東方美影伝   作:苦楽

12 / 17
今回も仮投稿で、タイトルから弄るかも知れません。

誤字、脱字、表現、文章、内容についてご指摘がありましたら、お気軽にお寄せ下さい。


異変解決して四季映姫頭を悩ませ、小野塚小町大いに焦ること

(何故、こんな状況になっているのでしょうか)

 

 四季映姫は困惑していた。今夜の出来事は何から何まで悩みの種だった。

 

 まず、突然の幽明結界解除。解決しようと自ら出向いてみれば、行く手を阻む風見幽香、新しく定められたルールに従って弾幕での排除を試みるも、渾身の弾幕でも風見幽香は無傷で飛び去る始末。

 

 次に、開花した西行妖の力に慌てて駆けつける最中に、突然消える西行妖の力、ようやく辿り着いた西行妖の傍らに見た物は……

 

 映姫は悔悟棒を握る手に力を込めて、脳裏からあの記憶を追い出した。自身の「能力」によって判決には影響を与えないとは言え、非番ながらも閻魔の身、部下や裁く相手に情けない姿は見せられない。

 

「こほん」

 

 映姫は一つ咳払いして意識を目の前に向けた。白玉楼の一室で自らの裁きを待つ、最後の頭痛の種の二人に。

 

 西行寺幽々子と八雲紫は神妙な面持ちで、背筋を伸ばして映姫の前に正座していた。普段の春の穏やかさに加えて秋の愁いを身につけた、どう見ても神仙としての気配を漂わせる西行寺幽々子と、普段の韜晦するような態度をどこかに置き去りにしたように自然体のまま、澄み切った眼差しで静かにこちらを見つめる八雲紫。

 

 そして、どちらもが、「今回の異変は自分の浅慮が引き起こしたことであり、速やかに厳しく罰して頂きたい。その代わり、他の者の責任は不問に」と言い張って止まないのである。

 

 映姫は、一体、貴女方は何処の誰なのかと尋ねたい気分だった。そればかりではない。浄玻璃の鏡で確認しても信じられない事実。何故、消滅するはずの亡霊が指圧で神仙に至ったり、隙間妖怪が自分を見つめ直して生き方を変えようとするというのか。

 自分の日頃の説教は──いくらこの世ならざる外見の持ち主の業とは言え──指圧に劣るものなのか。映姫は受けた衝撃を表情に出さぬよう意志の力で押さえ込んだ。

 昔聞いた閻魔仲間での落ち込んだ話──自分が地獄行きを宣告した盗人にお釈迦様が救いの糸を垂らした──を思い出し、それに比べれば、と自分を奮い立たせて処分を告げる。

 

「西行寺幽々子はこれまで通り、冥界の管理を怠りなく勤めること。八雲紫は速やかに幽明結界を再構築すること。ただし、西行寺幽々子の現状を鑑みて、幽明結界はこれまでよりも緩く、冥界に生者も滞在可能な結界とする。それに伴って予想される幽霊や生者の混交に関しては、両名が責任を持って取り締まること。これが貴女方への処分です」

 

「それでは軽すぎます。顕界を危険に晒した浅慮にはもっと重い罰が必要です」

 

 西行寺幽々子が真剣な眼差しでこちらを見つめ、

 

「幽々子に関してはともかく、私はせめて悔悟棒で打たれるべきです」

 

 八雲紫が縋るように言葉を続ける。

 

 映姫は頭を抱えたくなった。自分が西行寺幽々子や八雲紫を打てる筈がないのだ。

 

 まず、異変を起こした妖怪を現時点で閻魔が裁いてしまっては、スペルカード・ルールの意味そのものがなくなってしまう。そもそも、異変を起こすことは罪ではないという前提の元に成り立つルールなのだ。それを閻魔自身に破れというのか。

 内に鬱屈したものを抱え込んで幽明結界を解除したことは問題であるが、誰かが幽明結界を解除しなければそもそも冥界に生者が立ち入ることは不可能なのだ。異変解決者として博麗の巫女が解除するか、幻想郷の管理者として八雲紫が解除するのかの違いでしかない。

 動機に関しても、本人が反省しているのであれば咎め立てすることは無用。実際、現在の幻想郷のあり方が八雲紫と博麗霊夢、とりわけ八雲紫に重責を負わせているのは事実なのだから。長年蓄積された疲労でおかしな判断をしたとしても現時点でそれは責められまい。

 何より、犠牲を出さずに解決された異変の処理に関して非番の閻魔が口を挟むのは越権行為に他ならない。これで自分が悔悟棒で八雲紫を殴りつければ、自分への不満を口実に職務外で暴力を振るう職権乱用ではないか。

 

「これは最終決定です。異論は認めません。両名とも、反省しているのであれば、それはこれからの生き方で示して下さい。裁きは貴女方が死んだ時に下します」

 

(今の貴女方が私の裁きを受けることになるかどうかはわかりませんが)

 

 最後の言葉を喉の奥に飲み込んで、映姫は席を立った。一刻も早く戻ってあの、田中田吾作と言う名の外来人について調べたかった。

 浄玻璃の鏡で調べようとした自分を、博麗の巫女、紅魔館の主、そして風見幽香までもが真剣な表情で止めたあの外来人。今の問題は彼に依る所が大なのだから。

 

(その前に、小町の仕事ぶりを見てから帰りましょうか)

 

 何故か無性に、小町の声が聞きたかった。

 

 

「んー、もう終わり?」

 

 博麗霊夢は目を見開いた。うつぶせになった自分の視線の先には、白玉楼の客間に掛けられたれた床の間の日本刀が見える。あの二刀流の庭師の趣味だろうか。

 ゆっくりと身体を起こす。身体が軽い。借りた風呂で入浴しても治まらなかった、霊力の使いすぎによる頭痛も、連戦による疲労も見事にぬぐい去られている。これならこれから始まる宴会も十二分に楽しめそうだ。用意されていた着替えが経帷子というのが気に入らないが、それくらいは許そう。

 

(紫とか人外共が懐くのも納得ね)

 

 視線を施術者に向ける。既にあの黒衣で頭から足先までをすっぽりと覆った田中田吾作を。

 

 自分が不可分であるはずの「能力」からも解き放たれて、博麗霊夢が博麗霊夢としての存在から解放される感覚は、他に例えようもない程寛げた。

 

(人外専門にしておくのは惜しい腕前ねえ)

 

 人間相手は不得手だからと言われたが、頼んで施術して貰っただけのことはあったと満足げに頷いて、霊夢は立ち上がった。

 

「先生、有り難う。魔理沙と替わるわね」

 

 

「凄い腕だぜ、先生」

 

 霧雨魔理沙は心から賞賛した。軽く身体を動かして身体の状態を確かめる。熱、痛み、引きつり、疲労感、倦怠感、それらの全てが綺麗に押し流されているのは、自分でも信じられない程だった。

 霊夢に先生の施術を受けるのを誘われた時には、恥ずかしすぎて堪らなかったが、いざ施術されてみるとその腕前に感嘆するばかりだった。

 

(パチュリーと小悪魔が誉めていたのはこれか)

 

 図書館で、パチュリーと小悪魔が遠い目をして語っていたのが今なら腑に落ちる。尤も、先生の話では、『人間相手では全力が出せないので精々体調を整える程度』らしいが。

 

(これでセーブしてるなら、全力を出されたらどうなるんだ?)

 

 そう疑問に思いかけて、自分で答えを思いつく。あの桜の袂で見た光景を。あれが先生の全力なのだ、おそらく。

 

(亡霊を仙人にしちまうんだからなあ)

 

 先生の黒い姿に視線を送る。霧雨魔理沙は理論より自分の経験を信じる。で、ある以上、あれは現実の光景だったのだ。

 

『何処か、調子が良くない所とかありましたか?』

 

 先生の前に浮いた板──伝言板というらしい──に現れた文章を確認して、慌てて否定する。

 

「いや、調子はばっちりだ。先生、有り難さん」

 

 

 どうも、博麗霊夢さんがこちらを睨んでいたのは、「自分にも施術してくれないのは不公平だ」ということだったようだ。そう言われても、今回は八雲さんの予約でこちらに来たのだし、そもそも自分は人外の施術が主なので人間相手では色々とやり難い、と断ったのだが、博麗さんは押しが強く、結局今回の功労者である博麗さんと人間の魔法使いである霧雨魔理沙さんの施術を行うことになった。

 部屋と布団を借りることが出来たので、博麗さん、霧雨さんの順で施術を行う。博麗さんは凄い、の一言である。経絡も霊体も見事なまでにバランスが取れている。やはり「特別」な存在なのだろう。

 それでも、人間なので「存在」に起因する疲れは取れていないようだ。ギリギリまで深く施術する。「重い」存在はそれだけ疲労が溜まるのだ。これで疲れが取れてくれれば良いけれども。

 霧雨さんは博麗さんに比べるとずっと普通の人寄りの身体だけど、その分、酷使しているようだ。極限まで心体を使って自分を鍛える。求道者の心と体だと思った。少しでもそれを癒やせるように、時間を掛けて入念に施術する。

 人間相手の施術は普段と勝手が違うから緊張するが、何とか上手く行ったらしい。二人に感謝されるのは少し面映ゆいが、この仕事をやっていて一番嬉しいことには変わりない。

 今から宴会らしいが、僕は酒を飲まないので、遠慮させて貰って壺の中で休むことにする。

 

 

「映姫様、向こうはもう片付いたんですか」

 

 小野塚小町は覚悟した。異変の規模からして上司の帰りはもっと後になると踏んでいたが、予想を遙かに上回る速さで帰ってきてしまった。まさか夜が明ける前に帰ってくるとはお釈迦様でもご存じなかろう。気配で目を覚ました目の前に上司の顔があるのは、何度やっても最悪の目覚めだと断言出来る。今度こそ説教は免れまい。

 

「小町も疲れているようですね。無理せずに上がりなさい。私もこれで上がります」

 

 そう言い残して彼岸へ飛び去った四季映姫を見送って、小町は悟った。時として優しい上司は怒った上司より恐ろしいという真理を。

 

「……もしかして、あたい、映姫様に見捨てられた?」

 

 

「幽、幽々子様、私がここで本当によろしいのですか?」

 

 魂魄妖夢は落ち着かなかった。白玉楼の大広間で開催された、異変解決記念の手打ちのための宴会で、妖夢は上座に座す博麗の巫女と霧雨魔理沙に続く席次を与えられたのだ。

 開け放たれた戸口からは、春の朝の日差しと共に桜の花片が流れ込んでくる宴席で主賓に近い席を与えられるだけでも落ち着かないのに、それに加えて、

 

「良いのよ、妖夢には苦労を掛けたのだから、今日はそこで持てなされる側よ」

 

「幽々子の言う通りよ、藍も落ち着きなさいな」

 

「紫様がそう仰るのであれば……」

 

 穏やかに微笑む主とその友人が調理から給仕まで行い、あまつさえ全員に酌をして回っているとあっては、とても落ち着いて宴席を楽しむ気分には慣れなかった。見ると、向かい側に座った紫の式神である八雲藍もどこか居心地が悪そうに膳に箸を付けずに、自らの主を見つめている。

 

「藍様、紫様のお料理美味しそうですね!」

 

 その隣の自分の相棒はにこにこ笑って膳の上の鮎の塩焼きを見つめているのだが。とはいえ、主が手を付けないため、自分も我慢しているようだ。八雲紫が自分の席に着いて飲み始めるまでそのままだろう。

 

 一方で、上座に座った博麗の巫女と霧雨魔理沙は、舐めるように杯を口にし、一口一口噛みしめるように膳の上の肴を味わっている。下座側では、紅魔館の主従と風見幽香が談笑している。

 

「あの、幽々子様」

 

 宴席に足りない人に気付いて、妖夢は恐る恐る幽々子に声をかけた。

 

「どうしたの妖夢、何か口に合わなかった? 私がもっと料理出来ればよかったのだけど」

 

「貴女はお嬢様だったから仕方がないわよ。その後は亡霊生活が長かったのだし」

 

「い、いえ、そうではなくてですね……」

 

 妖夢は軽口をたたき合う主と友人に躊躇いながら、疑問を口にする。

 

「もう一人のあの田中様は?」

 

 田中田吾作と名乗った主の恩人が居ない。あの太陽の輝きに勝る容姿を闇のような衣に包んだ不思議な客人が。

 

「先生なら、もうお休みになられた」

 

 答えたのは、下座で銀髪のメイドから箸の扱いを教わっていた紅魔館の主だった。

 

 ある意味、一番の功労者なのに何故?

 

 妖夢の疑問に答えたのは、上座の博麗の巫女だった。

 

「魂魄妖夢だったかしら? あんた、先生の顔見ながらでまともな宴会になると思う?」

 

「……無理だと思います」

 

 妖夢は首を左右に振った。あの容姿を前にして酒食を楽しむというのは無理だろう。しかし、だからといって、一人だけ除け者にしたような形なのは……。

 

 魂魄妖夢は目の前の杯を煽った。甘いはずの酒は、妖夢の気分を表すように、どこかほろ苦かった。

 

 

「お酒も、肴も美味しいわねえ」

 

 西行寺幽々子は膳の輪の中に設えられた自らの席で杯を干した。口の中で風味を楽しんでから喉の奥へと酒を送る。生姜に添えられた嘗め味噌ごと一口噛んで、生姜の歯ごたえと香り、嘗め味噌の旨味を堪能する。

 

「そんなに違うものなの?」

 

「雲泥の差よ」

 

 興味深そうな顔で杯を満たす友人に目礼して、杯の酒を味わう。

 

「亡霊だった頃、あんなに沢山頂いていたのは、そうでないと飲食の気分が味わえなかったからだもの」

 

 鮎の塩焼きの腸の部分を一口。独特の香りと塩気が口の中を満たす。

 

「肉体があるっていいわねえ」

 

 心の底から幽々子は呟いた。沈んだ様子の妖夢を一瞥して、頷く。

 

「これも博麗の巫女と先生のお陰、何かお礼をしたいわね」

 

 その幽々子の言葉に、妖夢が顔を上げる。

 

「私も何かお礼をしたいです」

 

 満足気に頷いて、幽々子は紫を見つめた。

 

「と、いうことなんだけど、何か良い考えはないかしら?」

 

 友人の問いに、妖怪の賢者は眉を寄せた。

 

「それがこれと言って思いつかないのよ、ねえ?」

 

 下座へ声をかける。

 

「私達もそれで困った」

 

 紅魔館の主が答えを返す。

 

「先生は、お酒を召し上がりません。食事も御自分で用意されて一人で召し上がられます、」

 

「済む所はあの壺の中、服はあの外套で意味はなし……外套を脱いだ時に釣り合う服なんて用意出来ないでしょうね」

 

 十六夜咲夜の言葉を、風見幽香が引き取った。

 

「異性は……どうなのでしょうか?」

 

 おずおずと口にした八雲藍に視線が集中した。

 

「藍、貴女……はまだ先生の姿を見たことがないのだったわね」

 

 紫の言葉に周囲は無言で頷いた。

 

「先生相手に自信を持って自分を差し出せる者が此処に居るか?」

 

 レミリア・スカーレットが周囲を見渡した。

 

「そ、そんなに怖い外見なんですか?」

 

 橙がおっかなびっくり口を挟む。

 

「逆の意味で恐ろしいです。私はあんなに美しい方を見たことがありません。美しすぎて、恐ろしい」

 

 魂魄妖夢が溜息をついた。

 

「先生は、自分の腕を振るえて、他人の役に立てるのが嬉しいって仰ってたよ」

 

 それまで黙り込んでいた、フランドール・スカーレットが口を開いた。そう、フランドールが忘れるはずがない。あの時、先生が示した言葉を。

 

 何か助けてくれたお礼をしたい、と口にしたフランドールに、先生は示したのだ。

 

『自分の能力が全力で振るえて、それが他人の役に立つほど嬉しいことはないです。だから、フランドール・スカーレットさんが幸せになってくれるのが一番のお礼です』

 

 西行寺幽々子の頬を涙が伝った。八雲紫は助けを求めるように、博麗霊夢の方に視線を向けて、軽く頷いてから口を開いた。

 

「先生には、幻想郷にずっと滞在して貰って恩を返していけばいいんじゃないかしら」

 

 

「美味いな、酒も肴も」

 

 霧雨魔理沙は目の前の料理と酒に舌鼓をうっていた。山菜の和え物のほろ苦さも、焼いた鮎の香ばしさも、炙った獅子唐の辛さも、今夜は一際鮮烈に感じられる。

 

 先生のことは気にならないでもないが、自分達より長い付き合いの紅魔館組や風見幽香が気にしてない様子なので、魔理沙も気にしないことにした。先生が参加する気なら、連中が万難を排して何かするだろう。

 魔理沙はそこまで考えて、傍らの霊夢に視線を向けた。何時ものうわばみっぷりは影を潜めて自分のようにちびりちびりと味を楽しみながら飲んでいる。時折座敷に舞い込んで切る桜と朝日を愛でながら、下座でなにやら話が盛り上がっているのを聞き流して酒と肴を存分に楽しむ。

 

 酒と肴が残り少なくなってきた所で、魔理沙は快い酔いと共にふと浮かび上がった疑問をめっぽう勘が良い友人にぶつけてみた。

 

「なあ霊夢。冥界ってのは何でもこんなに美味いのか?」

 

「この料理と酒は紫が用意したものでしょうし、紫は料理の腕も可成りのものらしいけど」

 

 そこまで口にして、霊夢は杯を干した。その杯に酒を注ぐ。

 

「悪いわね……一番の要因は私達自身ね」

 

 また一口。

 

「正確には、先生の施術のお陰かしら。味覚も含めた感覚というより感性が研ぎ澄まされてるわ」

 

 霊夢が獅子唐を口に運ぶのを見て、魔理沙も残った山菜の和え物に箸を伸ばす。確かに、普段より苦みと塩気と僅かな旨味を深く感じ、魔理沙は唸った。

 

「先生は、そんなことまで出来るのかよ?」

 

「出来るんでしょうね」

 

 霊夢はあっさり頷いて、視線を下座に向けた。

 

 いつの間にか静かになっていた下座の方に視線を向けて、魔理沙は西行寺幽々子の頬に光るものを見た。

  

「それで魔理沙」

 

 見てはならない物を見た気がして、慌てて声を潜めた霊夢の方に顔を寄せる。

 

「毎回こんなだったら異変解決も少しはやる気が出ると思わない?」

 

 魔理沙は相棒の意図する所を正確に汲み取った。

 

「霊夢、流石お前は異変解決の専門家だぜ。私はそこまで気が回らなかったよ」

 

 

 目が覚めたら、八雲さんから僕が幻想郷に定住して、異変を解決した人に施術してもらえないかという話が来ました。昨日の宴会の間に全員一致で話が纏まったとか。

 幻想郷はいい人が多いし、腕の振るい甲斐のある仕事も多い。しばらくは此処に滞在してもいいかもしれない。よろしくお願いします、と答えたら全員に喜んで貰えたので、感激。今日は良い日になりそうだ。

 

 前言撤回。僕が何処に棲むか決めるのに弾幕ごっこを持ち出そうとする文化にはどうも馴染めそうにない。先行きが不安です。

 

「幻想郷に遅い春の訪れ」  文々。新聞 第百十九季 皐月の項より抜粋

 

 本年の春は例年に比べて非常に遅かったが、その原因に関しては、冬の妖精の仕業、春告精が掠われた、昨年の秋のあまりにも見事な紅葉をねたんだ桜の精の仕業、などの噂が飛び交っていたが、本紙記者は他紙に先駆けて真の要因を解明することに成功した。

 

 遅い春は即ち異変であり、異変の要因はなんと冥界は白玉楼にある西行妖と呼ばれる桜の木だったのである。千年以上もの間、花を咲かせることがなかったこの桜を咲かせるために、幻想郷中から春を集めたことが、遅い春に繋がったとのこと。

 

 異変の動機に関しては、

 

「やはり桜は咲いてこその桜よ。でも、私が異変を起こした訳じゃ無いわ」(花の妖怪・風見幽香)

 

「あの木の根元に封印されていた、大切な物を取り戻すためだったかも知れないわね」(冥界の管理人・西行寺幽々子)

 

 などの証言が得られている。

 

 異変を解決したのは、博麗の巫女である博麗霊夢、及び、普通の魔法使い霧雨魔理沙の両名である。両名は冥界と顕界を隔てる幽明結界の向こう、冥界の白玉楼の咲き誇る西行妖の前にて異変の黒幕達との激闘を制して、幻想郷に春を取り戻したのである。

 

「とにかくきつかったわよ。寒いのは苦手だしね。今回の功労者は間違いなく魔理沙よ。うん、色々あったけど、終わりよければ全て良し、ね。次に異変が起こっても全力で解決に行くわ。異変を起こすつもりがある奴は覚悟しておきなさい」(博麗の巫女・博麗霊夢)

 

「色んな相手と弾幕ごっこしたな。まあ、全部良い勝負だったよ。今回は自分でも異変解決に貢献出来たと思うから気分が良いぜ。何か困りごとがあったら霧雨魔法店までご一報下さいってところだな」(普通の魔法使い・霧雨魔理沙)

 

 幻想郷に遅い春が訪れた今、我々はこの二人の偉業を称えるべきではないだろうか。(射命丸文)

 

「異変起こす人、解決する人」花果子念報 特集原稿覚え書き 第百十九季 皐月の項より抜粋

 

 紅霧異変の特集でも双方のインタビュー記事を本紙に掲載した通り、異変を起こす側にも、解決する側にもそれぞれの事情や立場、意見が存在するのは読者諸氏も御存知の通りである。

 今回は、先日の「春雪異変」の当事者へのインタビューを通して、異変を起こす側のメリットや心構え、異変を解決する側のメリットと心構えそれぞれを掘り下げてみたい。

 

「『春雪異変』を引き起こして得たもの」 冥界の管理人・西行寺幽々子

 

「私があの異変を通じて得た物は、まず古い友人との友情を確かめ合えたことね。ほら、困った時の友人が本当の友人と言うでしょう? 

 

 後は、上司の方にも私がおかれていた立場を再確認して頂いたし、従者の成長にも繋がったわねえ。自分も以前より健康的になったのも良かった点ね。異変によって知り合いも増えたし、行動範囲も広がった。

 

 冥界も結界のあり方が変わったお陰で、生者の方々にも白玉楼に遊びに来て貰えるようになったのよ。今年はもう間に合わないけれど、来年は是非西行妖も含めた、白玉楼の桜を皆さんに見に来て頂きたいわ。もちろん、そのまま冥界に移住して頂いても構わないわよ?

 

 話が逸れたけれども、自分の環境に不満を持っているなら、思い切って異変を起こしてみるのも手じゃないかしら? くよくよ悩んでいるならすぱっと異変というのも有りだと思うわよ。もちろん、自分の責任でね」

 

「『春雪異変』を解決して得たもの」 普通の魔法使い・霧雨魔理沙

 

「異変解決の醍醐味は、先ず弾幕ごっこ。これに尽きるぜ。普通の勝負以上にお互いがお互いを賭けた真剣勝負が出来るんだ。これを捨てる手は無いと思うぜ。

 

 弾幕ごっこが好きなら一度は異変解決に乗り出すべきと断言できる。それによって知り合いも増えるしな。弾幕ごっこってのはギリギリのところで自分の表現だから、正々堂々と戦えば、勝っても負けてもお互いのことがよくわかるから知り合いも増える。異変を解決したら知名度も上がるしな。

 

 後、忘れちゃいけないのが異変解決後だ。異変を無事に解決出来たら、相手持ちで只酒只飯飲み食いし放題の大宴会だ。さっきまで戦ってた連中と飲むのもやってみれば気持ちいいぜ。今ならそれ以上に期待出来るサービスが付くからな。勇気を出して異変解決にチャレンジすることをお勧めするぜ」

 

「異変を起こすにあたっての心構え」 冥界の管理人・西行寺幽々子

 

「異変を起こす時に大事なのは、信頼出来る仲間を集めることね。一人で異変起こすのは大変よ。何かあった場合も助けて貰えないし。私も、一人で異変を起こしていたらこうして取材に答えていられなかったと思うわ。

 

 後はきちんとルールを守ることね。各種の決闘ルールに従って対決し、破れたら素直に異変を終了させる。負けっぷりが悪い敗者は嫌われるわよ? 

 

 そうそう、負けた後は勝者の要望に応えて宴会を開催して手打ちにすることになったから、その準備や予算を忘れずにね。お金がないなら後で働いて返すのも有りらしいわよ?

 

 これは強制ではないけれど、お風呂やお医者様の手配も喜ばれるわね。一度で懲りずに何度でも異変を起こすつもりなら、そこらの配慮は忘れない方が良いと思うわ」

 

「異変を解決する時の心構え」 普通の魔法使い・霧雨魔理沙

 

「今まで二回異変解決に挑戦して思ったのは、闇雲に異変の黒幕を捜し回っても駄目だって事だな。特別勘が鋭いとかでなければ、何かおかしな手掛かりを調べて、それからあたっていった方が良い。

 

 その時も、できるだけそれに詳しい知り合いとかに知恵を借りるのも手だぜ。調査が終わって敵の本拠地がわかったら乗り込んでいって弾幕ごっこだ。調査にせよ、弾幕ごっこにせよ、日頃の準備や努力が物を言うのが異変解決だ」

 

 以上、実際に異変を起こした人物、解決した人物の生の声である。これから異変を引き起こしてみようと思った方にも、解決してみようと思った方にも参考になるのではないだろうか。本記事が読者の方々の快適な異変ライフのお役に立てば幸いである。(姫海棠はたて)




これにて、「春雪異変」ひとまずの終了でございます。

感想の方で質問やご意見を頂きましたが、自機組の魔改造はありません。

元から強い人、努力で強くなる人、半分人間の人とか色々居ますが、基本的に魔改造は無しで話の中で成長したりしなかったりします。

今回の被害者

四季映姫・ヤマザナドゥ
小野塚小町

東方キャラで大好きなんですけどね。今回の話では貧乏くじを引いてしまいました。
まあ、これから長い付き合いになりますので、今回は顔見せ程度と言うことで。

今回の魔改造

西行寺幽々子+(肉体+人間の頃の記憶)

殆ど仙人ですね。能力が能力ですので、なるべく使わない方向で。

八雲紫-(後ろめたい秘密+慢性疲労+妙な拘り)

儚月抄読んで思ったのは、この二人妙な拘り捨てて従者への優しさ+すれば無敵じゃないかな、ということでしたので、その方向で。余計な能力とかはいらんでしょう。

次回以降は今回触れられなかった里とか天狗達とかその他諸々の日常を挟みつつ、萃夢想、永夜異変と話が続いていきます。

月人組書きにくいんですよね、えーりんとか頭良すぎて何考えてるのかさっぱりわからんです。

と、いうことで何時もながら嘘予告です。

東方兎兵ウドンゲ

 依姫の手を逃れた鈴仙を待っていたのは、また地獄だった。逃亡の後に住み着いた欲望と暴力。因幡てゐが導いた迷いの竹林。知性と怠惰、頽廃と停滞とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは幻想郷のゴモラ。
 次回「永遠亭」。来週も鈴仙と地獄に付き合ってもらう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。