執務室の新人提督   作:カツカレーカツカレーライス抜き

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足柄と提督をいちゃいちゃさせようとか思って書いたら結局こうなった。


実は朝霜の方がこの面子よりアルコール依存度が高い件について

 足柄、という艦娘が居る。

 艦種は重巡洋艦、つまり実質的に軽巡や駆逐艦達が属する水雷戦隊をまとめる士官クラスにあり、艦隊行動時には旗艦の補佐も務める事が多い。これはどこの鎮守府でも同じで、艦時代、重巡という枠だけで見れば最後まで動き続けた足柄と言う艦娘は作戦行動において極めて有能であるという事だ。

 

 攻めて良し守って良し、昼戦良し夜戦良し、指揮良し補佐良し、という海上任務だけで見れば本当に艦隊行動に必要な艦娘である。

 ただし、少々戦闘に拘るところが強く、私生活において若干抜けているというべきか、わき道にそれがちであるというべきか……兎にも角にも、少々特徴的な個性を持つのが、艦娘足柄達の在り方であった。

 

 さて。

 足柄と言う艦娘がいる。

 それは当然、とある鎮守府にもいるという事である。

 

 

 

 

 

 

「うーん、朝はやっぱり勝利定食よねー」

 

「いや、験担ぎにしてもなかなか難しい選択だぞ、足柄」

 

 朝の早くから殆どのテーブル席が埋められた間宮食堂で、更に盛られたカツを口に運んで頬張る足柄の姿があった。

 隣で突っ込みを入れる彼女の姉、那智は毎度の事であるが朝一番から重たい物を口にする妹の姿に、自身が口にしたわけでもないのに腹部に妙な重さを感じていた。

 まだ味噌汁を少々すすった程度であるというのに、何故に自分は食欲が失せているのだと嘆く那智の真向かいには、妙高姉妹の末っ子羽黒が苦笑を浮かべて朝食――足柄と同じ、足柄曰くの勝利定食ことカツ定食を口に運んでいた。

 

 姉である足柄に付き合って羽黒が頼んだメニューであると那智も理解はしているが、それでも苦も無くカツを口にする真向かいの羽黒と、健康的に頬張る隣の足柄達を見ていると、もしかして自身は軟弱な胃袋の持ち主なのではないかと思い、那智は羽黒の隣に座すネームシップ、妙高の手元に縋るような眼差しを向けた。

 

 そこにあるのは赤身と白身がバランスよく添えられた刺身定食である。妙高は妹達の会話にも特に関心がないようで、背を伸ばして上品に食事を摂っていた。

 那智は我知らず安堵の溜息を大きく零し、まだ箸をつけていない自身の朝食の主菜、焼き鮭に箸を伸ばした。

 

「そう言えば足柄」

 

「にゃに、 みょうほうねえひゃん?」

 

「口の物を飲み込んでから話をしなさい」

 

 妙高の問いかけに口の中にカツを残したまま答える足柄に、妙高は小さな、それでいて鋭い声で叱り付けていた。元々生真面目な性格である上に、重巡の旗頭を高雄と共に任されている妙高は妹であっても――いや、妹であるからこそ日常での作法にも煩いところがある。

 足柄は湯飲みを掴んで、口の中の物を熱いお茶もろとも嚥下してから首をかしげて口を開いた。

 

「なぁに、妙高姉さん?」

 

「……今日の任務を確認したいだけです」

 

 任務の確認といっても、大抵の艦娘の作戦行動等は前日、或いは数日前から予定された物だ。それでもあえてそれを聞くのは、姉妹達の行動を把握しておきたいという妙高の姉心であり、自身の知らないところで何か予定外の動きが無かったかの確認であり、朝食の席でも何故か一人だけ赤い芋ジャージを着た三番艦辺りがまた何かやらかした際には確りとストレッチをして万全の状態で腕を極めたいと考えたからである。

 

「予定通りよ」

 

 難しい顔の妙高に、足柄は掌をひらひらと振って暢気に応える。姉心も分からぬ妹の能天気さにも見える姿であるが、末っ子の羽黒などは足柄の言葉に少しばかり青ざめていた。

 そしてそれは那智も同じである。妙高も那智も、羽黒にしても足柄の今日の予定は数日前から予定されていた物であるから理解はしている。

 

 妙高は高雄と共に長門や赤城達と戦術研究と午後から提督のサポート、那智は水雷戦隊との砲撃訓練後に近海警備、羽黒は三水戦の海路確保行動に同行して火力支援の予定だ。

 そして足柄はと言えば、これがまた実になんとも言えない。いや、普通の任務ではあるのだが、少なくとも妙高達にはなんとも言えない物であった。

 

「……そう。頑張りなさい、足柄」

 

「? えぇ、よく分からないけれど、この足柄! 出る以上必ず勝ってみせるわ!」

 

 フンス、と鼻息も荒く拳を握って応える足柄の姿に、姉妹達はなんとも言えぬ相で佇んでいた。彼女達の脳裏に、本日の足柄の任務が大きな文字で、それはもう本当に大きな文字ではっきりと描かれる。

 

 第一艦隊旗艦補佐。

 

 それが足柄の本日の予定である。

 

 

 

 

 

「あぁー……もうどないやねん」

 

 龍驤の言葉が、全てを物語っていた。

 肩を落として掌で顔を覆う龍驤の隣では、鳳翔が困ったような顔で佇み、その二人を盾にするように谷風が縮こまって隠れていた。

 

 場所は良く使用される港の第一艦隊用の艦娘待機部屋の一つであり、そこに居るのは本日第一艦隊に編入された艦娘達である。

 第一艦隊不動の軽空母コンビである鳳翔と龍驤、史実において奇跡的な対空回避行動を見せた対空装備の谷風、そして部屋の真ん中で互いに無言のままにらみ合う第一旗艦山城と高速戦艦金剛である。

 

「あぁー……もうほんまどないやねん」

 

 龍驤は大きな声でもう一度言った。聞こえても構わない、というよりも聞こえてくれ、と願っての事である。が、その声も山城と金剛の耳には届かなかったようで、二人は豊かな胸を強調するように腕を組んで無表情のままにらみ合っていた。

 

 どの鎮守府にも相性が良くない艦娘達は居るものだ。

 各鎮守府や警備府の代表としては伊勢型と扶桑型であるが、この鎮守府においては漣と秋雲であり、そしてそれ以上と言われるのが金剛と山城だ。

 なにせ二人とも漣や秋雲とは立場が違う。漣と秋雲は水雷戦隊の構成員ではあるが、それだけだ。鎮守府という組織で見れば一兵士という立場でしかない。

 が、今龍驤達の前で火花を散らしまくっている山城と金剛は、提督の第一旗艦と鎮守府のナンバー2である。

 

 山城にしても金剛にしても、お互い大人の女性であるのだから私情はさておき、弁えて行動しようとはするのだが、どうにも提督と言う存在が絡むといかんともし難いのである。

 金剛は提督ラブを自他共に認める艦娘であるし、山城は現状唯一の指輪保有艦娘だ。せめてこの二人の間に何かしらの優劣があれば諦めもついただろうが、お互い無視するには伯仲過ぎた。

 火力に優れ航空戦力も充実し指揮能力も高い山城。火力と速さを両立させた対地攻撃の要にして経験豊富な金剛。提督に最も愛された艦娘と、提督を最も愛する艦娘。

 互いに認め合うからこそ二人の間には複雑な感情が宿り、結果無言で視線をぶつけ合うという物騒な関係になるに至ったのである。

 

 ――ほんま、これはなんの不幸や……。

 

 龍驤は頭を振りながら胸中で呟いた。

 それだけであれば、相性が悪いというだけで済んだのが、それだけでは済まないのがこの鎮守府である。

 この二人、私情においては相性最悪であるが、海上任務においては相性抜群なのだ。

 

 鈍足であるが火力と航空戦力を有する山城と、高速移動能力を有した金剛のコンビネーションは、長門大和の最大火力コンビに勝るとも劣らない。いや、手数だけを見れば鎮守府でも並ぶ者はいないかもしれない組み合わせだ。

 しかも二人ともこの鎮守府の上位に就くだけあって、いざ戦闘となれば戦果を提督の為に、と互いに穴を埋めあう様に動く物であるから本当にどうしようもない。

 その為に、月に数回はこの二人を主力に置いた編成で第一艦隊が組まれてしまうのである。

 

 大淀も初霜も、更には提督でさえも山城と金剛のこのなんとも言えない胃が痛くなるような関係を知っているのだから、なるべくこういった編成にならないようにはするのだが、結果を確りと出してしまう以上どうしても必要になってしまう。ここは鎮守府で彼女達は艦娘である以上、その辺りは仕方ない事でもあった。仕事という物はどんな物でも私情を脇に置かなければならないのだ。

 ただし、

 

「……」

 

「……」

 

 それは飽く迄作戦行動中、だ。

 現在無言のままにらみ合う二人は、どこから見ても誰が見ても相性抜群には見ない。戦場では二人の動きを知る龍驤の目から見ても、そんな物は夢幻に思えるほどに剣呑な二人にしか見えないのだ。

 独特なデザインのバイザーを外し、頭を乱暴にかく龍驤の背後から、彼女と鳳翔を盾にして身を隠していた谷風が恐る恐るといった様子で顔を出して二人に声をかけた。

 

「そ、そろそろ軽くでもミーティング始めた方がいいんじゃないかなーって……谷風さんは思うんだけどねぇい……」

 

 普段健康的な、言ってしまえば腕白な少女である谷風にしては気弱な震え声だ。らしからぬと言えばそうだろうが、この場合は相手が相手であるから納得の姿でもある。それでも二人に声をかけたのは、谷風がこう見えて任務となれば真面目な艦娘だからだ。

 相性が良かろうが悪かろうが、すべき事はするべきなのだ。龍驤はそんな谷風の頭を軽く叩き、鳳翔は背を優しく撫でた。

 谷風は二人に笑顔を見せ、そして金剛と山城はやはり身じろぎ一つしなかった。

 

「……今日は遅いですね」

 

「せやなー」

 

 鳳翔と龍驤は、無視されて涙目になっている谷風をあやしながら部屋の壁に備え付けられた時計を見た。出撃にはまだ大分余裕がある。むしろ龍驤や谷風や鳳翔、おまけに金剛と山城達が早めに待機しているだけだ。

 苦手な編成であろうが、龍驤達にとって余裕をもって待機部屋に集まるのが常なのである。そしていつもなら既にいる筈の同僚の姿が部屋に無い事に、龍驤と鳳翔は苦笑を浮かべた。

 二人が未だやってこない同僚の姿を脳裏に思い浮かべると同時に、待機部屋の扉が勢い良く開かれ艦娘が一人転がり込んできた。

 

「おはよー! 今日も絶好の戦闘日和ね!」

 

「あぁ、おはようやでー足柄」

 

「おはようございます、足柄さん」

 

「やっときた……やっときた、これでかつる……」

 

 挨拶と共に入ってきたのは、本日旗艦補佐を命じられた重巡洋艦足柄である。見慣れた芋ジャージ姿ではなく、姉達や妹と同じスーツに身を包み満面の笑顔を浮かべる足柄に、皆それぞれ言葉を返した。

 返していないのは、まるで微動だにしない山城と金剛である。足柄はそんな二人にも特に気を悪くした様子も無く、いつの間にか荒ぶる鷹のポーズをとっている金剛と、そろそろ相手を呪い殺しそうな双眸をし始めどこからか藁人形でも取り出しそうな山城にまったくの自然体で近づいていった。

 ちなみに山城は藁人形などもって居ないし目にしたら本気で涙目になるので、用量用法を守って山城の手の届かない所に保管してください。

 

「山城、今日も私は切り込み役で良いのよね?」

 

「……えぇ、前衛は貴方に任せるわ」

 

「金剛、開幕の一発はそっちに譲るから、ちゃんと私の分残してよ?」

 

「……えぇ、勿論デース」

 

 山城と金剛、二人が互いから目を離して足柄に視線を移した。それを見て、龍驤と鳳翔は胸を撫で下ろし、谷風は感心しきりといった相で胸の前で小さく拍手をしていた。

 

「流石第一旗艦補佐役だねぇい、足柄さん!」

 

「あら、本当の補佐役は鈴谷よ? 私はほら……そうね、代役の代役、かしら?」

 

 谷風の賞賛に、足柄は軽い調子で返した。

 足柄が言う通り、第一艦隊でもっとも長く旗艦補佐をやってきたのは航空巡洋艦鈴谷だ。所謂今時といった風貌をもつ鈴谷であるが、彼女の戦術や砲術、戦場での冷静さが山城を助けてきた事は純然たる事実である。古風な山城、今時の鈴谷。一見すればかみ合わない様であるが、それでも確りと歯車がかみ合うのがこの鎮守府の恐ろしいところである。

 

 その鈴谷が出られない場合に旗艦の補佐を担う重巡と言えば、妙高や高雄、青葉に古鷹といった古参の兵達である。

 そして件の名補佐役鈴谷と古参の兵達、実は金剛山城が主力であるこの編成では顔を出した事がない。

 この編成の時だけは、鈴谷や妙高達の代わりに足柄が入るのが常だからだ。

 

 足柄と言う艦娘は攻めて良し守って良し、昼戦良し夜戦良し、指揮良し補佐良し、と本当に有能な艦娘だ。ただ、そんな艦娘は大抵の鎮守府でありふれている。むしろ尖った性能や特技を持つ艦娘が戦場面で目立つのが常だ。

 そういった意味では、足柄という艦娘は那珂と良く似ていた。

 日常面ではともかく、戦闘面では不得手も無いが何事も三番手四番手。そしてここだけは明確に違うのだが、目測雷撃戦という特技がある那珂に対し、足柄には残念ながらこれといった突出した特技は無い。

 

 が、それでも彼女達はやはり似ている。

 那珂と言う軽巡洋艦娘が水雷戦隊に――この鎮守府にとって必要不可欠な存在である事同様、足柄もまたなくてはならない存在であった。

 

「ねぇねぇ山城。今度鳳翔さんのとこでやるって言っておいた女子会、提督誘って来てよ」

「それは女子会にならないでしょう……?」

 

「じゃあ提督に女装させて来てよ」

 

「なんで?」

 

「……ありネー!」

 

「え、そうなの……?」

 

「いざとなれば、私のジャージを提督に貸して女装して貰うから大丈夫!」

 

「それは女装なの……?」

 

 つい先ほどまで互いに親の仇と言わんばかりににらみ合っていた二人の間に足柄が入っただけでこの変わり様である。足柄は決して提督に対して淡白ではなく、中々に積極的な艦娘だ。なのだが、どうにも残念すぎて山城にしても金剛にしても警戒したくてもできない。させてくれない。

 結果、そんな足柄が山城と金剛の間に挟まる事で緩和されるのである。緩くなって中和されるのだから、まさしく緩和だ。

 

「……そうだわ、皆でジャージを着て女子会すればいいのよ! パジャマパーティーとかもう過去の物ね! 当然の結果よね! 大勝利!」

 

「それはもう『女子』会ではないと思うし、大勝利でもないと思うわ……」

 

「デース……芋ジャージとか足柄しかフィットしないデース」

 

「そうよね! ……あれ、褒められてるの? あれこれもしかしてひょっとしてちょっとかるーくディスられたの私?」

 

「ものっそい正面からばっさり斬られたのに、めっちゃポジティブやな君」

 

 龍驤は疲れた顔で溜息混じりに呟き、肩をすくめる。それでも先ほどまでのよろしくない雰囲気に比べれば幾分――いや、かなりマシなのだから龍驤としてはやはり溜息が出てしまうのだ。

 と、空気を読んで鳳翔と龍驤の背後から出てきた谷風は、唇に人差し指を当てて首を傾げた。何事か気になるのか、と見た龍驤はどうしたのか、と問うて見た。

 

「いやぁ……その女子会、メンバーどうなってるのかねぇ、って」

 

 谷風の声が聞こえたのだろう。足柄が何故か腕を組んで胸を強調するようなポーズをとって応えた。何故にそんなポーズをとったのかは誰にも分からない。そして当然足柄にも分からない。

 

「隼鷹と千歳と那智姉さんと霧島と山城と私!」

 

「……山城、ジャージでええんちゃうかな?」

 

「……」

 

 龍驤の言葉に、山城は何も答えなかった。どちらかと言うと女子会というよりは飲み会と言うべき面子に思えても山城は何も言わなかった。確かにジャージの方が何事かあった際には助かるかもしれない、と頷きかけた自身に軽くショックを受けてもいた。

 

「……まぁ、ほどほどにしときや?」

 

「任せなさい! お酒なんかに負けたりしない!」

 

 その面子が集まってほどほどですむ筈が無い。そんな事は突っ込みを入れた龍驤にも分かっていた。そして態々どでかいフラグを立てているキリッとした顔の足柄を龍驤は華麗にスルーした。

 

 

 

 

 

 

 足柄、という艦娘が居る。

 攻めて良し守って良し、昼戦良し夜戦良し、指揮良し補佐良し、と中々に優秀な艦娘で鎮守府や海域によっては主力の一人に数えられるような、そんな艦娘である。

 

 その足柄が、今夕日が差し込む鎮守府の廊下を足早に歩んでいた。赤い絨毯の敷かれた長い廊下を走らないのは、一度やらかした時に迷彩艤装を装備した某ネームシップさんにその場でギロチンチョップを食らったからだ。

 速度を保ったまま足柄は進んでいく。彼女が目指すは提督の座す執務室だ。

 

「提督提督!」

 

 目当ての部屋が視界に入ったと同時に、結局足柄は扉まで駆け寄り勢い良く扉を開けた。ノックも無しに、だ。

 

「今日のMVP、この足柄よ! 褒めて褒めてー!」

 

 同じイヌ科の白露型駆逐艦娘の台詞を勝手に拝借しつつ満面の笑みで手を振る足柄は、しかし次の瞬間

 

「……足柄?」

 

 まったく動きを止めた。

 足柄の目が、提督の居る執務室をゆっくりと映して行く。

 いつ頃からか置かれるようになったルームランナー、ゲーム機などが入ったダンボール、提督の服一式が入った箪笥、小さな冷蔵庫、誰も座っていない秘書艦用の小型の執務机、そして定位置である執務机に座して窓の外の風景を悲しそうな眼差しで見つめる提督と――

 

 

 

 

 

「んにゃ!? んにゃー!!」

 

 足柄、という艦娘が居る。

 まぁ……色々と面白い艦娘である。 




よし、いちゃいちゃしたな(白目)

ヒント
妙高さんの午後からの予定
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