悲恋だけでいい方はこちらは見ないほうがよろしいかと思います。
悲恋物でよかったのに何故蛇足を追加したし!? と投稿直後に言われた覚えがあります。(うろおぼえ)
しかし、作者がハッピーエンドが好きなので、追加されたという蛇足でした。
首都から、少し離れたイズルードに程近い丘。
その丘に生えている木の下で、身体から淡い光を巻き上げた一人のアサシンが昼寝をしていた。
周囲はとてものどかで、ポリンと時折死闘(と本人達はそう思っているが、周囲から見ればほほえましい戦い)を繰り広げるノービスを時たま見受けられるくらい。
「よ、オーラバトラー。相変わらず、ボーっとしとるんかぁ?」
赤い逆毛にターバンを巻きつけ、サングラスをしたブラックスミスがそのアサシンに声をかけた。
「……オーラバトラーって呼ぶな。オヤジ」
顔の上に乗せていた本を退けて起き上がると、ブラックスミスをにらみつける。
「オーラ出してるんやさかい、オーラバトラーで間違いはないやん? それよりもわしをオヤジ言うんはやめて欲しいわ。あんたと年はそないに変わらんのやで。ちゃんと名前で呼べや」
「なら、左近も俺をちゃんと名前で呼べ」
「ハイハイ……で、スレイは相変わらず暇なんやろ?」
左近と呼ばれたブラックスミスは、ニヤニヤと笑いながらアサシンのすぐ近くに座る
「……狩りの誘いなら断るぞ。そんな気分じゃない」
「何や、冷たいなあ。折角ライムとリースが誘って来い言うたから、誘いに来たのに」
ライムは支援型と呼ばれるプリースト。
リースは二極、または神速とか呼ばれる弓の扱いに特化したハンターだ。
二人は左近の昔からの友人で、辛く長かった一次職時代のPTからついにギルドまで作った間の仲である。
スレイとの関係はそのギルドができた後からだったが、スレイがギルドを抜けた今でも昔からの友人のように付き合いが続いていた。
「どうしようと俺の勝手だろ? 今はボーっとしていたいからこのままでいいんだよ」
また本を広げて、昼寝の続きをしようとするとその本を左近は取り上げた。
「コラ、返せよ」
「来てくれるんなら返すで。うちのギルドに新人が入ったからその歓迎会も兼ねてるんや」
「俺はギルド抜けた人間だろうが。それが行ってどうするんだよ」
「ま、それは来ればわかるよって。とにかく来いや。岩場の所でライム達が待っとるさかい」
「……ったく。仕方ねえな……」
スレイは重い腰をようやく上げて、付いた草を払った。
「どうせていのいい壁にでもする気なんだろ?」
「さあ? どやろな」
含み笑いを浮かべながら、エンブレムがついた立派な屋根つきカートを引いて左近は先に歩いていく。
幻想祭から、半年と少しの月日が過ぎた。
その間の世界の変革はめまぐるしかった。
亀島への航路の確保。ジュノー、アマツとの交易の開始。新二次職……大規模なギルド間による攻砦戦。
そして、御使いによる大規模な生態系の変化。
冒険者レベルがカンストした者にはオーラが現れるようになった。
オーラが現れるようになった当初は、スレイにもたくさんのギルドからの勧誘もあった。
とはいえ、ギルドに属すつもりがないスレイはその誘いを断ったことと、体力よりも素早さを重視しているアサシンには不向きな攻砦戦で、やがて勧誘もなくなった。
そんな風に周囲が変わり行く中で、スレイは変わらない毎日を過ごしていた。
ただ、幻想祭以前と違うのは友人たちが心配するほど無理をして毎日のように狩りに行っていたのが、何をするのでもなく本を読んだり、昼寝をしたり、ノービスの相手をしてやったり……そうやって時間をつぶすことが、多くなったことくらいだ。
「おーい、スレイ連れて来たでー」
左近の声で、岩場で話をしていた集団が振り向いた。
集団の中から、長めの黒髪をゆるく二つにビーズの髪飾りでまとめた女性ハンターとまだ少年らしさの残る栗毛のプリーストが走りよってくる。
「久しぶりー。元気でしたー?」
「来てくれたんですね! 嬉しいですよっ」
プリーストとハンターはスレイの手を取ると振り切れんばかりに嬉しそうに手を上下させる。
「まったく……ライムもリーも……俺はギルド抜けたのに、ギルド狩りにまで呼ばないでくれよ」
左近を通じて連絡は取ってはいたが、彼らと改めて顔を会わせるのは本当に久しぶりだった。
幻想祭後に少し顔を会わせただけだから、実に半年振りになる。
「あれ、左近さんから聞かなかったんです?」
きょとんとした表情で、ハンター……リースはスレイを見つめた。
「いや、何も聞いてない。ただ、新人歓迎兼ねたギルド狩りとしか」
「ということは……左近さん、あんな大事なこと言わなかったんですか?!」
ライムがあわてて、左近を見ると
「まあ、秘密にしといたほうが面白いやろ」
そう言って、またニヤニヤと笑う。
そんな風に話をしている背後から、一人の少女がスレイに抱きついた。
「ひさしぶりーっ 元気だった?」
「って、ルル?!」
花カートを引いたアルケミストがそこにはいた。
「フフフ……あたしってば、血と汗と涙と努力と根性でジョブ50までがんばって、アルケミストになったのよ! どーよ? かわいいでしょ? すごいでしょ? 成長したでしょ?」
「まあ、服はかわいい。半年前と成長ないところは成長ないけどな」
女性らしい凹凸の少ない幼児体型のルルでは、アルケミストの服は胸と腰の辺りがブカブカだ。
それがかわいらしいと言う人も居るだろう。
「むかっ どこ見てんのよ。スレンダーだって言ってるでしょうがっっ このオーラエロアサ!」
思わず手にしていた斧をスレイに投げつけそうになったルルの頭をゴツンと左近は小突いた。
「ほれ、その辺にしとけや。少し落ち着け」
「あぅ……いったーいっ……」
涙目でルルは頭を押えて、恨みがましい視線で左近を見上げる。
ただでさえ身長が高い左近と小柄なルルでは、身長差がかなりあるのでどうしても見上げる形になってしまう。
「……で、新人って言うのはコイツ?」
嬉しいけれど、少しだけあきれているような表情をスレイは浮かべた。
「ルルさんもだけど、もう一人いるんですよ」
ライムが笑いながら、少し遠巻きでこちらを心配そうに見ている長い金髪のアコライトに手を振った。
「……まさか」
そして、その少女はこちらに駆けてくる。
その姿に職が違うにもかかわらず、一人の少女が重なった。
幻想祭の間、一緒に過ごしていたあの少女。
太陽のようで、それでいて傷つきやすかった彼女。
想いは伝えたけれど……彼女につき従っていた鷹のように、自分の手からは羽ばたいて行ってしまった彼女。
「紹介するね、アコライトのイスフィールさん」
ライムはすぐ隣にやってきたアコライトの肩に手を置いて、スレイに紹介した。
「……職はかわっちゃったけど……ただいま、スレイ」
あのときのままの笑顔で、イスフィは微笑む。
「向こうでがんばってたんだけど……どうしてもあなたのこと忘れられなくて……もう一度ここに来ちゃった」
「なんで、もっと早く……」
慌てたのと嬉しさと、突然のことでどう反応していいのかわからないスレイは、ようやくその言葉だけ口にした。
「あ……っ ごめんなさい……今更、迷惑だよね?」
「いや、そうじゃない」
「……仕方ないよね、半年も連絡なかったわけだし。支援したくてアコになったけど……あなたの都合も考えなくて、ごめんなさい」
「……だから、違うって」
「大丈夫だよ、スレイの元気そうな姿が見られただけでも嬉しいから。気にしないで」
表情を曇らせたイスフィのその姿に、スレイは耐え切れず彼女を抱きしめた。
「え……?」
「全然変わらないんだな、その早とちりなところと強がるところ」
状況が把握できていない彼女に優しく笑いかけ、ずっと持ち歩いていたあの花のヘアバンドをそっとイスフィに渡した。
「あ……これ……」
「お帰り、イスフィ……戻ってきたなら、離さない。というか……頼まれても、絶対離してやらん」
「ん……もう離れないからね」
そして、言葉とともにスレイの頬を手で触れて、嬉しそうに強く抱きついた。
「ところでさ……感動の再会はいいんだけど、完璧に二人の世界作っちゃってるね……」
「すっかり、俺達の存在忘れられてるよな……ちくしょう、俺も彼女欲しい」
「あー……もう、あの二人ほっといて、狩行きませんか、マスター」
「それ、賛成。イスフィちゃんにもギルド加入権あげたんでしょ? なら後から来てもらえばいいしー」
ギルドの仲間達が、イスフィとスレイを見ながら口々につぶやいた。
もちろん、こんな言葉は当の本人達には聞こえてなどいないだろう。
「あの調子なら……スレイさん、うちのギルドに戻ってくるよね」
「あはは、そうだねえ。愛は何よりも強し……なのかなあ」
ライムとリースも顔を見合わせて、苦笑した。
「あー、それにしても腹立つっ あたしだってかなり久し振りだったのにあの態度の違いは何さ?!」
「あほやなー。そこが、ただの友達と恋人の差やろ。当たり前やん」
左近の言葉に、ルルは横目でにらみつけた。
「ぜんっぜん態度が変わらない人も、ここにいるんですが?」
「それはそれ、これはこれやろ」
サングラスのせいで、彼の視線がどこを向いているのかはわからない。
そういうところも、ルルにとっては腹が立つところだ。
「……いいけどさ。いつか……ちゃんと問い詰めるんだから」
「ハイハイ」
願えばきっと叶うから。
「……アサシンやめちゃって、よかったの?」
清算広場と呼ばれるプロンテラの花売り少女の前のベンチでアコライトの少女が隣に座る青年マジシャンに話しかけた。
「……ん? 後悔してないさ」
マジシャンの頭にあるのは天使の翼をかたどったヘアバンド。
彼の銀色の長い髪に、それはとてもよく似合っている。
そして、アコライトは花のヘアバンドをつけていた。
「暇なときに本を読んでいたから……知識を極めて魔法を使うのも面白そうだってね」
二人とも同じギルドのエンブレムをつけているところを見ると相方同士なのだろう。
「……転生も考えたが……どうせなら、お前と一緒に転生したいしな」
「そかー……アサシン姿、カッコよかったんだけどなあ……残念」
過ぎ去りし日の青年のアサシン姿を脳裏に浮かべて、少女はため息をついた。
「……そんなこといったら、俺だってお前のハンター姿の方が好きだったぞ?」
「えー!?」
思わず少女が顔を上げると、青年は笑い出した。
「あはははは、本気にしたのか? どんな姿でも、外見よりも中身……だろ?」
「うー……ちょっと本気にした……」
そんな少女の頭を撫でて、青年は立ち上がる。
「さて、狩りにでも行こうか?」
「んー……今日はのんびり景色が良い所で話したいな」
「そうか? じゃあ今日は……」
二人は手をつないで街中へと歩いて行く。
ずっと一緒に。
――――――これからも。
それは、一つの可能性。
これも一つの可能性。