の男にとっては、これだけが日々の楽しみなのだ。
いざ、覚悟を決め、ビッケルを振るう。
「う゛あ゛」
「う゛あ゛」
「う゛あ゛」
一気に三匹ほどが男に向かってきて、男が掘った穴に落ちる。
緑色の肌に緑色のボロボロの服、腐敗臭が酷い。こんな奴の肉を食べたいとは思えないが、この世界に住んでいる村人はこれとエメラルドを交換してくれるのだから解らないものだ。
エメラルドはこの世界における通貨のような役割で、村人との交易に必要となる。
男は鉄製の剣を取り出し、ゾンビに振るう。
「ぐあうっ」
ぴょんぴょん跳ねるゾンビのうちの一匹に当たり、蛙を踏んだような叫び声を上げる。
ぴしゃり、と液化した肉がブロックに飛び散り、男の身体にかかる。
まずは一匹、男はほくそ笑み、残る二匹を斬る。
三匹倒した直後に二体追加で現れたが、それも同じように剣で斬り殺す。
緑色の粒が男の身体に蓄積されていく。五体殺し、手に入ったゾンビ肉は四つ。
今のうちに足元の落とし穴を埋め、箱状の部屋に突入し松明を乱雑に立てる。
明るく照らされた部屋、網状のブロックの中で小さなゾンビがくるくると回転している。
「……割りと簡単だったな」
思いの外簡単に終わって拍子抜けし、肩の力を抜く。
何度かしか見つけた事のない設置されている二つのチェストを開く。
一つは馬鎧、鉄インゴット、そしてパンとりんごが一つ。馬鎧は上の世界で使う事はあるだろうが、男には不要だ。なので馬鎧はチェストの中に残しておく。
もう一つのチェストを開く。サドル、鉄インゴット、レコード、そしてパンとりんご。食べ物とインゴットだけを取り、残りはチェストに残しておく。レコードには少々惹かれるものがあったが、取りに来るのは後で問題ないだろう。
しかし……と男は思う。このパン、いつから入っているのだろうか。そして、ゾンビスポナーの近くにあったパンは大丈夫なのだろうか、と。
最も、そんなのは気にしない方がいいのかもしれないが。
一先ず適当な場所に階段ブロックを設置し、そこに腰掛けりんごをかじる。
りんごはあまり支給されないので、ふとした時に外の世界へ出るか、こういった時にしか手に入らない。
甘酸っぱさが掘り疲れた身体を癒してくれる。何故か冷たいのが少し不気味だが、甘味の少ないこの世界では貴重なので気にせずに食べる。
それに、疲れた身体に酸味は心地よく感じるものだ。
「……ん?」
ふと、男は足元のブロックを見る。苔の生えたブロック、普段見かけないものだ。珍しいが、採掘対象には入っていない。
珍しいもんを見たな、と簡潔な感想を持つ。
別に男はブロックコレクターという訳でもないので、その程度にしか思わない。
一息付く為に煙草を取り出し、松明で火を付ける。
味は最悪だが、疲れた身体をニコチンが癒してくれる。
天井に煙が充満するが、この程度では死なないのは既に確認済みだ。
さて、と膝を叩き立ち上がる。
まだ掘り進めなければならないだろう、終わりの見えない採掘。だが、そろそろ所持鉱石が限界に近くなってきた。
あと一周で終わるか、と心に決め、男はピッケルを持ち直した。