なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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後日談・色褪せた守る物

 

 

 

後日談・色褪せた守る物

 

 

 

Side~レジアス=ゲイズ

 

 

 

免職された私は、高町速人の下に雇われた。

表では店員、他には作戦立案や指揮についての話をしている。

 

話に関してはシュテルという娘が聞いているのだが、素直に話を聞いて切り良く質問を切り出すので此方はあまり問題ない。

 

が…

 

「はー…はーっ…」

「歳だもんな。人動かすのと違って気合と根性あればどうにかなるからゆっくりやってこうぜ。」

 

日常活動を行うに辺り、高い地位を得ていた昔と異なるのだからとダイエットを強要される事となった。

 

今まであった忙しさは無いので時間的な問題は無いが、儂が限界まで動いても意にも介していない一同から向けられる視線があまりに痛い。

 

「警察とかって一般職員も体術訓練とかしてるものじゃないの?」

「地球の話を押し付けるな。銃や警棒のような直接的な武器の使用が許可されていない管理世界で非戦闘員が戦闘訓練などしても意味が無い。」

 

魔力も持たない幼子の雫にすら苦い視線を向けられ、その親である恭也に庇われる始末。

 

これが、元・地上本部の事実上最高権力者であった儂の末路とは誰も思うまい…

 

 

 

 

情けない事ではあるが、同時に曇った目が晴れていくような気分もあった。

 

体を動かして汗を流すと、陰鬱とした思考も一緒に抜けていく。

仕事等で振り回されて満足に眠る事が出来なかった時と異なり、体が勝手に眠りを選ぶほどに疲れ果てる。

 

これらは少なくとも、局にいた時にはなかった経験だ。

ビンで抱えておかなければならなかった薬も、徐々に不要になりつつある。

 

 

 

 

 

一応店員としてここに住んでいる為、店にすぐ出られる場所と格好ではいるのだが、昼時や仕事終わり等の決まった時間以外の客はまばらで時間に追われるような事はなく、のどかな時を過ごしていた。

 

「むぅ…また儂の負けか…」

「そうですね、ですが見事です。ディアーチェでも勝負になる程度が限界ですが、貴方相手では全力でやる必要がありますから。」

 

 

今のように、シュテルとボードゲームを嗜む程度には。

 

 

地球から来た盤上の駒を交互に動かし取り合うゲームだが、中々に奥が深い上にシュテルが強い為未だに満足に勝てん。

何でも理を象徴とするらしく、こうした勝負は最も得意とするようだ。

 

と、店番をしているはずのフレイアが儂等の元に顔を出す。

 

「レジアスさん、貴方に来客です。」

「儂に?」

 

ろくでもない用事であればわざわざ取り次ぐ筈も無い彼女が呼ぶとしたら…

 

 

「お久しぶりですレジアスさん、少しお時間よろしいですか?」

 

 

予想通り元々身内であった八神はやて絡みであった。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

 

『レジアス元中将と話してみるべきでしょう、きっとその価値はあると思います。』

 

シグナムの薦めと、事件後の騒ぎが落ち着いた事もあって私は再度フレイアの店、エメラルドスイーツに顔を出した。

普通に店の一席で私とレジアスさんが話しとったら最悪それだけで営業妨害にすらなりかねんという事で家の中に案内される。

 

あえて軽めに切り出したのだが、結局重い沈黙が降りる。

 

「…何のようだ?」

「貴方の管理局での話をお聞かせ願いたいと。」

「今更事情聴取か、寝ぼけるのも大概にしろ。」

 

取り付く島も無いレジアスさんに、私は首を横に振る。

 

「事情聴取なんてもんや無いですよ。ただ、貴方の話が聞きたいだけです。」

「落ちぶれた儂の話など、見事奇跡の部隊を立ち上げて見せたお前に何の意味が」

「違います。」

 

奇跡の部隊。

 

巷で騒がれるようになった機動六課とその部隊長である私。

闇の書事件に関しての落ち度を指摘する声もこれからは小さくなるだろう私が得た箔。

 

 

でも私は知っている、それが下手なハリボテより脆いものだと。

 

「民間人の登用、その二度の重体、貴方からの査察を避けた手は裏事の上貰い物、その上…地上本部襲撃の折、ヴィヴィオを攫われたのは完全にミスでした。」

 

地上本部襲撃に気をとられ全戦力を予言通りに地上本部に集中させていた。

レリック絡みで繋がっていたヴィヴィオにつける護衛をたった二人と他AMF対応もろくに出来ない少数戦力のみで済ませ、挙句攫われた。

六課の全戦力が普通に機能していれば、まず間違いなくどうにかなっただろう戦闘機人。

そして、戦力の運用は…私のすべき事だ。

 

ここでヴィヴィオさえ攫われていなければゆりかご自体が上がらなかったし、そうなればロッサが発見してくれた地上のアジトのみを六課の精鋭で抑える事ができた。

 

だが、みすみすヴィヴィオを攫われた上、民間人の力を借りてようやっと抑えた。

 

極端に酷い言い方をすれば自作自演とすら言われるだろう今回の結果を、無条件に誇って奇跡扱いを手を叩いて喜ぶ気には到底なれなかった。

 

「局の体制、動きの遅さ、事件に関われば関わるほどしてきた歯がゆい思いに抗うつもりで足掻いて、今回機動六課設立の機会を貰えました。そしてその結果が…」

 

何をやっていると文句を言いながら顔を出してやって見せた結果、今更自分の焦りに気付かされた。

 

「だからレジアスさん、貴方が親友であったゼストさんと何を思って何をして…どうしてこうなったのかを知りたいんです。苦い話になるのは承知していますが…お願いできませんか?」

 

レジアスさんは、少しの間黙って私を見ていたが…やがて静かに頷いて、事の顛末を語ってくれた。

 

 

地上の平和を渇望し、戦えないなりに地位の向上に努めたレジアスさん、そんな彼の力になると誓ったゼストさん。

戦力は海に奪われ、ロストロギアの起こす惨劇と比べれば小さな…それ故にか、近しい場所で味わえる相次ぐ災害と、そんな現場を納めるには到底至らない地上戦力。

地位と力を求めた結果、最高評議会の下でスカリエッティに協力する事となり…

 

 

私だって、一歩逸れたら彼と同じ事になる可能性があると思い知らされた。

 

何しろ、誓いを立てた頃の二人は、何も知らない私やなのはちゃん、フェイトちゃんと大した違いもなかったのだから。

 

 

 

Side~レジアス=ゲイズ

 

 

 

全ての話を終えて暫く後、八神はやては小さく頭を下げた。

 

「つくづく速人君の言う通りやな…」

 

顔を上げた八神はやての呟きを耳にした儂は、その名前に疑念を抱く。

 

「…一つ聞きたい事がある。」

「何でしょう?」

「高町速人、奴は何者なのだ?」

 

普段を知る者ならば躊躇いなく幼稚が抜け切らぬ子供と称するだろう彼だが、やって見せた事や今の八神はやてが口にする名としてそれではあまりに不釣合い。

リライヴの開放要求といい、間違いなく汚い世界に染まっているだろうあの青年は、何故ああも綺麗な瞳をしているのか…

 

「本人に聞くべき…とも思いますけど、聞いたらサラッと答えてしまいそう何で私から話しときます。本人や…周囲の人に聞かせんといて下さい。」

「分かった。」

 

速人が語るだろうと苦笑混じりに言う八神はやて。

それは儂も予想できる事だった。あの青年に重さを期待するのは間違っている。おそらくは、なんでもない事のように想像を絶する暴露をしてくれる事だろう。

 

それに比べれば、多少話を伏せられようが他の者に聞いたほうがマシだった。

 

「簡単に言うと、速人君は私達と間逆です。」

「逆?」

「これ以上ない程嫌になる世界しか知らない状態から、ほんの少し守ったり笑顔に触れたりして、それが嬉しくてたまらなかった人。」

 

八神はやてが告げた説明は、抽象的ではあるが彼を知るには十分だった。

 

普通の者が避ける泥沼も、頭の先までどっぷりと漬かっている人間であれば、泥沼に肩まで漬かった状態を『顔を出せた』と喜ぶ事だろう。

 

それが、人の生死であると言う事は…

 

「こんな説明で大丈夫でしょうか?」

「ああ…」

 

予想は出来るが、故に全てを語らず伝えてくれた事がありがたい。

 

 

守れればいい。

 

 

儂はその為に悪事に手を染め、歪んだ。だが奴は、心から嬉しそうにそれを成していた。

その根幹が、今の八神はやての話と奴が儂を招いた理由にあるとするなら…

 

奴が儂をここに招いた理由も、伝えておかねばなるまい。

 

「『守りたいもの位知っておけ。』速人はそう言って儂をここに置いた。」

「速人君が?」

「数日で思い知らされたわ。権力と戦力に執着するあまり、笑顔で語らう人々を守ろうとしていたことすら忘れていたのだと。」

 

何の事は無い、子供連れの母親や何処にでもいる主婦、休日には学生であろう女子達が幾人かやってきてはケーキと飲み物を置いて談笑する。

何処にでもあるようで…薬と書類を手に睨み合いを続けていた儂が、本当につい最近まで忘れていたもの。

 

気付いた時には降参するような気分だった。

 

「覚えていたなら…赤子の改造に助力などする筈が無いだろうに…」

 

苦い物を吐き捨てるように言葉を漏らす。

書類上の数値、腹の探り合い、金、力…

そんなものばかりに漬かるうちに、いつの間にか忘れていた簡単な事。

 

「先に進むなら…お前も覚えておけ。」

「はい、必ず。」

 

真摯な瞳で頷く八神はやて。

認めるのは癪だが…内なる敵ですらあった儂の忠告にこうも綺麗に頷ける心があるのなら、間違える事もあるまい。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

直接本人から話を聞く事が出来て良かったと思う。

淡々と話をしているようで、時折見える寂しさや苦悶を含んだ表情が、言葉にしなかった心情を含めて伝えてくれたから。

ただ経歴だけ聞いて終わりにするより余程ためになった。薦めてくれたシグナムにも感謝しとかんとな。

 

「お?」

 

店を出た所で、珍しい人を見つけた。

オーリスさんが、木の陰に少し隠れるようにして店の入り口を見つめていた。

 

「どうしたんです?こんな所で。」

「貴女が一人でここに顔を出すと聞いて少し様子をうかがっていたのです。」

 

何かと思ったら私が原因だったらしい。

彼女なりに父親であるレジアスさんの事を心配しているんだろう。

 

来るなり事情聴取とか言われた事といい、警戒されとるなぁ…

 

「折角何やし顔出したらどうです。」

「…止めておきます。処分こそ受けたとは言え私だけ局に残れてしまっている今、気安く顔を出す気には」

「そんな事気にしなくてもいいだろ、行こうぜ。」

 

苦い表情をしていたオーリスさんが、唐突に聞こえた声に目を見開く。

 

いつの間にか、私の後ろに速人君とレヴィちゃんがいた。

速人君は無遠慮にオーリスさんに近づいていったかと思うと、何の躊躇いもなく彼女の手を取る。

 

「な、何を!彼を止め…って!?」

「ホラホラ。君も入って入って。」

 

速人君に手を引かれたオーリスさんは、連れてきていたボディーガードの人に視線を向けるが、そのボディーガードの人もレヴィちゃんに手を引かれてずるずると家に向かっていく。

見た目ただの女の子で邪気も無いのに力と魔力は強いからなぁ…

 

「ごゆっくりー。」

「八神はやて!笑顔で手を振ってないで彼を止め…」

 

魔力持ちでもビックリするほどの体力の速人君を引き剥がす事などオーリスさんに出来るわけもなく、ずるずると引きずられていって扉の向こうに姿を消した。

 

出掛けに見たボードゲームに誘われてたレジアスさんといい、頭ガチガチの人は感性変わってええかもなぁこの家。

凄惨なことでもあったら癒しに顔出すのもええかも知れんな。

 

 

 

Side~レジアス=ゲイズ

 

 

 

「と、父さん?」

「む…オーリス、何故こんな所に?」

 

八神はやてが帰った後、再度シュテルとボードゲームをやっていると、唐突にオーリスが部屋に入ってきた。

 

「高町速人に無理矢理連れ込まれて…」

「何だと?」

 

穏やかでは無い内容に、オーリスの背後に立っている速人を睨む。

無理矢理…連れ込まれただと?

 

「ちょ!オーリスさん!?その誤解を招く表現はよそう!」

「事実でしょう、全く…貴方は普段から滅茶苦茶なのですね。」

 

慌てる速人を横目に、オーリスが溜息を吐いた。

…一瞬焦ったが、よくよく考えれば奴にその類の度胸や甲斐性があるとは思えんな。

 

「八神はやてが此方に来ると耳に挟んだので、今更ですが様子を…」

「この家の連中ほどではないにしろ、奴等も十分にお人よしだ。警戒する必要もあるまい。」

 

オーリスの方が八神はやての事は知っている様子ではあった筈だが、それでも気にかけてくれた娘に思わず笑みが漏れる。

と、何故か驚いた様子で目を見開くオーリス。

 

「何だ?」

「いえ…笑顔を久々に見たように思いまして。」

 

オーリスの言葉に、改めて自分が変わったのだと実感する。

いい年にもなれば変わらんものかとも思っていたが、憑き物でもおちたかのようにすっきりしている今は、局にいた頃を思い返すと随分と違うと感じられた。

 

「話に移るのであればやめにしましょうか?」

 

と、目の前で待たされる事になっていたシュテルが、少しつまらなそうに呟く。

おっと、いかんな。

 

「私の事はお気になさらず。特に用がある訳でもありませんから。」

「そこで横目で俺を見なくても…顔位あわせてってもいいだろ。」

 

オーリスは元々家に来る気でもなかったようだし、儂も特別用は無い。

儂は盤上に視線を移し、駒を動かした。

 

「そろそろ失礼します。機会があればまた…」

「ああ。」

 

去り際に短く交わした言葉に、舞台は遠くなった筈だと言うのに、どこか距離が近くなったような気がした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

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